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小学生編
しあわせ図鑑 21
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大手飲料メーカーの会議室には、スーツ姿の重役がずらりと並び、張り詰めた空気と緊張感が漂っていた。
俺は手元の資料を見つめ、深く息を吸い込んだ。
今日のプレゼンは、新商品のレモンティーの広告提案だ。
「では新発売のレモンティーについて、テレビCM案を提案をしてください。どの人気俳優が起用することになりましたか」
クライアントからは、事前に人気俳優を必ず使い、俳優の顔を全面に押し出すのはどうかと相談されていた。
理由は、それだけで人々の関心を集め、そこそこ売れるからだ。
だが俺は人気俳優を採用するのはありきたりすぎて、逆に個性がないと感じていた。それに何度も新商品を試飲するうちに、果実味が強く甘さ控えめの温かい味わいのレモンティーには、派手さより温もりが大事だと感じた。
既存の商品とは違い、甘ったるい人工的な飲料ではなく、自宅でお母さんが淹れてくれたような、ほっとする味わい。それが、このレモンティーのセールスポイントだ。
「申し訳ありません。今回の新商品には、俳優がドリンクを飲む顔だけをアップで映すCMはお勧めできません。もっと違う方法で、この商品の個性を自然に伝えてみたいのです」
俺は熱い視線を会議室の重役たちに向け、言葉をひとつひとつ慎重に選んだ。
「それは一体どういう意味だね?」
「はい、家でお母さんが淹れてくれた紅茶の香り、午後の光の中でゆっくり楽しむひととき。誰もがふっと心をほどける瞬間を届けてみるのはいかがですか。見た目の派手さや有名人に頼らずとも、自然に手に取ってもらえる広告を作りたいのです」
会議室は一瞬静まり返り、重役のひとりが資料を指で叩き眉をひそめる。
「駄目だ! そんなのインパクトが弱すぎる。数字に直結しない提案は困る」
これは想定内だ。
怖気ずくな。
胸の奥の熱を呼び起こせ!
「確かに派手さはないかもしれません。しかし、この商品の本質を大切にすれば、きっと多くの人々の心に残ります。消費者が誰かに推されたのではなく、自分から飲んでみたくなり、自然に手に取りたくなる広告を作れば、結果として売上につながると信じています」
もともとはインパクト重視で派手なことが大好きだった俺が、こんな風に思えるようになったのは瑞樹のおかげだ。
瑞樹が花を通して届けようとしている小さな幸せ。
日常に寄り添う温かさは、くせになる。
このレモンティーも、そんなコンセプトで育ててやりたい。
「たとえば、このようなビジュアルはいかがですか」
モニターに映した写真は、窓から差し込む柔らかな光の中で、家族や友人と過ごすひとときに寄り添うレモンティーのペットボトルとティーカップ。
派手さはないが、自然に微笑みたくなる瞬間を切り取ったものだ。
重役たちは無言で映像を見つめる。
数字や派手さではなく商品の本質に寄り添うことに、もしかしたら関心を持ってもらえたのだろうか。
「以上が弊社からの提案になります」
「ふむ……なるほど……この件についてはいったん持ち帰り社内で話しあうことにしよう。なかなか斬新な提案だったが、悪くはない」
「あっ、ありがとうございます!」
「滝沢くんと言ったね、君は見た目と違って繊細で優しい世界を知っているんだな」
「はい! その世界で生きています!」
役員は目を細めた。
「次回にまでに新商品のネーミングを提案してくれ」
「はい! 承知いたしました」
胸を張って答えられた。
プレゼンを終え、ほっと一息ついた。
手のひらは緊張で汗ばんでいたが、確かな手応えがあった。
瑞樹と暮らし始めて気づいた「小さな幸せの価値」を、俺はしっかり伝えきれただろうか。
「ふぅ、やりきったぞ」
そのときスマホに写真が届いた。
あぁ、俺の瑞樹が笑っている。
母さんと芽生、そして美智さんとあーちゃんに囲まれ、チャペルの光の中で優しく微笑んでいる。
取材、成功したんだな。
それが伝わってくる、晴れやかな笑顔だった。
それにしてもみんな幸せそうに笑っているな。
俺もこの一員だ。
そう思うと、午後も頑張ろうとパワーが漲った。
俺は手元の資料を見つめ、深く息を吸い込んだ。
今日のプレゼンは、新商品のレモンティーの広告提案だ。
「では新発売のレモンティーについて、テレビCM案を提案をしてください。どの人気俳優が起用することになりましたか」
クライアントからは、事前に人気俳優を必ず使い、俳優の顔を全面に押し出すのはどうかと相談されていた。
理由は、それだけで人々の関心を集め、そこそこ売れるからだ。
だが俺は人気俳優を採用するのはありきたりすぎて、逆に個性がないと感じていた。それに何度も新商品を試飲するうちに、果実味が強く甘さ控えめの温かい味わいのレモンティーには、派手さより温もりが大事だと感じた。
既存の商品とは違い、甘ったるい人工的な飲料ではなく、自宅でお母さんが淹れてくれたような、ほっとする味わい。それが、このレモンティーのセールスポイントだ。
「申し訳ありません。今回の新商品には、俳優がドリンクを飲む顔だけをアップで映すCMはお勧めできません。もっと違う方法で、この商品の個性を自然に伝えてみたいのです」
俺は熱い視線を会議室の重役たちに向け、言葉をひとつひとつ慎重に選んだ。
「それは一体どういう意味だね?」
「はい、家でお母さんが淹れてくれた紅茶の香り、午後の光の中でゆっくり楽しむひととき。誰もがふっと心をほどける瞬間を届けてみるのはいかがですか。見た目の派手さや有名人に頼らずとも、自然に手に取ってもらえる広告を作りたいのです」
会議室は一瞬静まり返り、重役のひとりが資料を指で叩き眉をひそめる。
「駄目だ! そんなのインパクトが弱すぎる。数字に直結しない提案は困る」
これは想定内だ。
怖気ずくな。
胸の奥の熱を呼び起こせ!
「確かに派手さはないかもしれません。しかし、この商品の本質を大切にすれば、きっと多くの人々の心に残ります。消費者が誰かに推されたのではなく、自分から飲んでみたくなり、自然に手に取りたくなる広告を作れば、結果として売上につながると信じています」
もともとはインパクト重視で派手なことが大好きだった俺が、こんな風に思えるようになったのは瑞樹のおかげだ。
瑞樹が花を通して届けようとしている小さな幸せ。
日常に寄り添う温かさは、くせになる。
このレモンティーも、そんなコンセプトで育ててやりたい。
「たとえば、このようなビジュアルはいかがですか」
モニターに映した写真は、窓から差し込む柔らかな光の中で、家族や友人と過ごすひとときに寄り添うレモンティーのペットボトルとティーカップ。
派手さはないが、自然に微笑みたくなる瞬間を切り取ったものだ。
重役たちは無言で映像を見つめる。
数字や派手さではなく商品の本質に寄り添うことに、もしかしたら関心を持ってもらえたのだろうか。
「以上が弊社からの提案になります」
「ふむ……なるほど……この件についてはいったん持ち帰り社内で話しあうことにしよう。なかなか斬新な提案だったが、悪くはない」
「あっ、ありがとうございます!」
「滝沢くんと言ったね、君は見た目と違って繊細で優しい世界を知っているんだな」
「はい! その世界で生きています!」
役員は目を細めた。
「次回にまでに新商品のネーミングを提案してくれ」
「はい! 承知いたしました」
胸を張って答えられた。
プレゼンを終え、ほっと一息ついた。
手のひらは緊張で汗ばんでいたが、確かな手応えがあった。
瑞樹と暮らし始めて気づいた「小さな幸せの価値」を、俺はしっかり伝えきれただろうか。
「ふぅ、やりきったぞ」
そのときスマホに写真が届いた。
あぁ、俺の瑞樹が笑っている。
母さんと芽生、そして美智さんとあーちゃんに囲まれ、チャペルの光の中で優しく微笑んでいる。
取材、成功したんだな。
それが伝わってくる、晴れやかな笑顔だった。
それにしてもみんな幸せそうに笑っているな。
俺もこの一員だ。
そう思うと、午後も頑張ろうとパワーが漲った。
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