幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
883 / 1,865
小学生編

日々うらら 7

しおりを挟む
「……瑞樹」
「……んっ……」

 いつもなら瑞樹の方が早く起きるが、今朝は疲労困憊のようで目を閉じたまま眠たそうにしていた。

「今日は寝ていていいよ。会社午後からだろ?」
「……ふぁ……い」
「くくっ、可愛いな」

 舌足らずな寝惚けた様子なのはレアだから、俺は目を細めて瑞樹の柔らかな猫っ毛を撫でてやった。

 昨日は沢山、感じてくれてありがとうな。
 
 抱かれてくれてありがとう。

 全てを投げ出して、全てを委ねてくれた。

 感謝している。
 そして愛している。

 朝からキザか。
 照れ臭くなるよ。

 俺ってこんなロマンチックな男だったか。
 
 瑞樹と過ごす日々は清らかな光に包まれているようだから、自然とそうなってしまう。

 布団をかけ直してやり、ひとり部屋を出た。

「あー これはまた、散らかってんな」

 帰国して家に戻るなり、芽生の宿題の山にショックを受ける瑞樹と出くわした。

 瑞樹はハプニングが苦手だ。

 動揺する君を慰めて、芽生の勉強を促して、そこから怒濤の時間だった。

「やれやれ、誰に似たんだか」

 まぁ俺に似たのだが。

 だが、まだ小さい芽生にも、こんな風に普通の子供らしい一面があることにホッとした

 失敗したり転んだりしながら、子供はやがて大人になっていく。

 だから慎重になり過ぎるなよ。

 空気を入れ換えようとリビングの窓を開けると、すごい光景だった。

 まるで生命の泉だ。

 真っ白な朝顔が、鉢植えにぎっしり咲き誇っていた。

「へぇ……流石だな。凄いな。こんなに咲くなんて」
「パパー、おはよう! お水をやらないと」

 可愛い足音がしたので振り向くと、ペットボトルを持った芽生が立っていた。まだパジャマ姿でボサボサ髪だったが、ニコニコと溌剌とした笑顔を振りまいていた。
 
「おはよう、ひとりで起きたのか」
「うん! あさがおさんにお水をやるからね」
「それ、いいな。ジョウロなのか」

 芽生が大切そうに抱えているものは、ペットボトルのキャップに穴を開けて、周りをカラーテープでデコレーションした可愛いジョウロだった。

「えへへ、お兄ちゃんが作ってくれたんだよ」
「良かったな。これなら芽生でも重たくないな」

 瑞樹らしい気遣いに関心した。
 
 朝顔の鉢は、瑞樹が世話すれば綺麗に花が咲くだろうが、ちゃんと芽生の入る余地を残してくれている。いや……むしろ積極的に関われるように、こんなアイテムまで用意してくれる。

 全部、心から相手の気持ちを思いやれるから出来ること。
  
「パパ、ボクね、もっと力持ちになりたい」

 芽生が少しだけ悔しそうな顔をする。
 ん? こういう表情は珍しいぞ。
 幼稚園の時には見せなかった、大人びた表情だった。

「どうしてだ?」
「あのね、お兄ちゃん、とっても忙しそうだったの……パパがいない時」
「そうだったのか。どんな風に?」
 
 おそらく瑞樹から話すことはないと思ったので、芽生に詳しく聞いてみたくなった。

「ボクの部屋の電気がね、きれちゃったの」
「そうか、瑞樹が替えてくれたのか」
「お兄ちゃんが、おイスにのって」
「大丈夫だったか」
「ボクがイスを押さえたよ」
「偉かったな、他には」
「お買い物! おにもつたくさんなのに、お兄ちゃん全部ひとりで持っていて……パパがいたらよかったなって思ったよ」
「そうか、そうか」

 芽生の頭をポンポンと撫でてやった。
 優しい子だ。

「なぁ芽生も留守中、ありがとうな。瑞樹を守ってくれて」
「ボクは何もしなかったよ」
「いや、一緒に眠ってくれたんだろう? 瑞樹はおかげで怖い夢を見なかったよ」
「そうかな? そうだといいな」
「それに芽生と一緒にデートもいっぱいしたんだろ?」
「うん! えへへ、あのね、とってもたのしかったよ」

 ちょっと羨ましいが、良かったな。
 小さな芽生の存在が、瑞樹の恐怖と寂しさを充分和らげていたと思う。

「あ、お兄ちゃんは? おこしてくるよ」

 芽生が寝室のドアを開けようとしたので、思わず止めてしまった。

「ちょっと待て。 今日は寝かしてやろう。疲れているんだ」
「うん……でも」

 芽生が心配そうに、モジモジし出す。
 
「どうした? 小学校まではパパが送ってやるぞ。朝顔の鉢やお道具箱、一人じゃ持ちきれないだろう」
「う……ん」

 芽生の声は、まだどこか不安そうだった。

「なんだ? パパじゃ駄目なのか。瑞樹がいいのか」

 少しだけ俺もムキになってしまった。(俺も大人げないよな)

 すると芽生はブンブンと頭を振って否定した。

「ちがうよー パパがアサガオ、もってくれるの、すごーくうれしい。でもね……」
「ん?」

 深呼吸だ。深呼吸をしよう。
 瑞樹を見習って根気よく……躊躇う理由を聞き出そう!

「どうした?」
「あのね……ボクとパパがいないときに、おにいちゃんが起きたら……さみしいし、こわいかもって」
「あーそこか」

 失念していた。瑞樹の身になれば、寝坊したことを恥じ、しかも置いてきぼりにされたように感じて寂しがるかもしれない。

「うーむ、やっぱり起こすか」
「ううん、お兄ちゃん、毎日ボクよりずっと前に起きて、いそがしそうだったから……今日はねかしてあげようよ」
「いいのか」
「んーっとね」

 芽生が一人前に腕組みして、何やら考えている。

 小さな頭で一生懸命だ。

「あ、いいこと思いついたよ!」
「何だ?」
「お手紙を書いてくるよ」
「おぅ、芽生からの手紙があれば喜ぶよ」
「ほんと? ボク急いでかいてくるよー、あ、まずはアサガオさんにおはよう言わないと」

 芽生が「おはよう~♬ ボクのかわいいアサガオさん♬」と歌いながら、ペットボトルで水をやっていた。

 一人前になってきたな。

 芽生と瑞樹の愛情をたっぷり注がれた朝顔だから、こんなに綺麗に咲いたのだなと納得した。


 その後……芽生が瑞樹の枕元に置いた手紙を見て、不覚にも泣きそうになった。


……

 お兄ちゃん、おはよう!
 ぼくとパパはいないけれど、すぐにかえってくるからね。

 あのね……きょうはゆっくりねむってほしかったから、わざとおこさなかったんだ。

 ぼくね、パパがいなかった10にちかん、とってもたのしかったよ。
 お兄ちゃんがいてくれたから、さみしくなかったよ。
 お兄ちゃんって……やさしくって、やさしくって、ほわんとしているんだもん。

 アサガオのことも、たくさんありがとう。
 みんなにみてもらうの、たのしみ。
 じゃあ、がっこうにいってきます!
 またあとでね! 

 ぜったいに、ぜったいに、だいじょうぶだよ!                

               お兄ちゃんのことがだいすきなメイより
 ……
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...