幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
321 / 1,865
発展編

選び選ばれて 3

しおりを挟む
 ふぅ、なんとか指定時間内に、全ての活け込みを終わらせる事が出来た。

 今日はハプニングが続いたせいで、焦ってばかりで……少し疲れた。

「おぉ葉山、なんとか間に合ったな」
「リーダー!」

 僕の所属部署のリーダーはまだ40代だが、絵に描いたような素晴らしい上司で、入社以来ずっと尊敬しているし可愛がってもらっている。

 有難いことに僕の特殊な事情を、すべて理解してくれている。あの軽井沢の事件で全てを察し、全てを受け入れてくれた人だ。

「すみません。途中でハプニングがあって制限時間ギリギリになりました」
「うん、聞いたよ。薔薇の予備はもう少し持ってくるべきだったな」
「すみません、その通りです」

 ご尤もな話だ。準備不足の僕が全部悪い。少し悔やんで唇を噛みしめ頭を下げると、クシャッと髪を撫でられた。

「だが頑張ったな。それにしてもあの追加の薔薇はどうした? こっちが準備した物よりもずっと立派だったが」
「あの、助け舟が……たまたま通りかかった初老の男性が提供して下さったのです」
「ははっ君はついているね。そして相変わらず老若男女からモテるな」
「リーダーっ!」
「悪い悪い。そうか、あの白薔薇はどこかで見たと思ったら……」
「あの、何か」
「君はあの薔薇の名を知っているか」
「いえ、少し改良された白薔薇のようで……あいにく名前までは。勉強不足ですみません」

 厳かな気品の漂う楚々としたあの白薔薇の名は、何というのだろう。

 世界中から人気の高い薔薇には25,000を超える品種があると言われ、今も品種改良が進められている。だから花業界に身を置いていても、知らない品種が沢山あるのが正直なところだ。
 
「いや知らなくても責めないよ。何しろあれは滅多にお目にかかれないからね。日本でも限られた場所にしか咲いていない門外不出の薔薇だよ」
「名前はなんと?」
「国産の『柊雪《しゅうせつ》』と言う名だ。きっと白い雪のようの真っ白な花弁だからだろう」
「……でも『柊』なんて、他の植物の名前をつけるなんて珍しいですね」
「ははは、きっと作った人の恋人の名前だったんじゃないか」
「えっそうなんですか」
「想像だよ。想像! その方が面白いだろう」
「リーダーはロマンチックですね。僕もとても気に入りました。あの、どこに行けばあの薔薇が咲いている姿を見られますか」

 何故だかぐっと心に響き、残る花姿だったので、興味を持った。

「あぁ確か白金だったかな。庭園レストランになっているから、一度行ってみるといいよ。良い勉強になるだろう。情報はあとで送っておくよ」

「はい! ありがとうございます」

 もしかしたら、僕を助けてくれた初老の男性はその庭園の持ち主だったのかもしれない。

 だとしたら、凄い縁だ!

 また宗吾さんと一緒に行ってみたい所が増えた。
 
 宗吾さんが傍にいてくれると、僕の興味も楽しみとなって、二倍三倍に花開く。


****

「葉山先輩……今日はすみませんでした!」

 情けない顔で、金森が心から済まなそうに謝ってきた。

「いや予備の数を誤った責任は僕にあるし……それより今日はもう帰っていいよ」
「え……でも」
「あとは僕だけで大丈夫だよ。君も今日は疲れたろう。よく休んでまた明日来て欲しい」
「はい……」

 普段元気な金森だが、今日は調子が出ないようだ。気持ち悪くなったり転んだりで散々だった。正直これ以上一緒に居ても、今日の金森に出来ることはないのが現実だから……帰らせた。

 さてと、あと1時間で挙式、続いて披露宴が始まる。

 僕は今度は設営から披露宴の内部スタッフとして動くので、持参したスーツを持ってスタッフ用の控え室に入った。

 この後は花嫁のブーケや髪飾りなどのチェックのため美容スタッフと連携して動き、挙式ではフラワーシャワーを見守ったり、会場内の花の乱れを整えたりする仕事が待っている。

 手早く着替え、ネクタイを締めていると、勢いよくドアが開いた。

「あれ?」
「あっ」

 振り向くと……さっき宴会場で僕を助けてくれた青年が立っていた。

「あっ、さっきはありがとうございます」
「あれ? テーピングが汚れちゃいましたね。あーあぁ泥までつけちゃって」
「わっ! すみません。さっき作業で手こずって」

 金森が転んだのを助けたり、泥がついた白薔薇を洗ったりしたからだ。

「もう一度やり直してあげますよ」
「何度もすみません」

「だって、このままじゃ働けませんよね? あなたもこの後、挙式、披露宴のスタッフとして、つきっきりでしょう。えっとあなたみたいな人のこと……何でしたっけ? フ・フラワー……あー俺、お洒落な事に疎くて、言葉が出てこないや」

「フラワーアーティストの葉山瑞樹といいます。すみません。ちゃんと挨拶せずに」

「そうそう。フラワーアーティストだ! 物覚え悪くて、はずかしいっす」

 彼はさっきはとてもスマートに見えたが、少し砕けて話すと、とても気さくで素朴な青年だった。なんだろう……故郷の幼馴染を思い出す。

「くすっ片仮名って覚えにくいですよね」
「あー俺は今日の挙式のボディガードを頼まれているんですよ」
「なるほど。あの、お名前を聞いても?」
「ハイ! 鷹野安志《たかのあんじ》と言います! これ名刺です」
「あっ、僕も……」
  
 抵抗なく名刺交換をしてしまった。初対面の人を警戒する癖は相変わらずだが、彼のことは何故か最初から信頼できた。

 あの時の感じと似ている。月影寺の洋くん達と会った時の……懐かしく親しみを感じる空気だ。

 何故だろう? 今日はよく洋くん達の事を思い出すよ。

「あの、葉山さんの花って……俺……センスないド素人ですが、ぐっと来ました」
「嬉しいです!」
「じゃあ、お互い頑張りましょう!」
「はい!」

 爽やかな青年が巻きなおしてくれたテーピングは、彼の清潔で明るい雰囲気のように真っ白で、僕の心も一気にリフレッシュできた。



 よしっ後半戦だ!

 仕事が終わったら、僕にはちゃんと帰る家がある。

 帰りたい家がある。

 僕の中ではもう家族なんだ。だから早く会いたい……

 宗吾さんに胸を張って、今日の頑張りを報告したい。
 そうだな……今日は一緒にお酒を飲みたい気分だな。
 
 可愛い芽生くんにも早く会いたいよ。

 少し遊んでから一緒にお風呂に入って、寝よう!

 幸せな家が待っているから、頑張れる!
























あとがき (不要な方はスルーで)

****

昨日は皆さんを悩ませてしまいましたね。今日は種明かしでした!
白薔薇を分けてくれた人物は『まるでおとぎ話』の雪也です。
(アルファさん未掲載。エブさん。フジョさんで連載中です。すみません。
こちらでも読んで見たい方いらっしゃるかしら?)

そして脚立を支えてくれたのは『重なる月』の安志でした。
他の創作を読んでいないと難しいネタですみません。
もちろん読んでいなくても、この物語内では大丈夫ですので

私は自作内をクロスオーバーさせるのが好きでして
お付き合い下さった読者さまありがとうございます。

しかし今日の瑞樹はいろいろ他の男性との絡みが盛沢山で。
宗吾さん焼きもちやかないといいけど…ですよね。

そろそろ宗吾さんに私も会いたいので、
明日は宗吾さんのお留守番の様子を書きますね!


 
 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

優しく恋心奪われて

静羽(しずは)
BL
新人社員の湊 海翔(みなと かいと)は大手企業に就職した。 情報処理システム課に配属された。 毎日作成した書類を営業課に届けている。 新人社員の湊 海翔(みなと かいと)は大手企業に就職した。 情報処理システム課で毎日作成した書類を営業課に届けている。 そこには営業課に所属するやり手社員、綾瀬 遥斗(あやせ はると)の姿があった。 顔見知りになった二人は、会社の歓迎会で席が隣になったことで打ち解け遥斗は湊に一目惚れしていた事、自分のセクシャリティを打ち明けた。 動揺しつつも受け入れたいと思う湊。 そのタイミングで大学時代に憧れていた先輩・朝霧 恒一(あさぎり こういち)と卒業後初めて再会し、湊の心は二人の間で揺れ動く。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱えて、離縁をつきつけ家を出た。 そこで待っていたのは、 最悪の出来事―― けれど同時に、人生の転機だった。 夫は、愛人と好きに生きればいい。 けれど、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 彼女が選び直す人生と、 辿り着く本当の幸せの行方とは。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

この冬を超えたら恋でいい

天気
BL
夜の街で、凪は人生の底にいた。 古いアパートに帰る途中、父の残した借金の取り立てに絡まれ、逃げ場を失う。 そこに現れたのは、大手企業の社長・鷹宮だった。 偶然の救い。年齢も立場も違う二人は、その夜を境に交わることになる。 事情を多く語らない凪は、不幸が当たり前のように身にまとい、誰かに頼ることを知らない。 一方の鷹宮は、完璧な成功者として生きてきた男だった。 危険から守るため、鷹宮は凪を一時的に自宅へ迎え入れる。 冬の同居生活の中で、凪は少しずつ日常を取り戻していく。 大学へ通い、温かい食事をし、夜を一人で怯えずに眠る。 しかし、守られることに慣れない凪は、距離が近づくほどに自分から一歩引いてしまう。 それは、失うことを恐れる、健気で不器用な選択だった。 一方、鷹宮は気づいてしまう。 凪が笑うだけで、胸が満たされることに。 そんな自分の感情から凪を守るつもりで引いた距離が、 凪を遠ざけてしまう。 近づきたい。 けれど、踏み込めば壊してしまうかもしれない。 互いを思うほど、すれ違いは深くなる。 2人はこの冬を越えることができるのかーー

処理中です...