幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
617 / 1,871
成就編

白銀の世界に飛び立とう 27

「パパぁ……お兄ちゃん……まだかな?」
「そうだな、ちょっと遅いな」
「やっぱり……?」
 
 あ……まずいな、余計なことを言ったか。
 途端に芽生が、しゅんと項垂れてしまった。

「なぁに、潤と山頂で雪合戦でもしているんじゃないか」

 うーむ、これは無理があるか。

「そうかな……なら、いいんだけど」
「どうした?」

 気のせいか、目が潤んでいるような……
 しゃがみ込んで、芽生と視線を合わせた。

 俺は背が186 cmもあって、まだ120 cmにも満たない芽生の表情が掴めない時がある。いつも瑞樹がするように、芽生と同じ高さで顔を付き合わせてやると、ホッとした表情となった。

「言ってみろ。何が心配なんだ?」
「あのね……お兄ちゃんが行ったお山の上って、あそこ?」

 芽生が指さす山頂方向は、雲がかかってよく見えなかった。

「高いところだね……お空にいる……ナツキくんと近いなぁって」
「え?」

 驚いた。そんな言葉が出てくると思わなかったから。

「お兄ちゃん……もう、ここに帰ってこなかったらどうしよう。こわいよ……パパ」

 べそをかきそうだったので慌てて抱っこし、そのまま立った。少しでも高い場所から、スキー場の景色を見せてあげたい。

「ちゃんと戻ってくるさ。ほら、よく見えるだろう? 瑞樹を探してくれ」
「うん……、そうだよね。あっ、あれ! おにいちゃんだ」
「お? 戻ってきたか」
 
  中腹のあたりにパッと現れた白いスキーヤーと黒いボーダーは、瑞樹と潤だった。(間違えるはずがない!)

 二人は息を合わせて、軽快に滑り降りてくる。目を見張る程の綺麗な滑りに、周りの人が響めくほどだ。賞賛の溜息が聞こえてくる。

「見て、あそこ……めちゃくちゃ綺麗な滑りの二人組」
「ボードの子、格好いい~」
「白い子の滑りはエレガントね」
 
 驚いたな! 瑞樹のスキーが上手いのは聞いていたが、ここまでとは。広いスキー場には、沢山のスキーヤーやボーダーがいるが、彼らの周りだけキラキラと輝いている。

 俺たちのいるキッズパークまで、最後は真っすぐに、潤と瑞樹が併走してくる。
 
 美しい直線、美しいシュプールを描く、まるでドラマのワンシーンのような、光景だった。

 芽生がたまらずに手を振り、大きな声で瑞樹を呼んだ.

「お兄ちゃん! ジュンくーん! ここだよ、ボクはここ!」
 
 瑞樹はすぐに俺たちに気付き、口角をキュッとあげ、手をさっとあげて指さした。その方向は、キッズパークの入り口だな。

「行くぞ! あっちだ」

 ここだとフェンス越しの対面になるので、俺は芽生を抱き抱えたまま急いで移動した。瑞樹たちも入り口までぐるっと回ってくれたので、ちょうど良いタイミングで会えた。

「お兄ちゃん! おかえりなさい」

 芽生は両手を広げ、瑞樹の胸元に飛び込みたそうな様子だった。すぐに瑞樹はゴーグルを上げストックを雪にさして、芽生を抱き上げてくれた。

「芽生くん! ただいま!」
「お兄ちゃん、すごい、すごい! かっこよかったー。ボクのじまんのお兄ちゃんだよ。みんな見てたよ。お兄ちゃんとジュンくんのこと、かっこいいって言ったよ」

 目立つのが苦手な瑞樹は、少したじろいでいたが、その後、芽生に格好いいところを見せられたのが嬉しいようで、破顔した。

 そこでようやく俺と目が合った。

「宗吾さん、ただいま」

 ただいま……か。良い言葉だ。芽生が案じていた不安は、実は俺もちらっと思っていた。山頂は綺麗だったろう? 現実離れしている景色に……もしかして天国の家族を思い出したのではと。少し目元が赤いのは……やはり?

 いや、無理もない。天国に近い場所に行けば、自然と思い出すだろう。それを俺に止める権利はない。

「それで……ちゃんと会えたのか」
「え?」

 気が付くと妙な聞き方をしていた。俺も心が狭い。瑞樹はすぐに俺の意を汲んでくれて……

「いえ……会いませんでしたよ。その代わり、僕の分身が天まで羽ばたいてくれました。僕が戻る場所はここですから」
「そうか、ここか」
「はい! 僕のホームです」

 俺のいる場所が、瑞樹が戻る場所。そう言われて、心底嬉しかった。

 隣で潤が、俺たちの会話を静かに見守っていた。

「……宗吾さん、兄のこと、どうかよろしくお願いします」

 ヘルメットを取った潤に一礼され、気が引き締まった。もう大丈夫だ。瑞樹は、潤の大事な兄さんになったのだなとしみじみと感じた。
  
「パパー、ボクもスキー、やってみたい! リフトも乗ってみたい」
「えぇっ? 瑞樹……大丈夫かな」
「もちろんです! 子供の方が重心が低いのでバランスが取りやすいんですよ。今から、早速教えますね」
「やったー! お兄ちゃんコーチ、どうぞよろしくおねがいしましゅっ。あっ」
「くすっ」

 また舌を噛んだのか、頬を擦りながら、芽生が屈託のない晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。

 夕暮れまであと2時間だ。

「よし、芽生、車からスキー道具を取ってくるから待ってろ」
「ジュンくん、よろしくお願いします!」
「はは、今度は上手に言えたな」
 
  潤が芽生の頭を、くしゃっと撫でる。

 こういう光景はいい。実の子供でなくても……こんなに近い距離で触れ合えて、共に思い出を作れるのだ。

 瑞樹だけでない。

 俺は……瑞樹の周りごと、愛おしい。

 瑞樹といると、俺の心も大空のように広くなるよ。

 スキー場の樹木には、雪の花が咲いている。

 どこまでも広がる白い世界で優美に微笑む瑞樹は、とても幸せそうだった。


感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)