906 / 1,871
小学生編
降り積もるのは愛 4
「瑞樹くん、君と話せてよかったよ」
「僕もです。撮って頂いた写真……本当に自然で感動しました」
「君の腕も、磨けば光るよ」
「そうでしょうか」
お世辞かもしれないと思ったが、林さんの笑顔が真っ直ぐだったので嬉しくなった。
僕の母は……大沼のペンションに飾ってあった数々の写真で気付いたことだが、駆け出しのフォトグラファーだったのでは?
「そうだよ、君の手は花を生けるだけでなく、写真の才能もありそうだな」
「あ……ありがとうございます。あ、あの……母に似たのかもしれません」
「お母さんもカメラを?」
「はい……もしかしたら……駆け出しのフォトグラファーだったのかもと思っています」
「そうなの、名前は?」
誰かにこんな風に母のことを話したことはない。
僕がこんなに饒舌に語るのも珍しい。
「あ、あの母は……青木……澄子《すみこ》と言いました。もし何か知っていることがあれば」
「あおきすみこさん? ちょっと調べてみるよ」
「あ……ありがとうございます」
僕と林さんとのやりとりを、宗吾さんが優しく大らかな眼差しで見守ってくれる。
「瑞樹、新年早々、いい傾向だな。君が自分の両親の過去に興味を持つなんて」
「す、すみません。僕、夢中で出しゃばり過ぎました」
「そんなことないさ。他の男なら許さんが、林さんは俺も一目置くカメラマンだ。頼りになるしな」
「あ……はい」
「さぁ雪も降ってきたし、ここで解散しよう」
「だな、新年早々、風邪を引いたら困るしな」
「林さん、サンキュ!」
****
粉雪まみれの三人が宗吾さんの実家に再び帰って来たのは、お昼過ぎだった。
「おばあちゃん~おなか、すいた」
「まぁ寒かったでしょう。さぁ、まずはお風呂よ。こんなに冷たくなって」
「お風呂? おばあちゃんちのお風呂、広いからダイスキー おにいちゃんとパパといっしょにはいってもいい?」
「もちろんよ。さぁ三人共、早くはいってらっしゃい。お雑煮を作っておくから」
というわけで、僕たちは新年早々、宗吾さんのご実家の湯船にドボンと浸かっている。
「瑞樹~ ラッキーだなぁ~ 今年は虎だし、なんだかこう血がムラムラと騒ぐんだ」
宗吾さんが寅のように『ガオーッ』と湯船のお湯を大量に零しながら、両手をあげてジェスチャーするので驚いた。
「そ、宗吾さんは寅年じゃないですよ。も、もう静かにしてくださーい!」
「パパ、じっとしてて。お湯がこぼれちゃうよ」
「なんだよ~ ケチぃ」
け、ケチっていくつなんですかーっと突っ込みたくなったが、宗吾さんの熱い視線が僕の胸や下半身を辿るので、ドキドキしてしまった。
宗吾さんの目力は強い。
だから……視線だけで触れられている気分になってしまうから駄目だ。
「め、芽生くん、洗ってあげよう」
「うん!」
「パパはそこでおとなしくしていてね。うごいちゃダメですよー」
「くすっ」
檻の中のトラみたいに、宗吾さんがじっとしている。
これは夜に反動が来そうだなと、肩をすくめた。
三人でポカポカになってお風呂から上がると、着替えがなかった。
「あれ? 母さん、着替えは-?」
「置いてあるでしょう。カゴの中よ」
「?」
宗吾さんがカゴを覗くと、黄色いものが見えた。
「なんだ、これ?」
「わー パパ。これトラさんだ」
「まさか!」
なんとなんと全身すっぽり着ぐるみのような衣装は、トラのものだった。
「に、兄さんですかー また!」
「やったー ボクたちトラさん三兄弟になれるんだね」
「う……うわぁ……」
憲吾さんは着ぐるみフェチだ、絶対!
クリスマスには三匹のクマだったし。
立派な弁護士さんの、意外な趣味を被るのは、僕たち三人なのか。
「はは……こ、これ……着るんですか」
「当たり前だぞ。さぁ誰が一番似合うかな?」
「それはもちろん」
芽生くんと顔を見合わせて――
「宗吾さんです!」
「パパだよー」
「へへっ、ガォォー!」
その通り、宗吾さんが全身トラの姿になってトラのマネをすれば、ハマりすぎていた。
「キャー! トラサンにたべられる」
「芽生くん、早く逃げよう!」
「待て待てー ガォォー!」
もうその後は、ドタバタだ。
こんなふざけた新年は初めてだ。
「こらー あなたたち、走り回らないの」
「ガォォー!」
「わぁぁ~」
「ふ……ふぎゃああ」
ああもうっ、彩芽ちゃんを泣かしてしまって大人げない。
「瑞樹くんと芽生、あーコホンコホン、宗吾はともかく君たちは可愛い。よく似合っているよ」
そして僕たちの前にはデレ顔の憲吾さん。
この兄弟は……なかなかの曲者だ!
「さぁこっちにおいで。お年玉をあげよう」
「わぁい!」
芽生くんが憲吾さんからお年玉をもらう。
「あー コホン、瑞樹くんにもある」
「え?」
「その……もらってくれ。私は弟に甘いんでね」
「いいなー 兄さん、 俺にもくれよ」
「宗吾にはそのトラの着ぐるみセットだ」
憲吾さんが銀縁の眼鏡の端を持って、にやりと笑った。
これが僕らの元旦だ。
羽織袴でさっきまでキメていたのに、トラ姿で正座してお屠蘇をいただいていた。
心が弾ける!
心が躍る!
こんなに楽しいお正月は久しぶりだ。
笑う門には福来たる。
今年は笑って笑って、楽しく明るく過ごしたい。
「僕もです。撮って頂いた写真……本当に自然で感動しました」
「君の腕も、磨けば光るよ」
「そうでしょうか」
お世辞かもしれないと思ったが、林さんの笑顔が真っ直ぐだったので嬉しくなった。
僕の母は……大沼のペンションに飾ってあった数々の写真で気付いたことだが、駆け出しのフォトグラファーだったのでは?
「そうだよ、君の手は花を生けるだけでなく、写真の才能もありそうだな」
「あ……ありがとうございます。あ、あの……母に似たのかもしれません」
「お母さんもカメラを?」
「はい……もしかしたら……駆け出しのフォトグラファーだったのかもと思っています」
「そうなの、名前は?」
誰かにこんな風に母のことを話したことはない。
僕がこんなに饒舌に語るのも珍しい。
「あ、あの母は……青木……澄子《すみこ》と言いました。もし何か知っていることがあれば」
「あおきすみこさん? ちょっと調べてみるよ」
「あ……ありがとうございます」
僕と林さんとのやりとりを、宗吾さんが優しく大らかな眼差しで見守ってくれる。
「瑞樹、新年早々、いい傾向だな。君が自分の両親の過去に興味を持つなんて」
「す、すみません。僕、夢中で出しゃばり過ぎました」
「そんなことないさ。他の男なら許さんが、林さんは俺も一目置くカメラマンだ。頼りになるしな」
「あ……はい」
「さぁ雪も降ってきたし、ここで解散しよう」
「だな、新年早々、風邪を引いたら困るしな」
「林さん、サンキュ!」
****
粉雪まみれの三人が宗吾さんの実家に再び帰って来たのは、お昼過ぎだった。
「おばあちゃん~おなか、すいた」
「まぁ寒かったでしょう。さぁ、まずはお風呂よ。こんなに冷たくなって」
「お風呂? おばあちゃんちのお風呂、広いからダイスキー おにいちゃんとパパといっしょにはいってもいい?」
「もちろんよ。さぁ三人共、早くはいってらっしゃい。お雑煮を作っておくから」
というわけで、僕たちは新年早々、宗吾さんのご実家の湯船にドボンと浸かっている。
「瑞樹~ ラッキーだなぁ~ 今年は虎だし、なんだかこう血がムラムラと騒ぐんだ」
宗吾さんが寅のように『ガオーッ』と湯船のお湯を大量に零しながら、両手をあげてジェスチャーするので驚いた。
「そ、宗吾さんは寅年じゃないですよ。も、もう静かにしてくださーい!」
「パパ、じっとしてて。お湯がこぼれちゃうよ」
「なんだよ~ ケチぃ」
け、ケチっていくつなんですかーっと突っ込みたくなったが、宗吾さんの熱い視線が僕の胸や下半身を辿るので、ドキドキしてしまった。
宗吾さんの目力は強い。
だから……視線だけで触れられている気分になってしまうから駄目だ。
「め、芽生くん、洗ってあげよう」
「うん!」
「パパはそこでおとなしくしていてね。うごいちゃダメですよー」
「くすっ」
檻の中のトラみたいに、宗吾さんがじっとしている。
これは夜に反動が来そうだなと、肩をすくめた。
三人でポカポカになってお風呂から上がると、着替えがなかった。
「あれ? 母さん、着替えは-?」
「置いてあるでしょう。カゴの中よ」
「?」
宗吾さんがカゴを覗くと、黄色いものが見えた。
「なんだ、これ?」
「わー パパ。これトラさんだ」
「まさか!」
なんとなんと全身すっぽり着ぐるみのような衣装は、トラのものだった。
「に、兄さんですかー また!」
「やったー ボクたちトラさん三兄弟になれるんだね」
「う……うわぁ……」
憲吾さんは着ぐるみフェチだ、絶対!
クリスマスには三匹のクマだったし。
立派な弁護士さんの、意外な趣味を被るのは、僕たち三人なのか。
「はは……こ、これ……着るんですか」
「当たり前だぞ。さぁ誰が一番似合うかな?」
「それはもちろん」
芽生くんと顔を見合わせて――
「宗吾さんです!」
「パパだよー」
「へへっ、ガォォー!」
その通り、宗吾さんが全身トラの姿になってトラのマネをすれば、ハマりすぎていた。
「キャー! トラサンにたべられる」
「芽生くん、早く逃げよう!」
「待て待てー ガォォー!」
もうその後は、ドタバタだ。
こんなふざけた新年は初めてだ。
「こらー あなたたち、走り回らないの」
「ガォォー!」
「わぁぁ~」
「ふ……ふぎゃああ」
ああもうっ、彩芽ちゃんを泣かしてしまって大人げない。
「瑞樹くんと芽生、あーコホンコホン、宗吾はともかく君たちは可愛い。よく似合っているよ」
そして僕たちの前にはデレ顔の憲吾さん。
この兄弟は……なかなかの曲者だ!
「さぁこっちにおいで。お年玉をあげよう」
「わぁい!」
芽生くんが憲吾さんからお年玉をもらう。
「あー コホン、瑞樹くんにもある」
「え?」
「その……もらってくれ。私は弟に甘いんでね」
「いいなー 兄さん、 俺にもくれよ」
「宗吾にはそのトラの着ぐるみセットだ」
憲吾さんが銀縁の眼鏡の端を持って、にやりと笑った。
これが僕らの元旦だ。
羽織袴でさっきまでキメていたのに、トラ姿で正座してお屠蘇をいただいていた。
心が弾ける!
心が躍る!
こんなに楽しいお正月は久しぶりだ。
笑う門には福来たる。
今年は笑って笑って、楽しく明るく過ごしたい。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。