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成就編
幸せな復讐 37
「わぁ……これは素敵なお土産物やさんですね」
「だろ? ここならいい物が見つかりそうだろう」
「はい! あ、あの……」
「なんだ?」
2階の喫茶店でホットコーヒーと冬の由布岳の見立てた白いチーズケーキを食べた後は、1階の土産物売り場に移動した。旅館の食品や調味料の他に、竹細工や焼き物、木工品など、大分の名産品を取り揃えていた。どれもこの旅館のオリジナルなので、ここでしか買えないものだ。
瑞樹はきっと、こういう物が好きだろう。
今までの俺なら……旅は自分が楽しむのが最優先事項で、後は関係ないと、空港で適当にありきたりのお菓子を見繕ってパパッと買っていた。
「あの……少し選ぶのに時間がかかりそうなんです。素敵な物が多いので迷ってしまいます。いいですか」
「あぁ、もちろんいいよ。まだ時間はあるから、じっくり選べ。っていうか、俺も一緒に選んでもいいか」
「もちろんです! 嬉しいです」
あぁ……またそんなに柔らかく優しく……嬉しそうに笑ってくれるのだな。
君の笑顔はどうしてそんなに可憐なのだろう?
花が咲くように綺麗に笑う顔が見たくて溜まらないよ。
「じゃあ一緒に選ぶぞ」
「ボクもお手伝いする!」
「みんなで選ぼうね」
「はーい!」
贈る相手のことを考える、相手が喜ぶ顔を思い浮かべる。
どれも瑞樹と出会う前の俺には欠けていたことだ。君と過ごすうち気付けたことだ。
自分をふって置き去りにした男すら大切にする……相手の幸せを願う。
そんな生き方があるなんて、知らなかったよ。
心が豊かになるんだ、君と過ごすと……。
こんな俺でも、心の動きに繊細に、敏感になってくるよ。
もちろん俺が引っ張る時は引っ張るが、俺もこういう繊細な時間は、瑞樹の速度に委ねたくなる。
「じゃあ、まずは宗吾さんのお母さんには……」
店内をキョロキョロと目を輝かせて回る様子が可愛くて、俺と芽生はくっついて歩いた。
そうそう……俺も芽生も、瑞樹のファンだ! 君はいつもひたむきで他人に優し過ぎる程だから、瑞樹自身の幸せを応援したくなるよ。
「あ、これはどうでしょう?」
「へぇ、柚子胡椒か。大分は柚子の産地だから名物だな。この旅館のオリジナルで美味しそうだ」
「お母さんの作る和食は優しい味ですが、どこかピリッとアクセントもあって……だから役立つかなと」
「瑞樹、嬉しいよ。母さんの料理の特徴も掴んでくれて」
「あ……はい」
優しい栗色の髪を子供みたいに撫でてやると、擽ったそうな顔を浮かべていた。
「あ……これは、美智さんのところに、どうでしょう?」
「栗蒸し羊羹か。よく覚えていたな、兄貴の好物」
「美智さんも安定期ですし、美味しいものをゆっくりご夫婦で」
「なるほど。それはいいな。赤ん坊が生まれたら、暫くそんな時間をもてないだろうしな」
「あ、じゃあこのカフェインレスのコーヒーもつけませんか」
「セットだな」
「はい」
セットもいいな。まったく別物だが一緒に食べるとしっくりくる物。一緒に並べるとしっくりくる物。そうか、俺と瑞樹もそれを言うなら、セットだな。
「瑞樹、同じセットをうちと函館の広樹にもどうだ?」
「あ! いいですね。みんなおそろいですね」
おそろいと口に出して、瑞樹は本当に嬉しそうな明るい表情になった。
「一緒って、いいですね! 宗吾さん」
「あぁ」
また一緒に店内を歩いた。
「芽生くん、潤には何がいいと思う?」
「わぁ……ボクも一緒にえらんでいいの?」
「もちろんだよ。ふたりで選ぼうか」
瑞樹の優しさは、いつも寂しい心に届く。
それは瑞樹自身が寂しさを知っているから。
芽生は更に優しい子になる……それはもうお墨付きだ!
「うれしいよ! えっとね、えっとね。これは!」
「手ぬぐいだね」
藍色のグラデーションの手ぬぐいには、雪の結晶の模様が入っていた。
「ジュンくん、こういうの、お庭でしそう」
「確かに! 雪の結晶の柄なんて珍しいし、これにしよう」
「えへへ」
芽生の提案が採用されてご機嫌だ。流石、俺の息子よ。センスがいいぞ!
「宗吾さん、あの……函館の母には何がいいでしょうか」
「お? 俺も選ぶのか」
「はい! 一緒に考えてください」
責任重大だな。しかしここは気張らずに心の赴くままに選ぼう。そこで目に入ったのが、高い棚の上にあった繊細な竹細工で出来た一輪挿しだった。瑞樹の視界からは見えなかったかもな。
「瑞樹、これはどうだ?」
「あ……素敵です! お母さん、花を生ける暇もなかったけれども、今はみっちゃんも来てくれて、ゆとりが出来たから」
「そうそう、花一輪でいいし、気軽に始められそうだろ」
「そうですね。これにします。素敵ですね」
はぁ~癒やされる。君との会話って、どうしてこんなに優しいのだろう?
どこまでも、いい気分になるよ。
君は、相変わらず居心地の良い人だ。
「瑞樹にも何か買ってやるよ」
「あ……僕は旅の思い出がいっぱいで、これ以上は持ちきれませんよ」
「ん? 何でもいいぞ。リクエストをしてくれ」
「あの……じゃあ」
少し言い難そうに瑞樹が漏らした言葉は、意外なものだった。
「あの……またいつか、ここにも来てもいいですか。季節を変えて」
「もちろんだ」
「あの……ありがとうございます!」
『幸せな復讐』は、もう終わった。
あとは君の自由だ。
心の赴くままに生きていけばいい。
「さてと、そろそろ時間だな。宿に洗濯物を取りに行くか」
「はい。もう旅も終わりですね」
「タクシーに乗るか」
「いえ、自分の足で歩いていいですか」
「もちろん!」
きっと昨日とは違う景色が見えるだろう!
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