幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
721 / 1,871
小学生編

スモールステップ 2

 芽生くんの通う小学校は、マンションから子供の足だと15分はかかるそうだ。本当は近くに小学校があるのに微妙な境界線のため学区外で、幼稚園のお友達と違う小学校になってしまった。ひとりで大丈夫かな?

「お兄ちゃん、学校って、ちょっと遠いよね」
「そうだね。道は覚えている?」
「えっとね。こっちだったよね!」

 マンションを出た公道で聞いてみると、いきなり逆方向を指さしたので不安になった。

「え、えっと、右じゃなくて左だよ」
「そうだった? あれれ……おかしいな」
「一緒に歩きながら覚えていこうね」
「うん!」

 芽生くんも僕も、ここからは真剣だ。

 最初は真っ直ぐ平らな道で、ガードレールもあるので安心だ。

「おにいちゃん、次はあの角を曲がるんだよね?」
「そうだよ、よく覚えていたね」
「えへへ」

 次は信号だ。

「芽生くん、信号の渡り方を言ってみて」
「うん、信号が青になったら、右左見て、右……右手をあげてだよ」
「そうだよ。車が止まっているか、ちゃんと見てね」

 その先は、駅への抜け道になっているようで狭いガードレールのない道を、トラックなど大型車が次々に通っていく。登校時間には規制してくれたらいいのに……

 僕の手を握っている芽生くんの手が、次第に汗ばんできたのを感じた。

「芽生くん、この道はガードレールがないから、絶対にこの白い線の内側を歩くんだよ」
「う、うん」
「あ、危ない!」

 大きなトラックが結構なスピードで通り過ぎた。
 
 芽生くんを内側に庇うように抱いて、引きつってしまった。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ん……あぁ、思ったより交通量が多くて驚いたよ」

 時計を確認すると登校時間とほぼ同じ時間帯だ。うーん、もっとちゃんと確認しておけばよかった。あと数日で芽生くんがこの道をひとりで歩くことになるのは、怖すぎる。

「そういえば登校班ってないのかな?」
「それって、なあに?」
「学校にグループで行くんだよ。高学年のお兄さん達がお世話してくれて」

 よく街で見かける光景だ。その方が安心だよ。
 
「えー知らないよ」

 まずいな。僕が情報についていけてないのか。こんな時こそコータくんのお母さんを頼りたいところだが、別々の小学校なので駄目だ。困ったな……マンションに同じ小学校に通うお子さんっているのかな。

 頭の中が、グルグルしてくる。

「お兄ちゃん、見て! ちいさなお花がさいている」

 すると芽生くんが突然立ち止まり、道の真ん中でしゃがんでしまった。

「わっ! 危ないよ。そこは」
「……だってお兄ちゃん、こわいお顔でどんどん足が速くなってしまうんだもん」
「あ……ごめん」

 しまった。ついあれこれ考えすぎて、脇目も振らず歩いてしまった。これでは芽生くんがつまらなくなるのも無理はない。

「ちょっと休憩しようか」
「うん! お兄ちゃん、横が公園になっているって知っていた?」
「本当だ!」

 左側はブランコや滑り台、砂場など遊具の揃った公園があった。これは格好の遊び場になりそうだ。

  芽生くんと目が合う。

 僕が微笑めば、芽生くんもニコッと笑ってくれる。
 こんなアイコンタクトは、イイネ!

「遊ぼうー! ブランコちょうど二つ空いているよ」
「いいよ!」

 ブランコなんて久しぶりだ。

  揺れる度に不安な気持ちが飛んで、爽快な気持ちになっていく。

「お兄ちゃん、気持ちいい?」
「うん!」
「よかった~ なんとかなるだよ~」
「そうだね、一緒に慣れていこうね」

 芽生くんの言葉が、僕を解してくれる。
 道端の草花を観察くる余裕もなかったのに。

「お兄ちゃん、あそこーお花がいっぱいだね」
「これは、花壇というんだよ。一斉にお花が咲いて綺麗だね」
「うん、でもボクはこっちがすきだよ」

 芽生くんがブランコを降りてしゃがんだ場所には、雑草がびっしり生えていた。『雑草』……僕はこの呼び方があまり好きでない。花壇の花は一斉に咲くが一斉に枯れてしまう。しかし雑草は環境が変化して全滅しないように時期をずらして発芽し、踏まれようが刈られようが耐えて生き抜いていく。

 だから『野の花』と呼ぶのが好きだ。そして僕は野の花のような人になりたい。

 春先は特にいいね。
 花をつける野の花も多いので、芽吹きの季節を体感できる。

 最近は入社式の装飾ばかりで切り花ばかり扱っていたので、久しぶりに土の匂いを嗅いで、ホッとした。そして連動するように……宗吾さんを思い出す。

 宗吾さんは大地だ。
 僕が根を下ろす大地なのだと、しみじみと思う。

「これは、野の花だね」
「ののはな? かわいいね。そうだ! あかちゃん、ののちゃんはどう?」
「え?」
「ほら、おじさんのところの」
「うーん、まだ男の子だか女の子だか聞いていないよ」
「ののちゃんって呼びたいなぁ」
「確かに可愛いね、じゃあ……羊の赤ちゃんの名前にしたらどうかな」
「うん!」
 
   芽生くんと手を繋いで、また歩き出す。

「お兄ちゃん、学校が見えて来た」
「もうすぐゴールだね」
 
 寄り道をしたのもあり、30分以上かかってしまった。

 芽生くんは校門にタッチし、笑っていた。

「やったー! ぶじについたね! そうだ、帰りはひとりで歩いてみるよ」
「えっ……そうなの? 本当に大丈夫」
「うん! お兄ちゃんはうしろからついてきてね」

 緊張した面持ちで歩く、芽生くんの後を歩いた。

 先ほどまで繋いでいた手が空っぽなのは寂しいが、すぐ目の前を歩く姿が見える。

 だから……大丈夫だ。

 芽生くんの背中を見つめていると、天国にいる弟を思い出す。

 夏樹……夏樹、今、天国から見てくれている?

 僕の家族のこと、きっともう知っているんだよね。

 芽生くんはね、夏樹が味わえなかった小学生になったんだ。

 夏樹は早く小学生になりたいと言って、僕のランドセルを背負って遊んでいたね。懐かしい思い出だよ。

 お兄ちゃんは、正直……まだ芽生くんの小さな手を離すのが怖いけれども、頑張るよ。

 僕も成長していかないとね。

 この先は、兄として、未知の世界だ。

 夏樹……天上から見ていて!

 僕らのスローステップを。

 応援して欲しい!

 お兄ちゃんのことを。









感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。