幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
683 / 1,871
成就編

幸せな復讐 37


「わぁ……これは素敵なお土産物やさんですね」
「だろ? ここならいい物が見つかりそうだろう」
「はい! あ、あの……」
「なんだ?」

 2階の喫茶店でホットコーヒーと冬の由布岳の見立てた白いチーズケーキを食べた後は、1階の土産物売り場に移動した。旅館の食品や調味料の他に、竹細工や焼き物、木工品など、大分の名産品を取り揃えていた。どれもこの旅館のオリジナルなので、ここでしか買えないものだ。

 瑞樹はきっと、こういう物が好きだろう。

 今までの俺なら……旅は自分が楽しむのが最優先事項で、後は関係ないと、空港で適当にありきたりのお菓子を見繕ってパパッと買っていた。 

「あの……少し選ぶのに時間がかかりそうなんです。素敵な物が多いので迷ってしまいます。いいですか」
「あぁ、もちろんいいよ。まだ時間はあるから、じっくり選べ。っていうか、俺も一緒に選んでもいいか」
「もちろんです! 嬉しいです」

 あぁ……またそんなに柔らかく優しく……嬉しそうに笑ってくれるのだな。

 君の笑顔はどうしてそんなに可憐なのだろう?

 花が咲くように綺麗に笑う顔が見たくて溜まらないよ。

「じゃあ一緒に選ぶぞ」
「ボクもお手伝いする!」
「みんなで選ぼうね」
「はーい!」

 贈る相手のことを考える、相手が喜ぶ顔を思い浮かべる。

 どれも瑞樹と出会う前の俺には欠けていたことだ。君と過ごすうち気付けたことだ。

 自分をふって置き去りにした男すら大切にする……相手の幸せを願う。

 そんな生き方があるなんて、知らなかったよ。

 心が豊かになるんだ、君と過ごすと……。

 こんな俺でも、心の動きに繊細に、敏感になってくるよ。

 もちろん俺が引っ張る時は引っ張るが、俺もこういう繊細な時間は、瑞樹の速度に委ねたくなる。

「じゃあ、まずは宗吾さんのお母さんには……」

 店内をキョロキョロと目を輝かせて回る様子が可愛くて、俺と芽生はくっついて歩いた。

 そうそう……俺も芽生も、瑞樹のファンだ! 君はいつもひたむきで他人に優し過ぎる程だから、瑞樹自身の幸せを応援したくなるよ。

「あ、これはどうでしょう?」
「へぇ、柚子胡椒か。大分は柚子の産地だから名物だな。この旅館のオリジナルで美味しそうだ」
「お母さんの作る和食は優しい味ですが、どこかピリッとアクセントもあって……だから役立つかなと」
「瑞樹、嬉しいよ。母さんの料理の特徴も掴んでくれて」
「あ……はい」

 優しい栗色の髪を子供みたいに撫でてやると、擽ったそうな顔を浮かべていた。

「あ……これは、美智さんのところに、どうでしょう?」
「栗蒸し羊羹か。よく覚えていたな、兄貴の好物」
「美智さんも安定期ですし、美味しいものをゆっくりご夫婦で」
「なるほど。それはいいな。赤ん坊が生まれたら、暫くそんな時間をもてないだろうしな」
「あ、じゃあこのカフェインレスのコーヒーもつけませんか」
「セットだな」
「はい」

 セットもいいな。まったく別物だが一緒に食べるとしっくりくる物。一緒に並べるとしっくりくる物。そうか、俺と瑞樹もそれを言うなら、セットだな。

「瑞樹、同じセットをうちと函館の広樹にもどうだ?」
「あ! いいですね。みんなおそろいですね」

 おそろいと口に出して、瑞樹は本当に嬉しそうな明るい表情になった。

「一緒って、いいですね! 宗吾さん」
「あぁ」

 また一緒に店内を歩いた。

「芽生くん、潤には何がいいと思う?」
「わぁ……ボクも一緒にえらんでいいの?」
「もちろんだよ。ふたりで選ぼうか」

 瑞樹の優しさは、いつも寂しい心に届く。

 それは瑞樹自身が寂しさを知っているから。

 芽生は更に優しい子になる……それはもうお墨付きだ!

「うれしいよ! えっとね、えっとね。これは!」
「手ぬぐいだね」

 藍色のグラデーションの手ぬぐいには、雪の結晶の模様が入っていた。

「ジュンくん、こういうの、お庭でしそう」
「確かに! 雪の結晶の柄なんて珍しいし、これにしよう」
「えへへ」

 芽生の提案が採用されてご機嫌だ。流石、俺の息子よ。センスがいいぞ!

「宗吾さん、あの……函館の母には何がいいでしょうか」
「お? 俺も選ぶのか」
「はい! 一緒に考えてください」

 責任重大だな。しかしここは気張らずに心の赴くままに選ぼう。そこで目に入ったのが、高い棚の上にあった繊細な竹細工で出来た一輪挿しだった。瑞樹の視界からは見えなかったかもな。

「瑞樹、これはどうだ?」
「あ……素敵です! お母さん、花を生ける暇もなかったけれども、今はみっちゃんも来てくれて、ゆとりが出来たから」
「そうそう、花一輪でいいし、気軽に始められそうだろ」
「そうですね。これにします。素敵ですね」

 はぁ~癒やされる。君との会話って、どうしてこんなに優しいのだろう?

 どこまでも、いい気分になるよ。
 君は、相変わらず居心地の良い人だ。

「瑞樹にも何か買ってやるよ」
「あ……僕は旅の思い出がいっぱいで、これ以上は持ちきれませんよ」
「ん? 何でもいいぞ。リクエストをしてくれ」
「あの……じゃあ」

 少し言い難そうに瑞樹が漏らした言葉は、意外なものだった。

「あの……またいつか、ここにも来てもいいですか。季節を変えて」
「もちろんだ」
「あの……ありがとうございます!」

 『幸せな復讐』は、もう終わった。

  あとは君の自由だ。

  心の赴くままに生きていけばいい。

「さてと、そろそろ時間だな。宿に洗濯物を取りに行くか」
「はい。もう旅も終わりですね」
「タクシーに乗るか」
「いえ、自分の足で歩いていいですか」
「もちろん!」

 きっと昨日とは違う景色が見えるだろう!

感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。