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発展編
実らせたい想い 6
「おやすみ瑞樹」
「……おやすみなさい、宗吾さん」
瑞樹との通話を終えた後、どこか腑に落ちなかった。
何だろう。何かとんでもなく大事な事を見落としているような落ち着かない気持ちだ。
名残惜しそうな瑞樹の声は、どこか切なく……そのままどこかに消えてしまいそうで心配になった。だがきっと何度尋ねても、君は「何でもないです。大丈夫です」と答えてしまうのだろう。
なかなか人に甘えられない瑞樹の心を、根気よく解してきたつもりだが、やはり少し離れてしまうと駄目だな。ここがニューヨークでなければ、今すぐ君の傍に飛んでいきたいよ。
芽生に今日の瑞樹の様子を聞こうと思ったが、もうとっくに眠っている時間だ。なので諦めてコータくんママに送迎の礼を兼ねてLINEをした。
「今日は芽生の送迎をありがとう。あの……瑞樹に何か変わった事はなかったですか」
すぐに返信がきた。
「滝沢さんお疲れさま! 葉山さんならギリギリだったけれども、ダンスにはちゃんと間に合いましたよ~芽生くんも凄く喜んで可愛かったです♡主人が撮った動画ですけど送りますね。主人も瑞樹くんのこと可愛い~っと褒めていました! あっこれは余計な事ね(笑)」
メッセージの下に現れた動画が、自動で流れ出す。
瑞樹とメイが一緒にマイムマイムを踊っている映像だった。ほっそりとした瑞樹はタイを外したワイシャツ姿だった。ホテルの仕事をわざわざ抜け出して来てくれたのか。
ふたりは手を繋いでクルクルと回り、リズミカルなステップを踏んで、ニコニコと笑い合っている。日だまりの中、キラキラと輝いていた。
瑞樹は実年齢よりずっと若く見えるので、年の離れた兄弟のように見えるかもな。この前みたいなジーパン姿なら尚更だろう。原っぱピクニックの時に交わしたキスもドラマチックだったよな。
「可愛いな。二人とも最高だ」
1分にも満たない動画を何度も何度もリピートしてしまった。
「ふふふ、滝沢さんってばリピート再生中ね。瑞樹くんは一曲踊った後すぐに帰られましたよ~でも最後まで楽しそうでした」
「ありがとう。それを聞いてホッとしたよ」
その会話で満足して、それ以上の追求はやめてしまった。
また後日ゆっくりと芽生とお袋に運動会の様子を聞いてみよう。
さてと俺もそろそろ出社の支度をするか。しかし今回の仕事は気を遣うよな。アメリカの超有名俳優をCMモデルに使うなんてバブル期のようだな。だがクライアントの意向であり、我が社の命運をかけた一大事業でもあるから気を抜けない。
後々この日の行動をどんなに悔やむことになるか……その時の俺は何も知らなかった。
****
翌日はほぼ眠って過ごした。なんというか頭が疲れていて動けなかった
しっかりしろ、瑞樹。人から疎まれるのには慣れているだろう。
函館時代のことを思い出すんだ。同じ屋根の下に住む潤から受け続けた屈辱の日々を……
最近、僕はすっかり弱くなった。
上京し一馬と付き合うようになった頃から、そういう感覚を忘れてしまった。アイツに疎まれることなんて、一度もなかった。本当に最後まで僕に優しく付き合ってくれた。
あいつは……お父さんの病気、実家の旅館の跡継ぎ……そういう重たい事情があったから、僕は全部受け入れて、僕を置いて行くことを許すことが出来た。
本当は寂しかったけれども……
でも今の僕は……滝沢さんに深く大切に愛されて、『僕という存在』をようやく自分でも認められるようになっていた。
なのに……また振り出しに戻ってしまうのか。
宗吾さんの奥さんだった人から浴びた冷たい視線を思い出すと、ゾクッと震えてしまう。
きっとあのままでは済まない。
そんな予感が僕を四六時中苦しめていた。
でも芽生くんをこの世に産んでくれた人だから……憎みたくない。
「……おやすみなさい、宗吾さん」
瑞樹との通話を終えた後、どこか腑に落ちなかった。
何だろう。何かとんでもなく大事な事を見落としているような落ち着かない気持ちだ。
名残惜しそうな瑞樹の声は、どこか切なく……そのままどこかに消えてしまいそうで心配になった。だがきっと何度尋ねても、君は「何でもないです。大丈夫です」と答えてしまうのだろう。
なかなか人に甘えられない瑞樹の心を、根気よく解してきたつもりだが、やはり少し離れてしまうと駄目だな。ここがニューヨークでなければ、今すぐ君の傍に飛んでいきたいよ。
芽生に今日の瑞樹の様子を聞こうと思ったが、もうとっくに眠っている時間だ。なので諦めてコータくんママに送迎の礼を兼ねてLINEをした。
「今日は芽生の送迎をありがとう。あの……瑞樹に何か変わった事はなかったですか」
すぐに返信がきた。
「滝沢さんお疲れさま! 葉山さんならギリギリだったけれども、ダンスにはちゃんと間に合いましたよ~芽生くんも凄く喜んで可愛かったです♡主人が撮った動画ですけど送りますね。主人も瑞樹くんのこと可愛い~っと褒めていました! あっこれは余計な事ね(笑)」
メッセージの下に現れた動画が、自動で流れ出す。
瑞樹とメイが一緒にマイムマイムを踊っている映像だった。ほっそりとした瑞樹はタイを外したワイシャツ姿だった。ホテルの仕事をわざわざ抜け出して来てくれたのか。
ふたりは手を繋いでクルクルと回り、リズミカルなステップを踏んで、ニコニコと笑い合っている。日だまりの中、キラキラと輝いていた。
瑞樹は実年齢よりずっと若く見えるので、年の離れた兄弟のように見えるかもな。この前みたいなジーパン姿なら尚更だろう。原っぱピクニックの時に交わしたキスもドラマチックだったよな。
「可愛いな。二人とも最高だ」
1分にも満たない動画を何度も何度もリピートしてしまった。
「ふふふ、滝沢さんってばリピート再生中ね。瑞樹くんは一曲踊った後すぐに帰られましたよ~でも最後まで楽しそうでした」
「ありがとう。それを聞いてホッとしたよ」
その会話で満足して、それ以上の追求はやめてしまった。
また後日ゆっくりと芽生とお袋に運動会の様子を聞いてみよう。
さてと俺もそろそろ出社の支度をするか。しかし今回の仕事は気を遣うよな。アメリカの超有名俳優をCMモデルに使うなんてバブル期のようだな。だがクライアントの意向であり、我が社の命運をかけた一大事業でもあるから気を抜けない。
後々この日の行動をどんなに悔やむことになるか……その時の俺は何も知らなかった。
****
翌日はほぼ眠って過ごした。なんというか頭が疲れていて動けなかった
しっかりしろ、瑞樹。人から疎まれるのには慣れているだろう。
函館時代のことを思い出すんだ。同じ屋根の下に住む潤から受け続けた屈辱の日々を……
最近、僕はすっかり弱くなった。
上京し一馬と付き合うようになった頃から、そういう感覚を忘れてしまった。アイツに疎まれることなんて、一度もなかった。本当に最後まで僕に優しく付き合ってくれた。
あいつは……お父さんの病気、実家の旅館の跡継ぎ……そういう重たい事情があったから、僕は全部受け入れて、僕を置いて行くことを許すことが出来た。
本当は寂しかったけれども……
でも今の僕は……滝沢さんに深く大切に愛されて、『僕という存在』をようやく自分でも認められるようになっていた。
なのに……また振り出しに戻ってしまうのか。
宗吾さんの奥さんだった人から浴びた冷たい視線を思い出すと、ゾクッと震えてしまう。
きっとあのままでは済まない。
そんな予感が僕を四六時中苦しめていた。
でも芽生くんをこの世に産んでくれた人だから……憎みたくない。
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