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第1章
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「淡くて色だな。この子のあそこ、本当にきれいな色してんな」
「この子、童貞だからだろ?」
「あぁ、だからなのか。俺たちみたいに酷使していないと、こんなに綺麗なのか。本当に純真そうだもんなぁ」
時折卑猥な言葉が飛び交う中デッサン会は続き、1時間経過してやっと休憩時間がやってきた。
僕も5分程度の休みを与えてもらう。
今日はいつもよりずっと長く感じる。言葉で凌辱されていたようで、心が塞がる。
消えてしまいたい。このままいなくなりたい。
僕は床のシーツをさりげなく羽織り、身を隠して蹲っていた。
皆がデッサンの出来映えについて話し合っている。胸や腹の肉付きや筋肉がどうだとか、あげくに大切な部分についてもあれこれと揶揄された。僕の身体の隅々まで見られるだけでなく、紙に記録され、言葉に出され、本当に苦痛でしかない。
どうして、こんな目に逢うのか。前世でよほど行いが悪かったのか。
どうしても割り切れない。芸術的なヌードモデルは意義があって立派だとは思うが、自ら進んでやりたいわけではないので、拭えない葛藤がある。
すると部屋の扉が、控えめにノックされた。
「雄一郎さま、申し訳ありませんが、急用でございます」
「なんだ?……ちょっと待ってろ」
雄一郎さんが面倒臭そうに顔をしかめ、扉の外で誰かと話しをしている。
お願だから、早く戻って来て欲しいと願った。僕をこんな目に遭わす雄一郎さんだが、純粋に芸術的な興味で僕をヌードモデルにしているのは辛うじて理解できた。そして雄一郎さんがいるから、友人たちは暴走しないのだということも知っている。
彼がスクールカーストのトップだから。
なのに僕の願いは、無残に打ち砕かれてしまった。
「ゼミの教授からの緊急の呼び出しだ。私はこのまま出かけるから、悪いが今日はお開きにしよう」
「えぇ? そりゃないぜ。今いい所なのに。こんな中途半端な所で終わりだなんて遠方から来た意味がないじゃないかよ」
「そうだよ。あと1時間だし、俺たちだけでも続けてもいいだろう」
嫌だ! それは嫌だ! それだけは嫌だ!
僕は涙目で訴えるように雄一郎さんを見つめた。
「ゆ……雄一郎さん行かないで下さい。僕を置いて……行かないで」
必死に縋った。なのに……雄一郎さんは僕を捨てた。
僕の願いなんて、聞いてくれない。
「……分かった。あと1時間だけだぞ」
「そうこなくっちゃ。やっぱり話が分かるなー」
「但し、その子には手を触れるな。私の専属だから」
「はいはい。分かってますよー 今までだっていい子にしていただろう。安心してくれよ」
扉が閉まる音に、監獄に閉じ込められたような気持ちになった。
この後、何が起きてしまうのか、僕には分かっていた。
雄一郎さんがいたから起きなかった事が起きる。
僕は今、あまりに無防備な姿で全てを晒している。
「へへへ、邪魔者がようやく消えたぜ」
「やっぱり、これって仕組んだのか」
「あいつの卒論の頁を、ごっそり抜き取ってやった」
「おい、そんなことして大丈夫か」
「秘密でこんな綺麗な子を囲ってヌードデッサン会をしているような奴だ。何も言えないだろう」
僕はシーツを握る手に力を込めた。
逃げないと──
ここは危険だ。早く──
だが、僕より体格のよい武骨な男たちに敵うはずもない。
「へへへ、お前、静かにしてろよ。告げ口してみろ。お前のご主人様の地位がなくなるぜ」
「おい、写真機も持ってきたぜ」
「やめて……やめてください!」
壁に追い詰められ、まるで獲物のように全てを奪われようとしている。
僕の眼には、恐怖で涙が滲んでいた。
「へぇ、泣くと目が赤くなって兎のようだな。これは仕留めたくなる」
「いい子にしていろよ~ 暴れんなよ」
男三人の大きな手によって、手足を引きずられ、シーツごと床に倒される。
****
「瑠衣? 中にいるのか。まだ帰っていないのか」
屋根裏部屋に駆け上がり、瑠衣を探すが気配がなかった。
兄貴が言い残した言葉が不穏で心配で、今度は執事を掴まえて問いただした。
「田村、瑠衣を見なかった?」
「さぁ私はまだ見ておりませんよ。学校から戻られていないのでは」
「そんなはずない! あいつが寄り道なんてするはずないだろう」
「それもそうですね、心配です」
執事の田村は屋根裏部屋に隠れ住んでいた瑠衣を、外の世界に連れ出す手助けてしてくれた人だ。
あまりに酷い待遇に見かねて、瑠衣の存在を俺にそっと教えてくれた人だ。
瑠衣は俺の大事な異母兄弟だ。
戸籍に入っていなくても父が認めていなくても、俺にとっては大事な弟だ。
瑠衣を人並に、いや苦労した分、人並み以上に幸せにしてやりたいと願う一人だ。
「兄貴は出かけたが、何か変わったことはなかったか」
「そういえば……朝、雄一郎さまに呼び出されていました。お部屋に来るようにと」
「何だって? 瑠衣はなんと?」
「瑠衣は雄一郎さんの話し相手になっていると言うのですが、おかしな話ですね。あのお二人、いつの間にそんな接点が」
嫌な予感がどんどん膨らんでいく。
「まずい。田村、兄貴の部屋の合い鍵を持って、一緒に来てくれ!」
「……ですが……それは非常事態のみで」
「まさに今が非常事態だ。これは命令だ!」
「かっ、畏まりました」
急げっ、急がないと!
取り返しがつかない事になる!!
「この子、童貞だからだろ?」
「あぁ、だからなのか。俺たちみたいに酷使していないと、こんなに綺麗なのか。本当に純真そうだもんなぁ」
時折卑猥な言葉が飛び交う中デッサン会は続き、1時間経過してやっと休憩時間がやってきた。
僕も5分程度の休みを与えてもらう。
今日はいつもよりずっと長く感じる。言葉で凌辱されていたようで、心が塞がる。
消えてしまいたい。このままいなくなりたい。
僕は床のシーツをさりげなく羽織り、身を隠して蹲っていた。
皆がデッサンの出来映えについて話し合っている。胸や腹の肉付きや筋肉がどうだとか、あげくに大切な部分についてもあれこれと揶揄された。僕の身体の隅々まで見られるだけでなく、紙に記録され、言葉に出され、本当に苦痛でしかない。
どうして、こんな目に逢うのか。前世でよほど行いが悪かったのか。
どうしても割り切れない。芸術的なヌードモデルは意義があって立派だとは思うが、自ら進んでやりたいわけではないので、拭えない葛藤がある。
すると部屋の扉が、控えめにノックされた。
「雄一郎さま、申し訳ありませんが、急用でございます」
「なんだ?……ちょっと待ってろ」
雄一郎さんが面倒臭そうに顔をしかめ、扉の外で誰かと話しをしている。
お願だから、早く戻って来て欲しいと願った。僕をこんな目に遭わす雄一郎さんだが、純粋に芸術的な興味で僕をヌードモデルにしているのは辛うじて理解できた。そして雄一郎さんがいるから、友人たちは暴走しないのだということも知っている。
彼がスクールカーストのトップだから。
なのに僕の願いは、無残に打ち砕かれてしまった。
「ゼミの教授からの緊急の呼び出しだ。私はこのまま出かけるから、悪いが今日はお開きにしよう」
「えぇ? そりゃないぜ。今いい所なのに。こんな中途半端な所で終わりだなんて遠方から来た意味がないじゃないかよ」
「そうだよ。あと1時間だし、俺たちだけでも続けてもいいだろう」
嫌だ! それは嫌だ! それだけは嫌だ!
僕は涙目で訴えるように雄一郎さんを見つめた。
「ゆ……雄一郎さん行かないで下さい。僕を置いて……行かないで」
必死に縋った。なのに……雄一郎さんは僕を捨てた。
僕の願いなんて、聞いてくれない。
「……分かった。あと1時間だけだぞ」
「そうこなくっちゃ。やっぱり話が分かるなー」
「但し、その子には手を触れるな。私の専属だから」
「はいはい。分かってますよー 今までだっていい子にしていただろう。安心してくれよ」
扉が閉まる音に、監獄に閉じ込められたような気持ちになった。
この後、何が起きてしまうのか、僕には分かっていた。
雄一郎さんがいたから起きなかった事が起きる。
僕は今、あまりに無防備な姿で全てを晒している。
「へへへ、邪魔者がようやく消えたぜ」
「やっぱり、これって仕組んだのか」
「あいつの卒論の頁を、ごっそり抜き取ってやった」
「おい、そんなことして大丈夫か」
「秘密でこんな綺麗な子を囲ってヌードデッサン会をしているような奴だ。何も言えないだろう」
僕はシーツを握る手に力を込めた。
逃げないと──
ここは危険だ。早く──
だが、僕より体格のよい武骨な男たちに敵うはずもない。
「へへへ、お前、静かにしてろよ。告げ口してみろ。お前のご主人様の地位がなくなるぜ」
「おい、写真機も持ってきたぜ」
「やめて……やめてください!」
壁に追い詰められ、まるで獲物のように全てを奪われようとしている。
僕の眼には、恐怖で涙が滲んでいた。
「へぇ、泣くと目が赤くなって兎のようだな。これは仕留めたくなる」
「いい子にしていろよ~ 暴れんなよ」
男三人の大きな手によって、手足を引きずられ、シーツごと床に倒される。
****
「瑠衣? 中にいるのか。まだ帰っていないのか」
屋根裏部屋に駆け上がり、瑠衣を探すが気配がなかった。
兄貴が言い残した言葉が不穏で心配で、今度は執事を掴まえて問いただした。
「田村、瑠衣を見なかった?」
「さぁ私はまだ見ておりませんよ。学校から戻られていないのでは」
「そんなはずない! あいつが寄り道なんてするはずないだろう」
「それもそうですね、心配です」
執事の田村は屋根裏部屋に隠れ住んでいた瑠衣を、外の世界に連れ出す手助けてしてくれた人だ。
あまりに酷い待遇に見かねて、瑠衣の存在を俺にそっと教えてくれた人だ。
瑠衣は俺の大事な異母兄弟だ。
戸籍に入っていなくても父が認めていなくても、俺にとっては大事な弟だ。
瑠衣を人並に、いや苦労した分、人並み以上に幸せにしてやりたいと願う一人だ。
「兄貴は出かけたが、何か変わったことはなかったか」
「そういえば……朝、雄一郎さまに呼び出されていました。お部屋に来るようにと」
「何だって? 瑠衣はなんと?」
「瑠衣は雄一郎さんの話し相手になっていると言うのですが、おかしな話ですね。あのお二人、いつの間にそんな接点が」
嫌な予感がどんどん膨らんでいく。
「まずい。田村、兄貴の部屋の合い鍵を持って、一緒に来てくれ!」
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