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発展編
心寄せる人 16
キス……
滝沢さんの唇が紡いだ言葉をもう一度頭の中で繰り返すと、信じられないほど胸がドキドキした。
「いいか」
静かな問いかけの後、もう一度顎を掴まれて上を向かされた。
ハッとして滝沢さんのことを見上げると、優しく穏やかな真摯な眼差しをしていた。
僕はゆっくりと自然に目を閉じた。
この人のことを受け入れてみよう。
心の声に素直になろうと……
やがて彼の唇がゆっくりと近づいて来る気配。
もう……触れるか触れないかの距離だ。
こんなにじれったいキスをするのは、いつぶりだろう。
最後のキスは一馬とだった。涙の味の別れのキスを、あいつは最後にひとつ落としていった。
だけど、これは『はじまりのキス』だ。そう思うと、自然と受け入れていた。
唇と唇が優しく触れ合う程度の、本当に軽いものだったが、滝沢さんの温もりを感じる柔らかい皮膜の感触。
重ねたのはごく短い時間だったのに、信じられない程の蕩ける心地良さだった。
「あっ……」
同時に僕の心に確実に芽生えて来ている、滝沢さんへの気持ちを確信できた。
新しい恋が今、芽を出した。
遠慮がちに離れていく彼の唇を、名残惜しくすら感じた。思い切って目を開けると、滝沢さんが少し困ったような表情で唇に手をあてていた。
「瑞樹……悪い。どうにもとまらなくて……無理させたか」
無理?
違う、僕があなたを受け入れた。
このキスは僕がしたかったものだ。
だから慌てて首を横に振った。
「無理なんて……していません」
「そうか!それならよかったよ」
その時僕の背後で、芽生くんがもぞもぞと動き出した。
「う……ん……おにいちゃんどこぉ」
可愛い声に焦った。僕はこんな小さな子供が寝ているすぐ横で、滝沢さんとキスしちゃったのか。なんだか改めて考えると猛烈に恥ずかしい!
滝沢さんの方も恥ずかしそうに目を逸らした。
彼は恋愛に長けていそうなのに、僕に接する時だけはまるで少年のように緊張しているのが伝わってきて……それが余計にドキドキするな。
「芽生くん、ここにいるよ」
「あ……おにいちゃんーよかった!おはよう」
「うん、おはよう」
「ねぇ……さっきふたりでなにしてたの?」
「え?えっと……」
うわ!まずい。背を向けていたから見えてないよな。芽生くん……起きていたのかもしれない。
「もしかして、おめざめのチュウをしてたの?」
「うっ」
動揺して縋るように滝沢さんのことを見上げると、彼も困った顔をしていた。でもその後すぐに愉快そうに笑いだした。
「クククっ、芽生は絵本の読みすぎだぞ」
「だっておひめさまが起きるときは、おうじさまがキスするもん!」
「よしっ、じゃあパパが芽生にしてやろう!」
「やだよー!パパじゃなくてコータくんがいい」
ジタバタと暴れ出す小さな手足が可愛い。
にしても、コータくんって男か?
「ははっ」
朝からこんな会話で盛り上がるなんて、本当に長閑で平和だ。
「さてと朝食の準備をしてくるから、二人とも洋服に着替えておいで。ちゃんと顔を洗うんだぞ」
滝沢さんにまるで小さな子供のように僕まで扱われて、思わず小さく吹き出してしまった。 だってそれは……僕が弟によく言ったセリフだ。
僕の家は母子家庭で……花屋を経営する母は仕入れのため、いつも早朝から不在だったので、五歳年下の弟の世話は僕が担当していたのを思い出した。
「ん?瑞樹、何がおかしい?」
「いやだって……僕、一応実家では兄だったので」
「そうなのか。瑞樹のことを俺はまだ知らないんだな。もっといろいろ教えてくれないか」
「はい……これからゆっくり話します」
滝沢さんに僕のことを、もっと知ってもらいたい。
「約束だぞ」
「はい!」
彼にニコっと微笑みかけると、滝沢さんは心底嬉しそうな顔をしてくれた。
「瑞樹のその笑顔……やっぱりいいな。ずっと見たかったよ」
滝沢さんにとって僕は、まだまだ泣き顔の印象の方が強いだろう。
でも瀧沢さんとなら僕はまた笑えるだろう。もっともっと笑って、笑い合えるだろう。
そんな明るい希望に満ちた朝だ。
今日という日は──
滝沢さんの唇が紡いだ言葉をもう一度頭の中で繰り返すと、信じられないほど胸がドキドキした。
「いいか」
静かな問いかけの後、もう一度顎を掴まれて上を向かされた。
ハッとして滝沢さんのことを見上げると、優しく穏やかな真摯な眼差しをしていた。
僕はゆっくりと自然に目を閉じた。
この人のことを受け入れてみよう。
心の声に素直になろうと……
やがて彼の唇がゆっくりと近づいて来る気配。
もう……触れるか触れないかの距離だ。
こんなにじれったいキスをするのは、いつぶりだろう。
最後のキスは一馬とだった。涙の味の別れのキスを、あいつは最後にひとつ落としていった。
だけど、これは『はじまりのキス』だ。そう思うと、自然と受け入れていた。
唇と唇が優しく触れ合う程度の、本当に軽いものだったが、滝沢さんの温もりを感じる柔らかい皮膜の感触。
重ねたのはごく短い時間だったのに、信じられない程の蕩ける心地良さだった。
「あっ……」
同時に僕の心に確実に芽生えて来ている、滝沢さんへの気持ちを確信できた。
新しい恋が今、芽を出した。
遠慮がちに離れていく彼の唇を、名残惜しくすら感じた。思い切って目を開けると、滝沢さんが少し困ったような表情で唇に手をあてていた。
「瑞樹……悪い。どうにもとまらなくて……無理させたか」
無理?
違う、僕があなたを受け入れた。
このキスは僕がしたかったものだ。
だから慌てて首を横に振った。
「無理なんて……していません」
「そうか!それならよかったよ」
その時僕の背後で、芽生くんがもぞもぞと動き出した。
「う……ん……おにいちゃんどこぉ」
可愛い声に焦った。僕はこんな小さな子供が寝ているすぐ横で、滝沢さんとキスしちゃったのか。なんだか改めて考えると猛烈に恥ずかしい!
滝沢さんの方も恥ずかしそうに目を逸らした。
彼は恋愛に長けていそうなのに、僕に接する時だけはまるで少年のように緊張しているのが伝わってきて……それが余計にドキドキするな。
「芽生くん、ここにいるよ」
「あ……おにいちゃんーよかった!おはよう」
「うん、おはよう」
「ねぇ……さっきふたりでなにしてたの?」
「え?えっと……」
うわ!まずい。背を向けていたから見えてないよな。芽生くん……起きていたのかもしれない。
「もしかして、おめざめのチュウをしてたの?」
「うっ」
動揺して縋るように滝沢さんのことを見上げると、彼も困った顔をしていた。でもその後すぐに愉快そうに笑いだした。
「クククっ、芽生は絵本の読みすぎだぞ」
「だっておひめさまが起きるときは、おうじさまがキスするもん!」
「よしっ、じゃあパパが芽生にしてやろう!」
「やだよー!パパじゃなくてコータくんがいい」
ジタバタと暴れ出す小さな手足が可愛い。
にしても、コータくんって男か?
「ははっ」
朝からこんな会話で盛り上がるなんて、本当に長閑で平和だ。
「さてと朝食の準備をしてくるから、二人とも洋服に着替えておいで。ちゃんと顔を洗うんだぞ」
滝沢さんにまるで小さな子供のように僕まで扱われて、思わず小さく吹き出してしまった。 だってそれは……僕が弟によく言ったセリフだ。
僕の家は母子家庭で……花屋を経営する母は仕入れのため、いつも早朝から不在だったので、五歳年下の弟の世話は僕が担当していたのを思い出した。
「ん?瑞樹、何がおかしい?」
「いやだって……僕、一応実家では兄だったので」
「そうなのか。瑞樹のことを俺はまだ知らないんだな。もっといろいろ教えてくれないか」
「はい……これからゆっくり話します」
滝沢さんに僕のことを、もっと知ってもらいたい。
「約束だぞ」
「はい!」
彼にニコっと微笑みかけると、滝沢さんは心底嬉しそうな顔をしてくれた。
「瑞樹のその笑顔……やっぱりいいな。ずっと見たかったよ」
滝沢さんにとって僕は、まだまだ泣き顔の印象の方が強いだろう。
でも瀧沢さんとなら僕はまた笑えるだろう。もっともっと笑って、笑い合えるだろう。
そんな明るい希望に満ちた朝だ。
今日という日は──
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