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小学生編
白薔薇の祝福 19
大分、湯布院。
「カズくん、今日もお疲れ様、連休の初日で忙しかったわね」
「そうだな」
今日、5月2日は、東京で出会い東京で別れた人の誕生日だ。
18歳で出会い25歳までずっと一緒に過ごした人なのに、毎年心の中でしか「おめでとう」と言えなかった。
知り合って間もない頃、一緒に応募したバイトの履歴書から誕生日を知ったので、祝ってやろうと申し出た時の、あの暗い表情が今でも忘れられない。
『ごめん、僕の誕生日は永遠に祝わないで欲しい』
『そうか……分かった』
どうして祝ってはいけないのか。
永遠にって……すごく重たいな。
未来がないと言われたような気がしてショックだった。
『どうして……?』
その一言はぐっと呑み込んだ。
彼には話したくない聞かれたくない重たい過去があるのを、薄々感じていた。
とても寂しげな印象の男だと、男子寮の新歓パーティーで初めて会った時にすぐに思った。
とても放っておけないのに、放っておかないといけないなんて、酷くアンバランスだ。
だったら……せめて俺が支えてやりたい。
せめて生きていって欲しい。
生きていれば、きっと良いことがあるのを知って欲しい。
それにしても北国から一人で出て来た清楚な男は恐ろしいほど世間知らずで、見た目の可憐さも相まって、本当に危うかった。
俺が守ってやらないと、よからぬことに巻き込まれそうだ。
そう思い、支え続けた7年だった。
結局俺の事情で身勝手に別れてしまったが、アイツは最後まで許してくれた。
だから彼の幸せを、今もそっと願ってしまう。
誕生日、祝ってもいいか。
二十歳の誕生日は一緒に過ごしたな。おめでとうは言えなかったが、静かに二人で缶ビールを飲んだ。
君も、ついに30歳になったのか。
20代の大半は俺と過ごしたが、30代はあの人とだけだ。
湯布院に来てくれて、彼との幸せな姿を見せてくれてありがとう。
俺は遠い場所から、かつて愛した人の幸せを願っている。
『瑞樹、30歳おめでとう。元気にやっているか。俺は仕事に家庭に大忙しだ。瑞樹もだろうな。お互い、あれから幸せになれてよかった! 宗吾さんと芽生くんと幸せになれ! もっともっと幸せになれよ!』
心の中でエールを送った。
瑞樹の夢にどうか、どうか届け!
もう我慢しないでくれ。
寂しい時は寂しいと、悲しい時は悲しいと、怖い時は怖いとちゃんと甘えるんだぞ。
****
翌日、お母さんが、早朝にも関わらず旅館の和朝食のような豪華なご飯を作ってくれた。
「美味しいです。特に卵焼きが」
「ふふっ、だって瑞樹スペシャルだもの」
「え?」
「お母さんの愛情たっぷり入れておいたわ」
「あ、ありがとうございます」
ふわふわで優しい甘み、お母さんの味が大好きだ。
僕の大好きな宗吾さんのお母さん。
幸せな朝だなぁと、しみじみ思う。
「瑞樹、そろそろ出る時間だぞ」
「はい!」
玄関で靴を履いていると、パタパタと可愛い足音が聞こえてきた。
芽生くんだ!
「パパ、お兄ちゃん、おはよー」
芽生くんがパジャマ姿でお見送りしてくれた。
宗吾さんに似た髪質だから、あちこち寝ぐせでピョンピョンしている。
それが可愛くて、つい笑みが漏れてしまうよ。
「芽生くん、おはよう」
「あのね、あのね、今日はけんごおじさんと東京ドリームまで野球を見にいくの。たのしみだな」
「そうだったね。よかったね。帰ってきたらどんな所だったか聞かせてね」
「あれ? お兄ちゃん、もしかして……いったことないの?」
そういえば、野球観戦には縁がなかったな。
あいつは誘ってくれたけど、あの頃の僕にはいろいろ制約があった。大学の学費は奨学金で免除、男子寮の家賃も特別優待生だったので有り難い事に無料だったが、食費に関しては仕送りがほとんどない状態でかなり厳しかった。だから大学4年間はバイトに明け暮れた。遊興費はないに等しく、無駄なお金はあまり使えなかった。
見かねたアイツがよく実家からの宅配便の中からお菓子や果物を差し入れてくれたな。
「うん、実は行ったことないんだ」
「パパ、たいへん、たいへん!」
芽生くんに呼ばれた宗吾さんが、ガシッと僕と肩を組んでくれる。
「よーし! じゃあ今度は家族で行こう! 芽生、今日は兄さんにルールを学んでおくんだぞ」
「わぁ~ うん! そしたらボクがお兄ちゃんに教えてあげるね」
「ありがとう。頼もしいよ」
「いってらしゃーい!」
大好きな芽生くんに、ニコニコ笑顔で見送られて元気が出た。
芽生くんは僕たちが見えなくなるまでブンブン手を振ってくれた。
エールは元気の源だよ。
連休中の早朝なものあって、駅までの道には僕たちしかいなかった。
「宗吾さん、今日は頑張りましょう」
「おぅ! だがイベント中は君と他人のふりをしないといけないのが辛いよ」
宗吾さんが少年みたいに口を尖らせる。
「……帰ってきたら、思いっきり……」
宗吾さんの目がキランと光る。
「あ、僕……また何を言って……仕事が最後まで終わったら、その時はという意味ですからっ」
「分かっているよ。君の方が負担が大きいんだ。翌日に響くだろう。だからイベント期間中は苦しいが我慢するよ」
「あ、ありがとうございます」
白金のイベント会場に、宗吾さんと少し時間差で到着した。
ロッカーでグリーンのポロシャツに着替えて外に出ると、雪也さんが立っていた。
「あ、おはようございます」
「瑞樹くん、宜しく頼むよ。君はこれを着けるといい」
渡されたのはシルバーのエプロンだった。
「これはね、かつて兄が海里先生と薔薇を育てていた時、使っていたものなんだ。イベント中は、君につけて欲しい」
「えっ、僕でよろしいのですか。大切なものなのに」
「天国で喜んでいるよ。君を見ていると、ふと兄を思い出すんだ。不思議だね」
「僕……お兄様に見て頂けるように、精一杯、がんばります」
メインイベント会場でスタッフの朝礼があるので、僕はエプロンをして向かった。
到着すると、宗吾さんもグリーンのポロシャツを着ていた。
宗吾さんの逞しさと濃い緑色が良く似合っていてドキッとした。
「葉山さん、こっちです」
「あ、はい」
名前を呼ばれて、僕は宗吾さんの横に立った。
「今日はよろしくお願いします」
「はい!」
いよいよ『薔薇フェスティバル』が始まる!
「カズくん、今日もお疲れ様、連休の初日で忙しかったわね」
「そうだな」
今日、5月2日は、東京で出会い東京で別れた人の誕生日だ。
18歳で出会い25歳までずっと一緒に過ごした人なのに、毎年心の中でしか「おめでとう」と言えなかった。
知り合って間もない頃、一緒に応募したバイトの履歴書から誕生日を知ったので、祝ってやろうと申し出た時の、あの暗い表情が今でも忘れられない。
『ごめん、僕の誕生日は永遠に祝わないで欲しい』
『そうか……分かった』
どうして祝ってはいけないのか。
永遠にって……すごく重たいな。
未来がないと言われたような気がしてショックだった。
『どうして……?』
その一言はぐっと呑み込んだ。
彼には話したくない聞かれたくない重たい過去があるのを、薄々感じていた。
とても寂しげな印象の男だと、男子寮の新歓パーティーで初めて会った時にすぐに思った。
とても放っておけないのに、放っておかないといけないなんて、酷くアンバランスだ。
だったら……せめて俺が支えてやりたい。
せめて生きていって欲しい。
生きていれば、きっと良いことがあるのを知って欲しい。
それにしても北国から一人で出て来た清楚な男は恐ろしいほど世間知らずで、見た目の可憐さも相まって、本当に危うかった。
俺が守ってやらないと、よからぬことに巻き込まれそうだ。
そう思い、支え続けた7年だった。
結局俺の事情で身勝手に別れてしまったが、アイツは最後まで許してくれた。
だから彼の幸せを、今もそっと願ってしまう。
誕生日、祝ってもいいか。
二十歳の誕生日は一緒に過ごしたな。おめでとうは言えなかったが、静かに二人で缶ビールを飲んだ。
君も、ついに30歳になったのか。
20代の大半は俺と過ごしたが、30代はあの人とだけだ。
湯布院に来てくれて、彼との幸せな姿を見せてくれてありがとう。
俺は遠い場所から、かつて愛した人の幸せを願っている。
『瑞樹、30歳おめでとう。元気にやっているか。俺は仕事に家庭に大忙しだ。瑞樹もだろうな。お互い、あれから幸せになれてよかった! 宗吾さんと芽生くんと幸せになれ! もっともっと幸せになれよ!』
心の中でエールを送った。
瑞樹の夢にどうか、どうか届け!
もう我慢しないでくれ。
寂しい時は寂しいと、悲しい時は悲しいと、怖い時は怖いとちゃんと甘えるんだぞ。
****
翌日、お母さんが、早朝にも関わらず旅館の和朝食のような豪華なご飯を作ってくれた。
「美味しいです。特に卵焼きが」
「ふふっ、だって瑞樹スペシャルだもの」
「え?」
「お母さんの愛情たっぷり入れておいたわ」
「あ、ありがとうございます」
ふわふわで優しい甘み、お母さんの味が大好きだ。
僕の大好きな宗吾さんのお母さん。
幸せな朝だなぁと、しみじみ思う。
「瑞樹、そろそろ出る時間だぞ」
「はい!」
玄関で靴を履いていると、パタパタと可愛い足音が聞こえてきた。
芽生くんだ!
「パパ、お兄ちゃん、おはよー」
芽生くんがパジャマ姿でお見送りしてくれた。
宗吾さんに似た髪質だから、あちこち寝ぐせでピョンピョンしている。
それが可愛くて、つい笑みが漏れてしまうよ。
「芽生くん、おはよう」
「あのね、あのね、今日はけんごおじさんと東京ドリームまで野球を見にいくの。たのしみだな」
「そうだったね。よかったね。帰ってきたらどんな所だったか聞かせてね」
「あれ? お兄ちゃん、もしかして……いったことないの?」
そういえば、野球観戦には縁がなかったな。
あいつは誘ってくれたけど、あの頃の僕にはいろいろ制約があった。大学の学費は奨学金で免除、男子寮の家賃も特別優待生だったので有り難い事に無料だったが、食費に関しては仕送りがほとんどない状態でかなり厳しかった。だから大学4年間はバイトに明け暮れた。遊興費はないに等しく、無駄なお金はあまり使えなかった。
見かねたアイツがよく実家からの宅配便の中からお菓子や果物を差し入れてくれたな。
「うん、実は行ったことないんだ」
「パパ、たいへん、たいへん!」
芽生くんに呼ばれた宗吾さんが、ガシッと僕と肩を組んでくれる。
「よーし! じゃあ今度は家族で行こう! 芽生、今日は兄さんにルールを学んでおくんだぞ」
「わぁ~ うん! そしたらボクがお兄ちゃんに教えてあげるね」
「ありがとう。頼もしいよ」
「いってらしゃーい!」
大好きな芽生くんに、ニコニコ笑顔で見送られて元気が出た。
芽生くんは僕たちが見えなくなるまでブンブン手を振ってくれた。
エールは元気の源だよ。
連休中の早朝なものあって、駅までの道には僕たちしかいなかった。
「宗吾さん、今日は頑張りましょう」
「おぅ! だがイベント中は君と他人のふりをしないといけないのが辛いよ」
宗吾さんが少年みたいに口を尖らせる。
「……帰ってきたら、思いっきり……」
宗吾さんの目がキランと光る。
「あ、僕……また何を言って……仕事が最後まで終わったら、その時はという意味ですからっ」
「分かっているよ。君の方が負担が大きいんだ。翌日に響くだろう。だからイベント期間中は苦しいが我慢するよ」
「あ、ありがとうございます」
白金のイベント会場に、宗吾さんと少し時間差で到着した。
ロッカーでグリーンのポロシャツに着替えて外に出ると、雪也さんが立っていた。
「あ、おはようございます」
「瑞樹くん、宜しく頼むよ。君はこれを着けるといい」
渡されたのはシルバーのエプロンだった。
「これはね、かつて兄が海里先生と薔薇を育てていた時、使っていたものなんだ。イベント中は、君につけて欲しい」
「えっ、僕でよろしいのですか。大切なものなのに」
「天国で喜んでいるよ。君を見ていると、ふと兄を思い出すんだ。不思議だね」
「僕……お兄様に見て頂けるように、精一杯、がんばります」
メインイベント会場でスタッフの朝礼があるので、僕はエプロンをして向かった。
到着すると、宗吾さんもグリーンのポロシャツを着ていた。
宗吾さんの逞しさと濃い緑色が良く似合っていてドキッとした。
「葉山さん、こっちです」
「あ、はい」
名前を呼ばれて、僕は宗吾さんの横に立った。
「今日はよろしくお願いします」
「はい!」
いよいよ『薔薇フェスティバル』が始まる!
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