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成就編
聖なる夜に 33
「さぁ、お昼よ。芽生お腹すいたでしょう?」
「わぁ~おなべだ」
案内された食卓には、大きな黒い土鍋があり、白い湯気がもくもくと上がっていた。
「いいにおいだね、おにいちゃん、こっち、こっち」
「うん、何のお鍋だろう?」
「瑞樹くんの好きな物よ」
「え……?」
鍋を覗き込むと、懐かしい郷土料理の匂いがした。
ぶつ切りしたサケの身とあらを野菜と一緒に昆布のだし汁の中に入れて、味噌で味を調えた鍋料理だ。たまねぎやキャベツ、長ねぎ、大根、しいたけ、豆腐などの具材もたっぷり入っている。
「あ、これって『石狩鍋』……ですよね」
「そうよ。クリスマスだけど……チキンや洋食は昨日食べたでしょう」
「あ、はい。嬉しいです。懐かしいです……」
「ふふっ、よかったわ」
お母さんも、満足そうに微笑んでくれた。
「へぇ、本格的な石狩鍋だな。母さんにしては珍しいメニューですね」
憲吾さんも眼鏡が曇るのも構わず、覗き込んでいた。
「さぁ、雪で冷えたでしょう。早く、皆で食べましょう。瑞樹は私の横にいらっしゃい」
「はい!」
一口食べると、懐かしい味がした。
函館の家では、これが、いつもクリスマスのご馳走だった。
……
「ほら、瑞樹、よそってやるから器をかせよ」
「ありがとう。兄さん。大丈夫だよ、自分でやるよ」
器に遠慮がちに具を装っていると、突然ドカッと大きな鮭の切り身が飛び込んできた。
「えっ?」
「おーい、瑞樹は……まったく。またそんなに遠慮して。お前は本当は鮭のあらより切り身が好きだろう。こっちを食べろ」
「ご、ごめん。兄さん」
「馬鹿、謝るな。もっと食べろよ。そんな細い手首じゃ、東京でひとりでやっていけないぞ」
「う、うん……」
「心配だなぁ」
「……大丈夫だよ」
あれは……東京の大学に奨学金で推薦入学が決まり、上京前の最後のクリスマスだった。
家族で石狩鍋を囲んでいると、お母さんが少し寂しそうに呟いた。
「もう来年からは、こうやって一緒にクリスマスを出来ないのかしらね」
「んなことない! 瑞樹、俺が寂しいから、夏休みとクリスマスと正月はこっちで過ごせ」
「……はい」
だが……僕は約束を破って、なかなか帰らなかった。なのに、兄さんは文句も言わず、いつもマメに連絡をくれた。態度を変えることなく、僕を可愛がってくれた。
「今年は、スペシャルよ。ほら、いくらをのせるわ」
「うぉ~、母さん、奮発したな」
「瑞樹の推薦合格祝いよ」
「あ、ありがとう。お母さん……すみません」
……
「瑞樹、今日はスペシャルよ」
「えっ」
宗吾さんのお母さんの声につられて顔をあげると、湯気のたつ器に、大きな鮭の切り身が入っていた。
「それから、あなたの好きな、いくらもね」
スプーン一杯のいくらをのせてもらえ、懐かしいやら嬉しいやらで、また視界が滲んでしまう。
「ふふふ、あら、湯気がしみたのね」
「あ、はい」
「さぁさぁ、沢山召し上がれ。私ね、あなたの函館のお母さんとお友達になったのよ。今はお電話でおしゃべりしたりして、情報交換しているのよ。だからこの石狩鍋はお母さんのレシピなの。さぁ味わって。もう、遠慮なく故郷を思い出していいのよ」
「嬉しいです」
この家は優しい。
ここは温かい。
もう……控えなくていい。
過去を思い出すことも、懐かしがることも。
今を喜ぶことも……好きなものを遠慮なく……求めてもいいのですね。
「あの……美味しいので、おかわりしてもいいですか」
「もちろんよ!」
「わぁ~おなべだ」
案内された食卓には、大きな黒い土鍋があり、白い湯気がもくもくと上がっていた。
「いいにおいだね、おにいちゃん、こっち、こっち」
「うん、何のお鍋だろう?」
「瑞樹くんの好きな物よ」
「え……?」
鍋を覗き込むと、懐かしい郷土料理の匂いがした。
ぶつ切りしたサケの身とあらを野菜と一緒に昆布のだし汁の中に入れて、味噌で味を調えた鍋料理だ。たまねぎやキャベツ、長ねぎ、大根、しいたけ、豆腐などの具材もたっぷり入っている。
「あ、これって『石狩鍋』……ですよね」
「そうよ。クリスマスだけど……チキンや洋食は昨日食べたでしょう」
「あ、はい。嬉しいです。懐かしいです……」
「ふふっ、よかったわ」
お母さんも、満足そうに微笑んでくれた。
「へぇ、本格的な石狩鍋だな。母さんにしては珍しいメニューですね」
憲吾さんも眼鏡が曇るのも構わず、覗き込んでいた。
「さぁ、雪で冷えたでしょう。早く、皆で食べましょう。瑞樹は私の横にいらっしゃい」
「はい!」
一口食べると、懐かしい味がした。
函館の家では、これが、いつもクリスマスのご馳走だった。
……
「ほら、瑞樹、よそってやるから器をかせよ」
「ありがとう。兄さん。大丈夫だよ、自分でやるよ」
器に遠慮がちに具を装っていると、突然ドカッと大きな鮭の切り身が飛び込んできた。
「えっ?」
「おーい、瑞樹は……まったく。またそんなに遠慮して。お前は本当は鮭のあらより切り身が好きだろう。こっちを食べろ」
「ご、ごめん。兄さん」
「馬鹿、謝るな。もっと食べろよ。そんな細い手首じゃ、東京でひとりでやっていけないぞ」
「う、うん……」
「心配だなぁ」
「……大丈夫だよ」
あれは……東京の大学に奨学金で推薦入学が決まり、上京前の最後のクリスマスだった。
家族で石狩鍋を囲んでいると、お母さんが少し寂しそうに呟いた。
「もう来年からは、こうやって一緒にクリスマスを出来ないのかしらね」
「んなことない! 瑞樹、俺が寂しいから、夏休みとクリスマスと正月はこっちで過ごせ」
「……はい」
だが……僕は約束を破って、なかなか帰らなかった。なのに、兄さんは文句も言わず、いつもマメに連絡をくれた。態度を変えることなく、僕を可愛がってくれた。
「今年は、スペシャルよ。ほら、いくらをのせるわ」
「うぉ~、母さん、奮発したな」
「瑞樹の推薦合格祝いよ」
「あ、ありがとう。お母さん……すみません」
……
「瑞樹、今日はスペシャルよ」
「えっ」
宗吾さんのお母さんの声につられて顔をあげると、湯気のたつ器に、大きな鮭の切り身が入っていた。
「それから、あなたの好きな、いくらもね」
スプーン一杯のいくらをのせてもらえ、懐かしいやら嬉しいやらで、また視界が滲んでしまう。
「ふふふ、あら、湯気がしみたのね」
「あ、はい」
「さぁさぁ、沢山召し上がれ。私ね、あなたの函館のお母さんとお友達になったのよ。今はお電話でおしゃべりしたりして、情報交換しているのよ。だからこの石狩鍋はお母さんのレシピなの。さぁ味わって。もう、遠慮なく故郷を思い出していいのよ」
「嬉しいです」
この家は優しい。
ここは温かい。
もう……控えなくていい。
過去を思い出すことも、懐かしがることも。
今を喜ぶことも……好きなものを遠慮なく……求めてもいいのですね。
「あの……美味しいので、おかわりしてもいいですか」
「もちろんよ!」
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