幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
942 / 1,871
小学生編

花びら雪舞う、北の故郷 14

「やーい、かわいそうな、かわいそーな、イツキ!」
「な、なんで?」
「お前さ、パパがいないんだろ」
「い……いるもん!」
「いないじゃん。ぼくのママがそういってたよ。みたことないしー」
「いっくん、みつけたもん!」
「ばーか、パパはみつけるもんじゃないだろ」
「ほ、ほんとうだもん!」

 いっくん、ちゃんとみつけたもん!
 きのうだって、パパと『もしもし』したもん!

「ぐすっ、ぐすっ」

 ママ……ママぁ……
 パパ……パパぁ……

 どこにいるの?
 あいたいよぅ……

 
 
****

「広樹、パソコンとプリンターあるか」
「あぁ店に導入したんだ」
「よかった。ちょっと借りてもいいか」
「いいけど、何をするんだ?」
「バレンタインイベントの広告を作ってみるよ」
「へぇ、流石だな」
「仕事でいつもこんなことばかりやっているからな」
「任せたよ」

 瑞樹と潤からの提案は、思いがけないものだった。

 俺が店を休んで、瑞樹たちと一緒にスキーに行く? そんなこと……天地がひっくり返ってもないと思っていた。今回も潤と瑞樹たちを見送る気、満々だったのに……本当にいいのか。まだ信じられないよ。
 
 最近は……俺たち兄弟のために休みなく働いてくれた母さんを少しでも楽にしてやりたくて、俺が遊ぶ事なんて二の次だった。店の定休日は、みっちゃんに休んでもらいたいから、優美の世話を全面的に引き受けていた。だからずっと休みなしで、飛ばしてきた。




 店の奥では潤と瑞樹が、仲良く協力しあってアレンジメント制作に取りかかっていた。

「ヒロくん、ほら、早く支度しないと。スキーウェアあるの?」
「あーそっか。いや俺のは瑞樹と潤が使ったから、もうないよ」
「そっか、でも潤くんと背格好が同じだから、借りたらいいわよね」
「お、おう」

 俺だけまだ動揺しているが、周りは俺が出掛けるのを当たり前のように受け止めてくれている。不思議な心地だな。

「ヒロくんは、少し頑張りすぎよ。たまには自分の時間を過ごして欲しいな。私には休みの日に実家に帰らせてくれたり、ショッピングに行く時間をくれるくせに」
「それは当たり前だよ」
「じゃ、今日ヒロ君がスキーに行くのも、いいと思う。ねっ瑞樹くん」

 みっちゃんは前向きで行動的だ。まぁ、こんな所に惚れたのだけれど。

「はい! 兄さん、あのね、日帰りじゃなくて1泊できないかな? 出発の時間が少し遅くなるから」
「泊まり?」

 そんなのは無理だと断ると、また周りがグイグイと引っ張ってくれる。
 
「潤が探してくれた素敵なコテージに泊まるんだ。兄さんにも来て欲しいな」
「そうだそうだ、広樹とも飲みたいし、1泊してけよ」
「わーい、ヒロくんもいっしょだ」

 最後は母さんとみっちゃんの後押しで、泊まることになった。

「兄さん。俺のウェア一式を置いて行くから着てくれよ」
「潤、なんだか悪いな」
「悪いのはこっちだよ。ちょっと胸騒ぎがするっていうのか……いっくんのことが気になって、途中で抜けてごめんな」
「そんなこと気にするな。しないで後悔しそうな事があるのなら、絶対に動いた方がいい!」

 潤に言った言葉は、そっくり俺にもあてはまる。
 たぶんこれは滅多にないチャンスなんだ。
 人生には、このタイミングだから出来ることがある。
 行ける時には、進めだ!

「よーし、行くからには楽しむぞ。その前に花屋の開店準備だ。店の前にもポスターを作らないか。あとスワッグとハーバリウムもいっしょに売り出すぞ」

 俄然やる気が出てきた。
 
「広樹、広告も出来たぞ」

 宗吾があっという間に、葉山フラワーショップのバレンタインのPOPを考えてくれた。

「どうだ?」
 
『フラワーバレンタイン・さぁ今年はありがとうの笑顔が咲く花を贈ろう!』
 ~甘さを感じるのは、味覚だけじゃない。心でも存分に感じられる~




「すごい! 本格的だな」
「即興さ。なぁ広樹は知ってるか。バレンタインデーって19世紀後半にイギリスで始まったんだぜ。当時は赤い薔薇の花にメッセージカードを添えて贈ることが一般的だったんだ。だからバレンタインに花は昔から欠かせない。もっとお菓子屋だけじゃなく、花屋も参戦するべきだと思っていたんだ」
「じゃあ由緒正しいんだな」
「そういうこと」

 宗吾と店の前にポスターを貼っていると、瑞樹が花を抱えて話し掛けてきた。

「兄さん、花を受け取った人が喜んでくれる笑顔を想像すると、幸せな気持ちになるよね。僕はそんなワンシーンを思い浮かべてアレンジメントしたよ。どうかな? タイトルは『ココロノハナ』だよ」

 それは赤い薔薇とピンクの薔薇の、可愛いバスケットだった。

「兄さん、提案してもいい?」
「珍しいな。なんだ?
「あのね……このバスケットはね、イースターのエッグを入れるのに丁度いいんだよ。だからイースターの日にバスケットを持ってきてくれた人に、お花を1本プレゼントするのは、どうかな?」
「お、いいな。また店に来てもらえるきっかけになるしな」
「うんうん。あとはワンコイン位で……お子さんとホワイトデーに、このバスケットにアレジメントするのもいいね。そういう企画も楽しそうだよ」

 次々と出てくる瑞樹のアイデアは、未来への煌めきがあって、すごくいい。

 何より引っ込み思案で生きていくことに消極的だった瑞樹が、未来を見つめて生き生きしているのが最高だ。

「瑞樹……また変わったな」
「ここは僕の故郷だ。この函館の街に、もっと花が溢れたらいいなって」
「瑞樹……」
「兄さん、僕は昨日で胸のつかえが取れたような心地なんだ」
「そうか、良かったよ」

 函館の街が怖くて、たまに帰省してもビクビクしていた瑞樹はもういない。

 本当に、もう怯える必要はないんだな。それを実感した。

「函館の人にもっともっと花を好きになってもらいたいな。俺もそう思うよ」
「兄さん……僕こんな風に思えることが出来て本当に嬉しいんだ」

 瑞樹はもう泣いていなかった。その代わり、とびきり可愛い笑顔を見せてくれた。
  
「良かったな」
「ずっと守ってくれた兄さんのお陰でもあるんだよ。兄さん、大好きだ」

 瑞樹が素直に甘えてくれ、大好きだと言ってくれる。

 それが嬉し過ぎて、俺が泣きそうになった。

 参ったな、これじゃ立場逆転だ。

 その後、順調に準備は整い、あっという間に葉山フラワーショップはバレンタイン一色となり開店した。そして俺たちは、いよいよスキー旅行へ繰り出す。

「行ってきます!」
「広樹、少し羽を伸ばして楽しんでいらっしゃい。あなたは真面目過ぎるから……少し寄り道も大事よ」
「そうだな、楽しんでくるよ。ありがとう」

 楽しもう! 
 一度きりの人生だ。心の底から味わおう!

 
感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。