648 / 1,865
成就編
幸せな復讐 2
しおりを挟む
「お兄ちゃん、何を飲む?」
「あ……コンソメスープを」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「う、うん」
飛行機の中で、また緊張して来てしまった。まずいな……こんな調子で本当に行けるのか。コンソメスープを飲んでいる間も、指先が冷たいままで震えていた。
「お兄ちゃんって旅行に行く時、いつもこうなっちゃうの? この前もそうだったね」
「あ……」
「もしかして、ひこうきや、しんかんせんがこわいの?」
「え……」
「帰りは平気だったから、きっとなれるのに時間がかかるんだね」
以前に似たようなことを言われた気がした。
誰にだったかな?
「大丈夫。ボクが手をつないでいてあげるよ、ほら」
芽生くんが小さな手で、僕の手を握ってくれた。
小さな手なのに、体温が高いせいので温かい。
「芽生はやるな。瑞樹、俺にもたれていいぞ」
「ありがとうございます」
窓際の芽生くんと手を繋ぎ、通路側の宗吾さんにもたれて、時間が過ぎるのを待った。
「いいから、少し眠っていろ。どうせ君は昨夜あまり眠れなかったのだろう」
「うぅ……すみません」
宗吾さんには何でもお見通しのようだ。昨日、宗吾さんの横で眠ったのに、夜中に目が覚めてから寝付けなかった。
一馬……
お前は……今頃どんな気持ちだ?
僕が今日お前の目の前に現れることは、予約時の名前で気付いているだろう。
もう口に出して呼ぶことはない相手のことを、つい考えてしまった。僕って最低だ。宗吾さんの横で眠りながら、前の彼氏のことを考えるなんて。
一馬との恋愛は……7年にも渡り続いた。
大きな喧嘩もなく、ただ同じ場所に戻って来ては、肌を重ねた。
前向きにはなれない僕だったが、真剣だった。あの時はあの時で……
互いに大喧嘩して別れたわけでもなく、最後まで求め合って別れた。
進む道が分かれたから……別れたんだ。
あいつ……最後まで馬鹿みたいに僕を気遣って……
だから、好きだったんだな。憎み切れなかった。
まだ夜も明けきらない寝室で、ひとり膝を抱えて考えてしまった。
「瑞樹、ほら、また考え込んで……心を無にして眠れよ」
「はい……」
僕が進む道はひとつ。僕がいる場所はここだ。
「おにいちゃん、大丈夫だよ」
芽生くんが、キュッと握る手に力をいれてくれると、また一つ思い出が戻ってきてくれた。
……
『みずき? あら、また酔っちゃったの』
『ママ……きもちわるい』
『いつもあなたは初めての場所や、久しぶりの乗り物に弱いのね』
『うっ……』
『 おいで』
母が背中を撫でてくれると、ふっと楽になった。
『もう大丈夫よ』
おまじないのような言葉。
その後、うとうとしていると、両親の会話が聞こえていた。
「瑞樹は少し神経が過敏すぎないか」
「この子は感受性が強い子なの。 だから初めてのことに弱いけれども、慣れてしまえばどこまでも深い情で接していける、優しい子よ」
「そうだな。俺たちが瑞樹が独り立ちできるまで、しっかり傍にいてやろうな」
「うん……この子が生まれたら、きっといいお兄ちゃんとして頑張っちゃうんだろうな、瑞樹」
僕の話を両親がしていた。僕は4歳か5歳……? 夏樹がお腹にいる時に、飛行機に乗って、どこかに旅行したんだ。どこに行ったのかまでは思い出せないが、その次の母の言葉を思い出した。
「弟か妹が生まれても、たっぷり甘えてもらうつもりよ。恥ずかしがっても、無理矢理抱っこしちゃう!」
ひとつのことがきっかけで、次々と飛び出してくる思い出の欠片は、両親の愛の軌跡だった。
「そうしてやってくれ。俺もそうしてもらいたいな」
「んふふ、あなたも抱きしめてあげる。いつまでも、いつまでも」
「ありがとう。俺もお前が好きだ。そして瑞樹を産んでくれてありがとう」
あ……そこまで思い出して、涙が零れてしまった。
「瑞樹、また一つ思い出せたのか。幸せな欠片を」
「宗吾さん、僕はとても愛されて育った子供だったのです」
「そうだろうな。だからこんなにいい子に育った。だから……瑞樹が育てる芽生もいい子に育っているのさ」
宗吾さんがそっとタオルハンカチで涙を拭いてくれ、明るく笑ってくれた。
「いい旅になるよ。大丈夫」
宗吾さんの台詞は、父と母が僕の手を握って言ってくれた言葉と……全く同じだった。
「あ……コンソメスープを」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「う、うん」
飛行機の中で、また緊張して来てしまった。まずいな……こんな調子で本当に行けるのか。コンソメスープを飲んでいる間も、指先が冷たいままで震えていた。
「お兄ちゃんって旅行に行く時、いつもこうなっちゃうの? この前もそうだったね」
「あ……」
「もしかして、ひこうきや、しんかんせんがこわいの?」
「え……」
「帰りは平気だったから、きっとなれるのに時間がかかるんだね」
以前に似たようなことを言われた気がした。
誰にだったかな?
「大丈夫。ボクが手をつないでいてあげるよ、ほら」
芽生くんが小さな手で、僕の手を握ってくれた。
小さな手なのに、体温が高いせいので温かい。
「芽生はやるな。瑞樹、俺にもたれていいぞ」
「ありがとうございます」
窓際の芽生くんと手を繋ぎ、通路側の宗吾さんにもたれて、時間が過ぎるのを待った。
「いいから、少し眠っていろ。どうせ君は昨夜あまり眠れなかったのだろう」
「うぅ……すみません」
宗吾さんには何でもお見通しのようだ。昨日、宗吾さんの横で眠ったのに、夜中に目が覚めてから寝付けなかった。
一馬……
お前は……今頃どんな気持ちだ?
僕が今日お前の目の前に現れることは、予約時の名前で気付いているだろう。
もう口に出して呼ぶことはない相手のことを、つい考えてしまった。僕って最低だ。宗吾さんの横で眠りながら、前の彼氏のことを考えるなんて。
一馬との恋愛は……7年にも渡り続いた。
大きな喧嘩もなく、ただ同じ場所に戻って来ては、肌を重ねた。
前向きにはなれない僕だったが、真剣だった。あの時はあの時で……
互いに大喧嘩して別れたわけでもなく、最後まで求め合って別れた。
進む道が分かれたから……別れたんだ。
あいつ……最後まで馬鹿みたいに僕を気遣って……
だから、好きだったんだな。憎み切れなかった。
まだ夜も明けきらない寝室で、ひとり膝を抱えて考えてしまった。
「瑞樹、ほら、また考え込んで……心を無にして眠れよ」
「はい……」
僕が進む道はひとつ。僕がいる場所はここだ。
「おにいちゃん、大丈夫だよ」
芽生くんが、キュッと握る手に力をいれてくれると、また一つ思い出が戻ってきてくれた。
……
『みずき? あら、また酔っちゃったの』
『ママ……きもちわるい』
『いつもあなたは初めての場所や、久しぶりの乗り物に弱いのね』
『うっ……』
『 おいで』
母が背中を撫でてくれると、ふっと楽になった。
『もう大丈夫よ』
おまじないのような言葉。
その後、うとうとしていると、両親の会話が聞こえていた。
「瑞樹は少し神経が過敏すぎないか」
「この子は感受性が強い子なの。 だから初めてのことに弱いけれども、慣れてしまえばどこまでも深い情で接していける、優しい子よ」
「そうだな。俺たちが瑞樹が独り立ちできるまで、しっかり傍にいてやろうな」
「うん……この子が生まれたら、きっといいお兄ちゃんとして頑張っちゃうんだろうな、瑞樹」
僕の話を両親がしていた。僕は4歳か5歳……? 夏樹がお腹にいる時に、飛行機に乗って、どこかに旅行したんだ。どこに行ったのかまでは思い出せないが、その次の母の言葉を思い出した。
「弟か妹が生まれても、たっぷり甘えてもらうつもりよ。恥ずかしがっても、無理矢理抱っこしちゃう!」
ひとつのことがきっかけで、次々と飛び出してくる思い出の欠片は、両親の愛の軌跡だった。
「そうしてやってくれ。俺もそうしてもらいたいな」
「んふふ、あなたも抱きしめてあげる。いつまでも、いつまでも」
「ありがとう。俺もお前が好きだ。そして瑞樹を産んでくれてありがとう」
あ……そこまで思い出して、涙が零れてしまった。
「瑞樹、また一つ思い出せたのか。幸せな欠片を」
「宗吾さん、僕はとても愛されて育った子供だったのです」
「そうだろうな。だからこんなにいい子に育った。だから……瑞樹が育てる芽生もいい子に育っているのさ」
宗吾さんがそっとタオルハンカチで涙を拭いてくれ、明るく笑ってくれた。
「いい旅になるよ。大丈夫」
宗吾さんの台詞は、父と母が僕の手を握って言ってくれた言葉と……全く同じだった。
13
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
インフルエンサー
うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。
※pixivにも投稿しています
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる