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成就編
白銀の世界に羽ばたこう 21
「宗吾さん、そろそろ上から滑ってみましょうか」
歩く練習と坂道を登る練習は積んだので、次のステップだ。
「おう! 瑞樹コーチ、よろしくな」
「上達への早道は、初心者の間にボーゲンでしっかり滑ることなんです。だから、まずは僕の真似をして下さいね」
僕もスキーをするのは3年ぶりだが、身体はしっかり感覚を覚えていた。
「ボーゲンの基本姿勢は、このようにスキー板で作る『ハの字』です。まず板を平行にして直立してみて下さい」
「これでいいか」
「はい!」
宗吾さんはまだ板の扱いに慣れていないので、動きが鈍い。だがエッジを効かせるのは覚えたので、坂道あから転げ落ちなくなった。さっきから何度も視界から消えたので、相当体力を使ったはずだが、まだまだ元気そうだな。やっぱり宗吾さんって。
「おーい、瑞樹、オレはタフだと言ったろう。さぁ次を教えてくれ」
「あ、はい!」
僕の頭の中を覗かれているみたいで不思議だ。これって以心伝心
なのかな。そのタフを午後も維持できると良いのですが……夜にはきっと足腰立たなくなっていますよ、とは言えなかった。きっとマッサージコースだろうと密かに思う。もしも……明日動けなくなっていたらどうしよう? 宗吾さんを誰が担ぐのかな?
「おいおい、君のその想像は全部いらぬ心配だ。オレがこの程度でバテるはずないぞ。夜への余力はちゃんと残してあるから、安心しろ」
わ、やっぱり、全部見透かされているようだ!
「そ、そうですね! じゃあどんどん覚えましょう。次は板の先、トップはそのままで、このように板の後ろのテールを少し開いて下さい。『ハの字』に見えますよね。これがボーゲンの基本形なので覚えて下さいね」
「了解! コーチ!」
と言いつつ、宗吾さんの板が前後にずるずると動き出してしまう。
「宗吾さん、また滑り落ちてしまいますよ。太ももの内側に少し力を入れて、エッジを効かせるのを維持してください。実際に斜面で滑ると、最初は怖くて体を後ろに引いてしまいがちです。そんな時は足首に力を入れて、脛《スネ》がブーツの前に当たるような前傾姿勢を。止まる時は、スキー板のトップは維持したまま、テールを外側へ左右均等に押し出し続けると、減速して停止できますよ。出来そうですか」
「あぁ、やってみる!」
緩い傾斜なので、まずは真っ直ぐボーゲンで滑ってもらった。
「わ、わ、わ~‼」
ところが、宗吾さんは思いっきり尻餅をついてしまった。まるでソリで転んだ芽生くんのようだ。でも、すぐに起き上がる。次は前傾姿勢になり過ぎて、前に倒れてしまった。
今度はかなり痛そうだ。子供なら重心が低いのでマスターしやすいが、宗吾さん程の身長になると大変なのだ。
「大丈夫だ。もう一度やるぞ]
「頑張って下さいね、倒れる時はお尻で」
「わわわ、今度は止まらないぞ」
宗吾さんは何度も転んでは起き上がり、雪塗れになりながら、次第に上達していった。
何事も諦めないところが、彼らしい。きっと宗吾さんは、いくつになってもガンガン攻めまくる、前のめりな人なんだろう。
(ふと、いつも抱かれる時の彼の激しい腰の動きを思い出し、頬が火照ってしまった。あぁ……まずいな。猛烈に恥ずかしくなってきた。僕……やっぱりヘンだ。これは『宗吾さん化現象』というのでは?)
「おーい、瑞樹、見てくれたか。今のは上手く止まれたぞ!」
「あ、はい! では次はターンを教えますね」
「おう!」
「ターンする時は板を回すのではなく、視線と身体、つまり肩や腕をまわすと自然と板が回りますよ」
「なるほど、じゃあ右に行きたい時は、左肩と左腕を大きく右前に出せば曲がれるのか」
「はい、そういうことです」
なるほど、大人なので理解は早いな。僕も教えることに集中しよう! 早く一緒に滑りたいから。
「おお~曲がれたぞ!」
「お上手です!」
宗吾さんはのみ込みが早く、転ぶ回数も減ってきた。でもまだ油断すると、ドスンっと尻もちをついてしまう。今回はなかなか起きられないようなので、怪我でもしたのかと焦って駆けつけた。
「だ、大丈夫ですか」
シュッとスキーを走らせ彼の元へ行くと、眩しそうに見つめられ、照れ臭くなった。
あ……普段とは違う眼差しだ。宗吾さんには雪山がよく似合う。(スキーの腕前は置いておいて)、逞しい雪山と宗吾さんって絵になるから、僕も惚れた弱みで、うっとりと見惚れてしまった。一方宗吾さんも、惚れ惚れと僕を見つめている。
スキー場で、男同士でこんなに熱く見つめ合っては変なのに、瞳の求心力がすごい。
「瑞樹の滑りはキレイだな。あとで上級者コースに行ってこいよ。君が颯爽と山を滑り降りる姿を見せてくれ」
「ありがとうございます」
「それに比べて彼氏がこんなスキー下手で……大人でこんなに転びまくっている奴って、他にいないだろう?」
「そんなことないですよ。ほら、あそこもちょうど成人男性同士で教え合っている人がいます」
「本当だ。珍しいな。おうおう、遠目でよく見えないが、細い子の方が転びまくってるな。って、人ごとじゃないが」
「そうですね。初心者のようです。相手はかなり上手そうです」
「ふーむ、俺も負けずに頑張るぞ」
宗吾さんは恐れを知らない挑戦し続ける男だ。
転んでも転んでも、何度も忠実に僕の教えを再現してくれたので、短時間で綺麗なボーゲンが滑れるようになった。
「とても上手になりましたね。『転んだ数だけスキーが上達する』といいますが、まさにそれです! もうスキーとブーツが自分の体と一体化したように感じているのでは?」
「瑞樹は褒め上手で教え上手だな。転びまくったが、達成感があるな」
キュンとする。宗吾さんが困難に向かって何度もトライする姿、乗り越えていく姿に、僕は元気をもらった。
そうか……もう、いい大人だからと遠慮することないのだ。物事に全力投球できるのは、子供だけの特権ではない。僕もまだまだこれからだ。
今まで『僕だけ幸せになってはいけない』と我慢し、一歩引いてしまっていた分、これからの人生は、全力で向き合いたい。
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