幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
962 / 1,865
小学生編

花びら雪舞う、北の故郷 34 

しおりを挟む
  オレは真冬の空の下で、黙々と薪を割っていた。

「今年は寒さが厳しくて薪が足りんな。おっと……また雪が降って来たのか」

 単純作業をしているうちに……ふと亡き師匠の姿を思い出していた。

「お元気ですか……オレは相変わらず森に籠もりきりですよ」

 敬愛していた大樹さんをを突然の交通事故で失ってから、もう17年以上の月日が流れてしまったのか。

「本当に本当に……すみません。オレがあんな我が儘を言わなければ……」

 あの日、雷雨の中……オレの所になど寄らないで、真っ直ぐ帰路に就いていたら、師匠は死ななかったのでは? 交通事故は一秒でもずれていたら、避けられたのではないか。

 未だに悔やんで、悔やみ切れない現実だ。

 あの晩、ニュースで大樹さんの死を目の当たりにして……

 嘆き、悲しみ、途方に暮れた。

 結局、葬式にも行けず、このコテージで狂ったように泣き崩れていた。

 漸く正気に戻った時には、事故から半年以上経っていた。

 重い足取りで通い慣れた大樹さんの家に向かうと、そこは様変わりしていて、緑の屋根に白い壁のペンションになっていた。

 その光景に再び絶望し、世捨て人同然に暮らした。

 山奥のログハウスで、自給自足の生活。

 人との関わりを断ち、話し相手は森から遊びに来るキタキツネだけだった。

 

 大樹さんには、美人な奥さんと可愛い息子が2人いた。

 子供たちは奥さんに似た栗色の髪で、瑞樹くんと夏樹くんと言った。

 特に瑞樹くんは、オレがまだ学生の頃から知っているので、「みーくん」と愛称で呼び、彼はオレの名字が『熊田』だから「くまさん」「森のくまさん」と呼んで懐いて慕ってくれた。

 あの事故で……瑞樹くんだけ生き残り、遠い親戚に引き取られたと風の便りで聞いたが、探す勇気も会いに行く勇気もなかった。

 心のどこかで、罪悪感を抱いていたから。

「ふっ、今日はおかしいな。昔のことばかり思い出すなんて」

 そろそろ上がろうと斧を小屋に戻し、薪を束ねていると、キタキツネのコンがやってきた。

「どうした? こんな時間から現れるなんて珍しいな」

 同時に、頭上から樹の擦れる音がした。

 樹にひっかかりながら、 何かが降ってくる――

「なんだ?」
 
 咄嗟に手を広げて、落下物を抱き留めてた!

 絶対にそうしないといけない使命を受けて。

「危ない!」
 
 腕に収まったミルクティー色の塊は、若い男性だった。

「おい! しっかりしろ!」
 
 もしかして上の国道から落下したのか。

 頭上を見上げると、樹木の間に微かに白いガードレールが見えた。

 あんな高い場所から落下したのに、不思議なことにかすり傷もない。

 フードまですっぽり被った状態だったので、もしかしたら、このダウンコートが君を守ってくれたのか。

「君、大丈夫なのか」
「……」
「参ったな」

 ショックで気絶しているようだ。

 こんな時どうすりゃいい?

 とりあえずオレのベッドに寝かせて、骨折していないか確かめよう。

 見た感じ、外傷もないので救急車はいらないだろう。

 ログハウスのオレのベッドに寝かせ、手早くダウンコートを脱がした。

 パンパンとダウンを叩くが、携帯などは入っていないようだ。

 困ったな、連絡先が分からない。

 よくよく見れば、可愛い顔をした青年だった。

 どこかで会ったような?

 その時は分からなかった。

 それよりも彼が目覚めた時、異常なまでに恐怖に震え、オレが近づくと半狂乱になって逃げ出してしまったのに驚いて、すぐに気付かなかったのだ。

 まさか、きみが『みーくん』だったなんて。

 最後に君に会ったのは10歳の時だ。

 あの雨の中、ログハウスの前に停車した車の中で、弟とじゃれ合っていたのを覚えている。

 このログハウスで、10歳の君の写真には、毎日会っていたのにな。

 あの悲惨な事故で……君だけでも生き残ってくれて良かった。

 本当にオレはその事実に救われた。

「くまさん、あの……二階に行っても? あの写真を見せたいんです」
「自由にどうぞ! ここは半分君の家のようなもんだ」
「え?」
「その、いろいろ話したいことがあるが、まずはあの写真を見てこい」
「あ……はい!」

 この世で一人になってしまったみーくんを、力強く支えてくれる家族がいるのが嬉しいよ。

 だから相手が同性でも、オレには問題ない。

 逞しく大らかそうな男性と可愛い坊や。

 彼らの必死な形相に、みーくんがどんなに愛され、どんなに大切にされているか伝わってきた。

「宗吾さん、芽生くん、見に行きましょう」
「あぁ、それより本当に怪我はないのか」
「あ……はい。ほら、手も足も異常なしです」
「奇跡的だな。ちょっと確認させてくれ」

 男性が我慢できないように、みーくんをすっぽりと抱きしめた。

「あっ……」

 みーくんも彼がどんなに心配したかを知っているから、身動きせずに身を委ねていた。

 男性がみーくんの身体を強く抱きしめる。

 愛で包み込む。

「良かった。本当に無事なんだな」
「はい、この通り」
「お、お兄ちゃん……本当に大丈夫なの?」
「芽生くん、心配かけてごめんよ」
「また……だっこも……できるかなぁ」
「もちろんだよ! おいで! 芽生くん」

 みーくんが、今度は坊やを抱き上げる。

 家族を愛し、家族に愛されている。

 君は今――そういう状態なんだな。

 それはかつての明るく和やかな青木家のようだよ。

 嬉しい光景に、思わず視界が滲んでしまった。
 
 泣きすぎて枯れたと思った涙だったのに、今は嬉しくて泣いている。

しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...