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小学生編
花びら雪舞う、北の故郷 30
「お兄ちゃん、おはよう!」
「……んっ、え! もう朝なの?」
「そうだよ~」
また昨日のように、芽生くんはひとりでスキーウェアを着て、僕を覗き込んでいた。
「た……大変だ! 寝坊しちゃった」
「えっとねぇ、ねぼうはしてないと思うよ?」
「そうなの?」
スマホで時刻を確かめると、まだ6時半だった。
「芽生くん、いつ起きたの?」
「さっきだよ。まちきれなくて。それよりパパとヒロくんは?」
「あれ?」
ロフトに敷いた布団には、僕たちだけだった。
広樹兄さんは飲むとイビキをかいてしまうから、夜中に芽生くんが起きてしまわないか、心配していたのに。
それから宗吾さんは……酔って僕に絡んで来るかもと、心配していたのに。
一体、どこに行ったのかな?
芽生くんと一緒にそろりと階段を下りると、びっくりした。
「きゃー!」
「わっ!」
芽生くんがびっくりして、僕に飛びついてきた。
「パパのお口がちゃいろになってる。おおおお、おばけー」
「え? いやいや、あれは」
宗吾さんの足下に転がっていたのは、僕が昨日スーパーで買ったチョコ練乳のチューブ。机の上にはホットケーキの残骸。
「あはっ、これはチョコソースだよ。なんだ……宗吾さん一人で全部食べちゃったんだね」
「んん? お兄ちゃん、何につかうつもりだったの?」
「え! いやいや……なんでもないよ」
馬鹿っ、僕、何を期待して……
途端にカッと顔が熱くなる。
「お兄ちゃん、ヒロくんはミノムシさんみたいだね」
「広樹兄さんってば……いつの間に寝袋なんて持ってきて」
以前、東京に遊びに来てくれた時も、寝袋持参だったね。
兄さんは、あの時と何も変わっていない。
結婚しても、父親になっても、いつも僕のことを考えてくれる。
暖かい兄。
優しい兄。
いつも僕の安眠を守ってくれた大好きな兄さんだ。
「よーし、二人は深酒をしたみたいだから。芽生くん、僕と朝ご飯を作ろうか」
「うん!」
キッチンを覗くと、バケットと牛乳とヨーグルトがあった。
「フレンチトーストなら、僕にでも作れるかな?」
芽生くんがトコトコやってきて、ジャーンと何かを取り出した。
「お兄ちゃん、フレンチトーストには、やっぱりこれだよ!」
「えっ、それって蜂蜜? いつの間に?」
「えへへ、函館のおばあちゃんが買ってくれたんだよ~」
「いつの間に」
ベトベトは困るなぁ。
あぁ……僕、またヘンなこと考えて。
苦笑しながらモーニング珈琲を入れると、兄さんが先に起きてきた。
「瑞樹、おはよう!」
いつもの、ハグ。
いい歳の兄弟がおかしいかな?
兄さんは、いつもこうやって僕の温もりを確かめたがる。
僕がちゃんと生きているか。
体調はどうだ?
熱など出してないか。
いろんな意味が込められた、ハグなんだ。
その理由を知っているから、僕も身を任せている。
「ふふっ、兄さんってば、髭がくすぐったいよ」
「はは、恒例の儀式だ」
「もう」
「どうだ? よく眠れたか」
「うん。兄さん、ありがとう」
「昨日は結構ハードだったから、疲れているだろうと思ってな」
「ぐっすり眠れたから、元気いっぱいだよ」
「よしっ」
芽生くんが、宗吾さんの肩をゆさゆさと揺らしている。
「パパー そろそろ、おきてくださいー」
「ううん、まだ眠い」
「もう、いいものあげないよぅ」
「いいものってなんだぁ? チョコ練乳なら、もう全部平らげたぞ」
「じゃ、じゃーん」
あっ、それは!
芽生くんがチューブの蜂蜜を見せると、宗吾さんが飛び起きた。
「芽生、それ、くれ!」
「駄目だよ、フレンチトーストにいっぱいかけるんだもん」
「頼むぅ……」
二人の会話を聞いていた兄さんが、苦笑していた。
「瑞樹、本当にあんなヤツでよかったのか」
「くすっ。うん……兄さん、僕はね、宗吾さんのおかげで毎日楽しいよ」
「そうか、まぁそうだな。アイツは飽きないな」
「ふふ」
全員、顔を洗い綺麗さっぱりしてから、フレンチトーストを食べた。
もちろん蜂蜜たっぷりでね。
宗吾さんは最後まで名残惜しそうに、蜂蜜を眺めていたけれども。
「じゃ、俺は帰るよ」
「兄さん、僕が駅まで送るよ」
「そうか、悪いな。宗吾ちょっと瑞樹を借りるよ」
「雪道は瑞樹でなくては無理だから、俺は部屋の掃除と支度をしておくよ」
「そうして下さい。すぐに戻ります」
僕はコテージから大沼駅まで、兄さんを車で送った。
「瑞樹、ありがとう。旅行、すごく楽しかったよ」
「兄さん、僕もだよ」
「瑞樹、幸せになれよ。もっともっと――」
「うん!」
何処までも続く白い道。
故郷に近いせいか、どこか懐かしい道。
「今日も楽しめよ」
「うん。スキー三昧かな」
「瑞樹、潤のこと、俺たちもしっかりサポートして、応援していこうな」
「僕もそう思っていたよ」
さぁ、兄さんは、兄さんの家族の元へ。
僕は、僕の家族の元へ戻ろう。
****
「いっくん、今日はご機嫌なのね? 昨日はびっくりしたわ。もう勝手に門を出ちゃ駄目よ」
「せんせ……ごめんなしゃい」
「お約束できる?」
「うん。パパともおやくそくしたの」
「パパ?」
「うん! あのね、いっくんのパパ、やっとみつかったんだ」
「まぁ! ほんとうに? よかったわね」
せんせいがうれしそうに、あたまをなでてくれたよ。
えへへ、くすぐったいな。
「よかったわね。いっくん。じゃあ、もうだいじょうぶね」
「うん! もうひとりでどこにもいかないよ。だって、パパとママがえーんえーんしちゃうもん」
「そうよ。先生ともお約束ね」
「うん!」
パパとママには、いつもニコニコでいてほしいな。
ママね……ずっと、ないてばかりだったから、これからはいつもニコニコがいいな。
「……んっ、え! もう朝なの?」
「そうだよ~」
また昨日のように、芽生くんはひとりでスキーウェアを着て、僕を覗き込んでいた。
「た……大変だ! 寝坊しちゃった」
「えっとねぇ、ねぼうはしてないと思うよ?」
「そうなの?」
スマホで時刻を確かめると、まだ6時半だった。
「芽生くん、いつ起きたの?」
「さっきだよ。まちきれなくて。それよりパパとヒロくんは?」
「あれ?」
ロフトに敷いた布団には、僕たちだけだった。
広樹兄さんは飲むとイビキをかいてしまうから、夜中に芽生くんが起きてしまわないか、心配していたのに。
それから宗吾さんは……酔って僕に絡んで来るかもと、心配していたのに。
一体、どこに行ったのかな?
芽生くんと一緒にそろりと階段を下りると、びっくりした。
「きゃー!」
「わっ!」
芽生くんがびっくりして、僕に飛びついてきた。
「パパのお口がちゃいろになってる。おおおお、おばけー」
「え? いやいや、あれは」
宗吾さんの足下に転がっていたのは、僕が昨日スーパーで買ったチョコ練乳のチューブ。机の上にはホットケーキの残骸。
「あはっ、これはチョコソースだよ。なんだ……宗吾さん一人で全部食べちゃったんだね」
「んん? お兄ちゃん、何につかうつもりだったの?」
「え! いやいや……なんでもないよ」
馬鹿っ、僕、何を期待して……
途端にカッと顔が熱くなる。
「お兄ちゃん、ヒロくんはミノムシさんみたいだね」
「広樹兄さんってば……いつの間に寝袋なんて持ってきて」
以前、東京に遊びに来てくれた時も、寝袋持参だったね。
兄さんは、あの時と何も変わっていない。
結婚しても、父親になっても、いつも僕のことを考えてくれる。
暖かい兄。
優しい兄。
いつも僕の安眠を守ってくれた大好きな兄さんだ。
「よーし、二人は深酒をしたみたいだから。芽生くん、僕と朝ご飯を作ろうか」
「うん!」
キッチンを覗くと、バケットと牛乳とヨーグルトがあった。
「フレンチトーストなら、僕にでも作れるかな?」
芽生くんがトコトコやってきて、ジャーンと何かを取り出した。
「お兄ちゃん、フレンチトーストには、やっぱりこれだよ!」
「えっ、それって蜂蜜? いつの間に?」
「えへへ、函館のおばあちゃんが買ってくれたんだよ~」
「いつの間に」
ベトベトは困るなぁ。
あぁ……僕、またヘンなこと考えて。
苦笑しながらモーニング珈琲を入れると、兄さんが先に起きてきた。
「瑞樹、おはよう!」
いつもの、ハグ。
いい歳の兄弟がおかしいかな?
兄さんは、いつもこうやって僕の温もりを確かめたがる。
僕がちゃんと生きているか。
体調はどうだ?
熱など出してないか。
いろんな意味が込められた、ハグなんだ。
その理由を知っているから、僕も身を任せている。
「ふふっ、兄さんってば、髭がくすぐったいよ」
「はは、恒例の儀式だ」
「もう」
「どうだ? よく眠れたか」
「うん。兄さん、ありがとう」
「昨日は結構ハードだったから、疲れているだろうと思ってな」
「ぐっすり眠れたから、元気いっぱいだよ」
「よしっ」
芽生くんが、宗吾さんの肩をゆさゆさと揺らしている。
「パパー そろそろ、おきてくださいー」
「ううん、まだ眠い」
「もう、いいものあげないよぅ」
「いいものってなんだぁ? チョコ練乳なら、もう全部平らげたぞ」
「じゃ、じゃーん」
あっ、それは!
芽生くんがチューブの蜂蜜を見せると、宗吾さんが飛び起きた。
「芽生、それ、くれ!」
「駄目だよ、フレンチトーストにいっぱいかけるんだもん」
「頼むぅ……」
二人の会話を聞いていた兄さんが、苦笑していた。
「瑞樹、本当にあんなヤツでよかったのか」
「くすっ。うん……兄さん、僕はね、宗吾さんのおかげで毎日楽しいよ」
「そうか、まぁそうだな。アイツは飽きないな」
「ふふ」
全員、顔を洗い綺麗さっぱりしてから、フレンチトーストを食べた。
もちろん蜂蜜たっぷりでね。
宗吾さんは最後まで名残惜しそうに、蜂蜜を眺めていたけれども。
「じゃ、俺は帰るよ」
「兄さん、僕が駅まで送るよ」
「そうか、悪いな。宗吾ちょっと瑞樹を借りるよ」
「雪道は瑞樹でなくては無理だから、俺は部屋の掃除と支度をしておくよ」
「そうして下さい。すぐに戻ります」
僕はコテージから大沼駅まで、兄さんを車で送った。
「瑞樹、ありがとう。旅行、すごく楽しかったよ」
「兄さん、僕もだよ」
「瑞樹、幸せになれよ。もっともっと――」
「うん!」
何処までも続く白い道。
故郷に近いせいか、どこか懐かしい道。
「今日も楽しめよ」
「うん。スキー三昧かな」
「瑞樹、潤のこと、俺たちもしっかりサポートして、応援していこうな」
「僕もそう思っていたよ」
さぁ、兄さんは、兄さんの家族の元へ。
僕は、僕の家族の元へ戻ろう。
****
「いっくん、今日はご機嫌なのね? 昨日はびっくりしたわ。もう勝手に門を出ちゃ駄目よ」
「せんせ……ごめんなしゃい」
「お約束できる?」
「うん。パパともおやくそくしたの」
「パパ?」
「うん! あのね、いっくんのパパ、やっとみつかったんだ」
「まぁ! ほんとうに? よかったわね」
せんせいがうれしそうに、あたまをなでてくれたよ。
えへへ、くすぐったいな。
「よかったわね。いっくん。じゃあ、もうだいじょうぶね」
「うん! もうひとりでどこにもいかないよ。だって、パパとママがえーんえーんしちゃうもん」
「そうよ。先生ともお約束ね」
「うん!」
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ママね……ずっと、ないてばかりだったから、これからはいつもニコニコがいいな。
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