436 / 1,871
成就編
心の秋映え 7
「ヒロくん、どうしたの?」
「え? 何でもないよ」
結婚式当日の早朝、式を挙げるホテルにみっちゃんを送り届けた。
花嫁の支度は花婿よりずっと時間がかかるらしく、俺より2時間も前に集合だ。綺麗にお化粧し髪の毛を結いドレスを着て、ベールをつけて……と、説明されたが覚えきれない工程だった。
「何か気がかりな事でもあるの?」
「……うーん、実はもうすぐ弟たちを乗せた便が空港に到着するから……その、ちゃんと飛行機に乗れたかなとか、色々気になって」
「あーそうかそうか、ヒロくんはブラコンだもんね。でも瑞樹くんは潤くんと一緒に来るんでしょ。なら大丈夫じゃない?」
「まぁ……それはそうなんだが」
「そうだ。そんなに心配なら、このまま迎えに行ったら?」
「え!」
「だって新郎の集合時間は2時間後でしょ。まだ余裕あるし、私の花嫁姿は完成してから見せたな。今からホテルに来ても、2時間時間を潰すだけじゃない」
「そ、そうか。行ってきてもいいのか」
「もちろんよ!」
という訳で……みっちゃんが俺を快く空港へと送り出してくれた。
彼女のこういうおおらかな所が前々から好きで、実は結婚の決め手のひとつだ。
みっちゃんこと、満花《みつか》とは、何と小学校からの幼馴染でお互いを知り尽くしているから、あり得る会話なんだろうな。
普通、結婚式当日にお嫁さんになる人を放り出して、参列のために帰郷する弟を迎えには行かないだろう?
お互いの親が聞いたら、呆れるかもな。
****
俺が15歳の時、急にもう一人、弟が出来た。
新しい弟は、両親と弟を交通事故で一度に亡くしたばかりの交通遺児だった。
彼の数少ない親戚だったのが母で、俺が母に頼み込んで引き取ってもらったんだ。
葬儀の日に、新緑の樹の下で孤独に佇む姿が、今にも消えてしまいそうで……せっかく助かった命を今にも投げ出してしまいそうで、どうしても放っておけなかった。
名前は『瑞樹』と言う。
瑞々しい葉のように……綺麗で繊細な子だった。
瑞樹も戸惑っていたが、実は俺だって当初は高校1年生と多感な時期で戸惑ったさ。
すぐに……ぎこちない日々が始まった。
でも、みっちゃんと登下校時に話しながら、兄としてすべきことが見えて来た。
『ヒロくんに弟さんが増えたんだって? お母さんが言ってたよ。ねぇその子って今何歳?』
『10歳だよ。小学校4年生』
『うわぁきついね。両親の事をバッチリ覚えているから、馴染むの大変そう』
『……そうなんだよ』
『でも、その子にとってのお家はもう……ヒロくんの所しかないんだよ。どこにも行く場所がないんだよ。だからちゃんと居場所を作ってあげないとね』
『……そうか! そうだな』
みっちゃんは折に触れて瑞樹の事を気にかけてくれ、大学時代には花屋のバイトにも入って様子を見守ってくれた。
まぁ家族公認の幼馴染だったが、なかなか恋人にはならなかった。
俺は瑞樹と潤という二人の弟を、母と二人三脚で育てている子育て中のような忙しい日々で、心に余裕がなかった。
自分の事を楽しむ時間も金もなかった。
やがて大学進学のために上京した瑞樹が、そのまま東京で社会人になり、潤も働き出して、ようやく少し余裕が出来た。付き合いだしたのはその頃だ。だがなかなか結婚までは踏ん切れなかった。
痺れを切らしたのは、みっちゃんの方だった。
『もう待てない! 私はもう32歳になるのよ。分かるでしょ。この女心……っ』
ちょうど彼女と話した直後……仕事で東京に行き、瑞樹に会った。
一人で住むには不自然な広いマンション、そして前の彼氏と宗吾さんの存在を知ることになった。
正直、可愛がっていた弟が選んだ道には驚きの連続だったが、いつも不安そうにしていた瑞樹が、宗吾さんに見せた甘ったれた顔に……何だかもう、全部許せた。
ところが、みっちゃんに返事をしようとした矢先に、瑞樹が軽井沢でストーカー男に拉致監禁される惨い事件に巻き込まれて、それどころでなくなってしまった。
瑞樹が立ち直るまで……返事は保留にしてもらった。
女性心をこれ以上傷つけたくないのもあり、彼女にはその理由を話した。
小さな街だ。噂話にならないように細心の注意を払わないといけない。だが……みっちゃんは瑞樹が高校生の頃、男にストーカーされているのにいち早く気付いてくれた恩人だったので、きちんと俺の気持を理解してくれた。
そんな訳で……俺が信頼している女性が、俺の奥さんになる人だ。
そう思うと、デレッと口元が緩んだ。
「兄さん……幸せそうだね。本当におめでとう。みっちゃん……空港に来るのを許してくれたんだね。後でお礼を言うよ」
「まーな。あいつには頭が上がらない」
「くすっ、兄さんとみっちゃんは、絶対にいい夫婦になるよ」
「まあな、瑞樹も、じきオジサンになるんだぞ」
「え!」
瑞樹が目を丸くして、その後顔を赤くして照れ出した。
「もう……なの?」
おいおい、そんなに照れんなよぉ~
何をどう想像したんだ? って聞きたくなるよ。
言った俺が恥ずかしくなる。
「まだだとは思うが、でもきっと近いうちだ」
俺もみっちゃんも子供が早く欲しい。早く授かるといい。
「……お兄ちゃんの子供か……僕、『おじバカ』しそうだよ」
「俺はさ……瑞樹みたいな可愛い子供が欲しい」
「えっ僕みたいな子供って……何それ」
「ん? だって兄弟に似ることもあるだろう?」
「あっ……」
瑞樹は照れ臭そうに、俯いた。
「……お兄ちゃん、ありがとう。僕を本当の兄弟の一員にしてくれて」
「当り前だろう! 最初からそうだ!」
瑞樹は車窓から函館山を見上げていた。
目をキラキラさせながら、涙を堪えていた。
「嬉しいよ……」
「え? 何でもないよ」
結婚式当日の早朝、式を挙げるホテルにみっちゃんを送り届けた。
花嫁の支度は花婿よりずっと時間がかかるらしく、俺より2時間も前に集合だ。綺麗にお化粧し髪の毛を結いドレスを着て、ベールをつけて……と、説明されたが覚えきれない工程だった。
「何か気がかりな事でもあるの?」
「……うーん、実はもうすぐ弟たちを乗せた便が空港に到着するから……その、ちゃんと飛行機に乗れたかなとか、色々気になって」
「あーそうかそうか、ヒロくんはブラコンだもんね。でも瑞樹くんは潤くんと一緒に来るんでしょ。なら大丈夫じゃない?」
「まぁ……それはそうなんだが」
「そうだ。そんなに心配なら、このまま迎えに行ったら?」
「え!」
「だって新郎の集合時間は2時間後でしょ。まだ余裕あるし、私の花嫁姿は完成してから見せたな。今からホテルに来ても、2時間時間を潰すだけじゃない」
「そ、そうか。行ってきてもいいのか」
「もちろんよ!」
という訳で……みっちゃんが俺を快く空港へと送り出してくれた。
彼女のこういうおおらかな所が前々から好きで、実は結婚の決め手のひとつだ。
みっちゃんこと、満花《みつか》とは、何と小学校からの幼馴染でお互いを知り尽くしているから、あり得る会話なんだろうな。
普通、結婚式当日にお嫁さんになる人を放り出して、参列のために帰郷する弟を迎えには行かないだろう?
お互いの親が聞いたら、呆れるかもな。
****
俺が15歳の時、急にもう一人、弟が出来た。
新しい弟は、両親と弟を交通事故で一度に亡くしたばかりの交通遺児だった。
彼の数少ない親戚だったのが母で、俺が母に頼み込んで引き取ってもらったんだ。
葬儀の日に、新緑の樹の下で孤独に佇む姿が、今にも消えてしまいそうで……せっかく助かった命を今にも投げ出してしまいそうで、どうしても放っておけなかった。
名前は『瑞樹』と言う。
瑞々しい葉のように……綺麗で繊細な子だった。
瑞樹も戸惑っていたが、実は俺だって当初は高校1年生と多感な時期で戸惑ったさ。
すぐに……ぎこちない日々が始まった。
でも、みっちゃんと登下校時に話しながら、兄としてすべきことが見えて来た。
『ヒロくんに弟さんが増えたんだって? お母さんが言ってたよ。ねぇその子って今何歳?』
『10歳だよ。小学校4年生』
『うわぁきついね。両親の事をバッチリ覚えているから、馴染むの大変そう』
『……そうなんだよ』
『でも、その子にとってのお家はもう……ヒロくんの所しかないんだよ。どこにも行く場所がないんだよ。だからちゃんと居場所を作ってあげないとね』
『……そうか! そうだな』
みっちゃんは折に触れて瑞樹の事を気にかけてくれ、大学時代には花屋のバイトにも入って様子を見守ってくれた。
まぁ家族公認の幼馴染だったが、なかなか恋人にはならなかった。
俺は瑞樹と潤という二人の弟を、母と二人三脚で育てている子育て中のような忙しい日々で、心に余裕がなかった。
自分の事を楽しむ時間も金もなかった。
やがて大学進学のために上京した瑞樹が、そのまま東京で社会人になり、潤も働き出して、ようやく少し余裕が出来た。付き合いだしたのはその頃だ。だがなかなか結婚までは踏ん切れなかった。
痺れを切らしたのは、みっちゃんの方だった。
『もう待てない! 私はもう32歳になるのよ。分かるでしょ。この女心……っ』
ちょうど彼女と話した直後……仕事で東京に行き、瑞樹に会った。
一人で住むには不自然な広いマンション、そして前の彼氏と宗吾さんの存在を知ることになった。
正直、可愛がっていた弟が選んだ道には驚きの連続だったが、いつも不安そうにしていた瑞樹が、宗吾さんに見せた甘ったれた顔に……何だかもう、全部許せた。
ところが、みっちゃんに返事をしようとした矢先に、瑞樹が軽井沢でストーカー男に拉致監禁される惨い事件に巻き込まれて、それどころでなくなってしまった。
瑞樹が立ち直るまで……返事は保留にしてもらった。
女性心をこれ以上傷つけたくないのもあり、彼女にはその理由を話した。
小さな街だ。噂話にならないように細心の注意を払わないといけない。だが……みっちゃんは瑞樹が高校生の頃、男にストーカーされているのにいち早く気付いてくれた恩人だったので、きちんと俺の気持を理解してくれた。
そんな訳で……俺が信頼している女性が、俺の奥さんになる人だ。
そう思うと、デレッと口元が緩んだ。
「兄さん……幸せそうだね。本当におめでとう。みっちゃん……空港に来るのを許してくれたんだね。後でお礼を言うよ」
「まーな。あいつには頭が上がらない」
「くすっ、兄さんとみっちゃんは、絶対にいい夫婦になるよ」
「まあな、瑞樹も、じきオジサンになるんだぞ」
「え!」
瑞樹が目を丸くして、その後顔を赤くして照れ出した。
「もう……なの?」
おいおい、そんなに照れんなよぉ~
何をどう想像したんだ? って聞きたくなるよ。
言った俺が恥ずかしくなる。
「まだだとは思うが、でもきっと近いうちだ」
俺もみっちゃんも子供が早く欲しい。早く授かるといい。
「……お兄ちゃんの子供か……僕、『おじバカ』しそうだよ」
「俺はさ……瑞樹みたいな可愛い子供が欲しい」
「えっ僕みたいな子供って……何それ」
「ん? だって兄弟に似ることもあるだろう?」
「あっ……」
瑞樹は照れ臭そうに、俯いた。
「……お兄ちゃん、ありがとう。僕を本当の兄弟の一員にしてくれて」
「当り前だろう! 最初からそうだ!」
瑞樹は車窓から函館山を見上げていた。
目をキラキラさせながら、涙を堪えていた。
「嬉しいよ……」
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。