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小学生編
実りの秋 40
「いっくん、行くぞ!」
オレはいっくんが座った箱の紐を引っ張り、一気に走り出した。
「わぁー すごい! パパぁ~ すっごくはやいよ!」
コースの半分に差し掛かった時点で辺りを見渡し、これならぶっちぎりの一位でゴールできると確信した。
ところが……
「パパぁ……パパぁ……」
いっくんの切ない声が、急ブレーキをかけた。
「ど、どうした?」
さっきまで喜んでいたいっくんの目には、大粒の涙が溜まっていた。
もう溢れる寸前だ。
潤んだ瞳で、切なげにオレを見上げている。
一体、何事だ?
原っぱで練習もしたし、一番張り切っていた競技なのに。
はっ! もしかして……俺が本番だからと張り切りすぎたせいか。
速度が速すぎて、怖かったのかもしれない。
慌てて駆け寄ると、いっくんはとうとう泣き出してしまった。
「ひ……ひっく、ひっく……」
「……いっくん、どうしたんだ?」
参った! これはまずい……猛反省だ。
「こわかったのか、ごめんな」
オレ、やっぱり駄目だな、父親失格だ!
ズドンと凹み、レースの最中なのに不慣れな状況に立ち往生していると、兄さんの声がすぐ傍に聞こえた。
「潤、大丈夫か!」
観覧席からここまで心配して走って来たらしく、ハァハァと息を切らしていた。
「じゅーん、だっこしてあげたらどうかな?」
「だが箱のままゴールしないと駄目なんだ」
「ゴールも大事だけど過程も大事だよ。いっくんを見て! 何か潤に求めているみたいだ」
いっくんは見慣れた表情を浮かべていた。ほら……あれをして欲しい時の顔だ。
「いっくん、もしかして……だっこがよくなったのか」
「ひっ、ひっく……うん……しょうなの……だめ?」
いっくんが涙を溜めた目で、ねだってくる。
か……可愛い。
不謹慎だが、滅茶苦茶可愛かった。
「よし、それっ」
「わぁ……パパぁ、パパぁ」
そのままいっくんを抱っこして、空っぽの段ボールを引き摺って走った。
レースを中断して迷惑をかけてしまったし、空の箱でゴールなんて笑われるかと思ったが、周囲の反応は違った。
暖かい拍手に包まれた。
「いっくん、ゴールできたな」
「いっくん、だいすきなパパに抱っこしてもらってよかったわね」
「うん! うん! いっくんね、パパといっしょでうれしい」
いっくんが小さな手にキュッと力をこめて、腕にしがみついている。
まるでコアラの赤ちゃんだ。
「あのね……すごくはやくて……パパ、いっくんわすれてどんどんとおくにいっちゃうみたいで、こわくなっちゃったの。パパぁ、どこにもいかないよね?」
「あぁ、あぁ、行かないよ」
一位でなくていい、完璧に出来なくてもいいんだな。
オレ……初めての運動会で『カッコいいパパ』を見せることに拘りすぎていたようだ。何よりも大事なのは、いっくんの笑顔を守ることなのに。
カシャカシャ――
熊田さんが撮影してくれていた。
「おじーちゃん! みーくん、えへへ。いっくんね、パパとこれがしたかったの」
「うん、うん、良かったね」
兄さんが手を振ると、いっくんも嬉しそうにオレの腕の中で手を振っていた。
「おばあちゃんとママにみてほしいの。いっくん、だっこしてもらってるよ。パパ、とっても、ちからもちさんなの!」
****
「パパ、いっくんにどんな絵をプレゼントしたらいいかな?」
珈琲を片手に新聞を読みながらソファで寛いでいると、芽生に話し掛けられた。
「どうした? 思いつかないのか」
「うーん、いっくんがよろこぶものがいいんだけど」
「それなら、いっくんが好きなものを描けばいいんじゃないか」
「あ、そうか! スキなものってうれしいものだもんね。いっくんはペンギンさんがスキなんだよ」
「へぇ、いつの間にそんなこと知ったんだ?」
「テントでいっぱいおしゃべりしたよ。あー また会いたいな」
「また機会を作って会おう!」
「あ……そうだ!」
芽生がクレヨン片手に、何か閃いたようだ。
「ペンギンさんのうんどうかいの絵にしようっと! かけっこしてるのがいいかな~」
「運動会に出るペンギンか。いいな! 贈る相手の気持ちに寄り添えたな」
「おばあちゃんがおしえてくれたの。プレゼントってまあるい心をとどけることなんだって。だからダイスキな人がちかくにいたら、まあるい心をプレゼントするといいんだって……パパ、おしみなくだよ」
芽生が可愛くウインクする!
「げっ、母さんは……また子供相手に難しいことを」
芽生がクレヨンを持ったまま首を振る。
「ううん、むずかしくなんてないよ。パパとお兄ちゃんがお手本だもん!」
「芽生ぃ~ いいこと言うな」
まずいなぁ、年を取ったせいか涙腺が緩んで仕方がない。
芽生が瑞樹の存在を自然に受け入れてくれているのが嬉しくてさ。
この先……思春期の多感な時期を迎えても、今の言葉を覚えていて欲しい。
それにしても……今朝は瑞樹がいないことを知ったら寂しがると思っていたのに拍子抜けだったな。いっくんといっくんママの体調を背伸びせずに素直に心配する様子には感動した。
芽生……いつもいつも、いい子でなくてもいい。
子供らしい我が儘も感情の爆発も、時には必要だ。
だがどんな時も、忘れないで欲しい。
人と人の関係は『寄り添うことから始まる』ことを――
「でーきた!」
「芽生は絵が上手だな。これは喜ぶぞ! すぐに送ろう」
画用紙を撮影して送信した。
この時間なら、昼休みに見てもらえるな。
「パパ~ お絵かきがんばったら、おなかすいちゃったよ」
「そうだな。起きた時間が遅かったから牛乳だけだったな。実は芽生にも瑞樹が弁当を作ってくれたんだぞ」
「わぁ、今日もおべんとうなの? うれしい」
「ほら、あけてみろ」
「パパー ありがとう! なんだかトクベツな日みたいだね」
まだ11時過ぎだったが、芽生には一足早い昼食をプレゼントしたかった。
『贈り物はまあるい心を届ける』か、なるほどなぁ。
「これは瑞樹から芽生への贈りものだ」
芽生が蓋を開けて、目を輝かせた。
『メイくんおつかれさま。きのうはがんばったね。お兄ちゃんうれしかったよ!』
瑞樹の手書きの手紙が入っていた。
そして枝豆でつくったクローバーがのったご飯だった。
「わぁ、よつばだ!」
「朝から細かいことを」
「ニンジンさんのお花もかわいい!」
「良かったな」
「パパ、ありがとう」
「ん?」
「お兄ちゃんとパパ……だいすき」
芽生の優しさと瑞樹の優しさが心に沁みるよ。
瑞樹……朝はバタバタで焦っていただろうに、ちゃんと芽生のことも気にかけてくれたんだな。
君の優しくて温かい、まあるい心が届いたよ。
オレはいっくんが座った箱の紐を引っ張り、一気に走り出した。
「わぁー すごい! パパぁ~ すっごくはやいよ!」
コースの半分に差し掛かった時点で辺りを見渡し、これならぶっちぎりの一位でゴールできると確信した。
ところが……
「パパぁ……パパぁ……」
いっくんの切ない声が、急ブレーキをかけた。
「ど、どうした?」
さっきまで喜んでいたいっくんの目には、大粒の涙が溜まっていた。
もう溢れる寸前だ。
潤んだ瞳で、切なげにオレを見上げている。
一体、何事だ?
原っぱで練習もしたし、一番張り切っていた競技なのに。
はっ! もしかして……俺が本番だからと張り切りすぎたせいか。
速度が速すぎて、怖かったのかもしれない。
慌てて駆け寄ると、いっくんはとうとう泣き出してしまった。
「ひ……ひっく、ひっく……」
「……いっくん、どうしたんだ?」
参った! これはまずい……猛反省だ。
「こわかったのか、ごめんな」
オレ、やっぱり駄目だな、父親失格だ!
ズドンと凹み、レースの最中なのに不慣れな状況に立ち往生していると、兄さんの声がすぐ傍に聞こえた。
「潤、大丈夫か!」
観覧席からここまで心配して走って来たらしく、ハァハァと息を切らしていた。
「じゅーん、だっこしてあげたらどうかな?」
「だが箱のままゴールしないと駄目なんだ」
「ゴールも大事だけど過程も大事だよ。いっくんを見て! 何か潤に求めているみたいだ」
いっくんは見慣れた表情を浮かべていた。ほら……あれをして欲しい時の顔だ。
「いっくん、もしかして……だっこがよくなったのか」
「ひっ、ひっく……うん……しょうなの……だめ?」
いっくんが涙を溜めた目で、ねだってくる。
か……可愛い。
不謹慎だが、滅茶苦茶可愛かった。
「よし、それっ」
「わぁ……パパぁ、パパぁ」
そのままいっくんを抱っこして、空っぽの段ボールを引き摺って走った。
レースを中断して迷惑をかけてしまったし、空の箱でゴールなんて笑われるかと思ったが、周囲の反応は違った。
暖かい拍手に包まれた。
「いっくん、ゴールできたな」
「いっくん、だいすきなパパに抱っこしてもらってよかったわね」
「うん! うん! いっくんね、パパといっしょでうれしい」
いっくんが小さな手にキュッと力をこめて、腕にしがみついている。
まるでコアラの赤ちゃんだ。
「あのね……すごくはやくて……パパ、いっくんわすれてどんどんとおくにいっちゃうみたいで、こわくなっちゃったの。パパぁ、どこにもいかないよね?」
「あぁ、あぁ、行かないよ」
一位でなくていい、完璧に出来なくてもいいんだな。
オレ……初めての運動会で『カッコいいパパ』を見せることに拘りすぎていたようだ。何よりも大事なのは、いっくんの笑顔を守ることなのに。
カシャカシャ――
熊田さんが撮影してくれていた。
「おじーちゃん! みーくん、えへへ。いっくんね、パパとこれがしたかったの」
「うん、うん、良かったね」
兄さんが手を振ると、いっくんも嬉しそうにオレの腕の中で手を振っていた。
「おばあちゃんとママにみてほしいの。いっくん、だっこしてもらってるよ。パパ、とっても、ちからもちさんなの!」
****
「パパ、いっくんにどんな絵をプレゼントしたらいいかな?」
珈琲を片手に新聞を読みながらソファで寛いでいると、芽生に話し掛けられた。
「どうした? 思いつかないのか」
「うーん、いっくんがよろこぶものがいいんだけど」
「それなら、いっくんが好きなものを描けばいいんじゃないか」
「あ、そうか! スキなものってうれしいものだもんね。いっくんはペンギンさんがスキなんだよ」
「へぇ、いつの間にそんなこと知ったんだ?」
「テントでいっぱいおしゃべりしたよ。あー また会いたいな」
「また機会を作って会おう!」
「あ……そうだ!」
芽生がクレヨン片手に、何か閃いたようだ。
「ペンギンさんのうんどうかいの絵にしようっと! かけっこしてるのがいいかな~」
「運動会に出るペンギンか。いいな! 贈る相手の気持ちに寄り添えたな」
「おばあちゃんがおしえてくれたの。プレゼントってまあるい心をとどけることなんだって。だからダイスキな人がちかくにいたら、まあるい心をプレゼントするといいんだって……パパ、おしみなくだよ」
芽生が可愛くウインクする!
「げっ、母さんは……また子供相手に難しいことを」
芽生がクレヨンを持ったまま首を振る。
「ううん、むずかしくなんてないよ。パパとお兄ちゃんがお手本だもん!」
「芽生ぃ~ いいこと言うな」
まずいなぁ、年を取ったせいか涙腺が緩んで仕方がない。
芽生が瑞樹の存在を自然に受け入れてくれているのが嬉しくてさ。
この先……思春期の多感な時期を迎えても、今の言葉を覚えていて欲しい。
それにしても……今朝は瑞樹がいないことを知ったら寂しがると思っていたのに拍子抜けだったな。いっくんといっくんママの体調を背伸びせずに素直に心配する様子には感動した。
芽生……いつもいつも、いい子でなくてもいい。
子供らしい我が儘も感情の爆発も、時には必要だ。
だがどんな時も、忘れないで欲しい。
人と人の関係は『寄り添うことから始まる』ことを――
「でーきた!」
「芽生は絵が上手だな。これは喜ぶぞ! すぐに送ろう」
画用紙を撮影して送信した。
この時間なら、昼休みに見てもらえるな。
「パパ~ お絵かきがんばったら、おなかすいちゃったよ」
「そうだな。起きた時間が遅かったから牛乳だけだったな。実は芽生にも瑞樹が弁当を作ってくれたんだぞ」
「わぁ、今日もおべんとうなの? うれしい」
「ほら、あけてみろ」
「パパー ありがとう! なんだかトクベツな日みたいだね」
まだ11時過ぎだったが、芽生には一足早い昼食をプレゼントしたかった。
『贈り物はまあるい心を届ける』か、なるほどなぁ。
「これは瑞樹から芽生への贈りものだ」
芽生が蓋を開けて、目を輝かせた。
『メイくんおつかれさま。きのうはがんばったね。お兄ちゃんうれしかったよ!』
瑞樹の手書きの手紙が入っていた。
そして枝豆でつくったクローバーがのったご飯だった。
「わぁ、よつばだ!」
「朝から細かいことを」
「ニンジンさんのお花もかわいい!」
「良かったな」
「パパ、ありがとう」
「ん?」
「お兄ちゃんとパパ……だいすき」
芽生の優しさと瑞樹の優しさが心に沁みるよ。
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君の優しくて温かい、まあるい心が届いたよ。
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