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発展編
帰郷 14
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「母さん、瑞樹が帰って来るってさ」
「えっあの子から、そう言ったの?」
「あぁそうだよ。珍しいよな」
「本当に? それはいつなの?」
「来週の月曜日に1泊だけ」
「そうなのね、まぁこれもご縁なのかしら。私もそろそろしないと……って思っていた矢先だわ」
母さんにも早速、瑞樹が帰省する旨を話すと驚いていた。それにしても母さんがしようと思っていた事って何だ?
「何か瑞樹に用があったのか」
「実は瑞樹のご両親の法要のことなの。ずっと金銭的にも余裕がなくて一度もしてなかったでしょう。でも今年はちょうど十七回忌なのよね。それが気になって……あの子が帰ってくるのなら、どうかしら」
「あっそうか」
10歳で交通事故で両親と弟を失くし、我が家に引き取られた瑞樹も、もう26歳だ。
今まで俺は瑞樹の本当の両親や弟の事を忘れていた。いや……むしろ早くうちの子として馴染んで欲しくて、意図的に実の両親を思い出すのを避けて、伏せていた。
「母さん、いいのか」
「もう……あの子がこの家を出て上京して8年よ。最近しみじみと思うのよね。あの子は知りたがっている。実の両親のことを、もっともっと……」
そう言う母さんは、少し寂しげだ。母さんだって我が子同様に育てたのを知っているよ。だから複雑なのだろう。
「ねぇ広樹……私たちが瑞樹を引き取ったのは間違いだったのかしら。あの子は今、幸せなのかしら。私たちに気を遣って苦しんでいるのではないかしら。毎月仕送りも沢山してくれるけれども、なかなか帰って来てはくれないし、いつまで経ってもどこか余所余所しいし」
ドキッとした。瑞樹は幸せではなかったのか。いやそんなはずはない。あいつは俺によく懐いて可愛い弟だった。余所余所しいと感じるのは、きっと瑞樹の控えめな性格のせいさ。甘えられらない性質だからだ。
今の瑞樹は、東京でとても楽しそうに笑っていた。悲しい別れもあったようだが、今は新しい恋人も出来て幸せそうだった。
「母さん、瑞樹の方から積極的に帰ってくるのが珍しいからって、それは考えすぎだよ。でもその法要、今からでも間に合うのならしてやりたいな。きっと喜ぶよ」
「そうかしら、じゃあお寺さんに連絡してみるわね。えっと大沼の何というお寺だったかしら、調べないと」
そのタイミングで潤も戻ってこれるといい。一緒に皆で、瑞樹の本当の両親と弟の法要をしてやりたい。
****
「なぁ立ち話も何だから、中に入れてくれないか。瑞樹の住んでいる部屋を見てみたいし」
「えっ……」
「ハークションっ、あーここ冷えるな。オレ寒くてさ」
さっきから戸惑うことばかりだ。この決断どうしたらいいのか。確かにもう11月下旬の寒空だ。いつまでも屋外で立ち話をしているわけには行かない。潤の鼻の頭は赤くなっていた。
心臓がドキドキと早鐘を打ちだす。意識しすぎる方が変だって分かっているのに。
「そんな顔すんなって。もう何もしないよ。そんなに警戒するなよ。瑞樹の弟が遊びに来ただけだろう」
「……うん、分かった。入って」
躊躇いながらも、結局、潤を中に入れた。
ふたりで部屋に入るととても息苦しく感じた。広樹兄さんの時と全然違う。僕は大きな過ちを犯してしまったのかと不安になる。
「おいおい~瑞樹。それは緊張しすぎだろう。オレは恋人がいる奴に手は出さないよ」
「えっ!!」
不安な心に追い打ちをかけられ、持っていた鞄をドサッと床に落としてしまった。
「潤……恋人って? 一体……何のことだ」
「あぁ? だからさっき言ったろう? 瑞樹の後をつけた時見たって。親子連れが迎えに来ていただろ? あの父親が瑞樹の恋人だろう」
「あ……あの時……お前見ていたのか」
じゃあもう全部潤にバレてしまったってことか。唖然としクラクラもする。この後、潤が何を要求してくるのか不安で堪らない。
「いいんじゃん? 瑞樹が幸せならさ!」
「えっ」
「そんな顔するなよ。オレだってもう21歳だぜ。中学生じゃない。世の中を少しは知っている。男同士もアリだって理解しているんだぜ」
「そ……そうなのか」
拍子抜けするほど、あっさりと潤が受け入れてくれて、狐につままれたような心地だった。
「あっ……ありがとう」
信じていいのか。潤……お前の事。本当はずっと怖かった。この先どうなってしまうのかと悩んでいた。お前と僕の関係は……もう大丈夫なのかな。もしそうならば、ずっとお前の存在を宗吾さんに話せなかったけれども、次はしっかりと言える。
潤は僕のもう一人の大切な弟だと。
「瑞樹はなかなか函館に帰って来ないから、オレが会いに来てやったんだぜ。その……仲直りって奴をしたくてさ」
潤は決まり悪そうに照れくさそうに笑っていた。出会った頃を思い出す。
「そうだったのか、ごめん。でも丁度僕は来週函館に行くので、チケットを取った所だったよ」
「え? マジ? それいつ?」
「今度の月曜日から1泊だけね。潤はいつまで東京にいるつもりだ? 広樹兄さんに実は今日潤が東京に来ていると聞いたばかりだった。だから本当に驚いたよ、まさか今日会えるとはね」
「そうだったのか。はーそっかそっか、あーオレももう函館に帰るわ。なんかいろいろバカバカしくなってきた」
「何が?」
「いやこっちの話だ。都会は瑞樹には似合っているが、オレには居心地悪いぜ。やっぱり函館でこじんまりとやるのがいい」
「そんなこと……あっそれなら潤も僕と一緒に帰ればいいよ」
「え? あっそうか。そうだな。もう瑞樹と一緒に戻るよ」
潤……図体は大きくなったが、やっぱり五歳年下だ。潤は本当は人一倍寂しがりやだ。僕にあんな風にからんで来たのも、きっと寂しかったからなのだろう。お前は本当に生まれて間もなく父親を亡くし寂しい境遇だった。僕と潤は本当は分かり合える存在だったのに、糸が絡まってあんな関係になってしまったのが残念だった。
僕にも責任はある。僕がどこかで寂しい想いをさせてしまったのだ。夏樹のことと比べるつもりなんて……なかったのに。
でももし絡まった糸が解けたのなら、もう一度関係を修復していきたい。
何故なら君は僕のもう一人の弟だから。
「えっあの子から、そう言ったの?」
「あぁそうだよ。珍しいよな」
「本当に? それはいつなの?」
「来週の月曜日に1泊だけ」
「そうなのね、まぁこれもご縁なのかしら。私もそろそろしないと……って思っていた矢先だわ」
母さんにも早速、瑞樹が帰省する旨を話すと驚いていた。それにしても母さんがしようと思っていた事って何だ?
「何か瑞樹に用があったのか」
「実は瑞樹のご両親の法要のことなの。ずっと金銭的にも余裕がなくて一度もしてなかったでしょう。でも今年はちょうど十七回忌なのよね。それが気になって……あの子が帰ってくるのなら、どうかしら」
「あっそうか」
10歳で交通事故で両親と弟を失くし、我が家に引き取られた瑞樹も、もう26歳だ。
今まで俺は瑞樹の本当の両親や弟の事を忘れていた。いや……むしろ早くうちの子として馴染んで欲しくて、意図的に実の両親を思い出すのを避けて、伏せていた。
「母さん、いいのか」
「もう……あの子がこの家を出て上京して8年よ。最近しみじみと思うのよね。あの子は知りたがっている。実の両親のことを、もっともっと……」
そう言う母さんは、少し寂しげだ。母さんだって我が子同様に育てたのを知っているよ。だから複雑なのだろう。
「ねぇ広樹……私たちが瑞樹を引き取ったのは間違いだったのかしら。あの子は今、幸せなのかしら。私たちに気を遣って苦しんでいるのではないかしら。毎月仕送りも沢山してくれるけれども、なかなか帰って来てはくれないし、いつまで経ってもどこか余所余所しいし」
ドキッとした。瑞樹は幸せではなかったのか。いやそんなはずはない。あいつは俺によく懐いて可愛い弟だった。余所余所しいと感じるのは、きっと瑞樹の控えめな性格のせいさ。甘えられらない性質だからだ。
今の瑞樹は、東京でとても楽しそうに笑っていた。悲しい別れもあったようだが、今は新しい恋人も出来て幸せそうだった。
「母さん、瑞樹の方から積極的に帰ってくるのが珍しいからって、それは考えすぎだよ。でもその法要、今からでも間に合うのならしてやりたいな。きっと喜ぶよ」
「そうかしら、じゃあお寺さんに連絡してみるわね。えっと大沼の何というお寺だったかしら、調べないと」
そのタイミングで潤も戻ってこれるといい。一緒に皆で、瑞樹の本当の両親と弟の法要をしてやりたい。
****
「なぁ立ち話も何だから、中に入れてくれないか。瑞樹の住んでいる部屋を見てみたいし」
「えっ……」
「ハークションっ、あーここ冷えるな。オレ寒くてさ」
さっきから戸惑うことばかりだ。この決断どうしたらいいのか。確かにもう11月下旬の寒空だ。いつまでも屋外で立ち話をしているわけには行かない。潤の鼻の頭は赤くなっていた。
心臓がドキドキと早鐘を打ちだす。意識しすぎる方が変だって分かっているのに。
「そんな顔すんなって。もう何もしないよ。そんなに警戒するなよ。瑞樹の弟が遊びに来ただけだろう」
「……うん、分かった。入って」
躊躇いながらも、結局、潤を中に入れた。
ふたりで部屋に入るととても息苦しく感じた。広樹兄さんの時と全然違う。僕は大きな過ちを犯してしまったのかと不安になる。
「おいおい~瑞樹。それは緊張しすぎだろう。オレは恋人がいる奴に手は出さないよ」
「えっ!!」
不安な心に追い打ちをかけられ、持っていた鞄をドサッと床に落としてしまった。
「潤……恋人って? 一体……何のことだ」
「あぁ? だからさっき言ったろう? 瑞樹の後をつけた時見たって。親子連れが迎えに来ていただろ? あの父親が瑞樹の恋人だろう」
「あ……あの時……お前見ていたのか」
じゃあもう全部潤にバレてしまったってことか。唖然としクラクラもする。この後、潤が何を要求してくるのか不安で堪らない。
「いいんじゃん? 瑞樹が幸せならさ!」
「えっ」
「そんな顔するなよ。オレだってもう21歳だぜ。中学生じゃない。世の中を少しは知っている。男同士もアリだって理解しているんだぜ」
「そ……そうなのか」
拍子抜けするほど、あっさりと潤が受け入れてくれて、狐につままれたような心地だった。
「あっ……ありがとう」
信じていいのか。潤……お前の事。本当はずっと怖かった。この先どうなってしまうのかと悩んでいた。お前と僕の関係は……もう大丈夫なのかな。もしそうならば、ずっとお前の存在を宗吾さんに話せなかったけれども、次はしっかりと言える。
潤は僕のもう一人の大切な弟だと。
「瑞樹はなかなか函館に帰って来ないから、オレが会いに来てやったんだぜ。その……仲直りって奴をしたくてさ」
潤は決まり悪そうに照れくさそうに笑っていた。出会った頃を思い出す。
「そうだったのか、ごめん。でも丁度僕は来週函館に行くので、チケットを取った所だったよ」
「え? マジ? それいつ?」
「今度の月曜日から1泊だけね。潤はいつまで東京にいるつもりだ? 広樹兄さんに実は今日潤が東京に来ていると聞いたばかりだった。だから本当に驚いたよ、まさか今日会えるとはね」
「そうだったのか。はーそっかそっか、あーオレももう函館に帰るわ。なんかいろいろバカバカしくなってきた」
「何が?」
「いやこっちの話だ。都会は瑞樹には似合っているが、オレには居心地悪いぜ。やっぱり函館でこじんまりとやるのがいい」
「そんなこと……あっそれなら潤も僕と一緒に帰ればいいよ」
「え? あっそうか。そうだな。もう瑞樹と一緒に戻るよ」
潤……図体は大きくなったが、やっぱり五歳年下だ。潤は本当は人一倍寂しがりやだ。僕にあんな風にからんで来たのも、きっと寂しかったからなのだろう。お前は本当に生まれて間もなく父親を亡くし寂しい境遇だった。僕と潤は本当は分かり合える存在だったのに、糸が絡まってあんな関係になってしまったのが残念だった。
僕にも責任はある。僕がどこかで寂しい想いをさせてしまったのだ。夏樹のことと比べるつもりなんて……なかったのに。
でももし絡まった糸が解けたのなら、もう一度関係を修復していきたい。
何故なら君は僕のもう一人の弟だから。
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