幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,128 / 1,871
小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!㉒

 お腹に響くような音の正体は、打ち上げ花火だ。

「わぁ、お兄ちゃん、きれいだね!」
「花火が見られるなんて……」
「今日は花火大会だったんだな」

 函館にいた時、毎年8月1日に港で大きな花火が上がった。

 地元で一番大きな夏祭りだった。

 10歳の6月に函館の家に引き取られ……初めて間近で見た花火を、僕はよく覚えている。

 あの日は、広樹兄さんに手を引かれ、港まで行ったんだ。

 途中、兄さんがお小遣いで、僕にハンバーガーを買ってくれた。

 それを握りしめて、埠頭の石段に腰掛けた。

……
「瑞樹、ほら早く食べろ。花火が始まると忙しいぞ」
「……でも、広樹兄さんのは?」
「……俺は腹一杯だ」
「じゃあ、広樹兄さんが食べて」
「馬鹿! いつもいつも遠慮ばかりして、そんなんだからそんなに痩せ細って」

 兄さんが僕の手首を見つめて、嘆くように言った。

「ごめんなさい。心配かけて……」

 あの日の光景が目に焼き付いて、食欲が戻らないんだ。何を食べても味がよく分からないんだ。そんなこと……ただただ、僕を引き取ってくれた人たちに負担をかけ心配させるだけで、絶対に言えなかった。

「瑞樹、なぁお願いだから食べてくれよ、ここの有名で美味しいだぞ」
「……知ってる」
「あっ、食べたことあるのか。そっか……思い出させて、悪かったな」
「ううん、大丈夫だよ。あのね……兄さん……僕はこれ好きだったんだ」
「馬鹿、過去形にすんな! 好きなら欲しがれよ。俺がバイトして買ってやるから」
「そんな……」

 ドドーン!

 そんな押し問答をしていると、夜空に花火が咲いた。

「お! 始まったな。瑞樹、見えるか」
「うん!」

 一口食べると、いつになく食欲が湧いた。

 懐かしいハンバーガーの味。

 昔、買ってもらったんだ。

 大きなハンバーガーなので、夏樹と僕とで半分こしたよね。

 いつもいつだって、仲良く半分こ。

「夏樹……なっくん……」

 花火を見ていたはずなのに、視界がグチャグチャに歪んだ。

「瑞樹……泣いて……あぁ、泣くな」
「うっ……ううう……」
「あのな、花火って鎮魂の意味もあるんだって」
「ちんこん?」
「あぁ……その……遺された人々が……悲しみを忘れるのではなく、共に歩んでいくために花火をあげるんだそうだ」
「共に歩んでいく?」
「まだ瑞樹には難しいかな……俺も父さんを亡くしているが、今でも心にいるし、夜空の向こうにいるんだよ。この人生を見守ってくれている」

……

 広樹兄さんの話は、10歳の僕にはまだ理解し難い話だった。
 
 でも今なら分かる。

 悲しみと共に歩む人生は、いつしか幸せで塗り替えられていくと。

 悲しみを知っているから、幸せだと感じられるんだ。

「瑞樹、花火っていいな。夜空の向こうも照らしてくれているようじゃないか」
「宗吾さん、とても素敵な言葉ですね」

 夜空の向こうにいる僕の両親と夏樹の姿が、あの雲の陰に見えるような……

 夜空に咲く花火が、僕の顔も明るく照らしてくれた。

「綺麗なのは、瑞樹の横顔だ」
「……恥ずかしいです……そんな言葉」
「どうして? 本当のことを言ったまでだぞ」
「宗吾さんも花火みたいです。僕が暗く沈んでいると、パッと現れて場を明るくしてくれますから」
「おぉ、パッと咲く花火は好きだな。みんなを喜ばせるしな」
「はい、僕も大好きです」

 その場にいる全員が、各自、花火を見上げては目を細めていた。

「あぁぁ! 花火大会ってことは、夏祭りをしているんだったな」

 大きな声を出したのは、宗吾さんではなく流さんだった。

「宗吾、瑞樹くん、芽生くん、ちょっと来てくれ」
「流、なんだよ?」
「いいから、いいから」



 暗闇のテントに押し込まれると、流さんの目がカッと光った。

「宗吾、脱げよ」
「へ? なんで俺が?」
「ほら時間がないんだ」
「ぎゃー‼‼ えっちぃ!」
「馬鹿か。俺は翠にしかタタン」
「え? 今なんていったー ヤメロ、子どもの前で」
「ははっはっ」


 なんといきなり宗吾さんがいきなり身ぐるみを剥がされた。(あ、下着はセーフのようです! って僕、一体誰に報告を?)

「ほら瑞樹くんと芽生坊も、脱げ脱げ。悪いようにはしないよ」
「……お兄ちゃん、りゅーくんのいうこときいてみようか」
「そうだね。芽生くんがいるなら心強いよ」

 よく分からないが……僕たちがごそごそ着ているものを脱いでいると、隣のテントに何かを取りに行っていた流さんが舞い戻ってきた。

「さぁ着付けてやるよ。やっぱり持ってきてよかった」
「え? これって浴衣か」
「そうだ。俺たちのお古で悪いが」
「流……いいのか」
「明かりを付けるぞ」

 ランタンに明かりが灯ると、浴衣姿の宗吾さんが浮かび上がった。

「パパっ! ゆかただ!」
「宗吾さん、素敵です!」
「瑞樹くんと芽生くんの分もあるぞ」
「あ、ありがとうございます」
「なぁに、これは俺たちからのお礼だよ。今回月影寺に声をかけてくれてありがとうな。だから家族で夏祭りに行ってこいよ」
「え、でも……みんなは?」
「まだまだ、ゆっくりまったり食ったり飲んだりしているさ」

 どうやら僕たち3人に、夏の思い出をプレゼントしてくれるようだ。

「流、支度は出来たの?」
「翠、運転頼んで悪いな」
「僕はまだ飲んでいないから、大丈夫だよ」
「翠さん!」
「瑞樹くん、浴衣姿可愛いね。さぁ僕が車で送迎するからどうぞ」
「ちなみに俺は翠の騎士として、引率するぞ」
「それは安心です」

 僕たちは少しだけキャンプ場から抜け出て、近くの町の広場で開催されている夏祭りにお邪魔した。

「流、ありがとうな」
「宗吾、俺たちは駐車場で待っているから、30分ほど家族水入らずで楽しんで来いよ」
「あぁ」

 盆踊りの輪が出来ており、その周りには屋台がずらりと並んでいる。

 夜空にはひっきりなしに花火も上がっている。

 薄暗い山奥で繰り広げられるお祭りは、灯籠の明かりのみで幻想的だ。

「瑞樹の緑の浴衣、よく似合っているよ」
「宗吾さんの紺地に白も粋ですね。あ、僕の色違いの模様なんだ」
「お兄ちゃん、ボクのははちみつ色だよ」

 ふと……今がいつで、ここがどこだか分からなくなる。

 三人だけの世界に立っている。
 
「暗いから、みんなで手をつなごうよ」
「そうだね。迷子になったら大変だ」
「手をつないでいるから大丈夫だよ。こわくないよ。それに花火もあるしね」

 芽生くんの小さな手の温もりと優しくつながり、宗吾さんの大きな温もりを支えにして、頼りにして……僕は歩んで行く。

 悲しみも喜びも僕の人生だと受け入れて、今を歩んでいる。

感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。