幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,847 / 1,871
小学生編

しあわせ図鑑 43

 客室に戻ると、芽生くんはすぐにノートを机に広げた。

 色鉛筆を並べ、楽しそうに日記を書き出したので、僕と宗吾さんはそっと見守ることにした。

 今日の出来事が『しあわせ日記』に記録されるの、嬉しいな。

 兄さんの役に立てたこと。
 子どもたちの笑顔。
 しあわせの余韻。

 思い出すだけで胸が高鳴る。

「やったー! 完成したよ!」

 その声に宗吾さんがすくっと立ち上がった。

「よし、じゃあ出かけるぞ」
「え? こんな時間にどこへ?」
「せっかく函館にいるんだから、函館山の夜景を見に行こうぜ!」
「わぁい! 夜のおでかけだね!」

 芽生くんが嬉しそうに顔を上げる。

 僕は長い間、函館に住んでいたのに、恥ずかしながら夜景をちゃんと見たことがなかった。

「ほら、瑞樹、行くぞ。ちょっと冷えるかもしれないから、羽織るものを持って行こう」
「あ、はい!」

 僕たちはホテルから出発する夜景観光バスに乗り込んだ。

「実はチェックインのときに予約しておいたんだ」
「こんなサービスがあるなんて、知りませんでした」

 窓の外には、夜の港町の光が静かに流れていく。

 やがて山道に差しかかると、木々の隙間から小さな光がちらちらと見え始めた。それは次第に、まるで宝石箱をひっくり返したような眩い夜景へと変わっていく。

 胸の奥がじんわりと熱くなる。

 ずっと下から見上げていたあの山の上に、これから行くんだ。

 そのことが、たまらなく嬉しかった。

 天国のお父さんとお母さん、そして夏樹の近くに行けるような気がして。

 


 山頂に到着し、展望台から夜景を見下ろすと、無数の灯りがまるで空に浮かぶ星のように瞬いていた。

「わぁ、お兄ちゃん、街のあかりが星みたい!」
「僕もそう思うよ」

 それは星のようでもあり、誰かが誰かを想って灯した祈りのようにも見えた。

 そうか……

 星は空にあるだけじゃなくて、地上にもこんなにたくさん瞬いているんだ。

「綺麗だ……」

 うっとりと漏らした声に、宗吾さんが大きく頷く。

「すげぇな。これが『百万ドルの夜景』ってやつか」

 街の灯りが星のように輝き、夜空には満天の星。

 生きている人も、もう会えない人も、みんな繋がっている。

 そんなふうに思うと、不思議と心が満たされていくよ。

「はい……夜景って、こんなふうに見えるのですね」
「来てよかったな」
「はい。本当に綺麗です」

 宗吾さんが快活な笑顔を浮かべる。

「俺さ、東京に戻ったら東京タワーにのぼりたくなったよ」
「え?」
「いつでも行けるって思うと、なかなか行かないもんだな。でも、あえて行ってみると、想像を超える景色が待ってるから見たくなる」

 宗吾さんの横顔が、街の灯りを映して明るくなる。

「瑞樹、『いつでも行けるから』じゃなくて、『行けるときに行こう』って考えると、人生って楽しくなるよな」

 僕はその言葉を胸の中で噛みしめた。

 ずっと過去に囚われていた僕が、今は、こうして行ける場所を増やしている。

 宗吾さんと芽生のおかげで、僕は前を向いて生きている。

「……ほんとうに、そうですね」
「じゃあさ、あしたはどこ行く?」

 芽生くんが無邪気に聞いてくる。

 僕の気持ちは、もう駆け出していた。

「明日は、チェックアウトしたら、すぐに大沼に行きませんか?」
「もちろんだ」
「やった! おじいちゃんもおばあちゃんも大好き! はやく会いたいよ!」

 宗吾さんが即答し、芽生くんが嬉しそうに手を叩く。

 二人の笑い声を聞きながら、僕は夜空を仰いだ。

 光が星のように瞬く地上で、僕の人生はこれからも続いていく。

 この幸せを、ちゃんと生きよう。

 その思いが、静かに広がっていった。

 僕の故郷、函館。

 前よりも、もっともっと好きになっていく。
感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。