幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

北国のぬくもり 11

「ヒロくん、行ってくるね」
「みっちゃん、ずっと応援しているからな」
「うん! 待っていてね」
 
  明るく前向きなみっちゃんらしい笑顔に安堵した。だが手術室の扉が閉まると、急に不安になった。しっかりしろ広樹。これは前向きな手術で父さんの時とは違う。手術室で頑張っているみっちゃんの心に寄り添っていこう。

 待合室で祈るように両手を組んで額にあてた。

 時計の針の音がカチコチ、カチコチ……妙に大きく聞こえる。

「広樹さん、ここだったのね」
「あ、お義父さん、お義母さん!」
「あの子は?」
「もう手術室に」
「もう~! お父さんが道を間違えるから」
「お母さんが出掛けに腹痛でトイレに行くからさぁ」

 なんだ? 急に賑やかに所帯じみたぞ。
 いつ会ってもみっちゃんの両親らしく明るい雰囲気で、今は札幌市の郊外に引っ越したので、車で駆けつけてくれたらしい。

「お婿さんに任せっきりでごめんなさいね。あの子ってば、里帰りもしないっていうから」
「いえ、こちらこそ、帰してあげられなくてすみません」
「娘は高校時代から広樹さんに憧れていたから、ずっとそばにいたいのよ」

 何だか妙に照れ臭くて、鼻の頭をかいてしまった。

 父親がいないため一家の大黒柱として早くから奮闘していた俺を、みっちゃんはいつも応援してくれた。瑞樹のことで悩んでいるときも支えてくれた。

「お母さん、ちょと静かにしないさ。悪いね、広樹くん。騒々しい妻で」
「いえ、緊張していたのですが、気が紛れました」
「そうか、なら良かったよ」

****

 手術台に上がってからは、さすがの私も緊張したわ。モニターにつながれ横向きになり、背中を丸めた状態で半身麻酔を打たれた。

 怖い……でも赤ちゃんに会うためよ。

 導尿処置をされ、麻酔が効いたがどうか確認されたわ。

 『頑張れ、頑張れ!』

 耳を澄ますと大好きなヒロくんの声が聞こえるようだった。

 赤ちゃんに会うためだもの、頑張る!

 さぁ、いよいよ手術スタートよ‼

 麻酔が効いているので痛みはないし、穏やかなオルゴールのBGMが流れていて、落ち着いた様子で処置をしてもらったわ。

 わわ……っ!
 
 時々お腹が引っ張られたりするのが分かりドキドキしたけれども、大きな痛みはなかった。でも、暫くするとお腹をおもいっきり引っ張られ痛かった。

 一体、何が起きているの?

 カーテンの向こうが気になって仕方が無いわ。

 赤ちゃんはまだ?

 無事に取り出して下さい!

 お願いします……!






「ふぎゃ……んぎゃぁ……」

 次の瞬間赤ちゃんの産声が元気よく聞こえ、看護師さんから「生まれましたよ!」と言われた瞬間、涙がボロボロと溢れてきてしまった。

 無事に産めた喜び!
 ヒロくんと私の赤ちゃんが、この世に誕生した喜び。
 母になれた喜び。

 緊張の糸が切れたのか、涙が止まらないわ。

 数分後、看護師さんから「赤ちゃんを連れてくるので左を向いて」と声をかけれたので首を左に向けて待つと、小さな小さな赤ちゃんがやってきたわ。

 可愛い……! どっちなの?

「はい! 可愛い女の子ですよ。ご出産おめでとうございます!」

 女の子なのね……あぁ、嬉しい!

 一分くらいの短い対面で、赤ちゃんは外で待っているヒロくんの元へ連れて行かれた。

 私はまだ呆然としていた。

「お母さんは処置をしましょうね」

 ヒロくん、ヒロくん……あなたは今日からお父さんよ! そして私は今日からお母さん。

 助産師さんから『帝王切開も立派なお産ですよ』と言われ嬉しくなった。

「母子ともに無事で、お父さんを安心させてあげられましたね」
「はい……そうなんです。それなんです。心配だったのは……」

 お父さんを病気で早くに亡くしたお母さん。
 両親と弟を交通事故で一気に失った瑞樹くん。
 彼らのためにも、絶対に無事に産みたかったの。
 
「出産はゴールではなくスタートですよ。周りの人に頼りながら頑張り過ぎずお母さんをして下さいね」

 そうアドバイスしていただき、また涙が零れた。

 母になるってすごいこと。
 母になるって命がけだったのね。

 赤ちゃんが教えてくれることが、きっときっと沢山あるわ。

***

「瑞樹、着いたぞ」
「あ、僕……少し眠っていました?」
「うーん、十五分くらいかな。車を動かしたらすぐに眠ってしまったよ」
「すみません。今、何時です」
「ちょうど十時だ」

 十時! みっちゃんの手術が始まる時間だ。

 今から一時間かけて、僕はレストランの至る所に、祝福の花を飾っていく。

 それは、みっちゃんが赤ちゃんをこの世に産むために命をかける尊い時間と重なっている。

「瑞樹、もう大丈夫か」
「はい。少し眠ったおかげで、すっきりしました」
「よし、あとは夜にたっぷり甘えてくれよ。今はやることをやろう! 俺も今日は君の助手だ。こき使ってくれ。スパルタでもいいぞ~ おれは宗吾だが、Mだ」
「も、もうなんですか……それ、意味不明ですよ」

 だが、宗吾さんのおどけた様子に救われる。お陰で気持ちも切り替えられた。

 間もなくこのレストランで開かれるウェディングパーティー。
 穢れなき天使の羽色、純白の世界に見も心も投じよう。

 夏樹、お兄ちゃん、大丈夫だ。
 もう怖くないよ、ひとりではないから。
 さっきだって、すぐに来てくれたの、お前も見ていただろう?

(うん、お兄ちゃんはもう大丈夫……幸せはずっとそこに在るよ)

「宗吾さん、僕……あなたが好きです」
「瑞樹、どうした?」
「大好きなんです」
「ありがとう。俺もだよ。だから安心して羽ばたいていい。いつでも抱き留めてやるから」
「はい!」







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