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番外編
その後の三人『さらに……初々しい日々』7
さてと、何から食べようかな。やっぱり卵焼きは大好きだから最後に取っておこう。
これは甘いのか、それとも出汁の味か。いや、どちらでもいい。3人目の母の味を知りたい。程よく焼き目がついていて、本当に美味しそうだ。
じゃあ、肉じゃがから。コロンとしたジャガイモを頬張ると、ホクホクした、こっくりした味わいがすごく美味しい!唐揚げも衣がサクサクでジューシーだ。しかも御飯には、小さな焼き鮭まで!
すごい……。
お母さんがお料理上手なのは知っていたけれども、お弁当も最高に美味しい。
長年、作り慣れているからこその定番の味だと思った。
これを宗吾さんは高校まで毎日食べていたなんて、少し羨ましいな。制服姿の宗吾さんが、アルミのお弁当を抱え込んで、ガツガツと食べている姿を想像して、楽しい気分になってしまった。
宗吾さん、だからあんなにガタイがいいのかな? いやいや、元々の骨格の問題だ。
二十代後半になっても華奢なままの自分の手首が気になった。まぁ……骨格は変えられないもんな。これはこれで、宗吾さんが愛してくれる身体なのだから大切にしたい。
ついには変な方向に行ってしまい、はぁぁ……僕は職場で昼から何を考えているんだと照れ臭くなった。
とにかく、お母さんのお弁当を味わいながら、あれこれ考えて、ひとり楽しい気分になっていた。
すると突然 、金森が目の前に座ってきたので、途端に決まり悪くなった。
金森はいつも外に行くのに、今日に限って一緒なのか。
どんな相手でも対等に接したいと心がけているが、どうしても苦手だ。これはもう相性の問題だろうな。もちろん金森は僕が苦手意識を持っているなど知らないから、馴れ馴れしく、お弁当をじろじろと覗き込んでくる。
「へぇ~葉山先輩が珍しいっすね。弁当なんて」
「あ……金森……うん、そうなんだ」
「うわっ! 渋い弁当箱だなぁ。あー、これってお母さんが作ってくれたんですか」
渋い? 納得がいかなかったが、言い返しても無駄だろう。
「あ、うん」
「やっぱり! 中身も地味ですね」
ますますカチンと来てしまった。滅多に腹を立てることのない僕だが、どうしても許せない。言い返そうと思ったが、ムキになるだけ馬鹿だと思い、そんまま下を向いて黙々と食べ続けた。
金森は相変わらず箸を振り回して、べらべらと話し掛けてくる。
せっかくのお弁当が台無しだ。
もうやめてくれ!
そう叫びたい気分になった。
「葉山先輩、ちょっと顔を上げて下さいよ! ほらほら、俺も今日は外に行く時間なくて、コンビニ弁当なんですよ」
「……そうなんだね」
「あー、葉山先輩の卵焼き、メチャクチャ旨そう! 取り替えてくださいよぉ」
え……それは嫌だ! 絶対に……。
ちゃんと言わないと。
以前のように我慢しない、嫌なことは嫌とちゃんと言いたい。
僕はもう変わる。
意を決して……
「駄目だよ。これは僕のだから、金森は自分のを食べろよ」
ちゃんと言えた!
ところが……金森は何を勘違いしたのか。
「葉山先輩のケチー、先輩なんだから、いいっすよね」
「え?」
箸でヒョイと大切に残していた卵焼きを摘まんで、口にパクッとあっという間に入れて……モグモグと食べてしまった。
「あ……」
あまりに驚いて言葉が出ず、唖然として固まってしまった。
馬鹿……こんなことで泣きそうになるなんて、子供みたいだ。堪えろ……!
「なんだ? これ、甘いな~ 俺は出汁の方が好みですよ」
「お……おい、勝手に……」
「あーすみません。じゃあお詫びに俺の卵焼きと交換しましょ」
コンビニのお弁当に入っていた妙にカタチの整った卵焼きを戻されて、溜め息をついてしまった。
最低だ……。最悪だ。
「それも結構うまいんで食べてみてくださいよ」
「……」
返す言葉もない。話したくない。
「あれぇ、先輩、まさかこんなことで怒ったりしませんよね。子供みたいに」
「……午後、打ち合わせがあるから、早めに失礼するよ」
「そうなんですか。お疲れさま~でーす」
必死に堪えた。
急いでお弁当を鞄に戻し、廊下に出た。
外の空気を吸おう。
泣きたいけれど、泣けない。
せっかく作ってもらえたのに……がっかりだ。
本当にがっかりした。
玄関ロビーで、菅野にすれ違った。
「あれ、葉山、どこへ行くんだ? 今日は弁当だろ?」
「あ……」
まずい所で菅野に会った。一気に気が緩んでしまう。
目元が潤みそうになったのが、バレる前に消えないと。
「えっと……その、コンビニに」
「おい? 待てよ」
菅野を振り切って外に出ると、太陽が眩しかった。
「葉山、隠すな。何があった?」
「……」
「俺には話せよ。なっ……」
「ん……たいしたことじゃないんだ。なんでこんなに怒っているのか……馬鹿馬鹿しいよね」
「いや、人から見たらたいしたことじゃなくても、葉山がそれだけのダメージを受けたのなら、たいしたことだ! 言えって」
参ったな……菅野は本当にいい奴だ。
堪えた心を漏らしたくなる。
コンビニ行く途中のベンチに誘われた。
「葉山、嫌なことあったんだな。もしかして……弁当を誰かに揶揄われた? それとも……」
「……卵焼き……」
「なぬ? 卵焼きを、食われた?」
「え、どうして分かるの?」
「だいたい分かるよ。お前、卵焼き大好きだもんな」
「う……」
「図星か。相手はアレだな、金森の奴ぅぅぅ! 許せん!」
「ん……もういいよ。もう食べられちゃったし、仕方が無い」
諦めモードになっていると、菅野に怒られた。
「馬鹿、滝沢さんのお母さんは元気なんだろ! 諦めないで、また作ってもらえ」
「そんな……悪いよ。今日は特別だったんだ」
「おーい、お母さんに甘えてみろよ、たまには葉山の方からさ」
菅野の意見には驚いた。
宗吾さんにはかなり甘えられるようになったが、僕よりずっと高齢のお母さんにそんな負担をかけさせるわけには……いかないと思っていたから。
「でも……悪いよ」
「いや、俺はこう思うぜ。お母さんにとって弁当作りなんて身体に染み込んだ長年の習慣だ。そんなに負担はないと思うし、久しぶりに作れて楽しかったと」
「そ、そうかな」
「そうだよ。瑞樹ちゃん! 毎日じゃないんだ。美味しかったから、またたまに作って下さいって言ってもいいんだぞ~」
「も、もう」
少しだけ……甘えてみようかな。
卵焼きを食べ損ねてしまったので、また作って下さいと言ってもいいのかな。
「あーほんと葉山は可愛い奴だ! これはお母さんもメロメロだな」
菅野と話せたお陰で、午後に引きずらなくて済みそうだ。
僕は友人にも恵まれている。
「菅野……あの、励ましてくれて、ありがとう」
「はは、よせやい。照れるぜ~」
大切にしたい友人だ。
ありがとう……
もう一度心の中でお礼を言った。
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