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小学生編
日々うらら 15
ソファで芽生くんを抱っこしながら戦隊アニメを観ていると、インターホンが鳴った。
「パパかな?」
「そうだね」
いつもは自分で鍵を開けて入ってくるが、きっとランドセルと買い物で両手が塞がっているのだろう。ドアスコープを覗くと、やはり宗吾さんだった。
「お帰りなさい!」
「ただいま!」
「パパ~ ありがとう!」
芽生くんがうれしそうにピョンと宗吾さんの足下に飛びついた。
「おう! 先生たちも心配してたから報告出来てよかったよ」
「あの、僕、学校に報告するのすっかり忘れていて、本当にすみません」
「おい、もう謝るのはナシだぞ。実際、瑞樹はよくやった。病院にも連れて行ってくれて本当に助かったよ。俺は撮影に立ち会っていたから連絡をもらってもきっと気付けなかった」
宗吾さんが、また僕の頭をクシャッと撫でてくれた。
くすぐったくもホッとする、そんな一時だった。
「今日は疲れただろう。夕食も買ってきたよ」
「わぁ!」
「今日はパン・パーティーだ」
野菜のサンドイッチにカレーパンやコロッケパン。
片手でも食べやすいものばかりを選んでくれたのですね。
あぁ、親心っていいな。
『親思う心にまさる親心』
~ 子が親を思う心よりも、子を思いやる親の気持ちのほうがはるかに深い ~
いつか習ったフレーズを、ふと思い出した。
僕も芽生くんの子育てを傍らで手伝わせてもらうようになり、ひしひしと感じていることだ。芽生くんと向き合っていると、僕がどんなに両親から愛情を注がれ、愛おしい存在だったのか気付けるのだ。
『僕だけを置いて逝くなんて』
『僕だけがひとりぼっちになってしまった』
『寂しい、悲しい』
『僕だけ幸せになってはいけない』
そんな鬱々と暗い気持ちを背負って生きてきた僕は、宗吾さんと出会い、芽生くんと接するうちに、自分の存在がどんどん愛おしくなってきた。
芽生くんともっと心を通わせたい。宗吾さんをもっと愛したい。
芽生くんに信頼される人になりたい。宗吾さんに愛される人になりたい。
心に湧き出る歩み寄る思いが、溢れていく毎日だ。
「おにいちゃん、このパン、メイのおくちには大きいよ~」
「そうだね。じゃあ半分に切ってあげるね」
コロッケパンを小さくちぎってあげると、芽生くんがあーんとお口をあけて待っていた。
「くすっ、はいどうぞ」
「パクッ、もぐもぐ~ おいしい」
「良かったよ。ほらスープだ」
宗吾さんは、こんな状況でも手際がいい。僕が食卓にサンドイッチを並べたりしている間にあっという間に、缶詰を開けて牛乳と合わせて即席コーンスープを作ってくれた。
「おにいちゃん、のませてほしいな」
「芽生、左手でスプーンくらい持てるだろう」
「でもぉ……」
「宗吾さん、今日は僕が」
「すまないな。甘えっ子で」
「とんでもないですよ。うれしいんです」
コーンスープに息を吹きかけ冷ましてから、芽生くんのお口に運んであげると乳飲み子みたいにスプーンに吸い付いてきた。
なんだか僕がこの子にミルクを与えているみたいだな。
僕は男だから母性なんて分からないと思っていたが、僕も母に大切に育てられたから、分かるのだね。優しく穏やかな暖かい母の気持ちが、僕の中に通っている。
愛おしさが、満ちてくる。
「おにいちゃん、ありがとう。おにいちゃんもたべてね」
「うん!」
「いやぁ、いい光景だなぁ。天使がふたりいるみたいだ」
宗吾さんが目を細めて、僕たちを交互に見つめている。
僕たち……本当に今……幸せなのだ。
芽生くんは痛い思いをして可哀想だったが、今の僕らはこんな風に労り合い、守り合って過ごしているのだなと実感できた。
****
食卓は和やかな雰囲気に包まれていた。
芽生が赤ちゃん返りしたかのように瑞樹に甘えているのを見て、俺は心の底から安堵した。
芽生が瑞樹にしっかり甘えてくれて、パパは嬉しいよ。
初めての骨折、痛かったろう。
こんな時は産んでくれた母親に会いたくなるのでは?
俺も腕を骨折した時は、流石に母の優しさが心地良くて甘えたものだ。
そう言えば、芽生は何も言わないが、たまにはママに会いたくならないのだろうか。玲子とは芽生を定期的に会わせる約束のもと離婚したが、最近は玲子に赤ん坊が産まれたこともあり、全く交流していなかった。普段なら忘れていることを思い出し、胸の奥がチクチクした。
「おにいちゃん、だっこして」
「うん、いいよ。おいで」
「えへへ、ギュウもしてね」
そんな不安は、今は不要のようだ。芽生は母のいない寂しさを瑞樹のきめ細やかな愛情で隙間がない程埋めてもらっているし、瑞樹も久しぶりに芽生に全面的に甘えてもらえて幸せそうだ。
俺が妬くほど二人の絆は深まっている。
俺も幸せだな。最愛の人が俺の息子を無条件に愛してくれるなんて、こんな幸せな構図があるだろうか。もう二度と浮ついた遊びはしない。瑞樹と出会ってから一切断った。全く興味が持てないよ。もう君以外考えられないから。玲子任せだった子育てに全力投球していく。
君と息子の存在が一番大切だ。
大切なことに気付けて良かった。突然切り出された離婚は衝撃的だったが、今、この光景を見守る役に就けて本当に良かった。
芽生は眠るまで、赤ん坊のように瑞樹に甘えていた。
愛されているから、思いっきり甘えられるのだろう。
甘えられる時は、いっぱい甘えておくといい。愛されることを知る人は、人を深く愛せるようになるだろう。
きっと明日起きたら、芽生は一回り成長しているな。
愛情という栄養を蓄えて芽生は大きくなる。
逞しく、豊かに。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「パパ、おにいちゃん、おやすみなさい」
小さな指に大きなギブスが痛々しいが、芽生はこの経験により、心も成長するだろう。
「もう寝たか?」
「はい、寝たようです」
「そうか。眠れて良かったよ。君もお疲れさん、明日は日曜日だ。ゆっくり家族で過ごそうな」
「はい、ずっと一緒に……一緒がいいです」
「あぁ、もちろんだ」
「パパかな?」
「そうだね」
いつもは自分で鍵を開けて入ってくるが、きっとランドセルと買い物で両手が塞がっているのだろう。ドアスコープを覗くと、やはり宗吾さんだった。
「お帰りなさい!」
「ただいま!」
「パパ~ ありがとう!」
芽生くんがうれしそうにピョンと宗吾さんの足下に飛びついた。
「おう! 先生たちも心配してたから報告出来てよかったよ」
「あの、僕、学校に報告するのすっかり忘れていて、本当にすみません」
「おい、もう謝るのはナシだぞ。実際、瑞樹はよくやった。病院にも連れて行ってくれて本当に助かったよ。俺は撮影に立ち会っていたから連絡をもらってもきっと気付けなかった」
宗吾さんが、また僕の頭をクシャッと撫でてくれた。
くすぐったくもホッとする、そんな一時だった。
「今日は疲れただろう。夕食も買ってきたよ」
「わぁ!」
「今日はパン・パーティーだ」
野菜のサンドイッチにカレーパンやコロッケパン。
片手でも食べやすいものばかりを選んでくれたのですね。
あぁ、親心っていいな。
『親思う心にまさる親心』
~ 子が親を思う心よりも、子を思いやる親の気持ちのほうがはるかに深い ~
いつか習ったフレーズを、ふと思い出した。
僕も芽生くんの子育てを傍らで手伝わせてもらうようになり、ひしひしと感じていることだ。芽生くんと向き合っていると、僕がどんなに両親から愛情を注がれ、愛おしい存在だったのか気付けるのだ。
『僕だけを置いて逝くなんて』
『僕だけがひとりぼっちになってしまった』
『寂しい、悲しい』
『僕だけ幸せになってはいけない』
そんな鬱々と暗い気持ちを背負って生きてきた僕は、宗吾さんと出会い、芽生くんと接するうちに、自分の存在がどんどん愛おしくなってきた。
芽生くんともっと心を通わせたい。宗吾さんをもっと愛したい。
芽生くんに信頼される人になりたい。宗吾さんに愛される人になりたい。
心に湧き出る歩み寄る思いが、溢れていく毎日だ。
「おにいちゃん、このパン、メイのおくちには大きいよ~」
「そうだね。じゃあ半分に切ってあげるね」
コロッケパンを小さくちぎってあげると、芽生くんがあーんとお口をあけて待っていた。
「くすっ、はいどうぞ」
「パクッ、もぐもぐ~ おいしい」
「良かったよ。ほらスープだ」
宗吾さんは、こんな状況でも手際がいい。僕が食卓にサンドイッチを並べたりしている間にあっという間に、缶詰を開けて牛乳と合わせて即席コーンスープを作ってくれた。
「おにいちゃん、のませてほしいな」
「芽生、左手でスプーンくらい持てるだろう」
「でもぉ……」
「宗吾さん、今日は僕が」
「すまないな。甘えっ子で」
「とんでもないですよ。うれしいんです」
コーンスープに息を吹きかけ冷ましてから、芽生くんのお口に運んであげると乳飲み子みたいにスプーンに吸い付いてきた。
なんだか僕がこの子にミルクを与えているみたいだな。
僕は男だから母性なんて分からないと思っていたが、僕も母に大切に育てられたから、分かるのだね。優しく穏やかな暖かい母の気持ちが、僕の中に通っている。
愛おしさが、満ちてくる。
「おにいちゃん、ありがとう。おにいちゃんもたべてね」
「うん!」
「いやぁ、いい光景だなぁ。天使がふたりいるみたいだ」
宗吾さんが目を細めて、僕たちを交互に見つめている。
僕たち……本当に今……幸せなのだ。
芽生くんは痛い思いをして可哀想だったが、今の僕らはこんな風に労り合い、守り合って過ごしているのだなと実感できた。
****
食卓は和やかな雰囲気に包まれていた。
芽生が赤ちゃん返りしたかのように瑞樹に甘えているのを見て、俺は心の底から安堵した。
芽生が瑞樹にしっかり甘えてくれて、パパは嬉しいよ。
初めての骨折、痛かったろう。
こんな時は産んでくれた母親に会いたくなるのでは?
俺も腕を骨折した時は、流石に母の優しさが心地良くて甘えたものだ。
そう言えば、芽生は何も言わないが、たまにはママに会いたくならないのだろうか。玲子とは芽生を定期的に会わせる約束のもと離婚したが、最近は玲子に赤ん坊が産まれたこともあり、全く交流していなかった。普段なら忘れていることを思い出し、胸の奥がチクチクした。
「おにいちゃん、だっこして」
「うん、いいよ。おいで」
「えへへ、ギュウもしてね」
そんな不安は、今は不要のようだ。芽生は母のいない寂しさを瑞樹のきめ細やかな愛情で隙間がない程埋めてもらっているし、瑞樹も久しぶりに芽生に全面的に甘えてもらえて幸せそうだ。
俺が妬くほど二人の絆は深まっている。
俺も幸せだな。最愛の人が俺の息子を無条件に愛してくれるなんて、こんな幸せな構図があるだろうか。もう二度と浮ついた遊びはしない。瑞樹と出会ってから一切断った。全く興味が持てないよ。もう君以外考えられないから。玲子任せだった子育てに全力投球していく。
君と息子の存在が一番大切だ。
大切なことに気付けて良かった。突然切り出された離婚は衝撃的だったが、今、この光景を見守る役に就けて本当に良かった。
芽生は眠るまで、赤ん坊のように瑞樹に甘えていた。
愛されているから、思いっきり甘えられるのだろう。
甘えられる時は、いっぱい甘えておくといい。愛されることを知る人は、人を深く愛せるようになるだろう。
きっと明日起きたら、芽生は一回り成長しているな。
愛情という栄養を蓄えて芽生は大きくなる。
逞しく、豊かに。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「パパ、おにいちゃん、おやすみなさい」
小さな指に大きなギブスが痛々しいが、芽生はこの経験により、心も成長するだろう。
「もう寝たか?」
「はい、寝たようです」
「そうか。眠れて良かったよ。君もお疲れさん、明日は日曜日だ。ゆっくり家族で過ごそうな」
「はい、ずっと一緒に……一緒がいいです」
「あぁ、もちろんだ」
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