163 / 1,871
発展編
帰郷 21
宗吾さんの体重が、ズシっと僕にかかって来た。
もちろん全体重ではなく、そっと僕の躰を気遣ってずらしてくれているが、それでも彼を丸ごと感じられるような気持ちになり、思わず胸が高鳴った。
「あっあの……」
「このまま少しだけいいか」
もうこのまま彼の懐に飛び込んでもいいのでは……本当にそう思った。
最初は躰を繋げてしまうと別れがたくなと思い、躊躇していた。何故なら……長年付き合った一馬と別れてから、あいつの名残が躰に残ったままで戸惑い苦しんだのは事実だから。
でも宗吾さんと付き合いしだしてから、僕は変化を求め、それを実行出来るようになってきた。もうそろそろ一馬の名残を忘れたい。あなたの温もりで忘れさせて欲しい。だから怖がっていないで、このまま飛び込みたい。
それ程までにもう僕は宗吾さんが好きで溜まらない。
その想いを込めて彼を見上げた。
「はぁ……瑞樹……そんな目で見つめるな。参ったな。このまま本当にしたくなるよ」
「……宗吾さん」
ふたりのキスが同時に重なった。
確実に求め合っていた。焦らしているつもりはないのに、いつも途中で中断してしまう行為だった。今日は、今日こそはと願う宗吾さんの気持ちをひしひしと感じ、僕もそうなってもいいと思い、身体の力をもう一度ふっと抜いた。
なのに、そのタイミングでサイドテーブルに置いたスマホが無情にも鳴り出してしまった。
「あぁぁぁ……やっぱりなぁ……絶対何か邪魔が入ると思ったよ。もうこれはさ……呪われているレベルのタイミングだな」
「すっすみません。僕のですよね。後で出ますのでこのまま……」
宗吾さんが僕の上で苦笑する。本当に毎度毎度申し訳なさすぎる。しかし後で出ようと思ったのに、一度切れた電話がまた鳴り出してしまった。
「くくっ、もういいよ。出て」
そのタイミングで宗吾さんが僕の上から消え、着信を知らせるスマホを手渡された。見ると画面には「母」と出ていた。えっ函館の母からだ! 思わずスッと背筋が伸びてしまう。
「誰だ?」
「あっ……あの、函館の母からです」
「それは出た方がいいな」
「すみません」
僕は慌ててベッドから飛び起きて息を整えた。まだ宗吾さんの口づけの余韻が残っている濡れた唇を、そっと指先で拭ってから応答した。
「もしもし、お母さん? 」
「おはよう瑞樹」
「おはようございます」
「もう起きていた? もしかしてまだ眠っていたの? 」
「あっ……今起きたところです」
「まぁごめんなさいね。起こしちゃったのね。あなた少し声が枯れてるわよ。熱っぽいの?」
うわ……ドキッとした。熱なんてないと思うが、確実に躰は火照っていた。宗吾さんとのキスと重みを感じて。
「いや熱はない。大丈夫だよ」
「瑞樹、月曜日にこっちに帰って来るのよね?」
「うん、急だけどいいかな」
「何を遠慮しているの。当たり前じゃない。あのね瑞樹を空港まで迎えに行くわ。そのまま旅行するのよ。それを知らせようと思って電話したの」
「旅行?」
母さんの口から旅行なんて聞いたことがないので、つい聞き返してしまった。珍しいこともあるものだ。
「そうよ、皆で大沼に行きましょう。瑞樹の生まれ育った場所よ」
「え……」
大沼。その地名を聞くだけで胸が熱くなる。僕が生まれた場所。青空の下で一面緑の草原を走り回った日々。弟と笑い合ってじゃれ合って両親と仲良く暮らした家。
「ごめんね。ずっと連れて行ってあげたかったのに出来なくて。いい機会だから十七回忌の法要をしましょう。あなたの本当のご両親と弟さんの」
「お母さん……なんで……急にそんなことを」
駄目だ。また涙が込み上げてきてしまう。本当に最近の僕は涙腺が弱すぎるよ。
「どうしてかしらね。最近何だかあなたはもうこのまま東京の人になってしまう気がして……だから今のうちにちゃんとしておきたいの。ずっと心残りだったから、ね、させてね。黒いスーツ持ってきて」
「法要だなんて……ありがとうございます。僕のために、時間を割いて手配してくれて」
「あなただからよ。瑞樹だから、してあげたいの」
「うっ……」
「泣かないで。ちょうど潤も帰って来るのよ。私たちの家族旅行よ。初めての」
お母さんの一言一言が胸に刺さって涙が止まらないよ。
細かく肩を揺らす僕の背中を、宗吾さんが優しい手つきでポンポンとリズムよく叩いてくれた。
「じゃあ、飛行機の便とかは決まったら広樹に知らせておいて」
「はい」
「瑞樹、気を付けて来てね」
「……はい」
「うっ……うっ……」
電話を終えても涙が止まらなかった。
「瑞樹良かったな」
「宗吾さん……聞いて?」
「事情は分かったよ。向こうで瑞樹の本当の故郷に皆で行くのか」
「はい……お母さんがそう言っていました。それで法要迄してくれると」
「よかったじゃないか。この前北鎌倉でそんなことを言っていたよな。墓参りをしてみたいと」
「十七回忌だそうです。初めて……してあげられます」
「そうだったのか、本当に良かったな」
「僕、行ってきます」
「あぁ行ってこい」
思わず宗吾さんにしがみつくように抱き着いてしまった。
函館で絶対に話そう。
母に宗吾さんのことを。僕の恋人で心の支えになる人だと!
そう心の中で強く強く誓った。
もちろん全体重ではなく、そっと僕の躰を気遣ってずらしてくれているが、それでも彼を丸ごと感じられるような気持ちになり、思わず胸が高鳴った。
「あっあの……」
「このまま少しだけいいか」
もうこのまま彼の懐に飛び込んでもいいのでは……本当にそう思った。
最初は躰を繋げてしまうと別れがたくなと思い、躊躇していた。何故なら……長年付き合った一馬と別れてから、あいつの名残が躰に残ったままで戸惑い苦しんだのは事実だから。
でも宗吾さんと付き合いしだしてから、僕は変化を求め、それを実行出来るようになってきた。もうそろそろ一馬の名残を忘れたい。あなたの温もりで忘れさせて欲しい。だから怖がっていないで、このまま飛び込みたい。
それ程までにもう僕は宗吾さんが好きで溜まらない。
その想いを込めて彼を見上げた。
「はぁ……瑞樹……そんな目で見つめるな。参ったな。このまま本当にしたくなるよ」
「……宗吾さん」
ふたりのキスが同時に重なった。
確実に求め合っていた。焦らしているつもりはないのに、いつも途中で中断してしまう行為だった。今日は、今日こそはと願う宗吾さんの気持ちをひしひしと感じ、僕もそうなってもいいと思い、身体の力をもう一度ふっと抜いた。
なのに、そのタイミングでサイドテーブルに置いたスマホが無情にも鳴り出してしまった。
「あぁぁぁ……やっぱりなぁ……絶対何か邪魔が入ると思ったよ。もうこれはさ……呪われているレベルのタイミングだな」
「すっすみません。僕のですよね。後で出ますのでこのまま……」
宗吾さんが僕の上で苦笑する。本当に毎度毎度申し訳なさすぎる。しかし後で出ようと思ったのに、一度切れた電話がまた鳴り出してしまった。
「くくっ、もういいよ。出て」
そのタイミングで宗吾さんが僕の上から消え、着信を知らせるスマホを手渡された。見ると画面には「母」と出ていた。えっ函館の母からだ! 思わずスッと背筋が伸びてしまう。
「誰だ?」
「あっ……あの、函館の母からです」
「それは出た方がいいな」
「すみません」
僕は慌ててベッドから飛び起きて息を整えた。まだ宗吾さんの口づけの余韻が残っている濡れた唇を、そっと指先で拭ってから応答した。
「もしもし、お母さん? 」
「おはよう瑞樹」
「おはようございます」
「もう起きていた? もしかしてまだ眠っていたの? 」
「あっ……今起きたところです」
「まぁごめんなさいね。起こしちゃったのね。あなた少し声が枯れてるわよ。熱っぽいの?」
うわ……ドキッとした。熱なんてないと思うが、確実に躰は火照っていた。宗吾さんとのキスと重みを感じて。
「いや熱はない。大丈夫だよ」
「瑞樹、月曜日にこっちに帰って来るのよね?」
「うん、急だけどいいかな」
「何を遠慮しているの。当たり前じゃない。あのね瑞樹を空港まで迎えに行くわ。そのまま旅行するのよ。それを知らせようと思って電話したの」
「旅行?」
母さんの口から旅行なんて聞いたことがないので、つい聞き返してしまった。珍しいこともあるものだ。
「そうよ、皆で大沼に行きましょう。瑞樹の生まれ育った場所よ」
「え……」
大沼。その地名を聞くだけで胸が熱くなる。僕が生まれた場所。青空の下で一面緑の草原を走り回った日々。弟と笑い合ってじゃれ合って両親と仲良く暮らした家。
「ごめんね。ずっと連れて行ってあげたかったのに出来なくて。いい機会だから十七回忌の法要をしましょう。あなたの本当のご両親と弟さんの」
「お母さん……なんで……急にそんなことを」
駄目だ。また涙が込み上げてきてしまう。本当に最近の僕は涙腺が弱すぎるよ。
「どうしてかしらね。最近何だかあなたはもうこのまま東京の人になってしまう気がして……だから今のうちにちゃんとしておきたいの。ずっと心残りだったから、ね、させてね。黒いスーツ持ってきて」
「法要だなんて……ありがとうございます。僕のために、時間を割いて手配してくれて」
「あなただからよ。瑞樹だから、してあげたいの」
「うっ……」
「泣かないで。ちょうど潤も帰って来るのよ。私たちの家族旅行よ。初めての」
お母さんの一言一言が胸に刺さって涙が止まらないよ。
細かく肩を揺らす僕の背中を、宗吾さんが優しい手つきでポンポンとリズムよく叩いてくれた。
「じゃあ、飛行機の便とかは決まったら広樹に知らせておいて」
「はい」
「瑞樹、気を付けて来てね」
「……はい」
「うっ……うっ……」
電話を終えても涙が止まらなかった。
「瑞樹良かったな」
「宗吾さん……聞いて?」
「事情は分かったよ。向こうで瑞樹の本当の故郷に皆で行くのか」
「はい……お母さんがそう言っていました。それで法要迄してくれると」
「よかったじゃないか。この前北鎌倉でそんなことを言っていたよな。墓参りをしてみたいと」
「十七回忌だそうです。初めて……してあげられます」
「そうだったのか、本当に良かったな」
「僕、行ってきます」
「あぁ行ってこい」
思わず宗吾さんにしがみつくように抱き着いてしまった。
函館で絶対に話そう。
母に宗吾さんのことを。僕の恋人で心の支えになる人だと!
そう心の中で強く強く誓った。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。