幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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発展編

原っぱピクニック 2

「さてと、何を着て行こうかな」

 クローゼットを開いて洋服を見渡すと、ふと目に留まったものがある。それはクリーニングから戻ってきたばかりの礼服だった。

 僕はあの日、朝早くシャワーを浴び、僕の朝食まで用意してこの部屋を出て行った一馬の結婚式を、礼服姿の重い足取りで見に行った。

 今考えると、何故あのような行動をしたのか。

 傷口に塩を塗る行為を、敢えて自分からした。

 この目で結婚する一馬を見送ることで、無理矢理にでも納得したかったのだろうか。いざ目の当たりにすると、不思議と恨みよりも僕が愛した男の幸せを願っていたんだから不思議な気持だった。

 まぁそうは言っても……その後原っぱで大泣きして、滝沢さんや芽生くんを驚かせることになってしまったのだが。何はともあれ「さよなら一馬」と気持ちの整理をつけ見送ることが出来て良かったのかな。この目で見たことは事実で、受け入れるしかない事実だったから。

 そんな過程を経たからこそ、僕もこうやって新しい一歩を歩みだせているのかもしれないし。

「うーん、やっぱりこっちかな」

 大人っぽいお洒落な装いの滝沢さんに合わせてチノパンとジャケットという少し畏まった服装と迷ったが、今日は原っぱで芽生くんと沢山遊びたかったので、ジーパンに白いフレンチリネンの七分袖のシャツを選んだ。

 芽生くんと触れあうのは、とても癒される。何故なら僕の本当の弟、夏樹のことを思い出すから。たった4歳で両親と共に交通事故に巻き込まれ死んでしまった夏樹。今でも君のことは良く覚えているよ。6歳も年下の弟が可愛くて可愛くて、全部面倒をみたがったのは僕だ。ずっと兄弟が欲しくて両親にせがんだことも覚えている。

 そして……新しい家に引き取られ、夏樹と同年代の弟が出来て複雑だったことも。そんな僕の気持ちがきっと潤を傷つけたんだ。だからあんなことに……あんな風に恨みをかってしまったのは、僕のせいだ。

 あぁまた……駄目だな。

 この部屋にひとりでいると、ついいろんなことを考えすぎてしまう。

****

「パパ。お弁当出来た?」

「あぁだいたいな。もうすぐ出かけられるぞ」

「んっと……でも……」

「なんだ?」

「あ……あのね、メイのスキなカニさんウインナーも作ってくれた?」

「おっと!忘れていたな」

「もーパパってば」

 離婚してすぐの頃、芽生にカニさんウインナーを作ってとせがまれた時は困ったもんだ。

(むむむ、それは何だ?)

(だからーママがよく作ってくれたカニさんだよぉ。パパは作れないの……クスンっ)

(分かった!ちょっと待って。すぐ調べるから)

 ネットで作り方を調べて、先の尖った包丁まで買ったりと大変だったな。あの頃は何もかも見よう見真似で……慣れない主夫業に突入した。

「よーし、じゃあメイよく見てろよ。まずはウインナーを縦半分に切るぞ。それから切れ目をこうやって入れる。ここは包丁に気を付けて慎重にな。この部分が足になるんだぞ」

「うんうん」

 流石に芽生にまだ尖った包丁を渡すわけにいかないが、理に興味があるようで踏み台に上り、じっと黒目がちな大きな目を輝かせていた。

「それからフライパンに油をひいて焼くんだ」

「わぁ!ウインナーがカニさんに変身した!パパすごい!すごい!」

「そうか」

 芽生は褒め上手だから、思わず鼻を擦ってニヤリと笑ってしまう。

「お兄ちゃんの分も作って。きっと喜ぶよー」

「おお!そうかな?」

 こんな子供騙しのものを?と思ったが、瑞樹ならきっと嬉しそうに微笑んでくれるだろう。そう自然に思うと、ウインナーは全部カニさんに仕立ててしまった。

「カニさんいっぱい!カニさんうれしいなー」

 瑞樹を迎えに走らす車の中でも、ずっと芽生は上機嫌だった。

 それにしても五月も下旬だが、今日は抜けるような晴天で雲一つない。まさにピクニック日和だなと、俺の方も上機嫌で鼻歌を歌ってしまった。

 瑞樹の部屋のインターホンを押すと、すぐに出てきてくれた。

「滝沢さん!わざわざすいません。迎えにきてもらって……」

 初めて見る瑞樹のカジュアルなジーパン姿にドキっとした。

 細身のジーンズなので足がすらりと真っすぐ伸びているのが分かり、瑞樹のスタイルの良さが伺える。小さくキュッと引き締まっているヒップもポケットの位置から想像できるぞ。白いリネンシャツは上質でシンプルなもので、瑞樹の清楚な雰囲気によく合っていた。うぉぉ……今日も滅茶苦茶可愛いな。こんな清楚な人が俺の恋人なのかと思うと、また自然と口元が緩む。

 すると手を繋いでいた芽生に、小さな声で注意された。

「パパっ、また変なお顔になってるよ。キモチワルイヨー」

「わっ悪い」

 瑞樹もそれを聞いていてクスっと肩を揺らし、芽生の視線にしゃがみ込んだ。

「こんにちは!芽生くん、ちょっと久しぶりだね」

「おにいちゃん、会いたかったよ~」

 小さな芽生が甘えたように瑞樹の首に抱き着いたので、ギョッとした。

 おいおい、それ俺の役じゃ……

「ふふっうん、僕も芽生くんに会いたかったよ。今日は沢山遊ぼうね」

「わーい!わーい!」

 まぁ可愛い芽生の幸せ一杯の笑顔を見たら、許せるが。

 でもなぁ……瑞樹、ちゃんと俺とも遊んでくれよと念押ししたくなった。

 
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