440 / 1,865
成就編
心の秋映え 11
しおりを挟む
「瑞樹、空港まで迎えに行くんでしょう?」
「はい。あの、ここに一度寄ってもらってもいいですか」
「そんなの当たり前じゃない。宗吾さんにも芽生くんにも、会いたいわ」
「ありがとう! 母さん」
「嬉しそうな顔ね、みーずき」
玄関先まで見送ってくれた母さんが、僕の髪を優しい仕草で撫でてくれた。
「ふふっ、相変わらずの猫っ毛ね。寝癖直さないと、笑われてしまうわよ」
「あ、はい」
こんな風に息子らしく扱ってもらうのは照れ臭いけれども、嬉しい。
胸の奥が、擽ったい。
「兄さん、オレが運転しようか」
「いや大丈夫だよ。こう見えても都会で社用車を運転しているしね」
「……でも心配だ」
「……潤は店の開店準備を手伝って。今日は広樹兄さんがいないから、母さんひとりじゃ大変だよ。僕も出来る所まではやったけど」
「そうだな。了解!」
空港までは車で20分程度だ。
一人でも大丈夫と言ったが函館市内をひとりで行動するのは、久しぶりなので緊張する。
……アイツはもうここにはいない。だから大丈夫。
それに僕は今、車の中だ。
そう思うがハンドルを握りしめる手が、汗に濡れてしまった。
しかも大きな建設現場前で、信号にひっかかった。
嫌な予感がして見てはいけないと思うのに、つい横目でちらりと見てしまい、ひっと悲鳴を上げそうになった。
たかが現場を囲う養生ネットに印刷された会社のマークだ。それでもあの印を見るだけで、心臓が嫌な動きをする。
あの日あいつのスーツの胸元についていた社章と同じだ。
お、落ち着け、瑞樹。
深呼吸……そうだ……深呼吸をしよう。
僕はもうアイツに捕まらない所まで、飛び立っている。
大きく――空へ。
あの日洋くんによって解放された気持ちは、宗吾さんの愛と絡まって、誰にも触れられない所まで昇っている。
自信を持とう。
やがて信号が青になる。
進めの合図《サイン》を受けて、僕は過去を振り切るようにアクセルを踏み込んだ。
行こう!
宗吾さんと芽生くん、僕の大切な家族の元に――
僕の光を目指して。
明確な行き先があるから、迷わない。
怖くない。
****
「パパ~おしっこぉ」
「え? 乗る前に行ったばかりじゃないか。降りるまで我慢出来ないのか」
「……でも……ぐすっ……そんな……がまんできない。も、もれちゃうよ」
「あー分かった分かった」
飛行機でシートベルサインが消えるやいなや、芽生がトイレに行きたがった。貴重品を持って一緒に向かうが、狭い機内だし、身長差のある子供の手を引いて歩くのは、思いの外大変だった。
こういう細かいケア……俺はいつも瑞樹に任せきりだったなと反省してしまうよ。
「ほら、ここで待ってるから行ってこい」
「えーパパ、こわいよぉ。いっしょにはいって」
「だが狭くてな」
「でもぉ」
「……分かったよ」
あぁまた反省だ。機内のトイレは鍵の開け閉めが幼稚園児にはまだ難しいだろう。親が付き添うのが当然なのに、面倒臭がってしまった自分に猛反省だ。
あー駄目だー!
瑞樹がちょっといないだけで、俺はすぐにこんなになってしまうよ。
用を足している芽生の様子を伺うと、飛行機の揺れで足元や手元がおぼつかない。
「あっ!」
支えた方がいいのか……迷っている間に、目標を失って周りを濡らしてしまった。
「あ……えっと」
芽生が不安そうに、俺を見上げてくる。
怒らないように怒らないように、ふーふーと気を静め、ティッシュで濡れた床を無言で拭いた。
「パパ……ごめんなさい」
しょぼんとした芽生の様子に、俺も流石に大人げなかったと反省だ。
「気にするなって、失敗は誰にでもあるさ」
「う、うん」
トイレから出ると、客室乗務員に『お客様、お子様連れでしたら、あちらに多機能トイレがありますので』と教えてもらい、なるほどなぁと、またまた反省した。
機内ではドリンクサービスがあったので、芽生はリンゴジュースをもらった。カップにストローをさしてもらったが、溢さないか常に気を配って神経をすり減らした。
いつもなら熱い珈琲を飲みながら優雅に雑誌を読んで、音楽を聴いて……
これもまた瑞樹に任せきりで、おれは胡座をかいていたと反省だ。
俺っていつも瑞樹ひとりに、こんなに負担をかけていたのか。
今、傍にいないから、気付いてしまった。
彼はいつも率先して芽生の世話を焼いてくれる。実の弟を芽生と同じ年頃で亡くしたこともあり、出来なかった事をしてあげられるのが嬉しいと、いつも花のように清楚に笑ってくれる。
俺も君のそんな笑顔が見たくて、つい丸投げしてしまっていた。
『まもなくシートベルト着用のサインが点灯します……化粧室をご利用のお客様は……』
「パパ~」
「なんだ?」
「うんっとね……」
芽生がもじもじ何かを言い足そうにしている。こんな時察しがいい瑞樹ならあっという間に芽生が言いたい事、伝えたい事を見つけてくれるのに、俺はパッと浮かばない。
「何だ? はっきり言えよ。男だろう」
「う……もういっかい、おしっこぉ……」
「えっまた?」
「……グスっ」
「分かったから泣くな。今度は広いトイレに行こう。さぁ早くしろ」
急かすように用を足させ、よろよろと戻ってきた。
3人掛けの席だったので、隣のサラリーマンにも気を遣うし、1時間半ほどのフライトだったのに、函館に到着した頃には、げっそりとやつれていた。
「パパ、おにいちゃんにもうすぐ会えるね」
「あぁ早く会いたいな」
「うん!!!!」
芽生の声も、いつもの倍、大きかった。
瑞樹、瑞樹……早く君に会いたい。 切実に!
「はい。あの、ここに一度寄ってもらってもいいですか」
「そんなの当たり前じゃない。宗吾さんにも芽生くんにも、会いたいわ」
「ありがとう! 母さん」
「嬉しそうな顔ね、みーずき」
玄関先まで見送ってくれた母さんが、僕の髪を優しい仕草で撫でてくれた。
「ふふっ、相変わらずの猫っ毛ね。寝癖直さないと、笑われてしまうわよ」
「あ、はい」
こんな風に息子らしく扱ってもらうのは照れ臭いけれども、嬉しい。
胸の奥が、擽ったい。
「兄さん、オレが運転しようか」
「いや大丈夫だよ。こう見えても都会で社用車を運転しているしね」
「……でも心配だ」
「……潤は店の開店準備を手伝って。今日は広樹兄さんがいないから、母さんひとりじゃ大変だよ。僕も出来る所まではやったけど」
「そうだな。了解!」
空港までは車で20分程度だ。
一人でも大丈夫と言ったが函館市内をひとりで行動するのは、久しぶりなので緊張する。
……アイツはもうここにはいない。だから大丈夫。
それに僕は今、車の中だ。
そう思うがハンドルを握りしめる手が、汗に濡れてしまった。
しかも大きな建設現場前で、信号にひっかかった。
嫌な予感がして見てはいけないと思うのに、つい横目でちらりと見てしまい、ひっと悲鳴を上げそうになった。
たかが現場を囲う養生ネットに印刷された会社のマークだ。それでもあの印を見るだけで、心臓が嫌な動きをする。
あの日あいつのスーツの胸元についていた社章と同じだ。
お、落ち着け、瑞樹。
深呼吸……そうだ……深呼吸をしよう。
僕はもうアイツに捕まらない所まで、飛び立っている。
大きく――空へ。
あの日洋くんによって解放された気持ちは、宗吾さんの愛と絡まって、誰にも触れられない所まで昇っている。
自信を持とう。
やがて信号が青になる。
進めの合図《サイン》を受けて、僕は過去を振り切るようにアクセルを踏み込んだ。
行こう!
宗吾さんと芽生くん、僕の大切な家族の元に――
僕の光を目指して。
明確な行き先があるから、迷わない。
怖くない。
****
「パパ~おしっこぉ」
「え? 乗る前に行ったばかりじゃないか。降りるまで我慢出来ないのか」
「……でも……ぐすっ……そんな……がまんできない。も、もれちゃうよ」
「あー分かった分かった」
飛行機でシートベルサインが消えるやいなや、芽生がトイレに行きたがった。貴重品を持って一緒に向かうが、狭い機内だし、身長差のある子供の手を引いて歩くのは、思いの外大変だった。
こういう細かいケア……俺はいつも瑞樹に任せきりだったなと反省してしまうよ。
「ほら、ここで待ってるから行ってこい」
「えーパパ、こわいよぉ。いっしょにはいって」
「だが狭くてな」
「でもぉ」
「……分かったよ」
あぁまた反省だ。機内のトイレは鍵の開け閉めが幼稚園児にはまだ難しいだろう。親が付き添うのが当然なのに、面倒臭がってしまった自分に猛反省だ。
あー駄目だー!
瑞樹がちょっといないだけで、俺はすぐにこんなになってしまうよ。
用を足している芽生の様子を伺うと、飛行機の揺れで足元や手元がおぼつかない。
「あっ!」
支えた方がいいのか……迷っている間に、目標を失って周りを濡らしてしまった。
「あ……えっと」
芽生が不安そうに、俺を見上げてくる。
怒らないように怒らないように、ふーふーと気を静め、ティッシュで濡れた床を無言で拭いた。
「パパ……ごめんなさい」
しょぼんとした芽生の様子に、俺も流石に大人げなかったと反省だ。
「気にするなって、失敗は誰にでもあるさ」
「う、うん」
トイレから出ると、客室乗務員に『お客様、お子様連れでしたら、あちらに多機能トイレがありますので』と教えてもらい、なるほどなぁと、またまた反省した。
機内ではドリンクサービスがあったので、芽生はリンゴジュースをもらった。カップにストローをさしてもらったが、溢さないか常に気を配って神経をすり減らした。
いつもなら熱い珈琲を飲みながら優雅に雑誌を読んで、音楽を聴いて……
これもまた瑞樹に任せきりで、おれは胡座をかいていたと反省だ。
俺っていつも瑞樹ひとりに、こんなに負担をかけていたのか。
今、傍にいないから、気付いてしまった。
彼はいつも率先して芽生の世話を焼いてくれる。実の弟を芽生と同じ年頃で亡くしたこともあり、出来なかった事をしてあげられるのが嬉しいと、いつも花のように清楚に笑ってくれる。
俺も君のそんな笑顔が見たくて、つい丸投げしてしまっていた。
『まもなくシートベルト着用のサインが点灯します……化粧室をご利用のお客様は……』
「パパ~」
「なんだ?」
「うんっとね……」
芽生がもじもじ何かを言い足そうにしている。こんな時察しがいい瑞樹ならあっという間に芽生が言いたい事、伝えたい事を見つけてくれるのに、俺はパッと浮かばない。
「何だ? はっきり言えよ。男だろう」
「う……もういっかい、おしっこぉ……」
「えっまた?」
「……グスっ」
「分かったから泣くな。今度は広いトイレに行こう。さぁ早くしろ」
急かすように用を足させ、よろよろと戻ってきた。
3人掛けの席だったので、隣のサラリーマンにも気を遣うし、1時間半ほどのフライトだったのに、函館に到着した頃には、げっそりとやつれていた。
「パパ、おにいちゃんにもうすぐ会えるね」
「あぁ早く会いたいな」
「うん!!!!」
芽生の声も、いつもの倍、大きかった。
瑞樹、瑞樹……早く君に会いたい。 切実に!
14
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる