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成就編
秋満ちる 2
「宗吾さん、行ってきます」
「あぁ気を付けて」
「はい! 」
「うーん、何だか一緒に行けないのが心配だよ」
「くすっ、大丈夫ですよ」
一人で家を出るのは、久しぶりだった。
宗吾さんは自分が遅出の時も、いつも僕に合わせて出かけてくれる。本当に僕は、過保護なほどに彼から愛されている。
しかし今日はいまいちやる気が出ないな。芽生くんの運動会という秋の大きな行事が終わってしまったので、脱力気味なのかも。
しかも……いよいよ来週末に、僕の社員旅行が控えている。行先は今年は箱根の温泉だそうだ。正直な所、宗吾さんと芽生くんを置いて僕だけ旅行するのは躊躇われる。でも会社が社員に対して日頃の頑張りや成果を労うためのリクリエーション活動の一つだから、ちゃんと行かないとな。1泊2日だし頑張ろう。
明るく気持ちを切り替えて電車を降りホームを歩き出すと、突然見知らぬサラリーマンに声を掛けられた。
「あの、少しいいですか」
「はい? 」
何だろう? 何か落としたかな。
僕より少し年上の背広姿の男性に心当たりはない。怪訝に思い、深入りしたくないので足早に立ち去ろうとすると、突然腕を掴まれたので驚いた。
「待って! あの、実は君の事が気になってさ、良かったら今度お茶でもしない? 」
「え? 」
言われている意味が分からなかった。男の僕に突然どうして?
「さっきから、ずっと電車の中で見ていたんだ」
その言葉にゾクっとした。
何だ? 僕を見ていたなんて気持ち悪い。
とにかく早く立ち去らないと。僕はこういうシチュエーションが本当に苦手だ。だって過去にこんな風に話しかけられて、それが引き金で大変な事になったから。
顔が青ざめ唇が震え出す。でもしっかり断りたくて、気丈に振舞った。
「すみません。本当に興味ないので」
「え~一度位いいじゃないか。男にモテそうだよね? 君」
「は……離して下さい。手を」
振り払おうと必死になればなるほど、掴まれた腕にギュッと力が入る。
痛い……っ。
「うっ」
怖い、嫌だ……嫌悪感でいよいよ吐きそうになった時、突然腕が軽くなった。
「ちょっと嫌がっているじゃないですか! 通報しますよ。ストーカーで! 」
あっ、この声は菅野だ。
「……! たまたま電車で見かけて、声を掛けただけだ」
「へぇそうですか。その社員章は……四井物産ですね。朝から見ず知らずの人の腕を掴むとはねぇ」
「う、分かった分かった。もう声かけないよ。ちぇっ彼氏持ちかよ」
捨て台詞と共に、男は消えてくれた。
「葉山、大丈夫か」
「う……ん、ありがとう」
「……気持ち悪そうだな。あそこの少しベンチで休むか」
「ありがとう。そうさせてもらおうかな……」
僕は意気地なしだ。男のくせに弱い。
いつも自己嫌悪で自分を責めてしまう。でもこういうシチュエーションは本当に苦手だ。
「もう大丈夫だと思うぜ。ああいう奴は会社名を出されると弱いから」
「う……うん」
「……葉山……やっぱり、まだ、しんどいのか」
菅野が自販機で水を買ってきてくれた。
その優しさが身に沁みる。
僕が休職していた事情も知っている菅野だから、察してくれる。
「……ありがとう。普段はもう忘れているよ。でも一人の時に突然来られるのは、とても苦手なシチュエーションで困っていた」
「そうか、気をつけろよ。今日は滝沢さん、いないのか」
「うん……芽生くんが幼稚園のお疲れ休みなので、一緒に年休を」
「そうか。お! そういえば昨日の運動会どうだった? 」
優しく気遣いの出来る菅野に救われる。話を明るく切り替えてくれて、ありがとう。
「うん、芽生くん頑張っていて、応援に力が入ったよ」
「そうか~可愛いよな。子供が一生懸命な姿って」
「うん! 」
「ちびっこの写真ある? 」
「スマホで撮ったのが少し」
「見たい! 俺さ、子供好きなんだ」
「本当? 」
こうやって僕の傾いた心を優しく楽しい会話で戻してくれるのが、ありがたい。
「……葉山には絶対に幸せになってもらいたいんだ。宗吾さんがいなくて困った時はいつでも言えよ」
「ありがとう」
菅野が肩を組んで慰めてくれた。
僕は友人に恵まれている。
菅野の存在がありがたくて、ほら、やっぱり涙ぐんでしまうよ。
「泣くな……お前の手さ、もう絶対に傷つけんなよ」
「……うん」
****
「やべっ早く行かないと、葉山先輩が改札を出てしまう! 」
くそぉー今日に限って電車が3分も遅れるなんて!
昨日は葉山先輩と会えなくて寂しかったから、今朝は絶対に一緒に会社まで行きたい。
そんな思いでホームを勢いよく走っていると、視界の端に葉山先輩を捉えた。
「あれ? なんであんな所に座って……? しかも……」
向かいのホームのベンチに菅野先輩と並んで座っているのが、意外だった。
しかも今にも泣き出しそうな葉山先輩の表情にドキっとした。それから菅野先輩に向かって、ふっと泣き笑いのような表情も浮かべて……
「やべっ、猛烈に可愛い! 天使か」
それにしても、何だ何だ?
なんで朝っぱらから駅のホームで、肩まで組んでイチャイチャしてんだよー!
あーやっぱり俺の憶測は当たっているのか。
葉山先輩と菅野先輩って、実は付き合っているんじゃ……
男と男なんてと思うが、葉山先輩の可憐さならアリだから困惑している。
むむむ……なんだか胸の奥がモヤモヤするな。
俺って、やっぱり本気で葉山先輩が好きなのか。
ま、まさかな。
生まれてこの方、同性に恋した経験はない。
でもこの胸のときめきは……一体なんだ!!
朝からホームで唸り、頭を掻きむしってしまった。
あとがき(不要な方はスルーです)
****
運動会も終わり、本日から少し瑞樹の仕事場での話になっていきます。ちらちらと予告していた瑞樹の社員旅行編になります。
今日は導入で、ハプニングと金森鉄平の誤解……少しハラハラの始まりで萌えが少なかったかもしれませんね。
社員旅行を通して、宗吾さんとの愛を更に深めていきます。
秋が深まって満ちるように、二人の恋も……♡
私も楽しく頑張って書いていきますので、応援&お付き合いしていただけたら嬉しいです。
「あぁ気を付けて」
「はい! 」
「うーん、何だか一緒に行けないのが心配だよ」
「くすっ、大丈夫ですよ」
一人で家を出るのは、久しぶりだった。
宗吾さんは自分が遅出の時も、いつも僕に合わせて出かけてくれる。本当に僕は、過保護なほどに彼から愛されている。
しかし今日はいまいちやる気が出ないな。芽生くんの運動会という秋の大きな行事が終わってしまったので、脱力気味なのかも。
しかも……いよいよ来週末に、僕の社員旅行が控えている。行先は今年は箱根の温泉だそうだ。正直な所、宗吾さんと芽生くんを置いて僕だけ旅行するのは躊躇われる。でも会社が社員に対して日頃の頑張りや成果を労うためのリクリエーション活動の一つだから、ちゃんと行かないとな。1泊2日だし頑張ろう。
明るく気持ちを切り替えて電車を降りホームを歩き出すと、突然見知らぬサラリーマンに声を掛けられた。
「あの、少しいいですか」
「はい? 」
何だろう? 何か落としたかな。
僕より少し年上の背広姿の男性に心当たりはない。怪訝に思い、深入りしたくないので足早に立ち去ろうとすると、突然腕を掴まれたので驚いた。
「待って! あの、実は君の事が気になってさ、良かったら今度お茶でもしない? 」
「え? 」
言われている意味が分からなかった。男の僕に突然どうして?
「さっきから、ずっと電車の中で見ていたんだ」
その言葉にゾクっとした。
何だ? 僕を見ていたなんて気持ち悪い。
とにかく早く立ち去らないと。僕はこういうシチュエーションが本当に苦手だ。だって過去にこんな風に話しかけられて、それが引き金で大変な事になったから。
顔が青ざめ唇が震え出す。でもしっかり断りたくて、気丈に振舞った。
「すみません。本当に興味ないので」
「え~一度位いいじゃないか。男にモテそうだよね? 君」
「は……離して下さい。手を」
振り払おうと必死になればなるほど、掴まれた腕にギュッと力が入る。
痛い……っ。
「うっ」
怖い、嫌だ……嫌悪感でいよいよ吐きそうになった時、突然腕が軽くなった。
「ちょっと嫌がっているじゃないですか! 通報しますよ。ストーカーで! 」
あっ、この声は菅野だ。
「……! たまたま電車で見かけて、声を掛けただけだ」
「へぇそうですか。その社員章は……四井物産ですね。朝から見ず知らずの人の腕を掴むとはねぇ」
「う、分かった分かった。もう声かけないよ。ちぇっ彼氏持ちかよ」
捨て台詞と共に、男は消えてくれた。
「葉山、大丈夫か」
「う……ん、ありがとう」
「……気持ち悪そうだな。あそこの少しベンチで休むか」
「ありがとう。そうさせてもらおうかな……」
僕は意気地なしだ。男のくせに弱い。
いつも自己嫌悪で自分を責めてしまう。でもこういうシチュエーションは本当に苦手だ。
「もう大丈夫だと思うぜ。ああいう奴は会社名を出されると弱いから」
「う……うん」
「……葉山……やっぱり、まだ、しんどいのか」
菅野が自販機で水を買ってきてくれた。
その優しさが身に沁みる。
僕が休職していた事情も知っている菅野だから、察してくれる。
「……ありがとう。普段はもう忘れているよ。でも一人の時に突然来られるのは、とても苦手なシチュエーションで困っていた」
「そうか、気をつけろよ。今日は滝沢さん、いないのか」
「うん……芽生くんが幼稚園のお疲れ休みなので、一緒に年休を」
「そうか。お! そういえば昨日の運動会どうだった? 」
優しく気遣いの出来る菅野に救われる。話を明るく切り替えてくれて、ありがとう。
「うん、芽生くん頑張っていて、応援に力が入ったよ」
「そうか~可愛いよな。子供が一生懸命な姿って」
「うん! 」
「ちびっこの写真ある? 」
「スマホで撮ったのが少し」
「見たい! 俺さ、子供好きなんだ」
「本当? 」
こうやって僕の傾いた心を優しく楽しい会話で戻してくれるのが、ありがたい。
「……葉山には絶対に幸せになってもらいたいんだ。宗吾さんがいなくて困った時はいつでも言えよ」
「ありがとう」
菅野が肩を組んで慰めてくれた。
僕は友人に恵まれている。
菅野の存在がありがたくて、ほら、やっぱり涙ぐんでしまうよ。
「泣くな……お前の手さ、もう絶対に傷つけんなよ」
「……うん」
****
「やべっ早く行かないと、葉山先輩が改札を出てしまう! 」
くそぉー今日に限って電車が3分も遅れるなんて!
昨日は葉山先輩と会えなくて寂しかったから、今朝は絶対に一緒に会社まで行きたい。
そんな思いでホームを勢いよく走っていると、視界の端に葉山先輩を捉えた。
「あれ? なんであんな所に座って……? しかも……」
向かいのホームのベンチに菅野先輩と並んで座っているのが、意外だった。
しかも今にも泣き出しそうな葉山先輩の表情にドキっとした。それから菅野先輩に向かって、ふっと泣き笑いのような表情も浮かべて……
「やべっ、猛烈に可愛い! 天使か」
それにしても、何だ何だ?
なんで朝っぱらから駅のホームで、肩まで組んでイチャイチャしてんだよー!
あーやっぱり俺の憶測は当たっているのか。
葉山先輩と菅野先輩って、実は付き合っているんじゃ……
男と男なんてと思うが、葉山先輩の可憐さならアリだから困惑している。
むむむ……なんだか胸の奥がモヤモヤするな。
俺って、やっぱり本気で葉山先輩が好きなのか。
ま、まさかな。
生まれてこの方、同性に恋した経験はない。
でもこの胸のときめきは……一体なんだ!!
朝からホームで唸り、頭を掻きむしってしまった。
あとがき(不要な方はスルーです)
****
運動会も終わり、本日から少し瑞樹の仕事場での話になっていきます。ちらちらと予告していた瑞樹の社員旅行編になります。
今日は導入で、ハプニングと金森鉄平の誤解……少しハラハラの始まりで萌えが少なかったかもしれませんね。
社員旅行を通して、宗吾さんとの愛を更に深めていきます。
秋が深まって満ちるように、二人の恋も……♡
私も楽しく頑張って書いていきますので、応援&お付き合いしていただけたら嬉しいです。
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