幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
680 / 1,865
成就編

幸せな復讐 34

しおりを挟む
 宿の送迎バスで、再び由布院駅前に戻って来た。

 見上げれば春らしい晴天。

 ぽかぽかとした日差しが、優しく降り注いでいる。

 真っ青な青空に、なだらかな山並み。

 都会のように高い建物もなく、空気もとても澄んでいたので深呼吸した。

「さぁ、今日は夕方までゆっくりと由布院を観光をするぞ」
「宗吾さん、何か予定があるのですか」
「いや、ない! しいていえば『なるようになるさ』かな。とにかくメインの用事は達成したようだし……この先は家族でのんびりしたいな」
「あ、はい! そうですね」

『なるようになるさ』か。

 宗吾さんはいつもゆったり構えて、いい事を言う。
 
 確かにいつも仕事で時間に追われている僕には、こんな何も予定がない日が必要なのかもしれない。

 宗吾さんと出会った日に提案してもらった『幸せな復讐』も無事に達成出来たのだから。

 一馬がファインダー越しに見た光景。

 あれが全てだ……今の僕だよ。

 一馬とも意識せずに、和やかに話せて良かった。
 
「パパ、あれ見て! お馬さんだ」
「おぅ、さすが芽生。めざといな」
「お兄ちゃん、来て来て-」
「あっ、うん!」

 目の色を変えた芽生くんにグイグイと手を引っ張られたので、僕も小走りになった。

 うん! こんな風に少し早く景色が変わるもの、子供の目線になるのも新鮮だ。

 自分の速度だけではない日々も、いいね。

「いいなぁ……あれ、乗りたいなぁ」

 芽生くんが目を輝かす先には『観光辻馬車』と看板があり、真っ白な馬がいた。

「なるほど。面白そうだな。瑞樹、せっかく来たのだから乗ってみよう!」
「そうですね。こういうの僕も初めてです」
「ちょうどあと5分で予約開始時間だぞ。よし! 俺が切符を買ってくるよ」
「お願いします!」
 
 相変わらず、宗吾さんの即断力と行動力には感心するよ。僕だったらこんなスピードでは決められない。

「お兄ちゃん、たのしみだね」
「うん!」
「ワクワクするね」
「僕もわくわくしているよ」
 
 芽生くんの素直な感情が、僕も素直にしてくれる。

 人だかりに紛れて、白馬を眺めた。

「お馬さんの目って、やさしいね」
「そうだね」
「おにいちゃんの目みたいだよ」
「わ! そうかな? ありがとう!」

 芽生くんと話していると、宗吾さんはチケットを手に意気揚々と戻って来た。
 
「チケット、ギリギリ取れたぞ。さぁ乗ろう!」
「やった! やったぁ!」
 
 パンフレットによると馬車は由布院駅前から出発し、約50分かけてゆっくりと由布院の町を散策し、再び由布院駅へ戻るコースだそうだ。

「ボク、一番うしろがいい。けしきがよく見えるから」
「じゃあ僕が真ん中に座ります」
 
 蹄の音が響くと、ふと故郷を思い出した。
 北海道と九州では吹く風も空気も全く違うが、雄大で牧歌的な景色は同じだ。

 だからなのかな……心がゆったりと癒やされていく。温泉につかっている気分だ。

「お馬さんって、すごい力だね」
「そうだね」
 
  馬車が揺れる度に、僕の身体がメトロノームのように左右に揺れて、優しく芽生くんと宗吾さんの肩に触れるのも嬉しかった。

 だからポックリポックリと進む馬車のゆらぎに、身を任せた。

 どっちに転んでも、あたたかい。

 今の僕は、そんな場所にいる。

「瑞樹、心が解放されるようだな」
「はい……あの……僕、思い切って、ここに来てみて良かったです。あいつと話せてすっきりしました」
「そうだな。やっぱり最後は言葉で伝えるのって大事かもな。今は……人は便利な手段を色々持っているが、顔を突き合わせてこそ得られるものがあるよな。やっぱり」
「はい、そう思いました。朝、一馬と話したんです。いつかまた偶然会ったら、笑って手を振りあえる関係でいようって」
「なるほど、いいこというな。そういうのっていいな」
「はい……なんだか新鮮な気分になりました」
「新しい関係を築けて良かったな」

 宗吾さんと話していると、落ち着く。

 一馬とのこの先は……元恋人でもなく、元友人でもなく、確かな縁があった人という表現がしっくりくるのかもしれない。。

 その縁は『幸せな復讐』から生まれた縁だ。

 ここまで自分の歩んで来た道が、間違っていないと言ってもらえたようで、心が晴れた。

「瑞樹、風が大事なんだよ」
「風ですか……」
「どんなに仲良しで密な関係でも、風通し良くしていないとな」
「あ……はい」

 その通りだ。人の気持ちも毎日少しずつ変化していく。どんなに仲良く上手くやっていた関係でも……時の経過と共に、関係が微妙にずれて変わっていく時もある。
  
  だからこそ少しのゆとりを持ちたい。風が通り抜ける位、心に隙間を持って向き合いたい。そして、これからも季節毎に変化する風を味わいたい。
 
「瑞樹、あそこにもう桜が咲いているぞ」
「あぁ……九州はやっぱり早いのですね。もうこんなに咲いているなんて」

 東京よりも少し早く、北海道よりもずっと早く、南の桜は開花する。

「昨日は宿に籠もっていたから気付かなかったな。桜と菜の花の組み合わせって、のどかだな」
「おうまさん、ぽっくり、ぽっくり~かっぱ、かっぱ~」
 
 馬の蹄の音と、芽生くんの嬉しそうな声をBGMに、由布院の長閑な田園風景を堪能した。10人ものお客さんを乗せて力強く引っ張ってくれる馬にも、元気をもらった。



 いい旅にしよう。

 美味しいものを食べて、美しい景色を見て、一緒に大切な人へ届けるお土産を選んで……

 この地を飛び立つ瞬間まで、思いっきり楽しもう!

 それが旅の醍醐味だ。

  僕にも旅を心から楽しみたいという余裕が生まれていた。

しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...