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小学生編
実りの秋 23
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さぁいよいよ午後の部だ。
「瑞樹、次の芽生の出番はなんだ?」
「えっと、大玉送りですね」
「ん? 保護者も参加出来るみたいだぞ」
「あ、そうみたいですね」
「よし、これなら全員参加できそうだな。すぐにエントリーしてくるよ」
確かに大玉送りは老若男女、誰でも気軽に参加出来る競技だ。芽生くんの通う小学校は小規模なので、保護者が参加出来る機会が多いのも嬉しい。
宗吾さんがダッシュして、芽生くんと同じ赤組の枠を人数分エントリーしてくれた。こういう時の宗吾さんは、本当に生き生きしている。
「よし、皆、頑張りましょう!」
「宗吾、随分と張り切っているな」
「兄貴と運動会に参加するのは、小1の時以来ですね」
「……覚えているのか」
「俺が入学した時、兄貴は6年生でお世話係としてよく俺の教室に来てくれていましたよね」
「ま、まぁな」
「俺のこと……遠くからいつも気にしてくれていたの、今になって分かります」
「そうか」
宗吾さんと憲吾さんも、二人の思い出を振り返っているようだ。
『間もなく、大玉送りを始めます』
アナウンスを合図に、校庭に白線で描かれた巨大な輪の上にずらりと並んだ。見ていただけの子供の世界に、足を一歩踏み入れるようなワクワクした気持ちが溢れてくる。
お母さんが僕の横に来て「瑞樹の隣がいいわ」なんて言ってくれるのも、嬉しいし、くまさんと宗吾さんと憲吾さんが並んでいる姿も頼もしかった。
あ……すごい。
見渡す限り、僕の家族の顔が見えるよ。
こんなこと初めてだから、胸が熱くなるよ。
「では始めます!」
ピストル音を合図に、赤い大玉が保護者の頭上を弾み出した。
大玉を前に送るにはチームワークが必要だ。参加者一人一人が息を合わせてタイミング良く手を動かすと、大玉が面白いように早く進んでいく。
「来たぞ!」
僕たちの頭上を弾む大玉に、童心に戻って手を伸ばした。カーブで外側にはみ出そうになると、くまさん、宗吾さん、憲吾さんの三人が大きくジャンプして、内側に戻してくれた。
「あら! 勇大さんってば、かっこいいわ。ねっ瑞樹!」
「うん! お父さん、すごい!」
宗吾さんより高くジャンプしていた!(かも!)
宗吾さんと憲吾さんの笑顔がよく似ているのも分かった。やっぱり二人は兄弟なんだな。
僕やお母さんたちの頭上では、どんなに手を伸ばしても触れられない程高く弾んでしまったが、大玉に思いっきり手を伸ばす感情は『憧れ』にも似ていると思った。
「あっと言う間に通過しちゃったわね。触れなかったわ~」
「次はきっと! そうか、低学年は下に降ろして転がすのですね」
芽生くんも夢中で、大玉を送っていた。
やがて2周目がやってくる。
今度は僕たちの方に大玉が弾んで来た。
「お母さん、今だ! 触って」
僕はジャンプして大玉が外にはみ出ないように手で押さえた。
「あ、触れたわ!」
「よかった! 僕も!」
大玉がほんの少し指先を掠めただけでも、こんなに幸せな気持ちになるのは何故だろう? まるで憧れに手が届いたように、心が灯る。
「まさかこの歳になって瑞樹と運動会に参加出来るなんて……また夢が叶ったわ」
「僕も……僕もだよ」
その後は中学年と高学年の徒競走とダンスが続いたので、レジャーシートで休憩していると、宗吾さんがワクワク顔で話し掛けてきた。
「瑞樹、次は芽生がパン食い競争に出るぞ」
「そんな可愛い競技もあるのですね。宗吾さん、近くに見に行きましょう!」
僕が宗吾さんに手を差し出すと、少し驚いた後、破顔してくれた。
「瑞樹、今日は凄く楽しそうだな」
「あ……あの、童心に戻ってしまって」
「今日はいろんな瑞樹に会えて嬉しいよ」
「そうでしょうか。普段からこの位明るく積極的になれたらいいのですが……まだまだですよね」
「そこは、あえて意識しなくていい。俺はありのままの瑞樹がいればいい。だからどんな瑞樹でもいい、目の前にいる君を大切にしたいんだ」
『ありのままの僕でいい』
変化も含めて僕を丸ごと受けとめてくれる広い港が、宗吾さんだ。
僕以上に僕を理解してくれる宗吾さんと巡り逢えて良かった。
ストンと落ちる感情は本物だ。
あの辛く悲しい日々も乗り越えて辿り着いた場所は、ぽかぽかな日溜まりだった。
あの時、生きることを諦めなくてよかった。
あの日の絶望は、もうどこにもない。
「あんパンか~ 美味しそうだな!」
「芽生くん、あのキャンプ以来、あんこが大好きになって」
「こもりんの影響だな」
「小森くん、元気でしょうか」
「また会えばいいさ」
「そうですね。紅葉の頃にでも会いに行きたいですね」
「了解! 計画練るよ!」
もう待っているだけではない。自分から行きたい所に、自由に行ってもいいんだ。
すぐに、パン食い競争が始まった。
「あれ? 何人かの子供たちが、動物の被り物をしていますね」
「可愛いな」
くまやキリン、うさぎの被り物をした子供たちが走ってくる。
動物になりきった走り方をしたりして、とっても可愛い。
「あれ? 芽生くんは被り物をしてないのですね」
「芽生はこう言っていたよ。『ボクは赤い帽子のままがいいな。だってみんなが見つけやすいでしょ。おばあちゃんは目が悪いし、あーちゃんは小さいし』だってさ。アイツいつも可愛いこと言うんだよ。あんなに小さいのに俺たちのことまで考えてくれて、優しい子だ」
「芽生くん、何も被っていなくても、とっても楽しそうですね」
「あぁ優しくて明るくて可愛い子にスクスクと育っているよ。瑞樹のお陰だ。ありがとうな」
改めてお礼を言われて、くすぐったい気持ちになる。
「僕の方こそ芽生くんのおかげで運動会にお父さんとお母さんと参加できたり、楽しく嬉しいことばかりですよ」
子供たちもパンを目がけて笑顔! 笑顔! ジャンプ! ジャンプ!
この競技には順位なんて関係ない。子供たちが夢中でパンを取って嬉しそうに食べる姿に、生への力強さを感じた。
運動会は、大人も学ぶことが沢山ある。
芽生くんが僕に与えてくれる世界は、これからもどんどん広がっていくんだね。
僕ひとりでは見えなかった景色を、今日も見せてくれてありがとう!
芽生くんの笑顔は、いつも僕の宝物だよ!
「瑞樹、次の芽生の出番はなんだ?」
「えっと、大玉送りですね」
「ん? 保護者も参加出来るみたいだぞ」
「あ、そうみたいですね」
「よし、これなら全員参加できそうだな。すぐにエントリーしてくるよ」
確かに大玉送りは老若男女、誰でも気軽に参加出来る競技だ。芽生くんの通う小学校は小規模なので、保護者が参加出来る機会が多いのも嬉しい。
宗吾さんがダッシュして、芽生くんと同じ赤組の枠を人数分エントリーしてくれた。こういう時の宗吾さんは、本当に生き生きしている。
「よし、皆、頑張りましょう!」
「宗吾、随分と張り切っているな」
「兄貴と運動会に参加するのは、小1の時以来ですね」
「……覚えているのか」
「俺が入学した時、兄貴は6年生でお世話係としてよく俺の教室に来てくれていましたよね」
「ま、まぁな」
「俺のこと……遠くからいつも気にしてくれていたの、今になって分かります」
「そうか」
宗吾さんと憲吾さんも、二人の思い出を振り返っているようだ。
『間もなく、大玉送りを始めます』
アナウンスを合図に、校庭に白線で描かれた巨大な輪の上にずらりと並んだ。見ていただけの子供の世界に、足を一歩踏み入れるようなワクワクした気持ちが溢れてくる。
お母さんが僕の横に来て「瑞樹の隣がいいわ」なんて言ってくれるのも、嬉しいし、くまさんと宗吾さんと憲吾さんが並んでいる姿も頼もしかった。
あ……すごい。
見渡す限り、僕の家族の顔が見えるよ。
こんなこと初めてだから、胸が熱くなるよ。
「では始めます!」
ピストル音を合図に、赤い大玉が保護者の頭上を弾み出した。
大玉を前に送るにはチームワークが必要だ。参加者一人一人が息を合わせてタイミング良く手を動かすと、大玉が面白いように早く進んでいく。
「来たぞ!」
僕たちの頭上を弾む大玉に、童心に戻って手を伸ばした。カーブで外側にはみ出そうになると、くまさん、宗吾さん、憲吾さんの三人が大きくジャンプして、内側に戻してくれた。
「あら! 勇大さんってば、かっこいいわ。ねっ瑞樹!」
「うん! お父さん、すごい!」
宗吾さんより高くジャンプしていた!(かも!)
宗吾さんと憲吾さんの笑顔がよく似ているのも分かった。やっぱり二人は兄弟なんだな。
僕やお母さんたちの頭上では、どんなに手を伸ばしても触れられない程高く弾んでしまったが、大玉に思いっきり手を伸ばす感情は『憧れ』にも似ていると思った。
「あっと言う間に通過しちゃったわね。触れなかったわ~」
「次はきっと! そうか、低学年は下に降ろして転がすのですね」
芽生くんも夢中で、大玉を送っていた。
やがて2周目がやってくる。
今度は僕たちの方に大玉が弾んで来た。
「お母さん、今だ! 触って」
僕はジャンプして大玉が外にはみ出ないように手で押さえた。
「あ、触れたわ!」
「よかった! 僕も!」
大玉がほんの少し指先を掠めただけでも、こんなに幸せな気持ちになるのは何故だろう? まるで憧れに手が届いたように、心が灯る。
「まさかこの歳になって瑞樹と運動会に参加出来るなんて……また夢が叶ったわ」
「僕も……僕もだよ」
その後は中学年と高学年の徒競走とダンスが続いたので、レジャーシートで休憩していると、宗吾さんがワクワク顔で話し掛けてきた。
「瑞樹、次は芽生がパン食い競争に出るぞ」
「そんな可愛い競技もあるのですね。宗吾さん、近くに見に行きましょう!」
僕が宗吾さんに手を差し出すと、少し驚いた後、破顔してくれた。
「瑞樹、今日は凄く楽しそうだな」
「あ……あの、童心に戻ってしまって」
「今日はいろんな瑞樹に会えて嬉しいよ」
「そうでしょうか。普段からこの位明るく積極的になれたらいいのですが……まだまだですよね」
「そこは、あえて意識しなくていい。俺はありのままの瑞樹がいればいい。だからどんな瑞樹でもいい、目の前にいる君を大切にしたいんだ」
『ありのままの僕でいい』
変化も含めて僕を丸ごと受けとめてくれる広い港が、宗吾さんだ。
僕以上に僕を理解してくれる宗吾さんと巡り逢えて良かった。
ストンと落ちる感情は本物だ。
あの辛く悲しい日々も乗り越えて辿り着いた場所は、ぽかぽかな日溜まりだった。
あの時、生きることを諦めなくてよかった。
あの日の絶望は、もうどこにもない。
「あんパンか~ 美味しそうだな!」
「芽生くん、あのキャンプ以来、あんこが大好きになって」
「こもりんの影響だな」
「小森くん、元気でしょうか」
「また会えばいいさ」
「そうですね。紅葉の頃にでも会いに行きたいですね」
「了解! 計画練るよ!」
もう待っているだけではない。自分から行きたい所に、自由に行ってもいいんだ。
すぐに、パン食い競争が始まった。
「あれ? 何人かの子供たちが、動物の被り物をしていますね」
「可愛いな」
くまやキリン、うさぎの被り物をした子供たちが走ってくる。
動物になりきった走り方をしたりして、とっても可愛い。
「あれ? 芽生くんは被り物をしてないのですね」
「芽生はこう言っていたよ。『ボクは赤い帽子のままがいいな。だってみんなが見つけやすいでしょ。おばあちゃんは目が悪いし、あーちゃんは小さいし』だってさ。アイツいつも可愛いこと言うんだよ。あんなに小さいのに俺たちのことまで考えてくれて、優しい子だ」
「芽生くん、何も被っていなくても、とっても楽しそうですね」
「あぁ優しくて明るくて可愛い子にスクスクと育っているよ。瑞樹のお陰だ。ありがとうな」
改めてお礼を言われて、くすぐったい気持ちになる。
「僕の方こそ芽生くんのおかげで運動会にお父さんとお母さんと参加できたり、楽しく嬉しいことばかりですよ」
子供たちもパンを目がけて笑顔! 笑顔! ジャンプ! ジャンプ!
この競技には順位なんて関係ない。子供たちが夢中でパンを取って嬉しそうに食べる姿に、生への力強さを感じた。
運動会は、大人も学ぶことが沢山ある。
芽生くんが僕に与えてくれる世界は、これからもどんどん広がっていくんだね。
僕ひとりでは見えなかった景色を、今日も見せてくれてありがとう!
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