幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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発展編

心の灯火 8

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「心に留まった熱を出し切れ」
「え……」
「来い、温めてやる」

   宗吾さんの力強い声を、ぼんやりと夢現で聞いていた。

 心に留まったままの熱とは……一馬への残り火のことなのか。

 アイツと今日会えなかったのには、きっと何か理由があるのだろう。今は会わない方がいい。その時ではない。お互いにもう元に戻るつもりがないのならば、完全に吹っ切ってから会った方がいい。

 もしかしたら……そういう意味なのか。

 宗吾さんにギュッと抱きしめられ、僕は彼の胸に埋もれるように自ら震える躰をなだめた。

 熱……この躰の熱と共に残っている想いを出し切れるのなら、もう出してしまいたいよ。

 その晩、自分でも驚く程の高熱を出してしまった。

   宗吾さんに抱かれて眠っていたが、躰がどんどん熱くなっていくのが分かった。

「宗吾さん……」
「瑞樹、病院に行くか」
「いえ……そこまでは……大丈夫……です」
「……もう一度熱を測って」
「……ハイ」
「うーん39度8分か、随分熱が高いな」
「えっ……そんなに」

 流石にそんな高い熱を出したことはないので、体温を聞いて目が回ってしまった。もう……息も絶え絶えだ。躰が熱くて燃えてしまいそうだ。

「でもどうしよう……怖い」

 何て事だ。これではまるで小さな子供みたいだ。今までは体調を崩して引き取ってくれた家族に迷惑をかけたくなくて、気を張っていた。なのに最近宗吾さんと付き合いだしてから、先日も二日間寝込んだし……今回はもっと酷い状態だ。一体僕の躰はどうなってしまったのか。
 
 今まで溜め込んでいたものが爆発したような体調の変化に、戸惑ってしまう。

「大丈夫だ。意識もしっかりしているし熱が少し高いだけだよ。メイなんて40度の熱を出すんだぞ。大丈夫、大丈夫だよ」
「宗吾さん……」

 宗吾さんが大丈夫だと言ってくれれば、そうだと思える。今の僕は寂しく一人で眠っているわけではない。彼がこんなにも甲斐甲斐しく世話をして、僕を温めてくれる。

 冷たい氷枕を持ってきてくれ、タオルで汗を拭いてくれ……

「あっ……気持ちいい」
「そうか。よかったよ」
「他には?」
「……あの……水を飲みたいです」
「あぁそうだな。あれだけ汗かいたし……よしっ分かった」

 宗吾さんが水を汲みに行く。その少しの間すら寂しく感じてしまうなんて…… どうしよう……弱っているせいだ。こんなにも人恋しくなるなんて。

 次の瞬間、宗吾さんに口移しで水を飲まされていた。

「えっ……」

 驚いた拍子に、ゴクンと呑み込んでしまった。 宗吾さんの口から伝わってきた水はとても甘かった。

 僕の躰は内部から熱をどんどん発散し、その一方で宗吾さん自ら水を注いでもらっていた。

「駄目です……風邪をうつしてしまう」
「俺は大丈夫だ。さぁもっと飲め」
「んっ……」

 これは夢か現か。きっと幸せな夢を見ているのだ。

 だから躰の力を抜いて、水をもっともっとと強請るように、もらった。

 ****

 翌朝にはウソみたいに熱が下がっていた。熱を出し切った後に水を沢山与えてもらい、そのまま眠ってしまったようだ。

「……宗吾さん?」

 彼は一晩中看病してくれていたようで、僕のベッドに顔を埋めて眠っていた。

 本当に優しくて頼もしい人だ。僕の手は宗吾さんに握りしめてもらっていた。この手があるから、どこにも行かないで済んだ。悪夢も見なかった。熱を出し切って戻ってこられた。

 ── 心の灯火 ──

 僕の心は宗吾さんの存在によって輝き、宗吾さんという灯火があるから、もう迷わない。

 それが今の僕の気持ちだ。

 澄み切ったクリアな頭に浮かんだ、僕にとって宗吾さんとは……の答えだ。

「ん……起きていたのか。もう熱は下がったのか」
「はい、宗吾さんのお陰で、多分」
「そうか良かったよ。昨日は心配したぞ」
「すみません。でも……色々すっきりしました」
「それならよかったよ。今日は夕方まで芽生を預けているんだ。もう一眠りしよう。俺……まだ眠い」
「あっ……僕のせいで、早く眠ってください」
「悪いな。じゃっ布団にいれてくれ」
「えっ」

  宗吾さんが遠慮無く布団に潜り、僕の横にやってくる。

「恥ずかしがるなよ。昨日も散々抱いてやったろう?」

 確かに昨日も抱きしめてもらったけれども……あれは熱で朦朧としていたから。

「瑞樹……」

 色っぽい声と共に腰を正面から抱かれ、ゾクゾクしてしまう。
 宗吾さんが僕を腹の下に敷き、じっと見つめてきたので、いよいよ心臓が高鳴ってしまう。
 
 もしかして……このまま?
 心の準備がまだ整っていないが、少しも怖くなかった。

「宗吾さん……あの……その……」
「うーん……悪い……眠い……」

 そのまま宗吾さんは、まさかの寝落ちをしてしまった。

 彼の体重がかかり苦しかったが、なんとか躰を横にずらし、今度は僕が宗吾さんを抱きしめた。

 宗吾さんが僕の人生の灯火だ。

 宗吾さんがいてくれたら、もう僕は道に迷わないだろう。

 ひとりでないことの心強さを感じさせてくれる人だ。


 
『心の灯火』了



****

 ご挨拶……

 こんばんは。いつも読んでくださってありがとうございます。

 切ない展開でしたが……ますます近づいていく二人ですね。じれったいですが……
 秋も深まり、次回の段は北鎌倉への秋の行楽。少し楽し砕けた楽しい話にしようと思います。
 
 
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