幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
714 / 1,871
番外編

その後の三人『春の芽生え』4

「葉山、これで完成だな。そろそろ撤収するか」
「あぁ、次に行こう!」

 残った花材をまとめて、脚立など道具の片付けに入った。

 途中ハプニングがあったが、なんとか冷静さを取り戻せて良かった。
 
 今回、宗吾さんの会社の装飾を担当出来ることになり、かなり気合いが入った。だから心をフラットにして精一杯、花と向き合いたかった。

 会場から一歩下がり、装飾した花をぐるりと見渡した。

「よし! ちゃんと花が生きているね」
  
 満開の桜も八分咲き五分咲きも……蕾も、枯れ枝すらも、全部生きている。
 
 どの年代になっても活躍できる人でありたい。桜が毎年咲くように、失敗したりハプニングに巻き込まれても、それで終わりではない。
 
 チャンスは一度きりではないから、どうかあきらめないで――

 花を大切に。
 人を大切に。

 そのことを寄り添うように生きた花に込め、入社式に臨む全ての人に伝えたいと思った。

 なんだか僕自身へのメッセージみたいだ。

 無事にやり通せたのは、宗吾さんのおかげだ。

 先ほど……恐怖に苛まれ、震える身体を支えてくれたのも、心を温めてくれたのも宗吾さんだった。唐突に高校の同級生と言われても本気で思い出せなくて、相手を苛立たせてしまったようだ。自分が撒いた種かもしれないが、あのような言葉を今更言う必要はないだろう。

 以前、ホテルのロビーで偶然見かけた同級生の顔は辛うじて覚えていたのに、さっきの彼は印象にない。たぶんあまり相性がよくないと感じ、避けていたのだろう。

 そういう相手の記憶は、どんどん消えていってしまうのだな。

「瑞樹ちゃん、お顔がこわいよ」
「あ……菅野、ごめん」

 しまった!

 仕事が終わった途端、またさっきの事を思い出してしまうなんて駄目だな。しかし以前の僕だったら、同級生の顔を思い出せなかったことをひたすら詫びて、不快にさせたのを気にして落ち込んだかもしれないが、今の僕は違った。その先のことまでしっかり考えられるようになっていたし、自分の行動に自信を持てるようになっていた。

 あれは興味本位でいきなり問われる内容ではなかった。だからあの対応で間違っていない。

「さぁ、もう気持ちを切り替えて行こうぜ」
「そうだな。菅野、ありがとう」
「なんのことだぁ~? それより金森鉄平はボディガードに向いていそうだな」
「くすっ」

 未だに、仁王立ちしている金森に声を掛けた。

「金森。そろそろ行くよ、お疲れさま」
「了解っす! 葉山先輩たち、集中して生け込み出来ましたか」
「あぁ、ありがとう」
「胸熱です! 役に立つって、いいですね!」

 適材適所、いや……適所適材というのか。適材を適した地位任務につけるのではなく、適した地位任務に、適材をつける。

 金森の伸ばし方が、少しだけ掴めたような?
 
「先輩、荷物持ちます!」
「ありがとう。次は高所作業があるから、金森も中に入って手伝ってくれ」
「はい! 俺、先輩よりずーっと背が高いので、任せて下さい」

 う……それは少し余計だ。僕だって一般男性並みの身長はあるよ?

 中性的な顔立ちのせいで周りから可愛く見られがちだが、僕も男だから仕事では格好良くありたいよ。
 
 それに……僕を可愛いと言って良いのは、宗吾さんだけだ。宗吾さんに言われるのは擽ったく甘く、嬉しいこと。

 帰り際ちらっと振り返ると、宗吾さんが腕を組んで僕を見守ってくれていた。

 暖かい眼差しを受けて、僕はコクンと頷いた。

(今日はこのあとまだ二件も作業があるので、徹夜になります。頑張って来ますね)

 心の中で伝えると、大らかな笑みで答えてくれた。

(あぁ、頑張って来いよ! 何かあったら呼べ!)
(はい! いってきます)

 不思議だな。声に出さなくても会話が成り立っているように感じるなんて。

 以心伝心だ。

 いつだって僕の心は、宗吾さんに向いている。

「葉山さぁ、さっきみたいな事がまたあったら遠慮無く言えよ。今度は滝沢さんはいないからよ」
「菅野、ありがとう」

 菅野には事の詳細までは話していないが、勘のいい彼だから大体のことを察しているようだ。僕が苦手な場面に気付いて、サポートしてくれるのが有り難い。

 もう……ひとりで頑張り過ぎない。
 人を頼るのは悪いことではない。
 人は支え合って生きている。

 いつの間にか、素直にそう思えるようになっていた。

 今の僕には、帰りたい家があり、愛したい人がいるから、僕自身の存在がますます大切になっていた。

 ****

「おばあちゃん、今日はおにいちゃん帰ってこないんだよ」
「瑞樹くんのお仕事は、イベントの時期に忙しいのよね」
「あのね、おしごとしているお兄ちゃんって、かっこいいんだ」

 以前、彼の職場にお花を買いに行ったことを思いだしているのね。

「そうね。がんばっている人の顔は、みんな格好いいわ」
「うん! そうだよね。おばーちゃん、おばーちゃんがお兄ちゃんのことほめてくれると、ボクもうれしいよー」

 芽生が持ってきてくれたお菓子を縁側で頬張りながら、微笑みあった。

「あと、このおかし、だいすき」
「かるかんね。どうしたの?」
「しあわせやさんが送ってくれたの」
「まぁ! じゃあ若木旅館のね。懐かしい味だと思ったわ」

 新婚旅行で一泊した旅館。

 お部屋に入ると白くて丸いお菓子が置いてあった。

「君も一緒に食べよう」
「はっ、はい」

 お見合いで結婚したから、まだぎこちない夫婦だったけれども、向き合ってお菓子を食べて……「美味しい!」と同時に言ったのがおかしくて、くすっと笑いあったのよね。

 そこから少しずつ、打ち解けていったのよね。

 懐かしく愛おしい、思い出の味だわ!

 
感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。