628 / 1,871
成就編
アフタースキーを楽しもう 5
「ずっとこの手を繋いでいたいが、まずは息子の腹を満たさないとな」
「あの、僕も手伝いましょうか」
「いや、君は危なっかしいから、少し離れていろ」
「はい、じゃあ、あそこのベンチで見ていますね」
「あぁ、そうしてくれ!」
夕食はログハウスのテラスでBBQ。
外は極寒だが、炭火の熱で、暖を取れる。
「パパ、ソーセージ、おいしそう!」
「おぉ、いい焼き加減になったな。沢山食べろ」
「うん! わぁ、皮がパリパリでおいしい~!」
芽生くんは焼き立てのソーセージやお肉を、次々にパクパク・モグモグと頬張っていた。
くすっ、よほどお腹空いていたんだね。今日は朝からずっと動いていたから、一杯食べて欲しいな。
「瑞樹も、そろそろこっちに来い」
「あ、はい!」
宗吾さんが大きなトングでお肉を忙しくひっくり返しながら、呼んでくれた。嬉しい……。歩み寄ると、近くにいた芽生くんが、僕の手をすぐに握ってくれた。
「お兄ちゃん、あそこを見て!」
「あ……綺麗だね」
「瑞樹、あれは、スノーキャンドルと言うそうだ」
バルコニーから雪原を見ると、小さなかまくらのようなものが並んでいた。筒状に抜いた雪の中に明かりを灯しており、それがいくつも並んで、幻想的な光景を生み出していた。
ゆらゆらと揺れるオレンジの炎に、ふと懐古的な気分になってしまった。
思わずバルコニーの手すりを掴んで身を乗り出すと、空からは淡い雪が舞い降りてきた。都会ではなかなか見られない綺麗なスノーフレークに、思わず手を伸ばす。
すると背後から声をかけられた。
「どうだい? 綺麗だろう」
「あ……北野さん。はい、スノーキャンドルに優しい雪が降り積もる光景にうっとりしていました。それに……どこか懐かしい光景ですね」
「懐かしいか。確かに……心の灯火のようなゆらぎだな。人はこういう明かりを好むが、何故だか分かるか」
「……いえ」
「ゆらぐ炎は、お盆の灯火と似ていて、あの世とこの世を繋いでいるようにも見えるし、人の命にも見えるからさ」
「あ、確かに……」
もちろん、それも一理あるが、僕には一軒一軒の家の灯りに見えた。
家から漏れる白熱灯の色に似ている。柔らかくあたたかな光源だ。
僕たちの家、函館の家、宗吾さんのご実家、憲吾さんの家。それから月影寺のみんな……優也さんの家もある。
僕の大切な人たちの家が、並んでいる。
いつの間にか、ひとりぼっちで孤独だと思っていた僕の周りは、こんなにも賑やかになったのか。
「宗吾さん。君も来てくれ」
僕が目を細めてスノーキャンドルを見つめていると、北野さんが宗吾さんを呼んだ。
「どうしたんですか。瑞樹に何か」
「いや、今日はもっと彼の傍にいてあげるといい」
「え?」
「さーてと、芽生くんは、そろそろ慣れたかな? あっちで、うちの子と遊んでみるか」
僕と手を繋いでいる芽生が一瞬強張った。
うーん、まだ駄目かな?
「芽生くん、どうする? 行けそうかな?」
芽生くんに優しく聞いてみると、次の瞬間、表情がコロッと変わり、一気に好奇心旺盛な顔になっていた。
「えっとね、あそんでみたい!」
芽生くんも、その気になっていた。今日はずっと大人の中にいたから、同年代の子と遊ぶ時間も大切だよね。
「メイくん、こっちにおいでよ。今から、マシュマロを焼くよ」
「わーい、えっとトーマくんとユーマくんだよね」
「そうだよ~、早く早く!」
「うん!」
パッと繋いでいた手が、突然離された。
芽生くんが場に馴染んでいく様子を、宗吾さんと肩を並べて見送った。
こんな風に、この先……芽生くんも少しずつ成長し、巣立っていくのだろう。空になった手をじっと見つめていると、すぐに宗吾さんが握りしめてくれた。
「どうやら北野さんが、さりげなく俺らが睦み合う時間をくれたようだな」
「え……」
「瑞樹、あっちでゆっくり食べて、飲もうぜ」
「あ、はい」
ログハウスのテラスに用意された*スウェディッシュトーチ前のベンチに、僕らは肩が触れ合う距離で座った。
タイミングよく、潤が大盛りのプレートを目の前に持って来てくれた。
「宗吾さん、兄さん、お疲れさまっす。これどうぞ! 後はゆっくり食べてください」
「ありがとう。潤」
ソーセージやお肉、野菜のグリルが、美味しそうに盛り付けられていた。
「あと、これも、どうぞ!」
「何?」
「兄さん、ウイスキー飲める? 冬場のBBQは冷えるだろう。飲めば身体が温まるよ」
「おぅ! 気が利くな。ありがとう」
「いえ、当然ですよ。二人でアフタースキーを楽しんでください!」
「そうか、いよいよアフタースキーの時間の到来だな、瑞樹……」
潤が去った後、肩を抱かれて甘く囁かれ……ドキドキが止まらない。
*『スウェディッシュトーチ』とは、切り込みを入れた丸太に直接火をつけて作った焚き火のことです。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。