223 / 1,871
発展編
幸せを呼ぶ 9
宗吾さんとの電話を終えてすぐ、卓上カレンダーを手に取って4月21日に大きく丸印をつけた。
まずはこの日だ。この日に向かって僕は前進しよう。
一馬……お前と暮らした家を、ついに出るよ。この家を出ると、もうお前には僕の居場所が分からなくなるだろう。だがそれでいい。それぞれの道を潔く進むためにも必要なことだ。
今となっては、お前と終わった日と宗吾さんと出会った日が同じで良かったのかもな。
『始め終わり』か。
何事にも終わりがやって来るが、同時に始まりもやって来る。そして何より宗吾さんと踏み出した新しい世界は、僕自身を根底から大きく変えてくれた。
僕は今の僕が好きだ。そう胸を張って言える。
漸く……一馬が使っていた部屋に入ることが出来た。ここは……あの日からずっと閉め切ったままの空き部屋だ。
僕と一馬が夜を共に過ごしたベッドだけは流石に事前に捨てて行ってくれたが、その他の細かい物は、実はまだクローゼットに眠っている。
あの日整理しようと思ったのに捨てきれず、ビニール袋にまとめて詰め込んだ僕らの想い出と、今度はちゃんとお別れしよう。
残された物を通して……もう思い出には浸らないよ。
一馬、ごめんな。
ビニールに詰めた時は浸るのが怖かったのに、今は事務的に向かい合えている。
僕も少しは成長したんだな。
一馬との付き合いに後悔はない。あの頃の僕にとってはあれが最善だった。アイツは去っていく日まで、僕を暖めてくれる場所でいてくれた。
集中してクローゼットの中を整理し終えると、埃っぽくなったのでシャワーを浴びることにした。
シャワーの水音の向こうに、ふと宗吾さんと兄さんが言い争いしている声が聞こえた気がした。
ぷっ……あの日の僕、かなり滑稽だったな。
あんな真っ裸で慌てて飛び出していくことなかったのに……今考えると最高に恥ずかしい。いや……でもあれは兄さんたちが変な誤解をしあったのがいけないのでは。どちらにせよ兄さんと宗吾さんは馬が合うから、この先も珍道中になりそうだ。もう巻き込まれるのは御免だが。
それから浴室の鏡に映る僕の裸の躰をじっとみた。
ごくごく普通の体型だと思う。あ……でも少し痩せたかも。あんなに大沼で重たいミルクを運んだのに、腕や胸に筋肉らしいものは見当たらない。きっとつきにくい体質なのだろう。
最後にこの躰を重ねた相手は、一馬だ。
宗吾さんとはキス。そして二度程……お互い手で高めあっただけだ。本当にこの一年……高校生みたいな恋をしているんだなと改めて思うよ。
最初は一馬の名残が忘れられず抱かれるのを戸惑い、その後はお互いに慎重になり過ぎて進まず、そして今は色々とタイミングが悪すぎて進めていない。
だが来月……同居するようになったら、流石にそうも言っていられないだろう。
宗吾さん……
あの人に僕は抱かれる。
宗吾さんが僕を抱く。
どちらの立場から見ても、想像するだけで顔が火照ってしまうよ。なんだかその日のことを考えるだけで猛烈にキドキしてしまう。
沢山待たせてしまったが、宗吾さんは一体どうやって凌いだのかな。
あの広い胸に抱かれたら心地良いだろう。たくましい腕にキツく抱きしめてもらいたい。
あぁ、まずい。なんだか変なスイッチが入ってしまった。どうしよう!
シャワーを浴びながら僕の下半身はあろうことにか昂っていた。
大沼では肉体労働のようなものだったのでこの手のことは発散出来ていたのに……ずっと禁欲出来ていたのに。
宗吾さんにつないでもらった手の温もり、キスの味を思い出せば、もう我慢できなくなる。
「ん……んっ……」
浴室の壁にもたれシャワーに打たれながら、ただひたすらに宗吾さんのことを考えて両手で抜いてしまった。
「んっ……宗吾さんっ、あぁ……っ」
ポタポタと壁に飛び散った白濁ものに、我に返り茫然としてしまった。
あ……僕……何をして。何だか猛烈に恥ずかしい。
この家で、この部屋で……僕は宗吾さんを想ってこんなことを。
ここは一馬と使ったバスルームだ。ここであいつに抱かれたこともあったのに……
「ふっ……本当にさよなら出来たんだな、これで僕は宗吾さんの元に飛び立つことが出来る……」
気持ちと身体、両方があの人を強く熱く求めている。まだ火照っている。
「宗吾さん……どうしよう。熱が籠って苦しい位、あなたのことが好きみたいです」
****
「ハークション!!」
「わっパパ~おカゼですか」
パジャマ姿で芽生と一緒に歯磨きをしていると、鼻がむずむずして大きなクシャミをしてしまった。
「いや、風邪はひいてないよ。そうだなぁ、これは誰かが俺のことを考えている証拠だ! 」
「そうなの? じゃあ今、お兄ちゃんはすっごくパパのことを考えているんだね」
「おぉ! まあな」
芽生に力強く言われると、満更でもなくニヤリとしてしまった。
瑞樹も俺のことを今考えてくれているのか。
俺を想ってくれているのか。
先ほどは強く激しく、瑞樹に呼ばれた気がした。
「パパ、そのおかおはブーブーですよ! 」
「え? なんでだ」
「また鼻のしたがビョーンってのびてるもん!」
「うわわ……それは気を付けるよ」
息子に指摘されるとは、よっぽどなのだろう。
こんな調子では……瑞樹が引っ越して来たら、俺はどうなるのか心配だ。
まずはこの日だ。この日に向かって僕は前進しよう。
一馬……お前と暮らした家を、ついに出るよ。この家を出ると、もうお前には僕の居場所が分からなくなるだろう。だがそれでいい。それぞれの道を潔く進むためにも必要なことだ。
今となっては、お前と終わった日と宗吾さんと出会った日が同じで良かったのかもな。
『始め終わり』か。
何事にも終わりがやって来るが、同時に始まりもやって来る。そして何より宗吾さんと踏み出した新しい世界は、僕自身を根底から大きく変えてくれた。
僕は今の僕が好きだ。そう胸を張って言える。
漸く……一馬が使っていた部屋に入ることが出来た。ここは……あの日からずっと閉め切ったままの空き部屋だ。
僕と一馬が夜を共に過ごしたベッドだけは流石に事前に捨てて行ってくれたが、その他の細かい物は、実はまだクローゼットに眠っている。
あの日整理しようと思ったのに捨てきれず、ビニール袋にまとめて詰め込んだ僕らの想い出と、今度はちゃんとお別れしよう。
残された物を通して……もう思い出には浸らないよ。
一馬、ごめんな。
ビニールに詰めた時は浸るのが怖かったのに、今は事務的に向かい合えている。
僕も少しは成長したんだな。
一馬との付き合いに後悔はない。あの頃の僕にとってはあれが最善だった。アイツは去っていく日まで、僕を暖めてくれる場所でいてくれた。
集中してクローゼットの中を整理し終えると、埃っぽくなったのでシャワーを浴びることにした。
シャワーの水音の向こうに、ふと宗吾さんと兄さんが言い争いしている声が聞こえた気がした。
ぷっ……あの日の僕、かなり滑稽だったな。
あんな真っ裸で慌てて飛び出していくことなかったのに……今考えると最高に恥ずかしい。いや……でもあれは兄さんたちが変な誤解をしあったのがいけないのでは。どちらにせよ兄さんと宗吾さんは馬が合うから、この先も珍道中になりそうだ。もう巻き込まれるのは御免だが。
それから浴室の鏡に映る僕の裸の躰をじっとみた。
ごくごく普通の体型だと思う。あ……でも少し痩せたかも。あんなに大沼で重たいミルクを運んだのに、腕や胸に筋肉らしいものは見当たらない。きっとつきにくい体質なのだろう。
最後にこの躰を重ねた相手は、一馬だ。
宗吾さんとはキス。そして二度程……お互い手で高めあっただけだ。本当にこの一年……高校生みたいな恋をしているんだなと改めて思うよ。
最初は一馬の名残が忘れられず抱かれるのを戸惑い、その後はお互いに慎重になり過ぎて進まず、そして今は色々とタイミングが悪すぎて進めていない。
だが来月……同居するようになったら、流石にそうも言っていられないだろう。
宗吾さん……
あの人に僕は抱かれる。
宗吾さんが僕を抱く。
どちらの立場から見ても、想像するだけで顔が火照ってしまうよ。なんだかその日のことを考えるだけで猛烈にキドキしてしまう。
沢山待たせてしまったが、宗吾さんは一体どうやって凌いだのかな。
あの広い胸に抱かれたら心地良いだろう。たくましい腕にキツく抱きしめてもらいたい。
あぁ、まずい。なんだか変なスイッチが入ってしまった。どうしよう!
シャワーを浴びながら僕の下半身はあろうことにか昂っていた。
大沼では肉体労働のようなものだったのでこの手のことは発散出来ていたのに……ずっと禁欲出来ていたのに。
宗吾さんにつないでもらった手の温もり、キスの味を思い出せば、もう我慢できなくなる。
「ん……んっ……」
浴室の壁にもたれシャワーに打たれながら、ただひたすらに宗吾さんのことを考えて両手で抜いてしまった。
「んっ……宗吾さんっ、あぁ……っ」
ポタポタと壁に飛び散った白濁ものに、我に返り茫然としてしまった。
あ……僕……何をして。何だか猛烈に恥ずかしい。
この家で、この部屋で……僕は宗吾さんを想ってこんなことを。
ここは一馬と使ったバスルームだ。ここであいつに抱かれたこともあったのに……
「ふっ……本当にさよなら出来たんだな、これで僕は宗吾さんの元に飛び立つことが出来る……」
気持ちと身体、両方があの人を強く熱く求めている。まだ火照っている。
「宗吾さん……どうしよう。熱が籠って苦しい位、あなたのことが好きみたいです」
****
「ハークション!!」
「わっパパ~おカゼですか」
パジャマ姿で芽生と一緒に歯磨きをしていると、鼻がむずむずして大きなクシャミをしてしまった。
「いや、風邪はひいてないよ。そうだなぁ、これは誰かが俺のことを考えている証拠だ! 」
「そうなの? じゃあ今、お兄ちゃんはすっごくパパのことを考えているんだね」
「おぉ! まあな」
芽生に力強く言われると、満更でもなくニヤリとしてしまった。
瑞樹も俺のことを今考えてくれているのか。
俺を想ってくれているのか。
先ほどは強く激しく、瑞樹に呼ばれた気がした。
「パパ、そのおかおはブーブーですよ! 」
「え? なんでだ」
「また鼻のしたがビョーンってのびてるもん!」
「うわわ……それは気を付けるよ」
息子に指摘されるとは、よっぽどなのだろう。
こんな調子では……瑞樹が引っ越して来たら、俺はどうなるのか心配だ。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。