812 / 1,871
小学生編
北国のぬくもり 11
「ヒロくん、行ってくるね」
「みっちゃん、ずっと応援しているからな」
「うん! 待っていてね」
明るく前向きなみっちゃんらしい笑顔に安堵した。だが手術室の扉が閉まると、急に不安になった。しっかりしろ広樹。これは前向きな手術で父さんの時とは違う。手術室で頑張っているみっちゃんの心に寄り添っていこう。
待合室で祈るように両手を組んで額にあてた。
時計の針の音がカチコチ、カチコチ……妙に大きく聞こえる。
「広樹さん、ここだったのね」
「あ、お義父さん、お義母さん!」
「あの子は?」
「もう手術室に」
「もう~! お父さんが道を間違えるから」
「お母さんが出掛けに腹痛でトイレに行くからさぁ」
なんだ? 急に賑やかに所帯じみたぞ。
いつ会ってもみっちゃんの両親らしく明るい雰囲気で、今は札幌市の郊外に引っ越したので、車で駆けつけてくれたらしい。
「お婿さんに任せっきりでごめんなさいね。あの子ってば、里帰りもしないっていうから」
「いえ、こちらこそ、帰してあげられなくてすみません」
「娘は高校時代から広樹さんに憧れていたから、ずっとそばにいたいのよ」
何だか妙に照れ臭くて、鼻の頭をかいてしまった。
父親がいないため一家の大黒柱として早くから奮闘していた俺を、みっちゃんはいつも応援してくれた。瑞樹のことで悩んでいるときも支えてくれた。
「お母さん、ちょと静かにしないさ。悪いね、広樹くん。騒々しい妻で」
「いえ、緊張していたのですが、気が紛れました」
「そうか、なら良かったよ」
****
手術台に上がってからは、さすがの私も緊張したわ。モニターにつながれ横向きになり、背中を丸めた状態で半身麻酔を打たれた。
怖い……でも赤ちゃんに会うためよ。
導尿処置をされ、麻酔が効いたがどうか確認されたわ。
『頑張れ、頑張れ!』
耳を澄ますと大好きなヒロくんの声が聞こえるようだった。
赤ちゃんに会うためだもの、頑張る!
さぁ、いよいよ手術スタートよ‼
麻酔が効いているので痛みはないし、穏やかなオルゴールのBGMが流れていて、落ち着いた様子で処置をしてもらったわ。
わわ……っ!
時々お腹が引っ張られたりするのが分かりドキドキしたけれども、大きな痛みはなかった。でも、暫くするとお腹をおもいっきり引っ張られ痛かった。
一体、何が起きているの?
カーテンの向こうが気になって仕方が無いわ。
赤ちゃんはまだ?
無事に取り出して下さい!
お願いします……!
「ふぎゃ……んぎゃぁ……」
次の瞬間赤ちゃんの産声が元気よく聞こえ、看護師さんから「生まれましたよ!」と言われた瞬間、涙がボロボロと溢れてきてしまった。
無事に産めた喜び!
ヒロくんと私の赤ちゃんが、この世に誕生した喜び。
母になれた喜び。
緊張の糸が切れたのか、涙が止まらないわ。
数分後、看護師さんから「赤ちゃんを連れてくるので左を向いて」と声をかけれたので首を左に向けて待つと、小さな小さな赤ちゃんがやってきたわ。
可愛い……! どっちなの?
「はい! 可愛い女の子ですよ。ご出産おめでとうございます!」
女の子なのね……あぁ、嬉しい!
一分くらいの短い対面で、赤ちゃんは外で待っているヒロくんの元へ連れて行かれた。
私はまだ呆然としていた。
「お母さんは処置をしましょうね」
ヒロくん、ヒロくん……あなたは今日からお父さんよ! そして私は今日からお母さん。
助産師さんから『帝王切開も立派なお産ですよ』と言われ嬉しくなった。
「母子ともに無事で、お父さんを安心させてあげられましたね」
「はい……そうなんです。それなんです。心配だったのは……」
お父さんを病気で早くに亡くしたお母さん。
両親と弟を交通事故で一気に失った瑞樹くん。
彼らのためにも、絶対に無事に産みたかったの。
「出産はゴールではなくスタートですよ。周りの人に頼りながら頑張り過ぎずお母さんをして下さいね」
そうアドバイスしていただき、また涙が零れた。
母になるってすごいこと。
母になるって命がけだったのね。
赤ちゃんが教えてくれることが、きっときっと沢山あるわ。
***
「瑞樹、着いたぞ」
「あ、僕……少し眠っていました?」
「うーん、十五分くらいかな。車を動かしたらすぐに眠ってしまったよ」
「すみません。今、何時です」
「ちょうど十時だ」
十時! みっちゃんの手術が始まる時間だ。
今から一時間かけて、僕はレストランの至る所に、祝福の花を飾っていく。
それは、みっちゃんが赤ちゃんをこの世に産むために命をかける尊い時間と重なっている。
「瑞樹、もう大丈夫か」
「はい。少し眠ったおかげで、すっきりしました」
「よし、あとは夜にたっぷり甘えてくれよ。今はやることをやろう! 俺も今日は君の助手だ。こき使ってくれ。スパルタでもいいぞ~ おれは宗吾だが、Mだ」
「も、もうなんですか……それ、意味不明ですよ」
だが、宗吾さんのおどけた様子に救われる。お陰で気持ちも切り替えられた。
間もなくこのレストランで開かれるウェディングパーティー。
穢れなき天使の羽色、純白の世界に見も心も投じよう。
夏樹、お兄ちゃん、大丈夫だ。
もう怖くないよ、ひとりではないから。
さっきだって、すぐに来てくれたの、お前も見ていただろう?
(うん、お兄ちゃんはもう大丈夫……幸せはずっとそこに在るよ)
「宗吾さん、僕……あなたが好きです」
「瑞樹、どうした?」
「大好きなんです」
「ありがとう。俺もだよ。だから安心して羽ばたいていい。いつでも抱き留めてやるから」
「はい!」
「みっちゃん、ずっと応援しているからな」
「うん! 待っていてね」
明るく前向きなみっちゃんらしい笑顔に安堵した。だが手術室の扉が閉まると、急に不安になった。しっかりしろ広樹。これは前向きな手術で父さんの時とは違う。手術室で頑張っているみっちゃんの心に寄り添っていこう。
待合室で祈るように両手を組んで額にあてた。
時計の針の音がカチコチ、カチコチ……妙に大きく聞こえる。
「広樹さん、ここだったのね」
「あ、お義父さん、お義母さん!」
「あの子は?」
「もう手術室に」
「もう~! お父さんが道を間違えるから」
「お母さんが出掛けに腹痛でトイレに行くからさぁ」
なんだ? 急に賑やかに所帯じみたぞ。
いつ会ってもみっちゃんの両親らしく明るい雰囲気で、今は札幌市の郊外に引っ越したので、車で駆けつけてくれたらしい。
「お婿さんに任せっきりでごめんなさいね。あの子ってば、里帰りもしないっていうから」
「いえ、こちらこそ、帰してあげられなくてすみません」
「娘は高校時代から広樹さんに憧れていたから、ずっとそばにいたいのよ」
何だか妙に照れ臭くて、鼻の頭をかいてしまった。
父親がいないため一家の大黒柱として早くから奮闘していた俺を、みっちゃんはいつも応援してくれた。瑞樹のことで悩んでいるときも支えてくれた。
「お母さん、ちょと静かにしないさ。悪いね、広樹くん。騒々しい妻で」
「いえ、緊張していたのですが、気が紛れました」
「そうか、なら良かったよ」
****
手術台に上がってからは、さすがの私も緊張したわ。モニターにつながれ横向きになり、背中を丸めた状態で半身麻酔を打たれた。
怖い……でも赤ちゃんに会うためよ。
導尿処置をされ、麻酔が効いたがどうか確認されたわ。
『頑張れ、頑張れ!』
耳を澄ますと大好きなヒロくんの声が聞こえるようだった。
赤ちゃんに会うためだもの、頑張る!
さぁ、いよいよ手術スタートよ‼
麻酔が効いているので痛みはないし、穏やかなオルゴールのBGMが流れていて、落ち着いた様子で処置をしてもらったわ。
わわ……っ!
時々お腹が引っ張られたりするのが分かりドキドキしたけれども、大きな痛みはなかった。でも、暫くするとお腹をおもいっきり引っ張られ痛かった。
一体、何が起きているの?
カーテンの向こうが気になって仕方が無いわ。
赤ちゃんはまだ?
無事に取り出して下さい!
お願いします……!
「ふぎゃ……んぎゃぁ……」
次の瞬間赤ちゃんの産声が元気よく聞こえ、看護師さんから「生まれましたよ!」と言われた瞬間、涙がボロボロと溢れてきてしまった。
無事に産めた喜び!
ヒロくんと私の赤ちゃんが、この世に誕生した喜び。
母になれた喜び。
緊張の糸が切れたのか、涙が止まらないわ。
数分後、看護師さんから「赤ちゃんを連れてくるので左を向いて」と声をかけれたので首を左に向けて待つと、小さな小さな赤ちゃんがやってきたわ。
可愛い……! どっちなの?
「はい! 可愛い女の子ですよ。ご出産おめでとうございます!」
女の子なのね……あぁ、嬉しい!
一分くらいの短い対面で、赤ちゃんは外で待っているヒロくんの元へ連れて行かれた。
私はまだ呆然としていた。
「お母さんは処置をしましょうね」
ヒロくん、ヒロくん……あなたは今日からお父さんよ! そして私は今日からお母さん。
助産師さんから『帝王切開も立派なお産ですよ』と言われ嬉しくなった。
「母子ともに無事で、お父さんを安心させてあげられましたね」
「はい……そうなんです。それなんです。心配だったのは……」
お父さんを病気で早くに亡くしたお母さん。
両親と弟を交通事故で一気に失った瑞樹くん。
彼らのためにも、絶対に無事に産みたかったの。
「出産はゴールではなくスタートですよ。周りの人に頼りながら頑張り過ぎずお母さんをして下さいね」
そうアドバイスしていただき、また涙が零れた。
母になるってすごいこと。
母になるって命がけだったのね。
赤ちゃんが教えてくれることが、きっときっと沢山あるわ。
***
「瑞樹、着いたぞ」
「あ、僕……少し眠っていました?」
「うーん、十五分くらいかな。車を動かしたらすぐに眠ってしまったよ」
「すみません。今、何時です」
「ちょうど十時だ」
十時! みっちゃんの手術が始まる時間だ。
今から一時間かけて、僕はレストランの至る所に、祝福の花を飾っていく。
それは、みっちゃんが赤ちゃんをこの世に産むために命をかける尊い時間と重なっている。
「瑞樹、もう大丈夫か」
「はい。少し眠ったおかげで、すっきりしました」
「よし、あとは夜にたっぷり甘えてくれよ。今はやることをやろう! 俺も今日は君の助手だ。こき使ってくれ。スパルタでもいいぞ~ おれは宗吾だが、Mだ」
「も、もうなんですか……それ、意味不明ですよ」
だが、宗吾さんのおどけた様子に救われる。お陰で気持ちも切り替えられた。
間もなくこのレストランで開かれるウェディングパーティー。
穢れなき天使の羽色、純白の世界に見も心も投じよう。
夏樹、お兄ちゃん、大丈夫だ。
もう怖くないよ、ひとりではないから。
さっきだって、すぐに来てくれたの、お前も見ていただろう?
(うん、お兄ちゃんはもう大丈夫……幸せはずっとそこに在るよ)
「宗吾さん、僕……あなたが好きです」
「瑞樹、どうした?」
「大好きなんです」
「ありがとう。俺もだよ。だから安心して羽ばたいていい。いつでも抱き留めてやるから」
「はい!」
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。