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成就編

聖なる夜に 10

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「瑞樹、何と書いてあった? 流行りのあのゲーム機か。それとも……まさか、タブレットPCとかでは、ないよな~」

 どうやら宗吾さんの頭の中では、『難しい=高価なもの』というイメージが膨らんでしまったようだ。

「くすっ、宗吾さん、芽生くんはまだ6歳で、アニメや戦隊ものは好きですが、自分の手で文字を書き、クレヨンや色鉛筆で絵を描くのが大好きな男の子なんですよ」

 僕の返答に、宗吾さんは意外そうな様子で、口をポカンと開いたまま固まった。

 あ、まずい……思ったままのことを言ってしまった。芽生くんは宗吾さんの子供なのに、僕……出しゃばり過ぎてしまった。

「あの、すみません。偉そうに……」
「いや、違う! 嬉しいんだよ! 君が積極的に、俺と芽生の関係に足を踏み込んでくれるのがさ。最近の瑞樹は、本当にいい感じだな」
「そうでしょうか。良かった……」

 宗吾さんの言葉に安堵した途端に、全身に温かいものが流れる心地だった。

「こっちに、来いよ」
「はい」

 宗吾さんに、すっぽりと抱きしめられて、幸福感が満ちて来た。しかし、宗吾さんのこのフリースのスウェットの毛並みが、やはり『クマのぬいぐるみ』みたいだな。ふわふわな温もりが気持ちよくてじっと顔を埋めていると、宗吾さんが擽ったそうに身をよじった。

「ははっ、なんだ? 今日の瑞樹は、子猫みたいにくっついて」
「あの……これモコモコで気持ちがいいです」
「あぁすごく暖かいよ。俺さぁ、かなり寒がりなんだよ。実は」
「そうだったのですか」
「瑞樹は?」
「えっと……僕は一応北国育ちなので、寒さには強いです。北海道では体育の授業で、スキーやスケートがありましたから」
「へぇ、そうなのか」

 そこでいいことを思いついた。

「あの……来年は皆でスキーに行くのもいいですね。芽生くんは雪に興味があるみたいだし……っと、話が逸れましたが、芽生くんのサンタさんのお手紙が、まさにソレなのです」
「ということは、『雪が見たい』と?」
「あたりです」

 芽生くんのサンタさんへの手紙を、彼に見せた。

……

サンタさんへ

 クリスマスのプレゼントのおねがいがあって……ここに、ゆきをふらせてください。ぼくのだいじなおにいちゃんはホッカイドウに、すんでいたんです。そこはふゆになると、ゆきがたくさんふるらしいんです! だから、ゆきがふったら、きっとよろこんでくれます

……

 芽生くんは優しい。まだ小さいのに、僕が雪を見たいだろうからと、貴重なサンタさんの願ごとに書いてくれるなんて、可愛すぎて……胸の奥が疼くよ。

 てっきり今流行のおもちゃをおねだりすると思ったのに……。

 僕は、嬉しくて堪らないよ。

「幸せですね。こんな風に……小さな芽生くんが僕を思ってくれるのが」
「ははっ、これはまた、ずいぶん可愛いお願いだな~ それに引き換え、俺の想像力のなさは、父親として情けないよ」

 宗吾さんは、最初は白い歯を見せ笑い、その後……少し嘆かわしい表情を浮かべていた。

「そんなことないです。きっといつかそういう物を欲しがる日がくるのでしょうね」
「ありがとな。君はいつも優しい。それにしても東京でクリスマスに雪が降る確率は……」

 宗吾さんがおもむろベッドサイドのスマホを手に取って、検索しだした。

「おおっ、これだ!『過去30年の気象データから見たホワイトクリスマスの確率』があるぞ」
「わ、そうなんですね。それで、結果は?」

 宗吾さんの表情は……浮かない。

「うーむ、0%か。何でも30年以上前から一度も降っていないそうだよ」
「0ですか……それは少し難しいですね」
「旭川は、なんと100%だと。と言っても……今回は平日だし、気軽に行ける場所ではないしな。お互い仕事もあるしな」
「なるほど……では、宗吾さんと僕で願ってみませんか。あとは天国の夏樹にお願いして0.1パーセントの奇跡にして、賭けてみませんか」

 僕の台詞とは思えない程、積極的な前向きな提案だった。

「いいね。願おう! それでも駄目だったらのために『招待状』もつけたらどうだ?」
「それって、どういう意味ですか」
「つまり、2月くらいに雪が常にある場所に旅行でもどうか。温泉もあるしさ」
「『雪が見える国への旅行券』ですね。家族旅行……したいです。僕はスキーがしたいかな。久しぶりに……」
「スキーか。ウィンタースポーツ、瑞樹は得意そうだもんな」
「はい。凍えるような寒さの中を滑り降りるのが気持ちよくて。あっ、また自分のことを、すみません」
「馬鹿、いちいち謝るな。それがいい。瑞樹がしたいことをもっと教えてくれよ」


 いつの間にか、真冬になっていた。

 間もなくやってくるクリスマスを皮切りに、冬の楽しみがあふれ出す。

 クリスマスにお正月……ウィンタースポーツ。

 今年は、ここで、家族で、楽しみたい。

 欲張りだろうか、全部を望むのは。

 宗吾さんに心の声が、届く──

 いつだって、僕の心に寄り添ってくれる人だから。

「瑞樹、去年できなかった分、楽しもうな。俺たちの冬を──」






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