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小学生編
新緑の輝き 10
「いっくん」
「なぁに?」
「呼んだだけよ」
「んふふ、マーマ!」
「何かな?」
「えっとぉ、いっくんもよんだだけ!」
「まぁ!」
「んふふ」
いっくんと手をつないで、ゆっくりゆっくり歩く道。
雪がとけて、道には春を告げる若葉が見え隠れしている。
「いっくんの好きな葉っぱさんよ、見える?」
「うん! きれいー!」
「いっくん、よかったわね」
「うん!」
いっくんの名前をゆったりした気持ちで呼ぶのは、久しぶり。
いっくんの名前を優しく呼べる今が好き。
いっくんは頬を染め上げて、私を見上げた。
幸せに満ちあふれている表情に、私の心も和んだ。
「ママぁ、とってもたのしいね」
「よかった」
ただ手を繋いで歩くだけの道が楽しいと言ってくれる息子。
あなたは天国に行った彼と潤くんと繋ぐ天使よ。
やだ、泣いちゃいそう。
お腹の赤ちゃんといっくんは、最高のきょうだいになる。
男の子か女の子かは、敢えて聞いていないの。
生まれてからのお楽しみよ。
どちらでも、私たちの大切な家族の一員になるのだから。
「ママ、もうしゅぐ?」
「あの角を曲がったら着くわよ」
あの日も同じように、ローズガーデンに行こうと、いっくんと手を繋いでやってきた。
そして潤くんと出逢った。
「あ、ママぁ! あそこみてー! パパがいるよ」
あの日のように潤くんはローズガーデンの入場門付近にいた。
「ちょっと待って」
「うん、しーだね」
私といっくんは潤くんに気付かれないように、暫く遠くから見つめることにした。
何故だかそうしたくなったの。
あなたを改めて見たくて。
潤くんは見慣れた濃紺の作業服で、寄せ植えに向き合って集中していた。
植え替えをしているかな?
あの日出逢った背が高い逞しい青年は、今は私の旦那さん。
彼の作業服を洗濯しているのは、私。
私のお腹に宿った命は、彼と深く繋がった愛の証。
そして私を生かしてくれた最愛の息子、いっくんを溺愛してくれる人はあなた。
どうしよう!
愛おしさがどんどん増してくる。
潤くん、あなたが好き!
「ママぁ、もういい? パパのとこにいってもいい?」
「あ……お仕事の邪魔しちゃだめよ。でも……挨拶したいわよね」
「うん、ママ、いっしょにいこう!」
いっくんは今すぐ走り出したい気持ちを抑えて、私の手をゆっくり引いてくれた。
いつまでも舌っ足らずであどけなくて、まだ赤ちゃんみたいだったいっくんが、ほんの少し逞しく思えた瞬間だった。
あぁ……私、幸せね。
大切にしたい人に、大切にされている。
こんな幸せなことはないわ。
天国のあなたが見守ってくれる世界は、あたたかいわ。
潤くんが作業を終えたハンギングバスケットを、正門の横に掛けた。
紫と黄色のパンジーが生き生きと春風にそよいでいた。
その様子を潤くんは腰に手をあてて見守り、大きく頷いた。
逞しい背中に、胸が高揚した。
「さぁ、今なら大丈夫そうよ」
「うん!」
私たちはそっと潤くんの背後に近づいて、トントンと肩を叩いた。
潤くんが振り返ると、最初はとても驚いて、次に弾ける笑顔を浮かべてくれた。
「潤くん、来ちゃった!」
「お……驚いた! オレ、ちょうど今、二人のことを考えていたんだ」
「そうなの? なんて?」
潤くんが照れ臭そうに、鼻の頭を手の甲で擦る。
若い笑顔に、また胸がキュンとなる。
「菫と樹が好きだ」
仕事中にそんな言葉をもらえるとは思ってなかったので、私の方がびっくりしたわ。
「二人が植物にちなんだ名前で良かったよ。仕事中でも堂々と口に出せる」
「くすっ、そうね。この子も植物にちなんだ名前にしたいな」
丸いお腹を擦ると、ググッと胎動を感じた。
「あぁ、是非そうしよう! いっくん、よく来たな」
「パパぁ、あいたかったぁ」
「オレもさ」
いっくんが両手を上に伸ばす。
パパに触れたくて触れたくてしょうがないみたい。
お日様に手を伸ばすように、眩しそうに潤くんを見つめている。
仕事中だから駄目かなと思ったけれども、潤くんは躊躇うこともなくいっくんを高く抱き上げてくれた。
「小さなお客様ようこそ! 葉っぱがよく見えるかな?」
「うん!」
いっくんの満足そうな笑顔が、頭上で輝いていた。
****
「では、早速向かいます」
「葉山、ちゃんと名刺持ったか」
「はい、持ちました」
「誰も知り合いのいないアウェイに君を一人で向かわせることになるが、大丈夫か」
部下思いの優しいリーダーに心配されて、少し戸惑った。
大丈夫です。
僕にとって最強で最愛の宗吾さんが待っていますので。
とは、流石に言えなかった。
これはあくまでも仕事だ。
仕事とプライベートはしっかり分けていかないと、苦しくなる。
「頑張ってきます。ベストを尽くします」
「よし、葉山の腕前なら先方にも認められるだろう。自分に自信を持って行動するんだぞ」
「はい!」
リーダーに両肩をポンポンと叩かれて、気が引き締まった。
「行って参ります」
宗吾さんの勤める日比谷にある広告代理店『伝通』は、広告業界では最大手だ。
僕は指名され、今から伝通の社員の人と対等に渡り合う。
その中には、宗吾さんがいる。
こんな機会に恵まれるとは思っていなかった。
だがいつか同じ職場で働いてみたいと夢見ていたので、絶好の機会だ。
頑張ろう!
宗吾さんの足を引っ張らないように、宗吾さんに誇れる自分でありたい。
背筋が自然とピンと伸びた。
ビルのショーウィンドウに映る自分に足を止めた。
春風に乱れた髪をそっと手で直し、心を整えた。
よし、行こう!
『株式会社 伝通』
近代的なビルの受付へ、真っ直ぐ向かった。
「なぁに?」
「呼んだだけよ」
「んふふ、マーマ!」
「何かな?」
「えっとぉ、いっくんもよんだだけ!」
「まぁ!」
「んふふ」
いっくんと手をつないで、ゆっくりゆっくり歩く道。
雪がとけて、道には春を告げる若葉が見え隠れしている。
「いっくんの好きな葉っぱさんよ、見える?」
「うん! きれいー!」
「いっくん、よかったわね」
「うん!」
いっくんの名前をゆったりした気持ちで呼ぶのは、久しぶり。
いっくんの名前を優しく呼べる今が好き。
いっくんは頬を染め上げて、私を見上げた。
幸せに満ちあふれている表情に、私の心も和んだ。
「ママぁ、とってもたのしいね」
「よかった」
ただ手を繋いで歩くだけの道が楽しいと言ってくれる息子。
あなたは天国に行った彼と潤くんと繋ぐ天使よ。
やだ、泣いちゃいそう。
お腹の赤ちゃんといっくんは、最高のきょうだいになる。
男の子か女の子かは、敢えて聞いていないの。
生まれてからのお楽しみよ。
どちらでも、私たちの大切な家族の一員になるのだから。
「ママ、もうしゅぐ?」
「あの角を曲がったら着くわよ」
あの日も同じように、ローズガーデンに行こうと、いっくんと手を繋いでやってきた。
そして潤くんと出逢った。
「あ、ママぁ! あそこみてー! パパがいるよ」
あの日のように潤くんはローズガーデンの入場門付近にいた。
「ちょっと待って」
「うん、しーだね」
私といっくんは潤くんに気付かれないように、暫く遠くから見つめることにした。
何故だかそうしたくなったの。
あなたを改めて見たくて。
潤くんは見慣れた濃紺の作業服で、寄せ植えに向き合って集中していた。
植え替えをしているかな?
あの日出逢った背が高い逞しい青年は、今は私の旦那さん。
彼の作業服を洗濯しているのは、私。
私のお腹に宿った命は、彼と深く繋がった愛の証。
そして私を生かしてくれた最愛の息子、いっくんを溺愛してくれる人はあなた。
どうしよう!
愛おしさがどんどん増してくる。
潤くん、あなたが好き!
「ママぁ、もういい? パパのとこにいってもいい?」
「あ……お仕事の邪魔しちゃだめよ。でも……挨拶したいわよね」
「うん、ママ、いっしょにいこう!」
いっくんは今すぐ走り出したい気持ちを抑えて、私の手をゆっくり引いてくれた。
いつまでも舌っ足らずであどけなくて、まだ赤ちゃんみたいだったいっくんが、ほんの少し逞しく思えた瞬間だった。
あぁ……私、幸せね。
大切にしたい人に、大切にされている。
こんな幸せなことはないわ。
天国のあなたが見守ってくれる世界は、あたたかいわ。
潤くんが作業を終えたハンギングバスケットを、正門の横に掛けた。
紫と黄色のパンジーが生き生きと春風にそよいでいた。
その様子を潤くんは腰に手をあてて見守り、大きく頷いた。
逞しい背中に、胸が高揚した。
「さぁ、今なら大丈夫そうよ」
「うん!」
私たちはそっと潤くんの背後に近づいて、トントンと肩を叩いた。
潤くんが振り返ると、最初はとても驚いて、次に弾ける笑顔を浮かべてくれた。
「潤くん、来ちゃった!」
「お……驚いた! オレ、ちょうど今、二人のことを考えていたんだ」
「そうなの? なんて?」
潤くんが照れ臭そうに、鼻の頭を手の甲で擦る。
若い笑顔に、また胸がキュンとなる。
「菫と樹が好きだ」
仕事中にそんな言葉をもらえるとは思ってなかったので、私の方がびっくりしたわ。
「二人が植物にちなんだ名前で良かったよ。仕事中でも堂々と口に出せる」
「くすっ、そうね。この子も植物にちなんだ名前にしたいな」
丸いお腹を擦ると、ググッと胎動を感じた。
「あぁ、是非そうしよう! いっくん、よく来たな」
「パパぁ、あいたかったぁ」
「オレもさ」
いっくんが両手を上に伸ばす。
パパに触れたくて触れたくてしょうがないみたい。
お日様に手を伸ばすように、眩しそうに潤くんを見つめている。
仕事中だから駄目かなと思ったけれども、潤くんは躊躇うこともなくいっくんを高く抱き上げてくれた。
「小さなお客様ようこそ! 葉っぱがよく見えるかな?」
「うん!」
いっくんの満足そうな笑顔が、頭上で輝いていた。
****
「では、早速向かいます」
「葉山、ちゃんと名刺持ったか」
「はい、持ちました」
「誰も知り合いのいないアウェイに君を一人で向かわせることになるが、大丈夫か」
部下思いの優しいリーダーに心配されて、少し戸惑った。
大丈夫です。
僕にとって最強で最愛の宗吾さんが待っていますので。
とは、流石に言えなかった。
これはあくまでも仕事だ。
仕事とプライベートはしっかり分けていかないと、苦しくなる。
「頑張ってきます。ベストを尽くします」
「よし、葉山の腕前なら先方にも認められるだろう。自分に自信を持って行動するんだぞ」
「はい!」
リーダーに両肩をポンポンと叩かれて、気が引き締まった。
「行って参ります」
宗吾さんの勤める日比谷にある広告代理店『伝通』は、広告業界では最大手だ。
僕は指名され、今から伝通の社員の人と対等に渡り合う。
その中には、宗吾さんがいる。
こんな機会に恵まれるとは思っていなかった。
だがいつか同じ職場で働いてみたいと夢見ていたので、絶好の機会だ。
頑張ろう!
宗吾さんの足を引っ張らないように、宗吾さんに誇れる自分でありたい。
背筋が自然とピンと伸びた。
ビルのショーウィンドウに映る自分に足を止めた。
春風に乱れた髪をそっと手で直し、心を整えた。
よし、行こう!
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近代的なビルの受付へ、真っ直ぐ向かった。
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