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発展編
実らせたい想い 2
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「まずい!遅刻しそうだ」
生け込みの片付けを超特急で終わらせて、ホテルを飛び出した。宗吾さんとの約束を守りたい、芽生くんの喜ぶ顔が見たい。その一心でひた走り、電車を乗り継ぎ最寄り駅まで戻り、そこからタクシーに乗った。
この調子でいけば約束の時間ギリギリセーフかな。
「すいません。あかつき幼稚園までお願いします」
「あぁ今日は運動会ですね」
「えぇ」
「それにしても世の中のパパさんは大忙しだ。働いている方は土、日も返上で大変ですね。さっきもお仕事の合間に抜け出して来た人を乗せたばかりですよ」
「そうなんですね」
「しかしお客さん、随分お若いパパさんですねぇ」
『パパさん』という言葉は気恥ずかしかった。
僕が若いって?あっそうか、4歳の子供がいるとしたら22歳で父親になったことになるのか。確かに学生結婚レベルだな。
宗吾さんに置き換えると……彼は今31歳だから芽生くんの父親になったのは、今の僕の歳と変わらないのか。うわっ、それってすごいな。
いずれにせよ、人の親になるのは尊いことだ。
僕の両親も揃って幼稚園の運動会に来てくれたのを、思い出してしまった。
(がんばってー! お弁当は瑞樹の大好きな卵焼きよ)
(ママ、声がビデオに入っちゃうぞ)
(いいのよ、みずきー! ファイト!)
リレー選手に選ばれて走った時のビデオを見返したら、コントみたいなやりとりで、家族で笑ったっけ。僕の実母はユニークな人だったな。優しくて明るくて楽しかった。
もちろん引き取られてからも、運動会は楽しい思い出だったよ。一番張り切っていたのは兄さんだったかも。僕が中学の時、兄さんはもう高校生で大人並みの貫禄があったから、普通に父親だと思われて気の毒だったな。くすっ。
新しい母さんは心の広い人だった。小学校と中学校の運動会が重なった時、分け隔てなく半分ずつ来てくれた。但し……後に潤に酷く恨まれることになったが。
「お客さん着きましたよ。間に合うといいですね」
「ありがとうございます!」
時計の針は13時50分。よしっ大丈夫だ!
受付で「滝沢芽生」の欄に丸をつけて中に入る。ここまではスムーズだった。
芽生くん、どこにいるかな。
それにしてもすごい人だ。両親におじいさんおばあさんまで……みんな夢中で観覧している。その熱気にたじろいでしまった。やっぱり僕なんかが来る所ではなかったと不安になってしまう。
それでも芽生くんに一目逢いたくてキョロキョロと辺りを見回すと、ポンっと肩を叩かれた。振り向くと遊園地で会ったコータくんのお母さんが立っていた。
「こんにちは、えっと葉山さんでしたよね」
「あっ!ええ、お久しぶりです」
「滝沢さんから昨日連絡をもらっていましたよ」
「あの……僕、頼まれて来たのですが、すごく場違いですよね」
「大丈夫よ。可愛くて若いパパさんは大歓迎!さぁこっちこっち。次の演目、本当はお母さんと踊るダンスなんだけど、いない人はパパや代理の人でもちろんOKなのよ。だから参加して欲しいの」
「ダンス? って……僕、踊れませんよ」
「大丈夫よ。マイムマイムっていうの、知っているでしょ?」
あぁ……あのフォークダンスのか。あれなら覚えている。というか……僕の時代とやることって大して変わらないんだな。
「芽生くんーおにいちゃんが来てくれたわよ」
「わぁ、本当においにちゃんだ!」
芽生くんがニコニコ笑顔で手を振ってくれた。その笑顔にようやく僕でも良かったんだなと、ほっと出来た。
「うふふ。すっかり懐いていますね」
「そうでしょうか」
「芽生くんってば可愛い。本当に葉山さんのこと大好きなのね。実はご両親が離婚した時は傍目にも可哀想で……全然笑わなくなっていたので心配していたの」
「あぁ……やっぱり。そんな日々もあったのですね」
芽生くんは、まだ4歳だ。
滝沢さんと奥さんの間にどんな理由があって離婚に至ったのか……僕には詳しいことは分からない。でもどんな事情があったにせよ、まだ幼い芽生くんにとって、母親との別れはさぞかし寂しかったと思うよ。
僕みたいに今生の別れでなくても、別れは別れだ。
会えそうで会えない距離というものも……切ないね。
生け込みの片付けを超特急で終わらせて、ホテルを飛び出した。宗吾さんとの約束を守りたい、芽生くんの喜ぶ顔が見たい。その一心でひた走り、電車を乗り継ぎ最寄り駅まで戻り、そこからタクシーに乗った。
この調子でいけば約束の時間ギリギリセーフかな。
「すいません。あかつき幼稚園までお願いします」
「あぁ今日は運動会ですね」
「えぇ」
「それにしても世の中のパパさんは大忙しだ。働いている方は土、日も返上で大変ですね。さっきもお仕事の合間に抜け出して来た人を乗せたばかりですよ」
「そうなんですね」
「しかしお客さん、随分お若いパパさんですねぇ」
『パパさん』という言葉は気恥ずかしかった。
僕が若いって?あっそうか、4歳の子供がいるとしたら22歳で父親になったことになるのか。確かに学生結婚レベルだな。
宗吾さんに置き換えると……彼は今31歳だから芽生くんの父親になったのは、今の僕の歳と変わらないのか。うわっ、それってすごいな。
いずれにせよ、人の親になるのは尊いことだ。
僕の両親も揃って幼稚園の運動会に来てくれたのを、思い出してしまった。
(がんばってー! お弁当は瑞樹の大好きな卵焼きよ)
(ママ、声がビデオに入っちゃうぞ)
(いいのよ、みずきー! ファイト!)
リレー選手に選ばれて走った時のビデオを見返したら、コントみたいなやりとりで、家族で笑ったっけ。僕の実母はユニークな人だったな。優しくて明るくて楽しかった。
もちろん引き取られてからも、運動会は楽しい思い出だったよ。一番張り切っていたのは兄さんだったかも。僕が中学の時、兄さんはもう高校生で大人並みの貫禄があったから、普通に父親だと思われて気の毒だったな。くすっ。
新しい母さんは心の広い人だった。小学校と中学校の運動会が重なった時、分け隔てなく半分ずつ来てくれた。但し……後に潤に酷く恨まれることになったが。
「お客さん着きましたよ。間に合うといいですね」
「ありがとうございます!」
時計の針は13時50分。よしっ大丈夫だ!
受付で「滝沢芽生」の欄に丸をつけて中に入る。ここまではスムーズだった。
芽生くん、どこにいるかな。
それにしてもすごい人だ。両親におじいさんおばあさんまで……みんな夢中で観覧している。その熱気にたじろいでしまった。やっぱり僕なんかが来る所ではなかったと不安になってしまう。
それでも芽生くんに一目逢いたくてキョロキョロと辺りを見回すと、ポンっと肩を叩かれた。振り向くと遊園地で会ったコータくんのお母さんが立っていた。
「こんにちは、えっと葉山さんでしたよね」
「あっ!ええ、お久しぶりです」
「滝沢さんから昨日連絡をもらっていましたよ」
「あの……僕、頼まれて来たのですが、すごく場違いですよね」
「大丈夫よ。可愛くて若いパパさんは大歓迎!さぁこっちこっち。次の演目、本当はお母さんと踊るダンスなんだけど、いない人はパパや代理の人でもちろんOKなのよ。だから参加して欲しいの」
「ダンス? って……僕、踊れませんよ」
「大丈夫よ。マイムマイムっていうの、知っているでしょ?」
あぁ……あのフォークダンスのか。あれなら覚えている。というか……僕の時代とやることって大して変わらないんだな。
「芽生くんーおにいちゃんが来てくれたわよ」
「わぁ、本当においにちゃんだ!」
芽生くんがニコニコ笑顔で手を振ってくれた。その笑顔にようやく僕でも良かったんだなと、ほっと出来た。
「うふふ。すっかり懐いていますね」
「そうでしょうか」
「芽生くんってば可愛い。本当に葉山さんのこと大好きなのね。実はご両親が離婚した時は傍目にも可哀想で……全然笑わなくなっていたので心配していたの」
「あぁ……やっぱり。そんな日々もあったのですね」
芽生くんは、まだ4歳だ。
滝沢さんと奥さんの間にどんな理由があって離婚に至ったのか……僕には詳しいことは分からない。でもどんな事情があったにせよ、まだ幼い芽生くんにとって、母親との別れはさぞかし寂しかったと思うよ。
僕みたいに今生の別れでなくても、別れは別れだ。
会えそうで会えない距離というものも……切ないね。
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