幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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発展編

さくら色の故郷 13

 瑞樹を真ん中に川の字で寝るなんて、今回の旅行は本当に面白い。

 仰向けに眠る彼に寄り添うように、俺たちはそれぞれの場所に横になった。

 瑞樹はいつもよりあどけなく安心しきった表情を浮かべている。

「いいかぁ宗吾、夜中に変なことすんなよ。俺がすぐ横にいるんだからな」

 念を押すように言われたので苦笑してしまった。もしかして銭湯の件から、かなり信用を失っているのか。

「分かってる。広樹こそ寝相悪いから気をつけろ、瑞樹をその体重で潰すなよ」
「ははっ! さぁもう寝よう。寝坊するわけにいかないしな」
「おぉ」

 6畳の和室に布団を3枚敷くのは流石に厳しかったようで、端の方は折り畳まれていた。なので実際は2枚半程度の敷布団に大の男3人並ぶ感じだった。

 いくら瑞樹が細いとはいえ、これは流石に狭いし距離が近いな。

 広樹にも注意されたし、昨日のこともある。俺は危険人物なんだと自分自身に必死に言い聞かせ、なるべく刺激的な瑞樹を見ないように反対方向に背を向けた。

 だが……意識すればする程、なかなか寝付けない!

「ん……アツい……」

 どの位時間が経ったろうか……

 でかい男二人に挟まれる瑞樹が、寝言を言いながら、もぞもぞと動き出した。

 おぉ……悪い、確かに暑いよな。
 
 すると瑞樹はクルっと俺と逆方向に寝返りをして、まるで広樹の胸元にくっつくように収まってしまった。

 なぬっ!? そっちじゃないだろうと焦って呼び戻そうとも思ったが、俺と同様に寝付けなかった広樹から思いもよらぬ言葉をもらった。

「宗吾……起きているんだろう? 悪いな。ちょっとだけ瑞樹を借りるぜ」
「あっあぁ」
「こういうの懐かしんだ。瑞樹がこの家にやって来た時、両親と弟と目の前で失ったばかりだったのは聞いているよな」
「あぁそうだったな」

 俺と付き合いだした頃の瑞樹は、自分のことを何も語らなかったから、函館が生まれ育った実家だと思っていた。まさかそんな悲しい過去があるなんて思いもしなかった。

 あの夏の海で芽生が迷子になりそうになった時の君の動揺を思い返せば、どれだけ悲しい想いをしたか伝わって来る。

 ましてこの家に来た当初は、事故直後だ。

「瑞樹さ……夜中によくうなされて大変だったんだ。悲鳴を上げて飛び起きたり、変な汗かいて震えていた。でも……10歳という時期も微妙だったんだろうな。血のつながらない母に縋るのは照れくさかったようだったが、無性に人肌を求めて心細そうにしていた時期があってな」
「……そうか」
「そんな時よく一緒にこんな風に眠ってやったんだ」
「そうだったのか」

 目を閉じると……幼い瑞樹が震えながら兄に助けを求める映像が浮かんできた。

「血は繋がらないが、その時から俺は瑞樹を絶対に守る。幸せにするって決めていたんだ。まぁ……相手は俺じゃなかったがな」
「……もしかして……広樹は瑞樹のことを?」

 深い、深すぎる兄弟愛につい聞いてしまった。ずっと心の奥底で気になっていたことだ。もしかして広樹も瑞樹を愛していたのでは、兄よりももっと深い場所で。

「いや……コイツは大事な弟で、俺は弟を溺愛している兄だ」

 広樹は何も語らない。ならばこれ以上……心の中は覗かないでいい。

 ただひたすらに瑞樹の幸せを願う人がここにいる。それだけで十分だろう。

「分かった。広樹……今日はそのまま瑞樹を抱いて眠れよ。そういうの久しぶりだろ」
「あぁ……ありがとう。きっともうないだろうから……悪いな。宗吾」
「いや、瑞樹の大切な兄に敬意を払うまでさ」

 同時に俺の方も、気が引き締まる。

 こんなにも家族から大切にされてきた瑞樹、君を愛し続けることに少しの迷いもない。

 俺達は、歩み寄る恋をしている。
 
 もう瑞樹と俺との距離はぴったりに重なった。

 躰を繋げるタイミングと心が重なるタイミングが同じだった。

 この先……彼を抱いて、彼を愛していく、未来が眩しいよ。

 どこまでも静かで優しい空気に包まれた夜だった。

****


「ん……あれ?」

 穏やかな温もりに包まれて目覚めた。

 宗吾さんじゃない別の香りだ。

「お兄ちゃん……?」

 自然と自分の口から零れた言葉に、懐かしさが込み上げてきた。

 ここに来た当初、僕は広樹兄さんの事を「おにいちゃん」と呼んでいた。

 当時……交通事故の夢を見ては、夜中に泣き叫んで飛び起きていた。

 そんな僕にすぐに駆け寄っては背中を擦ってくれた兄。
 怖い夢に怯え、新しい家になかなか馴染めない僕を励ましてくれた兄。

 小学校の間だったか、こんな風に同じ布団で眠ってくれたんだ。

 僕はこの兄に愛されて育った。

「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんのおかげで、どんなに救われたか」

 いつものように兄さんではなく、『お兄ちゃん』と呼んだら、なんだか切ないやらなつかしいやらで、視界が滲んでしまった。



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