119 / 1,871
発展編
深まる秋・深まる恋 2
(瑞樹、あとで俺の部屋に来いよ)
(また一馬の部屋に?)
(あぁだって俺の部屋は角部屋だから、瑞樹が乱れても声が漏れないだろう)
(おっおい! 変なことばかり言うなよ。それは一馬がしつこいからだぞ!)
(悪い!でも瑞樹のあの声を聴くの好きなんだ)
あの日の会話がザワザワと蘇っては、バラバラに散っていく。
重機の振動と瓦礫と共に砕け散っていく。
僕の右隣の部屋が一馬の部屋だった。あいつの部屋は東南向きの角部屋で風通しが良くて好きだった。あそこで僕は初めて一馬に抱かれ、その後も躰を重ね続けたことは事実だ。
だがもうその部屋はない。既にこの世に存在しなくなった。
これでいい。跡形もなくなってしまえば、吹っ切れるだろう。
今の僕には、宗吾さんがいてくれる。
嬉しい時も悲しい時も、苦しい時も……すぐ傍にいてくれる人がいるのに、いつまでも過去の想い出を引きずっていたくない。なのにどうして……涙が込み上げてくるのか。
「瑞樹……泣いていいぞ」
「え……」
宗吾さんの方から、そんな風に言うなんて。宗吾さんの前で泣くなんて、まるで今もかつての恋人を想っているようで、おかしいだろう。
「いいよ、遠慮するな。思い出と惜別するのは悲しいのが当たり前だ。それだけ真剣だったのだろう? その時は」
「あっ……」
確かにそうだ。僕は遊び半分で一馬と過ごした訳ではない。抱かれたわけではない。当時の僕は一馬との恋に真摯に向き合っていた。当時の僕たちは互いに真剣に愛し合っていた。
一馬は九州男児で人一倍責任感も強い男だったから、家族の期待を裏切るようなことは結局出来なかった。追い打ちをかけるようにお父さんの病気……あいつが追い詰められていくのを見ていられなかった。だから僕なりに理解して、アイツを送り出した。
あの日の別れは二人で決めた別れ道だった。
昨日はアイツとこの男子寮が壊れていくのを一緒に見たいと思っていた。だが道が別れた物同士、今はまだ会わない方がいい。まだその時でないことを身に沁みて感じていた。
それにどんなに昔を回顧しても、もう元通りにならないのも理解した。
一馬……僕はさっきから胸が苦しくて仕方がないよ。
秋の冷たい風が僕の涙を誘いにやってくる。もう……我慢出来ない。このまま泣いてしまいそうだ。
「うっ……」
「よし泣けそうだな。俺に構うな。ここで泣いていけ」
宗吾さんが力強く僕の肩を抱く。
「ほら……」
宗吾さんが僕の肩を掴んで、ゆさゆさと揺さぶった。その衝撃で、ようやく漏れた涙が頬を伝い降りていった。
「う……ううっ」
思い出は遠くへ──色褪せて消えていく。
それでいい。これでいいと秋風が静かに慰めてくれた。
****
「瑞樹……落ち着いたか」
俺が肩を強く抱くと、瑞樹の澄んだ瞳から透明の涙がはらりと零れ落ちた。 必死に堪えている涙をそのまま振り落としてやりたくて、激しく揺さぶると、瑞樹は大粒の雨を降らせた。
君は俺の前ではよく泣くな。
泣き顔を見るのは辛いが、君が泣ける場所になれて嬉しいよ。
俺は、今までこんなにも深く誰かのことを想ったことはあるか。誰かの盾に傘になりたいと想ったことはあるか。
すべて瑞樹と出逢ってから生まれてきた感情だ。
「宗吾さん……すみません。取り乱してしまって。僕は宗吾さんの前だと、どうしてこんなに泣いてしまうのか、分からないです。不思議なほどです。本当に困ったな」
照れくさそうに泣き笑いする瑞樹のことが愛おしいよ。
「それは瑞樹が俺を信頼してくれている証拠だろう?」
すかさずそう答えてやると、瑞樹はすっきりした表情を浮かべた。
「そうですね。あぁなんだか沢山泣いたら気持ちが軽くなりました」
「そうか……もう具合は悪くないか」
そっと瑞樹の額に手をあてると、ひんやりとしていた。心が温かい証拠だ。
「熱はないようだな」
「はい、もう大丈夫です」
「なら芽生に会っていくか」
「え……本当ですか。僕も行ってもいいのですか」
「あぁ、実は母が会いたがっている。瑞樹のこと気に入ったらしくて、今日も連れて来いってうるさいんだよ」
(また一馬の部屋に?)
(あぁだって俺の部屋は角部屋だから、瑞樹が乱れても声が漏れないだろう)
(おっおい! 変なことばかり言うなよ。それは一馬がしつこいからだぞ!)
(悪い!でも瑞樹のあの声を聴くの好きなんだ)
あの日の会話がザワザワと蘇っては、バラバラに散っていく。
重機の振動と瓦礫と共に砕け散っていく。
僕の右隣の部屋が一馬の部屋だった。あいつの部屋は東南向きの角部屋で風通しが良くて好きだった。あそこで僕は初めて一馬に抱かれ、その後も躰を重ね続けたことは事実だ。
だがもうその部屋はない。既にこの世に存在しなくなった。
これでいい。跡形もなくなってしまえば、吹っ切れるだろう。
今の僕には、宗吾さんがいてくれる。
嬉しい時も悲しい時も、苦しい時も……すぐ傍にいてくれる人がいるのに、いつまでも過去の想い出を引きずっていたくない。なのにどうして……涙が込み上げてくるのか。
「瑞樹……泣いていいぞ」
「え……」
宗吾さんの方から、そんな風に言うなんて。宗吾さんの前で泣くなんて、まるで今もかつての恋人を想っているようで、おかしいだろう。
「いいよ、遠慮するな。思い出と惜別するのは悲しいのが当たり前だ。それだけ真剣だったのだろう? その時は」
「あっ……」
確かにそうだ。僕は遊び半分で一馬と過ごした訳ではない。抱かれたわけではない。当時の僕は一馬との恋に真摯に向き合っていた。当時の僕たちは互いに真剣に愛し合っていた。
一馬は九州男児で人一倍責任感も強い男だったから、家族の期待を裏切るようなことは結局出来なかった。追い打ちをかけるようにお父さんの病気……あいつが追い詰められていくのを見ていられなかった。だから僕なりに理解して、アイツを送り出した。
あの日の別れは二人で決めた別れ道だった。
昨日はアイツとこの男子寮が壊れていくのを一緒に見たいと思っていた。だが道が別れた物同士、今はまだ会わない方がいい。まだその時でないことを身に沁みて感じていた。
それにどんなに昔を回顧しても、もう元通りにならないのも理解した。
一馬……僕はさっきから胸が苦しくて仕方がないよ。
秋の冷たい風が僕の涙を誘いにやってくる。もう……我慢出来ない。このまま泣いてしまいそうだ。
「うっ……」
「よし泣けそうだな。俺に構うな。ここで泣いていけ」
宗吾さんが力強く僕の肩を抱く。
「ほら……」
宗吾さんが僕の肩を掴んで、ゆさゆさと揺さぶった。その衝撃で、ようやく漏れた涙が頬を伝い降りていった。
「う……ううっ」
思い出は遠くへ──色褪せて消えていく。
それでいい。これでいいと秋風が静かに慰めてくれた。
****
「瑞樹……落ち着いたか」
俺が肩を強く抱くと、瑞樹の澄んだ瞳から透明の涙がはらりと零れ落ちた。 必死に堪えている涙をそのまま振り落としてやりたくて、激しく揺さぶると、瑞樹は大粒の雨を降らせた。
君は俺の前ではよく泣くな。
泣き顔を見るのは辛いが、君が泣ける場所になれて嬉しいよ。
俺は、今までこんなにも深く誰かのことを想ったことはあるか。誰かの盾に傘になりたいと想ったことはあるか。
すべて瑞樹と出逢ってから生まれてきた感情だ。
「宗吾さん……すみません。取り乱してしまって。僕は宗吾さんの前だと、どうしてこんなに泣いてしまうのか、分からないです。不思議なほどです。本当に困ったな」
照れくさそうに泣き笑いする瑞樹のことが愛おしいよ。
「それは瑞樹が俺を信頼してくれている証拠だろう?」
すかさずそう答えてやると、瑞樹はすっきりした表情を浮かべた。
「そうですね。あぁなんだか沢山泣いたら気持ちが軽くなりました」
「そうか……もう具合は悪くないか」
そっと瑞樹の額に手をあてると、ひんやりとしていた。心が温かい証拠だ。
「熱はないようだな」
「はい、もう大丈夫です」
「なら芽生に会っていくか」
「え……本当ですか。僕も行ってもいいのですか」
「あぁ、実は母が会いたがっている。瑞樹のこと気に入ったらしくて、今日も連れて来いってうるさいんだよ」
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。