幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

積み重ねるのも愛 2

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 お揃いのダウンコートを着て、大人の寄り道をした。

 今日という日。

 ジェットコースターも水族館も、全部、全部……楽しい思い出になっていくだろう。

 嬉し過ぎて楽し過ぎて……終わりが来るのが怖いとすら思ってしまった。

 そんな矢先に、宗吾さんから声がかかった。

「さーてと、そろそろ帰るか」

 えっ、もう? まだ帰りたくない。もっといたい。

 あ……僕、何を言って?

 こんなに暗くなってきたんだ。

 寒くなってきたんだ。

 帰るのが当然だろう。

 でも……楽しかったので、まだいたいです。

 そんな僕の心を代弁するかのように、芽生くんが珍しく、はっきりとイヤだと言った。

「ボク……まだ、いたい! ここで、もっとあそびたいよ。のってないのいっぱいあるよ」

 まるで僕の心の中を見透かされたようで、驚いた。

 確かに宗吾さんの言うことは、尤もだ。だが、芽生くんの気持ちも痛い程、分かる。

 だからどちらにもつけずに、ぼんやりと立ち尽くしてしまった。

「芽生、あんまり我が儘を言うなよ。ちょっと今日は聞き分けないぞ!」
「うう……パパなんてキライ! あっ……」

 ハッ……これは駄目だ。
 
 こんな言葉を吐いたら、きっと二人とも後悔してしまうよ。

 お願いだ。どうか後々後悔するような言葉は残さないで。
 
 もしこの後何かあったら、その言葉がずっと残ってしまう。

 そう思って、思わず仲裁に入ってしまった。

 どちらの言い分も尤もだから、僕は中立の立場を取った。

 心に寄り添えば、こんがらがった感情も意外と簡単に解けるから。

「芽生、ごめんな。きつい言い方して」
「パパ、さっきは、ごめんなしゃい……」

 宗吾さんも芽生くんも、根は素直で感受性が豊かだ。  

 見たり聞いたりしたことを、正直に心で感じることができるって素晴らしいことだよ。

 嬉しい気持ち、楽しい気持ち、悲しい気持ち……

 全部……僕も大切にしたい。

 人生を彩るのが、感情なのかもしれない。

 似たもの同士だから、素直に非を認め合って謝る事ができる。それって素晴らしい特技だと思う。

 僕はこんなにも感情豊かな宗吾さんと芽生くんと一緒に過ごしていける。それが嬉しくてたまらない。



 ****

「あーあ、今日のボク、赤ちゃんみたいに、いやだいやだして、かっこわるかったなぁ……」
「芽生くん……」
「パパにひどいことも言っちゃって……ぐすん。きらわれないかなぁ」
「あぁ、おいで」

 湯船の中で今日の出来事を悔やむ芽生くんを抱きしめて、僕は「ありがとう」と言った。

「ん? なんで?」
「あのね……あの時、本当はお兄ちゃんもまだ帰りたくなかったんだ。今日はなんだかとっても楽しかったからね」
「そうだったの?」
「だから芽生くんがイヤイヤしてくれて、なんだかほっとしたよ」
「わぁ……お兄ちゃんでもそんなことあるんだね」
「大人も元は子供だからね。たまに子供の心が顔を出すことだってあるよ」
「そっか~ ボクもほっとした」

 完璧でなくていい。きっとその方がいい。
 
 少しアンバランスな方が、いいバランスを心がけて歩いて行けるのかもしれない。

 そんな気持ちになっていた。

 芽生くんを寝かしつけてリビングに戻ると、宗吾さんがキッチンの片付けをしていた。

「宗吾さん、お疲れ様です」
「あぁ……芽生は寝たか」
「はい」
「俺のこと、怖がってなかったか」

 こちらはこちらで、またしょぼんとしている。

「むしろ……自分を責めていましたよ」
「そっか」
「パパに酷いこと言って嫌われないか、心配しているようでした」
「嫌うだなんてとんでもないよ。嫌われそうなのは俺だ。俺……相変わらず口が悪いよな。カッとなって大人げない」
「宗吾さん……」

 自信なさげな様子に、胸の奥が切なくなる。

「楽しかったから出た言葉だったんですよね。実は僕も……心の中で同じことを思っていましたよ」
「瑞樹も? 帰りたくなかったのか」
「大人の寄り道って危険ですね。楽しすぎます」
「そっか。瑞樹でも駄々を捏ねるんだな。ベッド以外でも」
「あ……もうっ、話がズレていますよ」
「イヤだイヤだのあとは、もっともっとって言うからさ」
「も、もう! 僕が真面目に話しているのに」
「ごめん。ちょっと凹んでいた」

 今度は急に真面目な顔で、僕の手を掴んできた。

 知っていますよ。

 宗吾さん、凹むと分かりやすいから。

「宗吾さん、そろそろ寝ましょうか」
「あ、うん」
「一緒に眠りましょう」
「いいのか」
「少しだけなら……僕も触れ合いたいんです」
「積極的で嬉しいよ」


****

 大人も元は子供だったんだ。

 だから、芽生の気持ちも痛い程わかる。

 ふと、芽生が小さい頃を思い出した。

 2歳の頃、イヤイヤ期の芽生は、何をしても「イヤイヤ」と泣いて、玲子は「ダメ! 早くしなさい」と怒っていたな。あの時の俺はおっかないなと思って、そっぽを向いていた。

 うーん、反省だな。やはり……

「宗吾さん、子育てって、いろいろありますね。きっとこの先も……」
「あぁ……でも君が間に入ってくれると、本当に助かるよ。俺ひとりじゃ無理そうだ」
「あ……はい。僕で良ければ、いつでもお手伝いさせて下さい」

 瑞樹の剥き出しの肩に、チュッとキスを落として、身体を愛撫する。

「ん……っ」
「お手伝いなんかじゃないよ。芽生は、今は君と俺の子供だ。水族館でそう言っただろう?」
「……嬉しかったです。本当に嬉しくて」

 瑞樹が眩しそうに手の甲で目を覆った。

「また泣いて」
「宗吾さんの言葉はいつも……僕が欲しい言葉だから」

 今宵はどこまでも優しく抱こう。
 
 愛しい瑞樹を。

「俺、完璧じゃない。これからも助けてくれないか」
「あ……僕でよければ」

 瑞樹が花のように微笑み、自分から腕を回して抱きついてくれた。

「宗吾さんと芽生くんが好き過ぎて……困っています」

    
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