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発展編
心の灯火 1
季節は深まり巡り、もう10月中旬になっていた。
芽生くんの運動会が発端の宗吾さんの前の奥さんとの騒動も何とか収まり、ようやく実りの秋を迎えようとしている。
玲子さんからは、正直……最初は敵意剥き出しに威圧的な態度を取られ、かなり落ち込んでしまった。宗吾さんが海外出張中だったので悩みを相談する事も出来ず、一人鬱々と悩む日々だった。辛かったが何もかも抱え込んでしまうのは、誰かに疎まれるのを人一倍恐れる僕の悪い習性だ。
幼い頃に両親を亡くし遠い親戚に厚意で引き取ってもらった時、施設に行かなくてほっとしたのと同時に絶対に迷惑をかけられない、少しの嫌なことなんて我慢しようと誓った。それはいつの間にか僕の悪い癖、弱点になってしまっていた。
玲子さんの件は大変だったが、宗吾さんとの関係をこんな所で終わらせたくなくて逃げずに頑張った。それが功を奏したのか、結果、玲子さんにも宗吾さんのお母さんに受け入れてもらえることとなった。
まだ信じられないよ。
あの日宗吾さんのご実家に泊まらせてもらい、一緒に食べたトンカツ……家庭の味というものを久しぶりに味わった。誰にも疎まられず好かれる喜びを、ひしひしと感じた。
「そろそろ日程を決めないとな」
仕事からの帰り道、 太陽を浴びた街路樹の銀杏が黄色く色づき始め、秋の『華』を咲かせていた。今日こそは月影寺の洋くん連絡してみようと思いながら、帰路についた。
郵便受けの手紙を持って部屋に入ると、一枚の往復はがきが届いているのに気がついた。
「誰からかな?」
それは懐かしい差出人だった。 大学の男子寮の左隣に住んでいた:堂島 彰(どうじま あきら)、彼は大学四年間ずっと隣室の住人だった。そして僕の右隣の部屋は一馬だった。
「珍しいな」
彼と社会人になってから会ったのは、数回だけだ。ここ2年程は音沙汰なかったと記憶しているが……
往復葉書の内容は、僕たちが住んでいた男子寮が老朽化によって建て直されるとのことで、建物が取り壊される前に、当時のメンバーで集まって寮を見学し、そのあと飲もうという企画だった。
どうしよう……行きたいが、一馬が来るかもしれないよな。葉書を片手に悩んでいると、電話が鳴った。
「……もしもし」
「俺! 堂島だ」
「え? わっ久しぶりだね」
「瑞樹ー元気だったか」
「うん、まぁ……今日丁度葉書が届いて、眺めていたよ」
「おお!そっか、なら話は早いな。出席してくれるよな」
「え……」
「可愛い瑞樹が来ないと人が集まらないんだよ。なっ俺ひとりで幹事頑張っているから頼む!手伝って欲しい」
「……そうか……うん、分かった。僕で出来ることなら協力するよ」
「ありがとう。瑞樹は相変わらず優しいな。サンキュ!」
そんな風に言われると困ってしまう。
僕は優しいのではなく八方美人なだけだ。
断るのが苦手だから、引き受けてしまう。
「そういえばさ、一馬って結局実家に戻ったんだな」
「え……」
突然一馬のことをふられて、かなり動揺してしまった。
「何で知って……」
「あー? だって俺、一馬の結婚式の二次会に呼ばれていたからさ」
「……そうか」
「ってか、そういえば、何で瑞樹二次会来なかったんだ? 披露宴の後、真っ直ぐ帰ってしまったのか」
堂島は僕が一馬の披露宴に出席したと思っているようだ。今の僕にはどう答えていいのか分からないので、適当に濁しておいた。
「……悪い。堂島と会えなくて残念だったよ」
「一馬と瑞樹といえば無二の親友だったもんな。お前らってまるで恋人同士みたいに仲良すぎだったぞ」
「え?」
一馬との恋はひた隠しにしていたはずなのに、堂島にはバレていたのかと不安になった。
「おっと悪い!変なこと言って。すぐ傍にいた俺の勝手な妄想だ。気にするな。それに一馬はちゃんと結婚したしな」
「……そうだね。あ……一馬にもこの葉書を送ったのか」
「もちろんだ。今時往復葉書で召集なんてレトロだろ?寮の歴史に敬意を払ったんだぜ。そうそう一馬は大分からこのために来られるか分からないが、会えるといいな」
「……そうか」
なんとも気まずい話だった。もしも一馬は来たら、僕はちゃんと話せるだろうか。しかも……そんな集まりに行くのを、宗吾さんはどう思うか。
一気に考えないといけない事柄が溢れ、悩んでしまった。しかし一度行くといった手前、一馬を理由には断れない。
****
「宗吾さん、すみません。という訳で今週の土曜日は学生寮の集まりに行こうと思っているのですが……」
恐る恐る告げると、宗吾さんは暫く沈黙したあと、僕の肩をポンポンっと叩いてくれた。
「瑞樹はさ、それを俺に言い出すまでかなり悩んだろう。優しい君のことだから両方を立てようと板挟みになったんじゃないか。大丈夫だよ。行っておいで、大事な寮と大事な友人なんだろう。その堂島って奴……」
「え……いいんですか」
宗吾さんはすごい。いつも僕の上をいく反応をしてくれる。一馬が来るかもしれない集まりに快く送り出してくれるなんて。
「瑞樹には瑞樹の人生がある。もちろん俺と重ねて歩んでくれるのは嬉しいが、瑞樹の過去は瑞樹だけのもの。俺が計り知れない大切な思い出や友人がいるのも理解しているよ。まぁ……その少し……心配だが」
最後はモゴモゴと決まり悪そうに小声になった宗吾さんの事が、愛しくて溜まらなくて、僕の方から抱きついてしまった。
「宗吾さんはすごいです。僕は宗吾さんと話すと新しい世界を見せてもらえるようで、いつも心地いいです。宗吾さん……あの」
「なんだ?」
「……少し甘えても?」
「もちろんだ!」
「……飲み会の後……迎えに来てくれませんか」
芽生くんの運動会が発端の宗吾さんの前の奥さんとの騒動も何とか収まり、ようやく実りの秋を迎えようとしている。
玲子さんからは、正直……最初は敵意剥き出しに威圧的な態度を取られ、かなり落ち込んでしまった。宗吾さんが海外出張中だったので悩みを相談する事も出来ず、一人鬱々と悩む日々だった。辛かったが何もかも抱え込んでしまうのは、誰かに疎まれるのを人一倍恐れる僕の悪い習性だ。
幼い頃に両親を亡くし遠い親戚に厚意で引き取ってもらった時、施設に行かなくてほっとしたのと同時に絶対に迷惑をかけられない、少しの嫌なことなんて我慢しようと誓った。それはいつの間にか僕の悪い癖、弱点になってしまっていた。
玲子さんの件は大変だったが、宗吾さんとの関係をこんな所で終わらせたくなくて逃げずに頑張った。それが功を奏したのか、結果、玲子さんにも宗吾さんのお母さんに受け入れてもらえることとなった。
まだ信じられないよ。
あの日宗吾さんのご実家に泊まらせてもらい、一緒に食べたトンカツ……家庭の味というものを久しぶりに味わった。誰にも疎まられず好かれる喜びを、ひしひしと感じた。
「そろそろ日程を決めないとな」
仕事からの帰り道、 太陽を浴びた街路樹の銀杏が黄色く色づき始め、秋の『華』を咲かせていた。今日こそは月影寺の洋くん連絡してみようと思いながら、帰路についた。
郵便受けの手紙を持って部屋に入ると、一枚の往復はがきが届いているのに気がついた。
「誰からかな?」
それは懐かしい差出人だった。 大学の男子寮の左隣に住んでいた:堂島 彰(どうじま あきら)、彼は大学四年間ずっと隣室の住人だった。そして僕の右隣の部屋は一馬だった。
「珍しいな」
彼と社会人になってから会ったのは、数回だけだ。ここ2年程は音沙汰なかったと記憶しているが……
往復葉書の内容は、僕たちが住んでいた男子寮が老朽化によって建て直されるとのことで、建物が取り壊される前に、当時のメンバーで集まって寮を見学し、そのあと飲もうという企画だった。
どうしよう……行きたいが、一馬が来るかもしれないよな。葉書を片手に悩んでいると、電話が鳴った。
「……もしもし」
「俺! 堂島だ」
「え? わっ久しぶりだね」
「瑞樹ー元気だったか」
「うん、まぁ……今日丁度葉書が届いて、眺めていたよ」
「おお!そっか、なら話は早いな。出席してくれるよな」
「え……」
「可愛い瑞樹が来ないと人が集まらないんだよ。なっ俺ひとりで幹事頑張っているから頼む!手伝って欲しい」
「……そうか……うん、分かった。僕で出来ることなら協力するよ」
「ありがとう。瑞樹は相変わらず優しいな。サンキュ!」
そんな風に言われると困ってしまう。
僕は優しいのではなく八方美人なだけだ。
断るのが苦手だから、引き受けてしまう。
「そういえばさ、一馬って結局実家に戻ったんだな」
「え……」
突然一馬のことをふられて、かなり動揺してしまった。
「何で知って……」
「あー? だって俺、一馬の結婚式の二次会に呼ばれていたからさ」
「……そうか」
「ってか、そういえば、何で瑞樹二次会来なかったんだ? 披露宴の後、真っ直ぐ帰ってしまったのか」
堂島は僕が一馬の披露宴に出席したと思っているようだ。今の僕にはどう答えていいのか分からないので、適当に濁しておいた。
「……悪い。堂島と会えなくて残念だったよ」
「一馬と瑞樹といえば無二の親友だったもんな。お前らってまるで恋人同士みたいに仲良すぎだったぞ」
「え?」
一馬との恋はひた隠しにしていたはずなのに、堂島にはバレていたのかと不安になった。
「おっと悪い!変なこと言って。すぐ傍にいた俺の勝手な妄想だ。気にするな。それに一馬はちゃんと結婚したしな」
「……そうだね。あ……一馬にもこの葉書を送ったのか」
「もちろんだ。今時往復葉書で召集なんてレトロだろ?寮の歴史に敬意を払ったんだぜ。そうそう一馬は大分からこのために来られるか分からないが、会えるといいな」
「……そうか」
なんとも気まずい話だった。もしも一馬は来たら、僕はちゃんと話せるだろうか。しかも……そんな集まりに行くのを、宗吾さんはどう思うか。
一気に考えないといけない事柄が溢れ、悩んでしまった。しかし一度行くといった手前、一馬を理由には断れない。
****
「宗吾さん、すみません。という訳で今週の土曜日は学生寮の集まりに行こうと思っているのですが……」
恐る恐る告げると、宗吾さんは暫く沈黙したあと、僕の肩をポンポンっと叩いてくれた。
「瑞樹はさ、それを俺に言い出すまでかなり悩んだろう。優しい君のことだから両方を立てようと板挟みになったんじゃないか。大丈夫だよ。行っておいで、大事な寮と大事な友人なんだろう。その堂島って奴……」
「え……いいんですか」
宗吾さんはすごい。いつも僕の上をいく反応をしてくれる。一馬が来るかもしれない集まりに快く送り出してくれるなんて。
「瑞樹には瑞樹の人生がある。もちろん俺と重ねて歩んでくれるのは嬉しいが、瑞樹の過去は瑞樹だけのもの。俺が計り知れない大切な思い出や友人がいるのも理解しているよ。まぁ……その少し……心配だが」
最後はモゴモゴと決まり悪そうに小声になった宗吾さんの事が、愛しくて溜まらなくて、僕の方から抱きついてしまった。
「宗吾さんはすごいです。僕は宗吾さんと話すと新しい世界を見せてもらえるようで、いつも心地いいです。宗吾さん……あの」
「なんだ?」
「……少し甘えても?」
「もちろんだ!」
「……飲み会の後……迎えに来てくれませんか」
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