969 / 1,871
小学生編
花びら雪舞う、北の故郷 41
「ところで、なんだかいい匂いがしますね」
「あぁ、忘れていた。朝からシチューを煮ていたんだ」
ストーブの上にのせられていたのは、外国製の重たそうな黒い鍋だった。
「へぇ、クリームシチューですか。美味そうですね」
「実は、もうすぐ大樹さんの誕生日で……それ何だか今日は無性に好物だったシチューを作りたくなって、朝から煮込んでいたんだ。あとでお供えするつもりだった。だから、いつもの倍の量を作っていたのだが、まさか大樹さんの息子さんの家族に振る舞うことになるとはな」
お供えとは……
瑞樹の両親の墓参りをしてくれていたのか。
そんな気配はなかったが。
「もしかして墓の場所を知っているのですか」
「いや……怖くて調べていないんだ。だからお供えと言っても、俺が撮った二人の写真に」
「よかったら、墓の場所を瑞樹に聞いてやって下さい」
「聞いてもいいのだろうか。俺なんかが」
「喜びますよ」
そんな話をしみじみとしていると、瑞樹と芽生が一緒に部屋に入ってきた。
さてはこのシチューの匂いに釣られたな。
「みーくん、メイくん、腹減っただろう。シチューを食べるか。大樹さんの好物は、君の好物でもあったよな」
「あ……くまさんの森のシチューだ」
なんだか童話の世界にいるみたいだ。
寝起きの瑞樹と芽生が天使のように見えて、目を擦ってしまった。
「なんだか、この光景……みーくんとなっくんを思い出すな」
「夏樹くんは丁度今の芽生くらいでしたからね」
「君はよく知っているんだな。みーくんと知り合って長いのか」
「……時間より深さですかね? しっくり来る相手なんですよ。お互いに」
自信を持って答えられた。
俺が瑞樹を愛する気持ちは揺らがない。
むしろ強くなる一方だ。
だから……
「深さか……いい関係を築いてくれてありがとう。みーくんは息子みたいな存在だったから嬉しいよ。みーくんは幼い頃よりずっと強くなったようだ。それはきっと君のお陰なんだな」
熊田さんと話すと瑞樹の父親と話している気分になり、いささか緊張気味だ。
「ところで、ちょっと口調が余所余所しいな。俺とはタメでいいよ。君もいい歳だろう?」
「えぇ? 熊田さんって、いくつですか」
「もうすぐ50歳さ」
「そうなんですね。ちなみに俺はまだ33歳ですよ?」
「え? てっきり40は越えてるかと」
「それって……瑞樹と出会った時にも言われましたよ。とほほ……参ったな」
そんな話をしていると、瑞樹に笑われてしまった。
「宗吾さん、元気出して下さい。あの頃よりずっと若返っていますよ。あれ? ちょっと日本語ヘンですよね」
「パパー、ふけちゃいやだよ。わかわかしくいてね」
「おう!」
昨日、広樹と飲み過ぎたせいか。
顔に覇気がないのか。
慌てて洗面所を借りて、顔を冷水で洗い引き締めた。
「みーくん、君の彼氏は面白いな」
「宗吾さんはカッコイイです」
瑞樹……天使!
「そうだな、愛嬌があってかっこいいな。よかったな。いい人に巡りあって」
「はい……くまさん。僕たちは……深く……その」
瑞樹がそこまで言いかけて、耳を真っ赤にした。
「瑞樹。ふかーく、愛し合っているだろ?」
「はははっ、宗吾さん、いや、宗吾と呼ばせてもらおう。宗吾は大きなヤツだな。大樹さんもそういう所があったよ。大きな心を持っていた」
嬉しい言葉だ。
最高の言葉だ。
幸せな言葉だ。
あとがき(不要な方は飛ばして下さいね)
****
今日は短い更新になりました。
同人誌についてお知らせです。
『幸せな贈りもの2 ランドマーク』予約分100冊は完売しまして、部数限定で一般販売しています。
ご興味あれば遊びにいらして下さい。https://shiawaseyasan.booth.pm/
芽生が幼稚園の時に見た夢の話(英国に行く話)と、高校生になった芽生が現実に英国に留学する書き下ろしを収録しています。宗吾さんと瑞樹も出てきます。彼らの10年後を知ることが出来ます。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。