幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
555 / 1,871
成就編

聖なる夜に 20

 電話を切ると、ちょうど宗吾さんが、あがったところだった。

「瑞樹~電話終っているか。芽生がそっちに行くから、拭いてくれないか」
「はい!」

 まだお腹がぽこんと飛び出た幼児体型の芽生くんは、まるで天使だ。

「あ、こら! また」

 濡れたまま、真っ裸でリビングに飛び込んできた。

「だって、あっち、さむいんだもん~」
「早く拭かないと、風邪をひいてしまうよ」
「はーい! あ、チキンのいい匂いだね」
「うん。あと30分かな」
「まちどおしいね」
「うん!」

 芽生くんに、起毛した冬のパジャマを着せてやると、足首が見えて寒そうだった。

「あれ? パジャマも小さくなったみたいだね。新しいの買わないとね」
「ほんとうだ。上もちょっときついよ」
「ごめん、ごめん」

 子供の成長は本当に早い。函館のお母さんがパンツを贈ってくれたから気付けた。それにしても、お母さんは流石だな。3人の子供を育てただけある。芽生くんの成長具合を見事に当てていたし……やはり適わないな。子育てにおいても、頼りになる存在だ。

「あー、さっぱりした。瑞樹も風呂に入って来いよ」
「あ、はい、でも……何を着たらいいですか」
「ん? 芽生はパジャマだし、俺はすでに部屋着だ。家族のクリスマスだから、それでいいだろう」
「そうですね」

 堅苦しい格好でいなくてもいいのだ。ここでは……。

 リラックスした寛いだ姿で過ごせる場所は、心も寛げる場所だ。

「お待たせしました」
「おー! 見てくれよ。このチキンの皮の張り。パリパリで旨そうだなぁ~」
「パパ、ヨダレをたらしちゃだめだよぅ」
「ははっ、さぁ今夜は、奮発してシャンパンを飲むぞ」
「えっ、そんな高価なものを……いいんですか」
「あぁ店で飲むより、ずっと安いから気にするな。今日は特別な聖なる夜だからな」 

 テーブルには手作りの丸鶏のローストチキンに、キッシュや彩り豊かなサラダがずらりと並んでいた。その中で、ひときわ目を引いたのは、パンをくり抜いた中にホワイトシチューが入っている『ポットシチューパン』だった。

 あ……、遠い記憶が蘇る。

「あの、あの、これって」
「あぁ、瑞樹のお母さんのレシピ本を拝借した。君の大沼の家での、クリスマスの定番料理だとメモ書きがあったからな」

 宗吾さんは、本当にずるい。
 不意打ちで……僕を泣かせにやってくる人だ。

「う……っ」
「あー泣くな。泣くのは早いぞ」
「す、すみません。ですが……嬉しくて。このパンをくり抜くの、僕……よく手伝っていました」
「そうか。今日は芽生とやったよ」

 宗吾さんと芽生くんが仲良くキッチンに並ぶ姿を想像すると、心が弾む。

 同時に僕の記憶も明るい――


『おにいちゃん、おにいちゃん! それ、ボクもやりたい』
『えー夏樹も? 大丈夫かな』
『ボクだって、もう、できるもん』
『よーし、じゃあ一緒にやろう』
『おにいちゃんといっしょって、うれしいな』



「じゃ、君はもう座って」
「はい」
 
 シュッ……ポン!

 シャンパンの開栓の音が、心を酔わせてくれる。

「わぁ、綺麗な色ですね」
「だろう、ホワイトゴールド色っていうのか。おっと、芽生はこっちな」
「やったー!」

 芽生くんにはアニメキャラの甘いジュースだ。金色のパッケージがキラキラしていて、特別感が増すね。

「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「めりーくりすます!」

 3人の声が仲良く、ぴったりと重なった。

「美味しそう!」
「美味しそう!」
「おいしそう!」

 あれ、また重なった。なんだか不思議な感じがする。

「お、『ハッピーアイスクリーム』だな」
「なんです? それ」
「パパ、ごはんのまえにアイス、たべたいの?」
「え、知らないのか。参ったな……俺だけ、オジさんみたいじゃないか」
「あの……なんだかウキウキしますよ。教えてください。どういう意味ですか」
「母さんからの受け売りだが、同時に同じ言葉を口にした時、お互いに『ハッピーアイスクリーム』って、言い合うんだよ」

 初めて聞いたけれども……『幸せな呪文』みたいで、可愛い!

「いいですね。声を重ね合わせると、不思議な連帯感が生まれますね」
「あぁそうだろう。それが意図せず偶然だと、特別なものを感じるよ」

 
 人は知らないところで、誰かに守られている。

 天からも……見守られているのかもしれない。

 今度は、静かな沈黙が生まれた。


「それからさ、こんな風にたまに訪れるふとした沈黙のことを※『天使が通る』と言うらしいよ」

 天使が、近くにいるの?

 もしも……今、夏樹が近くにいるのなら、お兄ちゃんの願いを聞いて欲しい。

 明日、ここに雪を降らせて欲しい。

 僕の指先に――

 天国の君の幸せを、僕にも伝えて欲しい。



(※……『天使が通る』はフランスの諺「Un ange passe」)








あとがき(不要な方はスルー)









****

こんにちは!志生帆 海です。
いつもあとがきまで読んで下さって嬉しいです。


最近のクリスマスのお話の対になる、天国にいる瑞樹の弟……夏樹の物語は、天上アンソロジー『天上のランドスケープ』15,000文字弱の短編で書いています。
2021年2月15日までKindleさんの読み放題対応しているそうなので、もしも既に登録していらっしゃる方が入らしたら、覗いてみてください。私はいつもの雰囲気で書いていますが、皆様、本格的なお話で、読み応えたっぷりです♡

https://www.amazon.co.jp/dp/B08SM73MWF/ref=cm_sw_r_tw_dp_5WHB3T1JB8WM6RDNRCVP

感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。