510 / 1,865
成就編
恋満ちる 8
しおりを挟む
「えっとえっと、はじめまして! おにーさん」
「おー君がメイくんか。クリクリな目元が可愛いなぁ。これは瑞樹が溺愛するのも分かるぜ」
「デキアイってなあに? 」
「めちゃんこ、可愛がるってことだ」
「めちゃんこ? 」
「ははっ、なんかいちいち反応が新鮮だな」
菅野と芽生くんが、仲睦まじく挨拶を交わしている。
芽生くんに、今日は僕の友達を呼ぶと教えたら、自分のことのようにワクワクしてくれた。
僕の大切な友達を歓迎してもらえるのが、嬉しいよ。
そういえばこんな風に友人を家に呼ぶのって……大沼の小学校以来かも。
大沼は小さな町で小学校は1クラスしかなく、同級生は20名にも満たなかったので、みんな顔見知りだった。だから親御さんの顔まで知っていたし、僕の家にもよく同級生が遊びに来てくれた。
特に仲が良かったのがセイとキノシタ。似たもの同士だったのか、一緒にいて居心地のよいメンバーだった。だから僕だけ転校するのは、本当はすごく寂しかった。
それから僕は意図的に……クラスメイトと距離を置くようになった。友人との深い付き合いをやめた。
『別れは寂しい……』
仲良くなればなるほど……別れは寂しいものだ。
両親と弟を一度に亡くし、親友とも生まれ育った家とも別れなければいけなかった僕のとった防御策だったのだ。
いつだって僕の根底に根付いてしまった、仄暗い気持ちに支配されていたから。
それでも東京に出て来て少しホッとした。地方から上京して、ひとり暮らしをしている人が圧倒的に多いのに驚き、ひとりなのは僕だけじゃない……そう思えると、やっと肩の荷を降ろせたんだ。
はるばる九州から出て来た男気のある一馬は、当時の僕が一番心を許した相手だった。ただ今の僕に比べたらまだまだガードも固く、深い関係になっても守りに入っていた。
そういえば、会社の同期の菅野とは、どうしてこんなに仲良くなったのかな。
菅野とは同期で配属先が同じ部署だった。入社した日から机も向かい合わせで、気さくな菅野は折に触れて話しかけてくれた。飲み会や社員旅行も、何でも率先して企画してくれ、それでいて出しゃばり過ぎない、奥ゆかしい面もあった。
僕と違うようで、根本は僕と似ている……何かを感じていたのかな。
とにかく菅野は人知れず、僕をずっと見守り、成長を認めてくれている。それがやんわりと伝わってくるのが、心地いい。
そして昨日の朝、金森と話す菅野の姿を見て、心から感謝した。
「おにいちゃんのお友だち、いいひとだねぇ」
「芽生くん、仲良くしてくれてありがとう」
「おともだちっていいよね。ボクもコータくんとようちえんであえると、ほっとするんだ」
「わかるよ。僕もだ」
「おともだちも『たからもの』の一つだって、おばあちゃんがいっていたよ。だからたいせつにしなさいって」
芽生くんは、まだ6歳なのに、大切な物や大切な人への心配りができる子だ。
本当にすごいな。でも、たまにいい子過ぎて心配になってしまう。だから芽生くんが甘えたい時は、沢山甘えて欲しくなる。
「さぁ鍋が煮えたぞ、集まれ」
「あの~俺、どこに座れば? 」
食卓は4人掛け……判断は宗吾さんに任せよう。
「もちろん、俺の隣りだ」
「あ、はい」
くすっ、やっぱり飲まされそうだな。菅野は僕よりずっと飲めるから、いい晩酌相手になるかも。
「じゃあ、改めて菅野くん、我が家にようこそ!」
「かんぱーい!」
芽生くんが一番大きな声で、麦茶のグラスを高々と掲げた。
ふふっ、芽生くんは将来『のんべえ』になりそうだね。
「しかし、なんか緊張しますね。滝沢さんと飲むのは」
「そうか、俺は大歓迎だよ」
ふたりのピッチの速いこと……だ、大丈夫かな。
菅野……だいぶ酔ってきたみたい。
僕は芽生くんに鍋の具材を取ってあげたり、ビールを追加したりと忙しかったので、酔う程ではなかった。
「そういえば菅野くん、アレはよかったよ」
「アレって、なんですか」
「引っ越し祝いにくれただろう? 」
「あぁ、役立ちましたか」
「もちろん。でも今日は君に貸すよ」
「え? なんで俺に?」
「ん? だって家に泊まっていくんだろ? 」
「はは……やっぱり潰す気ですか」
「まさか! 君は強い男だ。そして恩人だ」
「じゃあ何でアイマスクを俺に? 」
「あとで分かるさ」
アイマスク? どうして菅野に貸すのかな。
僕も菅野と一緒に、首を傾げてしまった。
****
葉山の新しい暮らしは、想像よりもずっと板についていた。
6歳になる芽生くんの母親的ポジションを、卒なくこなしている様子が微笑ましかった。
優しい葉山に、芽生くんもよく懐いている。
葉山は、芽生くんに鍋の具材を器によそって、ふーふー冷ましてあげたり、飲み物を注いであげたり、それからとにかく芽生くんの話を、よく聞いていた。
目を合わせて、一つ一つのことに丁寧に相槌を打って。
いやぁ、これは世の母親以上かもな。
俺が葉山のつきあっている相手が男性だというのに気付いたのは、つい最近だ。
葉山の前の家に泊まらせてもらった時だった。それ以前は実はちらりとも思わなかった。
しいていえば、四宮先生の件は案じていたが、あれは一方的に男に想いを寄せられただけで、葉山はノンケだと思っていたんだ。
葉山の過去に……何があって、何が起きたのか。
知らないことばかりだが、俺にとっては目の前にいる葉山が、心から幸せそうに笑っているのが嬉しいし大切だ。
暫くすると葉山と芽生くんが風呂に消えてしまったので、滝沢さんとサシで飲むことになった。
「あーコホン、菅野くん、改めて礼を言うよ。瑞樹を朝、助けてくれてありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです。アイツ……本気で嫌がっていましたから」
酔っていたはずの滝沢さんの顔が、急に真顔になった。
あぁそうか、ここからが、本題なのだろう。
「少しだけ聞いてくれるか……俺の話と頼み事を」
「はい、もちろんです。今日はそれを聞きにきました」
「察しがいい男だな。君は」
「おー君がメイくんか。クリクリな目元が可愛いなぁ。これは瑞樹が溺愛するのも分かるぜ」
「デキアイってなあに? 」
「めちゃんこ、可愛がるってことだ」
「めちゃんこ? 」
「ははっ、なんかいちいち反応が新鮮だな」
菅野と芽生くんが、仲睦まじく挨拶を交わしている。
芽生くんに、今日は僕の友達を呼ぶと教えたら、自分のことのようにワクワクしてくれた。
僕の大切な友達を歓迎してもらえるのが、嬉しいよ。
そういえばこんな風に友人を家に呼ぶのって……大沼の小学校以来かも。
大沼は小さな町で小学校は1クラスしかなく、同級生は20名にも満たなかったので、みんな顔見知りだった。だから親御さんの顔まで知っていたし、僕の家にもよく同級生が遊びに来てくれた。
特に仲が良かったのがセイとキノシタ。似たもの同士だったのか、一緒にいて居心地のよいメンバーだった。だから僕だけ転校するのは、本当はすごく寂しかった。
それから僕は意図的に……クラスメイトと距離を置くようになった。友人との深い付き合いをやめた。
『別れは寂しい……』
仲良くなればなるほど……別れは寂しいものだ。
両親と弟を一度に亡くし、親友とも生まれ育った家とも別れなければいけなかった僕のとった防御策だったのだ。
いつだって僕の根底に根付いてしまった、仄暗い気持ちに支配されていたから。
それでも東京に出て来て少しホッとした。地方から上京して、ひとり暮らしをしている人が圧倒的に多いのに驚き、ひとりなのは僕だけじゃない……そう思えると、やっと肩の荷を降ろせたんだ。
はるばる九州から出て来た男気のある一馬は、当時の僕が一番心を許した相手だった。ただ今の僕に比べたらまだまだガードも固く、深い関係になっても守りに入っていた。
そういえば、会社の同期の菅野とは、どうしてこんなに仲良くなったのかな。
菅野とは同期で配属先が同じ部署だった。入社した日から机も向かい合わせで、気さくな菅野は折に触れて話しかけてくれた。飲み会や社員旅行も、何でも率先して企画してくれ、それでいて出しゃばり過ぎない、奥ゆかしい面もあった。
僕と違うようで、根本は僕と似ている……何かを感じていたのかな。
とにかく菅野は人知れず、僕をずっと見守り、成長を認めてくれている。それがやんわりと伝わってくるのが、心地いい。
そして昨日の朝、金森と話す菅野の姿を見て、心から感謝した。
「おにいちゃんのお友だち、いいひとだねぇ」
「芽生くん、仲良くしてくれてありがとう」
「おともだちっていいよね。ボクもコータくんとようちえんであえると、ほっとするんだ」
「わかるよ。僕もだ」
「おともだちも『たからもの』の一つだって、おばあちゃんがいっていたよ。だからたいせつにしなさいって」
芽生くんは、まだ6歳なのに、大切な物や大切な人への心配りができる子だ。
本当にすごいな。でも、たまにいい子過ぎて心配になってしまう。だから芽生くんが甘えたい時は、沢山甘えて欲しくなる。
「さぁ鍋が煮えたぞ、集まれ」
「あの~俺、どこに座れば? 」
食卓は4人掛け……判断は宗吾さんに任せよう。
「もちろん、俺の隣りだ」
「あ、はい」
くすっ、やっぱり飲まされそうだな。菅野は僕よりずっと飲めるから、いい晩酌相手になるかも。
「じゃあ、改めて菅野くん、我が家にようこそ!」
「かんぱーい!」
芽生くんが一番大きな声で、麦茶のグラスを高々と掲げた。
ふふっ、芽生くんは将来『のんべえ』になりそうだね。
「しかし、なんか緊張しますね。滝沢さんと飲むのは」
「そうか、俺は大歓迎だよ」
ふたりのピッチの速いこと……だ、大丈夫かな。
菅野……だいぶ酔ってきたみたい。
僕は芽生くんに鍋の具材を取ってあげたり、ビールを追加したりと忙しかったので、酔う程ではなかった。
「そういえば菅野くん、アレはよかったよ」
「アレって、なんですか」
「引っ越し祝いにくれただろう? 」
「あぁ、役立ちましたか」
「もちろん。でも今日は君に貸すよ」
「え? なんで俺に?」
「ん? だって家に泊まっていくんだろ? 」
「はは……やっぱり潰す気ですか」
「まさか! 君は強い男だ。そして恩人だ」
「じゃあ何でアイマスクを俺に? 」
「あとで分かるさ」
アイマスク? どうして菅野に貸すのかな。
僕も菅野と一緒に、首を傾げてしまった。
****
葉山の新しい暮らしは、想像よりもずっと板についていた。
6歳になる芽生くんの母親的ポジションを、卒なくこなしている様子が微笑ましかった。
優しい葉山に、芽生くんもよく懐いている。
葉山は、芽生くんに鍋の具材を器によそって、ふーふー冷ましてあげたり、飲み物を注いであげたり、それからとにかく芽生くんの話を、よく聞いていた。
目を合わせて、一つ一つのことに丁寧に相槌を打って。
いやぁ、これは世の母親以上かもな。
俺が葉山のつきあっている相手が男性だというのに気付いたのは、つい最近だ。
葉山の前の家に泊まらせてもらった時だった。それ以前は実はちらりとも思わなかった。
しいていえば、四宮先生の件は案じていたが、あれは一方的に男に想いを寄せられただけで、葉山はノンケだと思っていたんだ。
葉山の過去に……何があって、何が起きたのか。
知らないことばかりだが、俺にとっては目の前にいる葉山が、心から幸せそうに笑っているのが嬉しいし大切だ。
暫くすると葉山と芽生くんが風呂に消えてしまったので、滝沢さんとサシで飲むことになった。
「あーコホン、菅野くん、改めて礼を言うよ。瑞樹を朝、助けてくれてありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです。アイツ……本気で嫌がっていましたから」
酔っていたはずの滝沢さんの顔が、急に真顔になった。
あぁそうか、ここからが、本題なのだろう。
「少しだけ聞いてくれるか……俺の話と頼み事を」
「はい、もちろんです。今日はそれを聞きにきました」
「察しがいい男だな。君は」
11
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
自分勝手な恋
すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。
拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。
時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。
馬鹿な俺は今更自覚する。
拓斗が好きだ、と――。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる