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成就編
心の秋映え 30
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俺たちは朝食前に朝風呂に入った。大浴場の湯船は広々として気持ち良かった。
「おにいちゃん~さっきはごめんね。ボク……ねぞうわるくて、おもたかったでしょう?」
「そんなの、大丈夫だよ」
「……でもね」
「何かな」
瑞樹が小首を可愛らしく傾けて、モジモジしている芽生に問いかけた。
「あ、あのね。おにいちゃんの胸から、とっても甘くておいしそうな濃いミルクの匂いがしたんだよ! ふしぎだよね~」
流石我が息子よ……将来は俺以上の大物になりそうだ。
「え! えぇ……っと」
「ほら、あのにおいだよ。うーんと、イチゴを食べる時にかける、白くてとろりとしたの。お名前なんだったかな」
思いっきり図星を指された瑞樹は、そのまま固まって絶句してしまった。
これはヤバイな。あとで殺されるかも……!
「ねーねぇ、お兄ちゃんってば、はやくおしえてよ」
「え、えっと……それって……もしかて、れ……練乳かな」
「そう、それ! でもどうしてだろうね。お兄ちゃんからはいつもキレイなお花のかおりがするのに。あとね、お胸がちょっとベトベトしていたよー」
瑞樹はいよいよ真っ赤になり、肩をプルプルと震わせた。
俺……ここから逃げた方がいいかも!?
「そ、宗吾さん!! ちゃんと洗ってくれたんですかー!!!」
彼の声が浴室内に響き渡り、周りの人がポカンとした表情で一斉にこっちを見た。
「あっ……あぁもうっ──」
瑞樹は茹で蛸みたいに真っ赤になって、湯船に沈んで行きそうだった。
す、すまんな。どうやって取り繕ろう?
「まぁそれはだな……コホン──『残り香』に近いんだよ。芽生」
「『ノコリガ』? むずかしいことばだね」
「も、……もうっ知りません」
瑞樹は腰に白タオルをしっかり巻いて、一足先に上がってしまった。
「あれ、おにいちゃん?」
「瑞樹……もしかして怒っているかな」
「うーんと、おにーちゃんは、きっとあきれているんだよ。 おばあちゃんが聞いたら、パパしかられちゃうね……元気だしてね」
ううう、息子に励まされてしまった。
****
朝食会場はビッフェ形式で、昨夜の夕食同様に美味しそうなものがずらりと並んでいた。
「わぁぁー!」
芽生は目を大きく見開いてキョロキョロと辺りを見渡している。幼い芽生にとって華やかなビッフェ会場は、宝探しのような気分だろうな。
「瑞樹も芽生も沢山食べろよ。たまには人間欲張りにならないとな!」
「はーい!」
「はい」
こういう普段と違う朝食も、やっぱり旅の醍醐味だ。瑞樹のような遠慮しがちな人間にも、時には貪欲になる時間が必要だ。
「あっ芽生くん、ここでは駆けっては駄目だよ。一緒に回ろうね」
「うん!」
瑞樹は気を取り直したらしく平常に戻っていた。
「瑞樹、さっきはごめんな」
「宗吾さん? 神妙な顔ですね」
「……反省している」
「くすっ、もういいですよ。でも後で僕に何をしたか、白状してもらいますよ」
「うーそれは夜になったら再現するよ」
「もうっ! 宗吾さんは懲りませんね。さぁ朝ごはん食べましょう。あっ牛乳が小瓶で可愛いですね。これなら何本も飲めそうです」
「瑞樹はそんなに牛乳が好きだったんだな」
「北海道生まれの北海道育ちですからね、牧場も近かったので」
瑞樹は不機嫌を長引かせない。俺も彼のそんな所を見習いたい。
「瑞樹は、気持ちの切り替えが早い方だよな」
「そうでしょうか」
「嫌なことがあると、人は気持ちが落ち込んで、なかなか上手く切り替えられないだろう。でも君はまるで気持ちを切り替えるスイッチでも持っているかのようにサッと切り替えられるから、すごいよ」
「僕も……昔は違いましたよ。いつまでも落ち込んでいました。気持ちの切り替えも遅く、過去の失敗や挫折に長年とらわれていました。でも今の僕は……積極的に早く気持ちを切り替えようと心掛けています」
「そうか……」
確かに以前の瑞樹は、もっと苦悩を抱えていた。
だが俺と知り合ったこの1年で、彼は様々な困難や悩みに真摯に向き合い、丁寧に解決してきた。それによって自信がついたのだ。
「僕には宗吾さんと芽生くんと過ごす時間が何よりも大切なんです。だから今から考えたり悩んだりしても変わらない過去の失敗や傷については、もうこれ以上考えるのはやめて、今の自分が何をすべきか、何をしたいのかという未来志向で前向きな気持ちを持ちたくて」
「いい考えだな。これからも思いっきり泣いたり笑ったりするといい。そんな君を見守りたいから」
この1年、そしてこれからの1年。全く違う景色が見えるだろう。
「はい!宗吾さんと一緒に笑いたいです。あの……僕だって人間ですから、時には怒ったり拗ねたりしますが、あくまでも一時的なものですから安心して下さいね」
「ということは、さっきはやっぱり怒ったんだな」
「くすっその話はもういいですよ。綺麗にしてもらったんだし……でも最後にまたアレを塗りましたね?」
「す、すまん。そのつぶらな……誘惑が」
「やっぱり! 明日からはもう駄目ですよ。でも僕も昨日は楽しかったです。あんな大胆なことするのも……旅の思い出ですね」
「そうそう! やっぱり君は前向きだな」
結局……全部バレていたのか。
でも瑞樹の気持ちが常に前向きになっていると、彼の口から直接聞けたのが嬉しかった。
「おにいちゃん~さっきはごめんね。ボク……ねぞうわるくて、おもたかったでしょう?」
「そんなの、大丈夫だよ」
「……でもね」
「何かな」
瑞樹が小首を可愛らしく傾けて、モジモジしている芽生に問いかけた。
「あ、あのね。おにいちゃんの胸から、とっても甘くておいしそうな濃いミルクの匂いがしたんだよ! ふしぎだよね~」
流石我が息子よ……将来は俺以上の大物になりそうだ。
「え! えぇ……っと」
「ほら、あのにおいだよ。うーんと、イチゴを食べる時にかける、白くてとろりとしたの。お名前なんだったかな」
思いっきり図星を指された瑞樹は、そのまま固まって絶句してしまった。
これはヤバイな。あとで殺されるかも……!
「ねーねぇ、お兄ちゃんってば、はやくおしえてよ」
「え、えっと……それって……もしかて、れ……練乳かな」
「そう、それ! でもどうしてだろうね。お兄ちゃんからはいつもキレイなお花のかおりがするのに。あとね、お胸がちょっとベトベトしていたよー」
瑞樹はいよいよ真っ赤になり、肩をプルプルと震わせた。
俺……ここから逃げた方がいいかも!?
「そ、宗吾さん!! ちゃんと洗ってくれたんですかー!!!」
彼の声が浴室内に響き渡り、周りの人がポカンとした表情で一斉にこっちを見た。
「あっ……あぁもうっ──」
瑞樹は茹で蛸みたいに真っ赤になって、湯船に沈んで行きそうだった。
す、すまんな。どうやって取り繕ろう?
「まぁそれはだな……コホン──『残り香』に近いんだよ。芽生」
「『ノコリガ』? むずかしいことばだね」
「も、……もうっ知りません」
瑞樹は腰に白タオルをしっかり巻いて、一足先に上がってしまった。
「あれ、おにいちゃん?」
「瑞樹……もしかして怒っているかな」
「うーんと、おにーちゃんは、きっとあきれているんだよ。 おばあちゃんが聞いたら、パパしかられちゃうね……元気だしてね」
ううう、息子に励まされてしまった。
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朝食会場はビッフェ形式で、昨夜の夕食同様に美味しそうなものがずらりと並んでいた。
「わぁぁー!」
芽生は目を大きく見開いてキョロキョロと辺りを見渡している。幼い芽生にとって華やかなビッフェ会場は、宝探しのような気分だろうな。
「瑞樹も芽生も沢山食べろよ。たまには人間欲張りにならないとな!」
「はーい!」
「はい」
こういう普段と違う朝食も、やっぱり旅の醍醐味だ。瑞樹のような遠慮しがちな人間にも、時には貪欲になる時間が必要だ。
「あっ芽生くん、ここでは駆けっては駄目だよ。一緒に回ろうね」
「うん!」
瑞樹は気を取り直したらしく平常に戻っていた。
「瑞樹、さっきはごめんな」
「宗吾さん? 神妙な顔ですね」
「……反省している」
「くすっ、もういいですよ。でも後で僕に何をしたか、白状してもらいますよ」
「うーそれは夜になったら再現するよ」
「もうっ! 宗吾さんは懲りませんね。さぁ朝ごはん食べましょう。あっ牛乳が小瓶で可愛いですね。これなら何本も飲めそうです」
「瑞樹はそんなに牛乳が好きだったんだな」
「北海道生まれの北海道育ちですからね、牧場も近かったので」
瑞樹は不機嫌を長引かせない。俺も彼のそんな所を見習いたい。
「瑞樹は、気持ちの切り替えが早い方だよな」
「そうでしょうか」
「嫌なことがあると、人は気持ちが落ち込んで、なかなか上手く切り替えられないだろう。でも君はまるで気持ちを切り替えるスイッチでも持っているかのようにサッと切り替えられるから、すごいよ」
「僕も……昔は違いましたよ。いつまでも落ち込んでいました。気持ちの切り替えも遅く、過去の失敗や挫折に長年とらわれていました。でも今の僕は……積極的に早く気持ちを切り替えようと心掛けています」
「そうか……」
確かに以前の瑞樹は、もっと苦悩を抱えていた。
だが俺と知り合ったこの1年で、彼は様々な困難や悩みに真摯に向き合い、丁寧に解決してきた。それによって自信がついたのだ。
「僕には宗吾さんと芽生くんと過ごす時間が何よりも大切なんです。だから今から考えたり悩んだりしても変わらない過去の失敗や傷については、もうこれ以上考えるのはやめて、今の自分が何をすべきか、何をしたいのかという未来志向で前向きな気持ちを持ちたくて」
「いい考えだな。これからも思いっきり泣いたり笑ったりするといい。そんな君を見守りたいから」
この1年、そしてこれからの1年。全く違う景色が見えるだろう。
「はい!宗吾さんと一緒に笑いたいです。あの……僕だって人間ですから、時には怒ったり拗ねたりしますが、あくまでも一時的なものですから安心して下さいね」
「ということは、さっきはやっぱり怒ったんだな」
「くすっその話はもういいですよ。綺麗にしてもらったんだし……でも最後にまたアレを塗りましたね?」
「す、すまん。そのつぶらな……誘惑が」
「やっぱり! 明日からはもう駄目ですよ。でも僕も昨日は楽しかったです。あんな大胆なことするのも……旅の思い出ですね」
「そうそう! やっぱり君は前向きだな」
結局……全部バレていたのか。
でも瑞樹の気持ちが常に前向きになっていると、彼の口から直接聞けたのが嬉しかった。
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