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発展編

北の大地で 1

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 東京 世田谷 

「芽生、そろそろ眠らないとサンタさんが来ないわよ~」
「待って~ 今サンタさんにお手紙書いているの。おばあちゃんはサンタさんへのココアとクッキーとね、トナカイさんへのニンジンを用意してくれるかなぁ」
「まぁそんなのも必要なの? 」
「うん! 幼稚園の先生が教えてくれたよ」
「はいはい分かったわ。クッキーなんてあったかしら」

 今日はクリスマス・イブ。

 宗吾が函館で療養中の瑞樹くんに会うために、仕事を早退して旅立ったので、今年のクリスマスは芽生と私の二人きりで過ごすことになっているの。

 それにしてもこんな風にサンタさんを信じきっている子供の相手をするのは久しぶりだわ。こっそり宗吾が事前に用意したプレゼントもちゃんと預かっているから大丈夫だと思うけれども、クリスマスに父親も母親もいないなんて寂しくないのかしら。

「おばーちゃん、書けたよ」
「何て書いたの? 」
「えっとね、ゴーゴーレンジャーの新剣を下さいって。あとは元気になったお兄ちゃんに会えますようにって、お祈りを」
「まぁ……でも芽生は寂しくないの?」
「なんで」
「だってクリスマスなのに、パパがいないなんて」

 小さい子どもにとってクリスマスは特別なイベントのはず。小さな我慢はさせたくないから、思い切って聞いてみた。

「えっとね、寂しくはないよ。だって大人になるとサンタさんって来なくなるんでしょう? でも今……お兄ちゃんは大怪我して大変だから、パパがサンタさんの代わりをしに行ったんでしょう? きっとお兄ちゃんよろこぶだろうな。パパって、かっこいいよ。スーパーマンみたいなサンタさんだ!」

 芽生が自慢げに教えてくれたので、私も和やかな気持ちになってしまった。

「そうね。瑞樹くんもきっと喜ぶでしょうね」
「うん! 芽生もう眠るね~サンタさんが来てくれないといやだから。あっそれにおばあちゃんがいるからさみしくなんてないよ! おばーちゃんだいすき!」
「まぁありがとう。お休みなさい」

 芽生を寝かしつけてから、私は温かなガウンを羽織りベランダに出た。

 クリスマスの夜、北の空にはいつものように北極星が光っていた。この星を函館であなた達も見上げているのかしら。久しぶりの逢瀬になるのだから、楽しいひと時を過ごして欲しいわ。

 あぁそれにしても澄んだ空気に気が締まる。主人が亡くなってから独りで暮らすことに慣れ、きっとこのまま誰にも求められず老いていくと覚悟していたけれども、どうやらまだまだ役目がありそうね。

 この先はおばあちゃん業を大いに楽しむつもりよ。それに孫の芽生と過ごす時間が増え、この歳になってまた二度目の子育の楽しみも感じているわ。

 瑞樹くん。あなたのことは心の底から愛おしいと思っているの。

 私は彼の懸命で素直な生き方が好き。

 少々……型破りだった宗吾に『繊細な思いやりの心』を芽生えさせ育ててくれて、ありがとう。

 どうか楽しいクリスマスイブを過ごしてね。
 
 私も出来る限りの協力を惜しまないから、瑞樹くん必ずまたここに戻って来てね。

 私も夜空を見上げて、静かに願った。
 


****

函館空港 到着ロビー

「瑞樹、元気だったか」
「はい! 宗吾さんの顔を見たら、すごく元気が出ました!」
「どれ?」
 
 宗吾さんの視線が僕の頭から足元まで瞬時に辿っていくのがわかり、顔が火照ってしまう。そんなに熱い視線で見つめられると恥ずかしい。軽井沢の病院を退院後、久しぶりに会う彼の視線に酔いそうだ。

 会いたかった。凄く凄く会いたかった。

 宗吾さんを見た途端、じわじわと溢れ出る気持ちで躰が熱くなってしまうよ。

「うん、顔色がずっといいな。怪我の具合も良さそうで肌もすっかり綺麗になったな。体調も良さそうでしっかり立っているな。……指はどうだ?」

 そっと指を掴まれギュっと握られた。残念ながら右手の中指と人差し指の感覚はまだ戻っていないので、そこだけ何も感じられないのが残念だ。僕の躰に宗吾さんの人肌を感じられない部分があるなんて辛い……いまだに自分でもこの感覚に戸惑っていた。

「まだ……戻りません。すみません」
「ん、謝ることじゃないだろう。瑞樹、焦るなよ」

 そのまま宗吾さんが、少し凹んでしまった僕を慰めるように優しく抱きしめてくれた。

「おーい、兄さん達いつまでイチャイチャしてんの? 空港でそんなに目立ちたい?」
「あっ、宗吾さんそろそろ行きましょう」
「潤が運転手か。悪いな」
「いーですよ。寂しい独り者だからさ」
「潤、そんなにひねくれるなよ」
「はいよ! それより空港は人が多いから、もう行こう。兄さんが風邪引いたら、広樹兄さんに怒られるのはオレだぞ」
「ごめん。ごめん」
  
 宗吾さんは、僕と潤のやりとりを微笑ましく見守ってくれた。

 宗吾さん、僕……弟とこんな軽口を叩けるようにまでなりました。とてもリラックスして過ごせるようになりました。心の中でそっと報告すると、宗吾さんにも伝わったらしく「瑞樹と潤の兄弟愛に泣かされるぞ」と茶化された。

 そんな言葉に気をよくする僕と潤。

 外はもう真っ暗だが、冬のイルミネーションのように心はぽかぽかと明るい色で点滅している。

「さぁ行くぞ」
「潤、どこへ?」
「とっておきの所さ」

 潤が連れて行ってくれたのは、五稜郭タワーの前だった。

「兄さん、オレからのクリスマスプレゼントは展望台チケット。おススメデートコースだぜ。いいか、門限は守ってくれよ。宗吾さんは兄さんが風邪ひかないように気を付けてやってください」

 これでは……どっちが弟だか分からないな。

 でも……僕は潤にいろいろ心配されるのが嬉しくて仕方がなかった。

 




 

 
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