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発展編
北の大地で 2
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「さぁ行って来いよ」
「潤は? 潤も一緒に行かないか」
え、瑞樹その誘いはいらないぞ? 瑞樹が函館に帰郷してから二週間ぶりの再会だぞ。潤には悪いが、俺は一刻も早く二人きりになりたいと気が急いていた。
もちろん潤も瑞樹のそんな申し出にギョッとしていた。
「えっオレはいいよ。21時にまたここに迎えにくるからな」
「そんなの悪いよ。ここからならちゃんと帰れるし」
「いーから早く行けよ。19時までに入らないと終わってしまうぞ」
「そうなのか。じゃあ……ごめん、そうするよ」
へぇ……潤も随分兄想いになったものだ。二人の間の拗れていた感情が急速に解け、本物の兄弟らしくなっている事が嬉しい。少し過保護過ぎの気もするが、遠慮深く思慮深い瑞樹には、これ位の塩梅がいいのかもな。
急かされるように俺と瑞樹は五稜郭タワーの展望台に向かった。地上80m以上の展望フロアまで一気にエレベーターで登った。
到着すると全面のガラス窓で、どこまでも宝石箱のような東京の夜景とは違く、真っ暗な世界に星が浮かんでいるようだった。
五稜郭の堀の周囲を2,000個の電球で星形に彩る『ほしのゆめイルミネーション』というものが、眼下に見事に広がっていた。
これは素晴らしい景色だ。辺りが暗い分だけ見たいものがクリアに見えている。まるで俺の心の中に住んでいる瑞樹という星のようだ(って俺、キザか! )
「瑞樹、寒くないか」
「くすっ、ここは屋内なので大丈夫ですよ」
「あっそうか、そうだな」
「あっすごい!」
瑞樹が嬉しそうに展望台の窓に近づいた。
「下に雪が積もっているので、雪に覆われた大地に星型に青白く浮かび上がっていますね。うわぁ……こんな景色、初めてみました!」
「本当に初めてなのか」
「はい!」
瑞樹のことだから高校時代に普通に女の子にモテていただろうに、そうか、そうなのかと人知れずニヤリとしてしまった。瑞樹のはじめてをもらうのが快感だ。
「宗吾さん? 」
瑞樹が躊躇いがちに聞いて来る。また何の心配事か。君の思考回路がだいぶ理解できるようになったよ。どんな質問にも安心を与えてやるから、何でも話せよ。
「どうした?」
「あの……その、クリスマス・イブに家を空けて大丈夫でしたか」
「あぁ芽生のことを心配しているのか」
「えぇ、なんだか申し訳ないです」
「瑞樹らしいな。その口癖。なぁ……俺たちは今年付き合い始めたばかりの恋人同士だろう? クリスマスイブの位いいんじゃないか。それに芽生が俺を送り出してくれたんだぞ」
「えっ芽生くんが?」
****
「芽生、もうすぐクリスマスだな。何を食べたい? リクエストしていいぞ。チキン、ハンバーグ? イブは仕事が早く終わるから頑張るぞ」
「わぁほんと? じゃあメイのお願いをきいてくれる?」
「なんだ?」
「あのね、お兄ちゃんに会いに行って欲しいんだ」
「おいおい瑞樹は函館にいるんだ。軽い気持ちでふらっと会いに行ける距離ではないんだよ」
「だからだよぉ。飛行機にのって行くんでしょう?」
「まぁそうだが、日帰りはきついからな」
芽生とクリスマスの相談をしてたら、突然そんなことを言い出したので驚いた。親になってからクリスマスは幼い芽生のための日という認識が強くなっていたのだが、参ったな。
「この前でおばあちゃんとレストランに入ったら『こいびとはサンタクロース』っていう曲がながれていたんだよ。メイにはきっとサンタさんが来てくれるけど、大人にはいい子にしていても来ないのかわいそうだなっておもっていたんだ。でも恋人ならサンタクロースになれるらしいよ。パパとおにーちゃんは『こいびとどうし』っていうんでしょ?だからパパの出番だよ~」
****
っていうわけさ。
芽生とのやりとりを詳細に伝えると、瑞樹は感激したようで目を潤ませていた。
「可愛いな。あぁ早く芽生くんに会いたいです」
「で、サンタクロースの恋人が会いに来たわけさ。恋人にプレゼントを持ってな。まずはこれだ」
瑞樹の指先を取り、預かって来た手袋をはめてやった。グレーに白いステッチのふわっとした手編みは母の手作りだった。
「わっこれってもしかして手編みですか」
「そっ、これは俺の母の手編み。瑞樹へのプレゼントだそうだ」
「温かい……あっすごい。ここが二重になっています」
「そうだよ。瑞樹の大事な指先を守るためにな」
麻痺がまだ残る右手の人差し指と中指は特にふっくらと編まれていた。母さんやるな。ふんわりとした網目の手袋が瑞樹のほっそりとした手をすっぽり包んでいた。
「嬉しいです。僕……今年は皆さんに何も出来ていないのに」
「いいんだよ。で、芽生からのクリスマスプレゼントは俺自身で、そんな俺自身からはこれだ」
「何です?」
瑞樹の手のひらに小さな箱を載せてやった。
「え?」
「開けてみて」
瑞樹が箱を開けると中には、家の鍵が入っていた。
「あっこれって……まさか」
「そうだよ。うちの鍵。君が引っ越してくるの待っているよ」
「宗吾さん」
さっきから潤んでいた瑞樹の瞳から、煌めく雫が零れ落ちた。
まるで流れ星のように。
だから……その涙に急いで願掛けした。
(瑞樹の怪我が早く治りますように!)
「潤は? 潤も一緒に行かないか」
え、瑞樹その誘いはいらないぞ? 瑞樹が函館に帰郷してから二週間ぶりの再会だぞ。潤には悪いが、俺は一刻も早く二人きりになりたいと気が急いていた。
もちろん潤も瑞樹のそんな申し出にギョッとしていた。
「えっオレはいいよ。21時にまたここに迎えにくるからな」
「そんなの悪いよ。ここからならちゃんと帰れるし」
「いーから早く行けよ。19時までに入らないと終わってしまうぞ」
「そうなのか。じゃあ……ごめん、そうするよ」
へぇ……潤も随分兄想いになったものだ。二人の間の拗れていた感情が急速に解け、本物の兄弟らしくなっている事が嬉しい。少し過保護過ぎの気もするが、遠慮深く思慮深い瑞樹には、これ位の塩梅がいいのかもな。
急かされるように俺と瑞樹は五稜郭タワーの展望台に向かった。地上80m以上の展望フロアまで一気にエレベーターで登った。
到着すると全面のガラス窓で、どこまでも宝石箱のような東京の夜景とは違く、真っ暗な世界に星が浮かんでいるようだった。
五稜郭の堀の周囲を2,000個の電球で星形に彩る『ほしのゆめイルミネーション』というものが、眼下に見事に広がっていた。
これは素晴らしい景色だ。辺りが暗い分だけ見たいものがクリアに見えている。まるで俺の心の中に住んでいる瑞樹という星のようだ(って俺、キザか! )
「瑞樹、寒くないか」
「くすっ、ここは屋内なので大丈夫ですよ」
「あっそうか、そうだな」
「あっすごい!」
瑞樹が嬉しそうに展望台の窓に近づいた。
「下に雪が積もっているので、雪に覆われた大地に星型に青白く浮かび上がっていますね。うわぁ……こんな景色、初めてみました!」
「本当に初めてなのか」
「はい!」
瑞樹のことだから高校時代に普通に女の子にモテていただろうに、そうか、そうなのかと人知れずニヤリとしてしまった。瑞樹のはじめてをもらうのが快感だ。
「宗吾さん? 」
瑞樹が躊躇いがちに聞いて来る。また何の心配事か。君の思考回路がだいぶ理解できるようになったよ。どんな質問にも安心を与えてやるから、何でも話せよ。
「どうした?」
「あの……その、クリスマス・イブに家を空けて大丈夫でしたか」
「あぁ芽生のことを心配しているのか」
「えぇ、なんだか申し訳ないです」
「瑞樹らしいな。その口癖。なぁ……俺たちは今年付き合い始めたばかりの恋人同士だろう? クリスマスイブの位いいんじゃないか。それに芽生が俺を送り出してくれたんだぞ」
「えっ芽生くんが?」
****
「芽生、もうすぐクリスマスだな。何を食べたい? リクエストしていいぞ。チキン、ハンバーグ? イブは仕事が早く終わるから頑張るぞ」
「わぁほんと? じゃあメイのお願いをきいてくれる?」
「なんだ?」
「あのね、お兄ちゃんに会いに行って欲しいんだ」
「おいおい瑞樹は函館にいるんだ。軽い気持ちでふらっと会いに行ける距離ではないんだよ」
「だからだよぉ。飛行機にのって行くんでしょう?」
「まぁそうだが、日帰りはきついからな」
芽生とクリスマスの相談をしてたら、突然そんなことを言い出したので驚いた。親になってからクリスマスは幼い芽生のための日という認識が強くなっていたのだが、参ったな。
「この前でおばあちゃんとレストランに入ったら『こいびとはサンタクロース』っていう曲がながれていたんだよ。メイにはきっとサンタさんが来てくれるけど、大人にはいい子にしていても来ないのかわいそうだなっておもっていたんだ。でも恋人ならサンタクロースになれるらしいよ。パパとおにーちゃんは『こいびとどうし』っていうんでしょ?だからパパの出番だよ~」
****
っていうわけさ。
芽生とのやりとりを詳細に伝えると、瑞樹は感激したようで目を潤ませていた。
「可愛いな。あぁ早く芽生くんに会いたいです」
「で、サンタクロースの恋人が会いに来たわけさ。恋人にプレゼントを持ってな。まずはこれだ」
瑞樹の指先を取り、預かって来た手袋をはめてやった。グレーに白いステッチのふわっとした手編みは母の手作りだった。
「わっこれってもしかして手編みですか」
「そっ、これは俺の母の手編み。瑞樹へのプレゼントだそうだ」
「温かい……あっすごい。ここが二重になっています」
「そうだよ。瑞樹の大事な指先を守るためにな」
麻痺がまだ残る右手の人差し指と中指は特にふっくらと編まれていた。母さんやるな。ふんわりとした網目の手袋が瑞樹のほっそりとした手をすっぽり包んでいた。
「嬉しいです。僕……今年は皆さんに何も出来ていないのに」
「いいんだよ。で、芽生からのクリスマスプレゼントは俺自身で、そんな俺自身からはこれだ」
「何です?」
瑞樹の手のひらに小さな箱を載せてやった。
「え?」
「開けてみて」
瑞樹が箱を開けると中には、家の鍵が入っていた。
「あっこれって……まさか」
「そうだよ。うちの鍵。君が引っ越してくるの待っているよ」
「宗吾さん」
さっきから潤んでいた瑞樹の瞳から、煌めく雫が零れ落ちた。
まるで流れ星のように。
だから……その涙に急いで願掛けした。
(瑞樹の怪我が早く治りますように!)
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