810 / 1,871
小学生編
北国のぬくもり 9
ウエディング装花を納品するレストランは、函館市内に最近出来たガーデン付きのイタリアンだ。
「故郷もどんどん変わっていくな……僕の知らないうちに」
寂しいのと嬉しいのが入り混ざる。
これって郷愁の想いなのかな。
兄さんが受けたオーダーメモを確認する。
納品時刻10時
ウェディング開式12時
新郎新婦の希望、すずらんと白薔薇がメインで後はお任せ。
よし、間違いないよな。
ここからは、スッと仕事モードになった。
時計は八時半前だ。量は多くない。落ち着いて集中すれば間に合う。店の開店準備と並行するので慌ただしいが、頑張ろう!
「瑞樹、おはよう」
「お母さん! おはよう」
「悪いわね。まだ腰が痛くて」
「大丈夫だよ。お母さんはゆっくりしていて」
起きてきた母をダイニングの椅子に座らせた。
「お母さん、朝ご飯を食べる?」
「そうするわ。ごめんね」
「謝らないで……作ったのは兄さんだし、そうだ、紅茶でもいれようか」
「ありがとう」
すでに広樹兄さんが用意してくれていた朝食をそのまま出した。食パンにサラダ、オムレツまである。兄さんだって4時起きだったのに、こんなにちゃんとした朝食まで準備して……本当に家族思いの優しい人だ。
大好きな、お兄ちゃん。
「美味しいわ。瑞樹にお紅茶をいれてもらえるなんて、夢のようね」
「大袈裟だよ、お母さん。これからはもっと帰省するから……いつでもいれるよ」
「うんうん。次は腰を治しておくから、私ともデートしてね」
「うん、そうしたいな」
素直に答えられた。僕だって函館の母をもっともっと大切にしたい。まだまだこれからだ。今まで出来なかった分も含めて、大事にさせて欲しい。
「じゃあ仕事にかかるね」
「ここで見ているわ。頑張って!」
デニムの作業用エプロンを身につけ、仕入れてきた花に向き合っていく。
祝福の気持ちを込め、花の気持ちに向き合い、寄り添っていく。
それが僕の流儀だ。
どのくらい集中していただろう? ドンドンっと扉が叩かれる音がして緊張が走った。少し顔が青ざめたのを、母には見つかってしまった。
「瑞樹、大丈夫よ。もう何も起こらないから安心して。ここには私もいるし、扉を叩くのはきっと宗吾さんと芽生くんよ」
「あ……そうか」
お母さんの言葉に、心を取り戻せた。
「お兄ちゃん~」
「瑞樹!」
お母さんの言う通り、可愛い声と逞しい声が聞こえたので、安心した。
扉を開けると、まるで数ヶ月ぶりの再会のように、ふたりに抱きしめられた。
「会いたかったぞ~」
「お兄ちゃん、あいたかったよぉ~」
「ど、どうしたんですか。一体……」
「いろいろ大変だったんだ。君がいないとメチャクチャで」
「え?」
慌ててしゃがみ込んで芽生くんの様子を確認したが、ボタンを掛け違えている以外は問題なさそうでホッとした。
「急いで来たんだね」
「パパがはやくはやくっていうから、がんばったんだもん」
「くすっ、そうか、お疲れさま」
宗吾さんを見ると、困り顔をしていた。
随分と疲労困憊ですね。
先ほど爽やかに僕を送り出してくれた時から、随分くたびれたような?
「あの……何かハプニングがあったのですか」
「瑞樹! よくぞ聞いてくれた! それがさぁ~ 鼻血がマットレスまで染みて落とすのに一苦労したのさ」
「鼻血って……」
「大量だったんだよ」
ちょ! お母さんに聞こえてしまう。宗吾さんが過去に鼻血を出したのは……記憶を遡ると、確か練乳事件の時だったような? ま、まさか……あれを思い出して?
「そっ、宗吾さん、また変なこと考えたんじゃないですかー」
「へっ?」
「もう、とぼけないで下さいよ。まさか……練《れん》……(まずい!)」
そこまで話すと、宗吾さんが破顔した。
「み、瑞樹ぃ~ 俺をヘンタイ扱いしないでくれよ。鼻血を出したのは芽生だぞ」
「あ! へっ……? あぁぁ……(自滅)」
居間からお母さんの笑い声まで、聞こえてくる。
「瑞樹、変なコントしてないで、早く中に入ってもらいなさい」
ぜぜぜ、全部聞かれた!
「お母さん。滝沢です。お世話になります」
「おばあちゃん!」
「宗吾さん、芽生くんいらっしゃい。今回はわざわざありがとう。助かるわ。何しろ腰を痛めちゃって……」
「瑞樹、少し挨拶してくるから、君は作業を進めて」
「はい! そうさせてもらいます」
作業をしながら耳を澄ますと、会話に花が咲いていた。
「お母さん、ぎっくり腰予防になるコルセットを土産代わりに持って来ました。コレ、今、業界で話題になっていてオススメなんですよ」
「まぁ嬉しいわ。何よりのお土産ね」
宗吾さん、いつの間に。
お母さんを大切にしてくれて嬉しいです。
それから芽生くんが絵を渡した。
「おばあちゃん、入学おいわいありがとう。これはね、ボクがかいた絵だよ」
「まぁ、これって去年北海道に来たときの?」
「うん、きょねんりょこうしたときのこと、おもいだしてかいたんだ」
「可愛い絵ね。嬉しいわ」
和やかな会話に、胸の奥が擽ったくなる。大好きな家族と僕の実家に帰省したのだなと……そう素直に思えることに、じんわりとした。
きっと天国の両親も夏樹も、喜んでくれている。
この地上で、優しい時間を重ねる僕を見たら。
生け込みの花に集中していると、ほぼ完成したところで、声をかけられた。
二人ともエプロンをしていた。
「瑞樹、店番は任せておけ。アレンジメントは出来ないが、セットしてある花は売れるぞ」
「はい、任せてもいいですか。お母さんに分からないことは聞いて下さい」
「だが君ひとりで納品大丈夫か」
「車で現地に行くだけですから、問題ないです」
「じゃあ車に積み込むのは手伝うよ」
「お願いします」
時計の針は9時40分、なんとか間に合った。
品良くまとめた装飾花は、そう規模の大きなものではなかった。20名ほどの家族での結婚式らしいから……
「お、間もなくだな。帝王切開の手術……」
「はい。僕が戻ってくる頃には、きっともう産まれていますね」
「あぁ、気をつけて行ってこい」
「行ってきます」
不思議な気分だった。
葉山生花店から、宗吾さんに送り出されるなんて。
「お兄ちゃん、今日は3にんでお花屋さんだね。ボクもお手伝いがんばるね」
「瑞樹の役に立てて嬉しいよ」
ふたつの明るい笑顔に、僕の気持ちもどんどん上昇していく。
さぁ、晴れの日を迎えよう。
「故郷もどんどん変わっていくな……僕の知らないうちに」
寂しいのと嬉しいのが入り混ざる。
これって郷愁の想いなのかな。
兄さんが受けたオーダーメモを確認する。
納品時刻10時
ウェディング開式12時
新郎新婦の希望、すずらんと白薔薇がメインで後はお任せ。
よし、間違いないよな。
ここからは、スッと仕事モードになった。
時計は八時半前だ。量は多くない。落ち着いて集中すれば間に合う。店の開店準備と並行するので慌ただしいが、頑張ろう!
「瑞樹、おはよう」
「お母さん! おはよう」
「悪いわね。まだ腰が痛くて」
「大丈夫だよ。お母さんはゆっくりしていて」
起きてきた母をダイニングの椅子に座らせた。
「お母さん、朝ご飯を食べる?」
「そうするわ。ごめんね」
「謝らないで……作ったのは兄さんだし、そうだ、紅茶でもいれようか」
「ありがとう」
すでに広樹兄さんが用意してくれていた朝食をそのまま出した。食パンにサラダ、オムレツまである。兄さんだって4時起きだったのに、こんなにちゃんとした朝食まで準備して……本当に家族思いの優しい人だ。
大好きな、お兄ちゃん。
「美味しいわ。瑞樹にお紅茶をいれてもらえるなんて、夢のようね」
「大袈裟だよ、お母さん。これからはもっと帰省するから……いつでもいれるよ」
「うんうん。次は腰を治しておくから、私ともデートしてね」
「うん、そうしたいな」
素直に答えられた。僕だって函館の母をもっともっと大切にしたい。まだまだこれからだ。今まで出来なかった分も含めて、大事にさせて欲しい。
「じゃあ仕事にかかるね」
「ここで見ているわ。頑張って!」
デニムの作業用エプロンを身につけ、仕入れてきた花に向き合っていく。
祝福の気持ちを込め、花の気持ちに向き合い、寄り添っていく。
それが僕の流儀だ。
どのくらい集中していただろう? ドンドンっと扉が叩かれる音がして緊張が走った。少し顔が青ざめたのを、母には見つかってしまった。
「瑞樹、大丈夫よ。もう何も起こらないから安心して。ここには私もいるし、扉を叩くのはきっと宗吾さんと芽生くんよ」
「あ……そうか」
お母さんの言葉に、心を取り戻せた。
「お兄ちゃん~」
「瑞樹!」
お母さんの言う通り、可愛い声と逞しい声が聞こえたので、安心した。
扉を開けると、まるで数ヶ月ぶりの再会のように、ふたりに抱きしめられた。
「会いたかったぞ~」
「お兄ちゃん、あいたかったよぉ~」
「ど、どうしたんですか。一体……」
「いろいろ大変だったんだ。君がいないとメチャクチャで」
「え?」
慌ててしゃがみ込んで芽生くんの様子を確認したが、ボタンを掛け違えている以外は問題なさそうでホッとした。
「急いで来たんだね」
「パパがはやくはやくっていうから、がんばったんだもん」
「くすっ、そうか、お疲れさま」
宗吾さんを見ると、困り顔をしていた。
随分と疲労困憊ですね。
先ほど爽やかに僕を送り出してくれた時から、随分くたびれたような?
「あの……何かハプニングがあったのですか」
「瑞樹! よくぞ聞いてくれた! それがさぁ~ 鼻血がマットレスまで染みて落とすのに一苦労したのさ」
「鼻血って……」
「大量だったんだよ」
ちょ! お母さんに聞こえてしまう。宗吾さんが過去に鼻血を出したのは……記憶を遡ると、確か練乳事件の時だったような? ま、まさか……あれを思い出して?
「そっ、宗吾さん、また変なこと考えたんじゃないですかー」
「へっ?」
「もう、とぼけないで下さいよ。まさか……練《れん》……(まずい!)」
そこまで話すと、宗吾さんが破顔した。
「み、瑞樹ぃ~ 俺をヘンタイ扱いしないでくれよ。鼻血を出したのは芽生だぞ」
「あ! へっ……? あぁぁ……(自滅)」
居間からお母さんの笑い声まで、聞こえてくる。
「瑞樹、変なコントしてないで、早く中に入ってもらいなさい」
ぜぜぜ、全部聞かれた!
「お母さん。滝沢です。お世話になります」
「おばあちゃん!」
「宗吾さん、芽生くんいらっしゃい。今回はわざわざありがとう。助かるわ。何しろ腰を痛めちゃって……」
「瑞樹、少し挨拶してくるから、君は作業を進めて」
「はい! そうさせてもらいます」
作業をしながら耳を澄ますと、会話に花が咲いていた。
「お母さん、ぎっくり腰予防になるコルセットを土産代わりに持って来ました。コレ、今、業界で話題になっていてオススメなんですよ」
「まぁ嬉しいわ。何よりのお土産ね」
宗吾さん、いつの間に。
お母さんを大切にしてくれて嬉しいです。
それから芽生くんが絵を渡した。
「おばあちゃん、入学おいわいありがとう。これはね、ボクがかいた絵だよ」
「まぁ、これって去年北海道に来たときの?」
「うん、きょねんりょこうしたときのこと、おもいだしてかいたんだ」
「可愛い絵ね。嬉しいわ」
和やかな会話に、胸の奥が擽ったくなる。大好きな家族と僕の実家に帰省したのだなと……そう素直に思えることに、じんわりとした。
きっと天国の両親も夏樹も、喜んでくれている。
この地上で、優しい時間を重ねる僕を見たら。
生け込みの花に集中していると、ほぼ完成したところで、声をかけられた。
二人ともエプロンをしていた。
「瑞樹、店番は任せておけ。アレンジメントは出来ないが、セットしてある花は売れるぞ」
「はい、任せてもいいですか。お母さんに分からないことは聞いて下さい」
「だが君ひとりで納品大丈夫か」
「車で現地に行くだけですから、問題ないです」
「じゃあ車に積み込むのは手伝うよ」
「お願いします」
時計の針は9時40分、なんとか間に合った。
品良くまとめた装飾花は、そう規模の大きなものではなかった。20名ほどの家族での結婚式らしいから……
「お、間もなくだな。帝王切開の手術……」
「はい。僕が戻ってくる頃には、きっともう産まれていますね」
「あぁ、気をつけて行ってこい」
「行ってきます」
不思議な気分だった。
葉山生花店から、宗吾さんに送り出されるなんて。
「お兄ちゃん、今日は3にんでお花屋さんだね。ボクもお手伝いがんばるね」
「瑞樹の役に立てて嬉しいよ」
ふたつの明るい笑顔に、僕の気持ちもどんどん上昇していく。
さぁ、晴れの日を迎えよう。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。