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成就編
気持ちも新たに 10
宗吾さんが大きな声で芽生くんを呼ぶと、すぐに襖が開いて小さな影が動いた。
そのまま僕たちのいる玄関に向かって突進してくる。
あぁ……芽生くん、また泣きそうな顔をしている。でも頑張った後の、いいお顔だよ。
僕は宗吾さんの鞄をさり気なく受け取った。
彼は軽く頷いて、それからグッと屈んで芽生くんをキャッチし高く掲げた。
「ただいま! ほらっ、高い高いだぞ~」
「わ! パパ! すごい~! わーい、わーい」
芽生くんは天井に着きそうな程、高く掲げられて、そのまま宗吾さんの胸元に抱きしめられた。
「芽生、今日はがんばったな。えらかったぞ」
「パパ……ボク、すっごくがんばったんだよ」
「あぁ、偉かった。ひとりでよく出来た」
「うん、うん」
宗吾さんが褒める称えると、芽生くんは、ほわんと嬉しそうな表情になり胸元に顔を埋めた。
恥ずかしいのと嬉しそうなので、溺れそうな様子だ。
可愛いな……まだたった6歳の幼児だ。これからはもっと年相応に過ごして欲しい。僕にも、もっと我が儘を言ってくれていい。我慢しないで欲しい。
思春期・反抗期がやって来ても、良い関係を維持できるように、僕も芽生くんの成長をしっかり受け止めるから、遠慮しないで。
****
「じゃあ、みんな、おやすみなさい」
「母さん、今日はありがとうな」
「頑張ったのは芽生と、花を届けてくれた瑞樹よ」
「あぁ、そうだな」
その後夕食をご馳走になって、僕たちは帰路についた。
「パパぁ~だっこ。おんぶして」
もう疲れ果てた芽生くんが、目を擦りながら宗吾さんの足元にくっついて来た。
「宗吾さん、荷物、僕が持ちます」
「あぁ、悪いな」
宗吾さんにおんぶされた芽生くんは、数分で眠りに落ちてしまった。
「芽生くん……やっぱり眠ってしまいましたね」
「あぁ、今日は3人で眠ろう」
「はい!」
夕食の間も芽生くんは宗吾さんの膝に乗ったり、べったりだった。父親の存在の偉大さを、ひしひしと感じる一時だった。
函館の家には、既にお父さんはいなかったので、僕の記憶の中の父親はひとりだ。僕の大沼の母は活発な女性で、写真家の端くれだったようだ。とても明るくポジティブでアクティブな人だった。宗吾さんに似ているのかな。そういえば、僕の父は何をしていたのかな。殆ど記憶が少ない。小学生くらいでは、父の職業にあまり関心を持たないものなのかな。
宗吾さんと芽生くんの後を歩きながら、父の記憶をたぐり寄せてみると、思い出したのは、広くて逞しい背中だった。
どうやら遠い昔、僕も今の芽生くんみたいにおんぶされたようだ。
『お父さん……お父さん、おんぶして』
小さな僕の声が聞こえるようだ。
「瑞樹、どうした? ぼんやりして」
「あ……その、僕の父親ってどんな人だったのかなと、ふと気になって」
「そういえば……函館の家のお父さんは、瑞樹が行った時には亡くなっていたんだよな」
「えぇ、だから大沼の父だけです。僕は母方の遠い親戚の家に引き取られたので、母が函館出身だったのは知っていますが、父はどんな人だったのでしょう……ね」
「……そうか。それもおいおい知っておくといいな。自分のルーツは知りたくなるものさ」
「そうですね。また一つ来年の楽しみが増えました」
「最初の楽しみは軽井沢に旅行だぞ、忘れていないよな」
「はい! 久しぶりにスキーが出来るのが楽しみです。そうだ、スノボにも挑戦してみませんか」
「えぇ? おいおい、あんまりハードルをあげないでくれよぉ~」
宗吾さんはギョッとした様子で、肩を竦めていた。
「瑞樹……もうすぐ年が明けるな」
「はい。激動の年でしたが、最後はこんな穏やかな帰り道って、いいですね」
「あぁ、来年はまるごと一年、一緒にいような」
「あ、はい! 喜んで……」
「ふっ、君のその返事、いつ聞いても心地良いよ」
その晩は、芽生くんはもう起きなかったが、子供部屋で独りで寝かすのではなく、3人で同じ布団で眠った。芽生くんを真ん中に僕たちは手を繋ぎあった。あの日の原っぱのように。
「今日は瑞樹も頑張ったな。偉かったぞ」
不意打ちで宗吾さんに頭を撫でられ褒められて、感極まって泣きそうになったのを必死に堪えた。すると、また笑われた。
「ふっ、泣き虫瑞樹だな。でも泣いてもいいぞ。今日はさ……緊張しただろう。玲子の実家は針のむしろで、一挙一動を見られて疲れただろう」
「いえ……あ、少しだけ。でも玲子さんが凜としていて……あぁそうだ。玲子さんも、強くて優しい人ですね」
「あいつが? そうか……確かに最近は親の言いなりでもないみたいだな。自分の意志で年下旦那を養っているらしいし、まぁ頼もしい奴だよ」
「やはり強くて優しい人です。本当は玲子さんだって、一時の感情で離れてしまいましたが、芽生くんをとても愛しているのに、僕にバトンタッチしてくれました」
「そうだな。芽生の礎を作ってくれたのは玲子だから、まぁ……良い関係でいたいよな」
「はい」
「よし、もう玲子の話はここまでだ。俺は瑞樹とキスしたい!」
あからさまに求められて、照れくさくなった。
しかし同時に嬉しくなった。
僕がいたい場所はここで、僕はここに居ていいのだ。
「はい……」
芽生くんの頭上で、お休みのキスを交わした。
「君だけだ。1日中、触れたくなるのは……」
擽ったい言葉ばかりで、照れくさい。
「あの、あまり甘やかさないでください」
「君はもっと俺に甘えていい。俺も甘えるからさ」
「……はい」
こんなにも堂々と甘えていいと、甘えたいと言える仲になったのか。
僕たちは――
そのまま僕たちのいる玄関に向かって突進してくる。
あぁ……芽生くん、また泣きそうな顔をしている。でも頑張った後の、いいお顔だよ。
僕は宗吾さんの鞄をさり気なく受け取った。
彼は軽く頷いて、それからグッと屈んで芽生くんをキャッチし高く掲げた。
「ただいま! ほらっ、高い高いだぞ~」
「わ! パパ! すごい~! わーい、わーい」
芽生くんは天井に着きそうな程、高く掲げられて、そのまま宗吾さんの胸元に抱きしめられた。
「芽生、今日はがんばったな。えらかったぞ」
「パパ……ボク、すっごくがんばったんだよ」
「あぁ、偉かった。ひとりでよく出来た」
「うん、うん」
宗吾さんが褒める称えると、芽生くんは、ほわんと嬉しそうな表情になり胸元に顔を埋めた。
恥ずかしいのと嬉しそうなので、溺れそうな様子だ。
可愛いな……まだたった6歳の幼児だ。これからはもっと年相応に過ごして欲しい。僕にも、もっと我が儘を言ってくれていい。我慢しないで欲しい。
思春期・反抗期がやって来ても、良い関係を維持できるように、僕も芽生くんの成長をしっかり受け止めるから、遠慮しないで。
****
「じゃあ、みんな、おやすみなさい」
「母さん、今日はありがとうな」
「頑張ったのは芽生と、花を届けてくれた瑞樹よ」
「あぁ、そうだな」
その後夕食をご馳走になって、僕たちは帰路についた。
「パパぁ~だっこ。おんぶして」
もう疲れ果てた芽生くんが、目を擦りながら宗吾さんの足元にくっついて来た。
「宗吾さん、荷物、僕が持ちます」
「あぁ、悪いな」
宗吾さんにおんぶされた芽生くんは、数分で眠りに落ちてしまった。
「芽生くん……やっぱり眠ってしまいましたね」
「あぁ、今日は3人で眠ろう」
「はい!」
夕食の間も芽生くんは宗吾さんの膝に乗ったり、べったりだった。父親の存在の偉大さを、ひしひしと感じる一時だった。
函館の家には、既にお父さんはいなかったので、僕の記憶の中の父親はひとりだ。僕の大沼の母は活発な女性で、写真家の端くれだったようだ。とても明るくポジティブでアクティブな人だった。宗吾さんに似ているのかな。そういえば、僕の父は何をしていたのかな。殆ど記憶が少ない。小学生くらいでは、父の職業にあまり関心を持たないものなのかな。
宗吾さんと芽生くんの後を歩きながら、父の記憶をたぐり寄せてみると、思い出したのは、広くて逞しい背中だった。
どうやら遠い昔、僕も今の芽生くんみたいにおんぶされたようだ。
『お父さん……お父さん、おんぶして』
小さな僕の声が聞こえるようだ。
「瑞樹、どうした? ぼんやりして」
「あ……その、僕の父親ってどんな人だったのかなと、ふと気になって」
「そういえば……函館の家のお父さんは、瑞樹が行った時には亡くなっていたんだよな」
「えぇ、だから大沼の父だけです。僕は母方の遠い親戚の家に引き取られたので、母が函館出身だったのは知っていますが、父はどんな人だったのでしょう……ね」
「……そうか。それもおいおい知っておくといいな。自分のルーツは知りたくなるものさ」
「そうですね。また一つ来年の楽しみが増えました」
「最初の楽しみは軽井沢に旅行だぞ、忘れていないよな」
「はい! 久しぶりにスキーが出来るのが楽しみです。そうだ、スノボにも挑戦してみませんか」
「えぇ? おいおい、あんまりハードルをあげないでくれよぉ~」
宗吾さんはギョッとした様子で、肩を竦めていた。
「瑞樹……もうすぐ年が明けるな」
「はい。激動の年でしたが、最後はこんな穏やかな帰り道って、いいですね」
「あぁ、来年はまるごと一年、一緒にいような」
「あ、はい! 喜んで……」
「ふっ、君のその返事、いつ聞いても心地良いよ」
その晩は、芽生くんはもう起きなかったが、子供部屋で独りで寝かすのではなく、3人で同じ布団で眠った。芽生くんを真ん中に僕たちは手を繋ぎあった。あの日の原っぱのように。
「今日は瑞樹も頑張ったな。偉かったぞ」
不意打ちで宗吾さんに頭を撫でられ褒められて、感極まって泣きそうになったのを必死に堪えた。すると、また笑われた。
「ふっ、泣き虫瑞樹だな。でも泣いてもいいぞ。今日はさ……緊張しただろう。玲子の実家は針のむしろで、一挙一動を見られて疲れただろう」
「いえ……あ、少しだけ。でも玲子さんが凜としていて……あぁそうだ。玲子さんも、強くて優しい人ですね」
「あいつが? そうか……確かに最近は親の言いなりでもないみたいだな。自分の意志で年下旦那を養っているらしいし、まぁ頼もしい奴だよ」
「やはり強くて優しい人です。本当は玲子さんだって、一時の感情で離れてしまいましたが、芽生くんをとても愛しているのに、僕にバトンタッチしてくれました」
「そうだな。芽生の礎を作ってくれたのは玲子だから、まぁ……良い関係でいたいよな」
「はい」
「よし、もう玲子の話はここまでだ。俺は瑞樹とキスしたい!」
あからさまに求められて、照れくさくなった。
しかし同時に嬉しくなった。
僕がいたい場所はここで、僕はここに居ていいのだ。
「はい……」
芽生くんの頭上で、お休みのキスを交わした。
「君だけだ。1日中、触れたくなるのは……」
擽ったい言葉ばかりで、照れくさい。
「あの、あまり甘やかさないでください」
「君はもっと俺に甘えていい。俺も甘えるからさ」
「……はい」
こんなにも堂々と甘えていいと、甘えたいと言える仲になったのか。
僕たちは――
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